新連載
野生のイルカと泳ごう!
第1回 日本で野生のイルカに会う

「一生に一度は、野生のイルカと一緒に泳いでみたい!」
ダイバー、ノンダイバーを問わず、こんな声をよく聞きます。でもその後にはたいてい「どこに行けば野生のイルカと泳げるの?」「私なんかでもイルカと泳げるのかな?」という問いが続きます。
この連載では、そんな「野生のイルカと泳ぎたい」あなたの疑問に、写真と動画をふんだんに使って、丁寧に、楽しく答えていきます!
※2025年8月の情報です
はじめまして!素潜りツアーガイドの長谷川です。学生時代に小笠原・父島で初めてスキューバダイビングとスキンダイビングを経験し、それ以来海にハマりまくっています。イルカと初めて泳いだのは1993年の小笠原。その後1997年から伊豆諸島の御蔵島に通うようになり、かれこれ30年以上イルカに恋し続けています。
野生のイルカと泳ぐ「ドルフィンスイム」は、他では決して得られない喜びをぼくらに与えてくれます。そんな特別な喜びを心ゆくまで味わうための秘訣を、皆さんにお伝えできたら嬉しいです。
日本で会える・泳げるイルカの種類は?
そもそも「イルカ」って何?

ミナミハンドウイルカ(2023年11月15日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA
大雑把に言うと、イルカとは「歯がある小型のクジラの仲間」の総称。イルカは高い知能とコミュニケーション能力を持ち、高度に社会化された群れを作って暮らします。そして、人間と同じように「遊び」(=生きるために必要な労働や義務とは切り離された、自由な目的・動機によって行われる活動)を行うことも知られています。
野生のイルカたちが利害関係なしで、自らの意思で人間と「遊んで」くれること、これがドルフィンスイムの最大の魅力ではないかとぼくは考えています。
日本で会えるイルカの種類
日本近海で見られるイルカの中でもイルカウォッチングなどで比較的コンスタントに見られていると思われる9種類をご紹介いたします。ちなみにシャチはマイルカ科に属しますが、他のイルカ類と比べて格段に体が大きく、「いわゆるイルカ」のイメージとは若干かけ離れているため、今回の説明からは省かせていただきます。

スナメリ
背びれがなく、沿岸部や河口域に生息する小型種。伊勢湾・鳥羽港、名古屋港、瀬戸内海、大阪湾など西日本でよく見られています。

オキゴンドウ
大きな群れで行動することが多い大型種。沖縄や伊豆諸島、三陸沖などで見ることができます。

ハナゴンドウ
頭部が丸く、体形はオキゴンドウと似ていますが色は白っぽい大型種。東伊豆のウォッチングツアーで会うことができます。

シワハイルカ
頭部が細長い中型種。歯にしわ状の凹凸があるため、この名が付けられました。沖縄~三陸にかけての外洋に分布します。

カマイルカ
北太平洋に分布する小型種。陸奥湾では毎年春から初夏にかけて高確率での遭遇が期待できます。冬は東伊豆のウォッチングツアーでも会うことができます。

マダライルカ
世界中の温暖な海域に広く分布する中型種。外洋性で、数百頭以上の大きな群れを作ることもあります。小笠原の外洋ツアーで会うことができます。

ハンドウイルカ(バンドウイルカ)
世界中の温帯~熱帯の海に広く分布する大型種。中米のバハマなどではドルフィンスイムも可能。東伊豆のウォッチングツアーでもたまに見かけることがあります。Photo by JUN HASEGAWA

ミナミハンドウイルカ
※次章で詳しく説明します。 Photo by JUN HASEGAWA

ハシナガイルカ
長く細いくちばしが特徴の小型種。世界中の温かい海で見られます。ジャンプしたり空中で回転したりすることも多い船上ウォッチングの人気者。
上の映像は、筆者が小笠原の海中で撮影したハシナガイルカの動画です(ハシナガイルカは小笠原では原則、船上からのウォッチングのみですが、この時は撮影のため特別に泳がせてもらいました)。
日本で「泳げる」のはミナミハンドウイルカ

ミナミハンドウイルカ(2023年11月4日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA
イルカは、すべての種が人間に対してフレンドリーというわけではありません。一部の種、その中でも限られた地域の個体のみが積極的に人間と泳ぎ、遊んでくれます。そんな種の代表格がインド洋から西太平洋の温暖な沿岸域を中心に生息する中型種・ミナミハンドウイルカ。日本では各所で定住する群れが確認されていて、ウォッチングツアーやドルフィンスイムが行われています。好奇心旺盛で人間を恐れず近付いてくる個体も多いため、ドルフィンスイムを行うのに最も適したイルカの一種であると言えます。
これは、筆者が今年の6月に御蔵島で撮影したミナミハンドウイルカの動画です。まっしぐらに接近してくるイルカたち、胸びれで相方のイルカをさする行動「ラビング」をしながら近付いてくる2頭のイルカ、ぼくの周囲をひたすらグルグル回りながらアイコンタクトしてくるイルカ、そしてラストは、圧巻の大群で近づいてくるイルカたち!どの光景も、胸が高まります。
野生のイルカと泳げる場所は?
ミナミハンドウイルカと泳げる4つのエリア

