テツ先生の新・海のいきもの
連載第2回ミジンベニハゼの繁殖

ミジンベニハゼ 英名:Yellow pygmy-goby 体長3cm 撮影地:三保真崎 水深22m
東海大学海洋学部、海洋生物学科准教授でダイビングインストラクターでもあるテツ先生に、「海のいきもの」観察の楽しみ方を教えてもらう連載。第2回はミジンベニハゼの繁殖行動。仔魚を口に含んでは吹き出す、ミジンベニハゼの送り出し行動に、最初に気付いたのはテツ先生でした。
※2025年10月の情報です
日本で最初に報告されたハゼ
今回は、あるいは今後は、ある特定のいきものに焦点を絞って話を進めてみたいと思います。
手始めにミジンベニハゼを紹介いたします。
この黄色の可愛いハゼは、ミジンベニハゼ属に分類されています。日本で報告されている3種(他にナカモトイロワケハゼとイレズミミジンベニハゼ)の中で最も早く確認されたハゼです。
貝類や空きビンで産卵、子育て
天然の環境では、空になった巻貝や二枚貝、フジツボ、ブンブクなどを利用して単独または繁殖期になるとペアで子育てをします。人工物を利用することでも有名で、空きビンや空きカンなどを利用しているケースもあります。特に空きビンを利用していると中が透けて見えることやビンの入り口から中の様子を観察することができるので、ペアで卵を守っている様子や孵化を促すシーンを見ることができます。

巻貝にいるミジンベニハゼのペア。体長3〜4cm 大瀬崎湾内 水深20m
写真/マリンフォトライブラリー
観察は夕方から夜!
水温が高くなる初夏から秋にかけて繁殖が頻繁に行われるため、タイミングが良ければ、ペアが交互にビンの外に孵化した仔魚を吹き出す様子を見ることができます(夕方から夜です)。これは親が仔魚を海へ送り出す行為です。場所によっては、ナイトダイビングの時間や潜水日が指定されていることがあり、どこでも観察が可能であるわけではありませんが、この一連の行動を観察し、うまく記録に残すことができれば、海のいきものの生態観察にハマること間違いなし!です。
繰り返される産卵&ハッチアウト
孵化を終えると、産卵してあった場所の残り殻をきれいに掃除して、次の産卵に備えます。その際、メスのお腹が大きい場合は、翌日には新しい卵が産み付けられていますので、水温にもよりますが、その5〜7日後にはまた一連のハッチアウト行動が観察できる確率が高くなります。

次の産卵を控えてお腹が大きいメスのミジンベニハゼ。仔魚を吹き出す貴重なシーン 体長4cm 鹿児島県南さつま 水深12m
写真/松田康司(ダイビングショップSB)
仔魚の送り出し行動
何でそんな話をするのかと言えば、国内でミジンベニハゼが産卵場所として利用しているビンから仔魚を外に吹き出す行動に初めて気がついたのが私なのです。それまで、ギンポの仲間で類似行動をすることは報告されていましたが、その当時、ハゼがそのような行動をすることは誰も知りませんでした。
私は、テーマというか、気になる生物や生態行動に気が付くと納得がいくまで何時間でも観察を続けます。この仔魚の送り出し行動に気付いた時も、早朝から夜までの間に何か違いがないか気になって気になって、潜り倒していたある日、夕方の観察時、薄暗い暗闇における老眼の目には、エクトプラズムみたいなの出ちゃってないか?的に見えました。何度か観察しているうちに、それは仔魚を送り出しているという結論に至った次第です。
ちなみに、今後の連載の中で出てくると思いますが、サビハゼでも同じような送り出し行動を観察しているので、貝殻やビンなどの仔魚が路頭に迷いそうな環境下においては、科や種が違っても、このような親による補助は少なからず行っているようです。
この連載をご覧になっている皆さんも、不思議に思った生物や行動を観察し続けることでその謎を解明できるかもしれませんよ。
Profile
鉄 多加志
Tetsu Takashi
1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授
ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。
専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。
主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。














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