イルカウォッチングを行っている地域は日本中にたくさんありますが、イルカと「泳ぐ」ツアーを定常的に開催しているエリアは、能登島、利島、御蔵島、小笠原諸島の4カ所のみ。御蔵島と小笠原諸島については後の章で詳しく説明するため、ここでは能登島と利島について説明します。
能登島(石川県)
能登島は、能登半島の七尾湾に浮かぶ島。2001年からミナミハンドウイルカが見られるようになり、現在は10〜20頭ほどが島周辺に生息しています。ドルフィンスイムは、ボートでイルカのいるポイントまで移動し、スノーケリングやスキンダイビングでイルカと泳ぐ、というスタイル。シーズンは明確に決まっていませんが、4~10月くらいが快適に泳げる期間なのではないかと思います。ドルフィンスイムツアーを開催しているショップや宿については、能登島観光協会のホームページをご覧ください。
利島(東京都)
伊豆諸島の北部に位置する利島では、1995年に御蔵島からメスのイルカ「ココ」が移住して以来、御蔵島から移住するイルカが後を絶たず、2020年代には約20頭が島の周囲で暮らすようになりました。近隣の島までの距離が近いためか、イルカが他所に移動して島にいないこともあります。ドルフィンスイムは、ボートで島の周囲を巡ってイルカを探し、スノーケリングやスキンダイビングでイルカと泳ぐ、というスタイル。ツアーの開催期間は3~11月。通常1日2回開催され、1回のツアー時間は約90分です。
ドルフィンスイムの「聖地」御蔵島

御蔵島(2020年11月1日) Photo by JUN HASEGAWA
東京都心の南約190kmに位置する伊豆諸島の御蔵島。この章では、御蔵島へのアクセス方法とドルフィンスイムについての基本情報を簡単に説明させていただきます。ちなみに御蔵島に行くためには、クリアしなければならない「ハードル」がいくつかあるのですが‥‥その話は、連載第2回「御蔵島のイルカに会いに行こう!」で詳しく解説します。

御蔵島に接近する橘丸(2020年7月26日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA
御蔵島へのアクセスは、基本は船になります。東京・竹芝桟橋で夜発の大型客船「橘丸」に乗り、翌朝御蔵島に到着します。宿を確保しない渡航および日帰りの渡航は原則禁止のため、乗船券を予約する前に宿の予約をする必要があります。宿は、民宿やビジネスホテルタイプの村営旅館、観光協会が管理運営するバンガローなどがあります。また「ドルフィンスイム船」は、宿と同時に予約することを強くお勧めします。

ミナミハンドウイルカの群れ(2023年10月27日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA
御蔵島には約150頭のミナミハンドウイルカが定住していて、1994年に観光目的のドルフィンスイムが始まりました。ドルフィンスイムは、小型の漁船タイプの船で島の周囲を巡ってイルカを探し、スノーケリングやスキンダイビングでイルカと泳ぐ、というスタイル。島を一周できる海況であれば、ほぼ100%の確率でイルカに会うことができます。ツアーの開催期間は3月中旬~11月中旬。1日2回参加可能で、1回のツアー時間は約2時間。またイルカ保護の観点からドルフィンスイムのルールが定められているので、必ず事前に確認しておきましょう!
日本のドルフィンスイムさきがけの地・小笠原

小笠原・父島沖のハシナガイルカ
世界自然遺産にも指定されている小笠原諸島は、おそらく日本で初めてドルフィンスイムが行われた場所でもあります。この章では、小笠原へのアクセス方法とドルフィンスイムの基本情報を簡単に説明させていただきます。ちなみに小笠原の海は、イルカ以外の魅力も満載!それらを含めた小笠原の楽しみ方については、連載第3回「小笠原のイルカに会いに行こう!」で詳しく解説します。

父島・二見港を出港する「おがさわら丸」と見送りの船
小笠原諸島は東京都心から約1000km南に離れた太平洋上にあります。人が住んでいるのは父島と母島。ドルフィンスイムの主なフィールドは、この2つの有人島周辺と、父島から約50km北に位置する無人島・嫁島の周辺になります。内地からの交通手段は定期客船「おがさわら丸」のみ。東京・竹芝桟橋から24時間かけて父島を目指します。宿は、民宿、ペンション、ゲストハウス、コンドミニアム、ホテルなど様々なタイプがあります。

ミナミハンドウイルカ(2022年7月6日 小笠原・南島沖) Photo by JUN HASEGAWA
小笠原諸島の周辺には約200頭のミナミハンドウイルカが定住していると言われています。小笠原でいつからドルフィンスイムが始まったのかは定かではないのですが、筆者がはじめて父島を訪れた1992年にはすでに実施されていたので、おそらく日本ではじめて観光目的のドルフィンスイムが行われた場所ではないかと思います。ドルフィンスイムのスタイルは、無人島(南島)への上陸や、サンゴが美しい海中公園でのスノーケリングなどを含めた半日あるいは1日ツアーの中でイルカも探し、ミナミハンドウイルカに出会えたら一緒に泳ぐ、という感じになります。
まとめ

イルカと見つめあう(2023年9月29日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA
イルカと見つめ合い、心が通い合う瞬間。
ドルフィンスイムのリピーターの多くは、この瞬間のために、大海原を渡ってイルカに会いに行くのではないかと思います。
イルカは利害関係なしに人間と「遊んで」くれる稀有な生き物。でも、遊んでもらえるかどうかはイルカの気分次第。イルカを見つけて海に入っても、眠っていたり、イルカの気分が乗らなかったり、人間と遊ぶよりも楽しいこと(波乗りや仲間とのじゃれあいなど)をしている時は、イルカは素通りしてしまいます。だからこそ、イルカが自分の意志で近づいてきて、アイコンタクトしたり、自分の周りをぐるぐる回ったりしてくれた時には、大きな感動を得ることができるのです。
そして…
イルカのことを知り、イルカと泳ぐためのスキルを身に付ければ、イルカたちに遊んでもらえる確率は確実にアップします。
この連載では、イルカと一緒に泳ぎ、遊ぶための具体的なノウハウを月1回のペースで皆さまにご紹介していきます。次回のテーマは「御蔵島のイルカに会いに行こう!」。乞うご期待!!
ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)
素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
