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連載
野生のイルカと泳ごう!
第3回「小笠原のイルカに会いに行こう!」

野生のイルカと泳ごう!

「一生に一度は、野生のイルカと一緒に泳いでみたい!」
ダイバー、ノンダイバーを問わず、こんな声をよく聞きます。でもその後には大抵「どこに行けば野生のイルカと泳げるの?」「私なんかでもイルカと泳げるのかな?」という問いが続きます。
この連載では、そんな「野生のイルカと泳ぎたい」あなたの疑問に、写真と動画をふんだんに使って、丁寧に、楽しく答えていきます!

※2025年10月の情報です

はじめに

ミナミハンドウイルカ(2021年6月22日 父島「長崎」付近) Photo by JUN HASEGAWA

ミナミハンドウイルカ(2021年6月22日 父島「長崎」付近) Photo by JUN HASEGAWA

こんにちは!素潜りツアーガイドの長谷川です。今回は小笠原諸島でのドルフィンスイムについてご紹介。
小笠原独特の、吸い込まれるような深い青色の海でイルカと泳ぐ体験には、他の海では得られない感動があります。またイルカの他にも、クジラやダイバー憧れの「大物」マンタやイソマグロ、サンゴ礁を泳ぐ美しい魚たちにも会えてしまう、まさに「野生の王国」。そんな小笠原ドルフィンスイムツアーの魅力を、動画をふんだんに使って解説します。

小笠原ってどんなところ?

小笠原ってどんなところ?

小笠原諸島は東京都心から約1000km南の太平洋上にあります。世界自然遺産に指定されている小笠原の島々は、大陸と一度も陸続きになったことがない「海洋島」で、独自の生態系を持ち、多くの固有種が育まれているため「東洋のガラパゴス」と呼ばれています。
人が住んでいるのは父島と母島。ドルフィンスイムは、主にこの2つの有人島周辺および父島の約50km北に位置する無人島・嫁島の周辺で行われます。今回はより多くの皆さんが滞在する可能性が高い父島から行くことができるエリアでのドルフィンスイムを紹介します。

交通手段と宿泊

父島・二見港を出港するおがさわら丸と見送りの船

父島・二見港を出港するおがさわら丸と見送りの船

小笠原への渡航手段は、東京・竹芝桟橋から出航する大型客船・おがさわら丸のみで、24時間かけて父島を目指します。繁忙期以外は父島で3泊停泊してから東京に戻るため、出航頻度は概ね1週間に1回となります。乗って来た船と同じ日程で滞在して東京に戻る場合(船中2泊、現地3泊)を「1航海」と呼び、これが最もポピュラーな旅行スケジュールになっています。

夕日スポット「ウェザーステーション展望台」(2016年6月20日 父島) Photo by JUN HASEGAWA

夕日スポット「ウェザーステーション展望台」(2016年6月20日 父島) Photo by JUN HASEGAWA

宿には、民宿、ペンション、ゲストハウス、コンドミニアム、ホテルなど様々なタイプがあります(小笠原村観光協会HP参照)。多くは港がある大村地区とその近辺にありますが、港から離れた場所の宿もあります。船も宿も、特にGWやお盆休み、年末年始などの繁忙期は予約が取りづらくなるので、予約開始日時を確認の上、その時間に確実に予約を入れられる体制を整えておきましょう!

小笠原のドルフィンスイム

ボニンブルーの海でイルカと泳ぐ(2022年7月4日 南島付近)Photo by JUN HASEGAWA

ボニンブルーの海でイルカと泳ぐ(2022年7月4日 南島付近)Photo by JUN HASEGAWA

「ボニンブルー」と呼ばれる、吸い込まれるような深い青色の海でイルカと泳ぐ…小笠原のドルフィンスイム最大の魅力は、これに尽きるのではないでしょうか?
小笠原諸島の周辺には約200頭のミナミハンドウイルカが定住していると言われています。いつからドルフィンスイムが始まったのかは定かではありませんが、ぼくが初めて父島を訪れた1992年にはすでに実施されていたので、おそらく日本で初めて観光目的のドルフィンスイムが行われた場所ではないかと思います。

小笠原で会えるイルカ

ハシナガイルカ 

ハシナガイルカ 

ドルフィンスイムの対象は、インド洋から西太平洋の温暖な沿岸域に生息するミナミハンドウイルカ。好奇心旺盛で人間を恐れず近付いてくる個体も多いため、ドルフィンスイムを行うのに最も適したイルカの一種であると言えます。
船上ウォッチングの主役はハシナガイルカ。長細いくちばしが特徴で、世界中の温かい海で見られます。ジャンプしたり空中で回転したりする派手なアクションから、英語ではスピナードルフィンと呼ばれています。また父島の外洋エリアでは、マダライルカが見られることもあります。

ドルフィンスイムのスタイル

おがさわら丸の見送りをするツアー船(2022年7月9日) Photo by JUN HASEGAWA

おがさわら丸の見送りをするツアー船(2022年7月9日) Photo by JUN HASEGAWA

代表的なツアースタイルは、朝から夕方まで1日かけてイルカを探しながら父島周辺を巡る、というもの。ドルフィンスイムだけでなく、船上からのウォッチングやスノーケリング・スキンダイビングなども行い、多くのツアーでは父島の南側にある無人島「南島」への上陸・散策も行います。また海況が良い日には、父島の外洋(マッコウ海域)や嫁島への遠征をすることも。
ドルフィンスイムツアーを実施している船は数多くあり、船のタイプは大型クルーザーから和船まで様々。それぞれ個性あふれるツアーを開催しているので、まずはホームページや電話でツアーの内容を確認して申込みましょう(小笠原村観光協会HP参照)。

エリアごとのドルフィンスイムツアー紹介

父島から参加できるツアーのエリアは、主に「父島沿岸」「父島外洋(マッコウ海域)」「嫁島」の3つ。この章では、動画をお見せしながら各エリアの魅力を紹介していきます。

父島沿岸エリア

ミナミハンドウイルカと泳ぐ(2021年6月19日)Photo by JUN HASEGAWA

ミナミハンドウイルカと泳ぐ(2021年6月19日)Photo by JUN HASEGAWA

もっともポピュラーなのがこの父島沿岸エリアです。おがさわら丸の入出港がない日は丸1日のコース、入港日は午後の半日コース、出航日は午前の半日コースで実施されるのが一般的。基本的にはイルカを探しながら父島周辺を巡り、ミナミハンドウイルカに遭遇したらドルフィンスイムを行います。

マンタを撮影する筆者(2021年6月19日)Photo by YUKI KUSACHI

マンタを撮影する筆者(2021年6月19日)Photo by YUKI KUSACHI

ツアーでは船上からのイルカ・クジラウォッチング、サンゴや魚が多い場所などでのスノーケリング・スキンダイビング、南島への上陸・散策なども行い、運が良ければ、マンタやジンベエザメなどの超大物に遭遇することも!何が出るかわからないドキドキ感も小笠原の大きな魅力の一つです。

小笠原 父島沿岸船上ウォッチング ハシナガイルカ

まずはハシナガイルカの船上ウォッチングから。
前半は父島の東側で遭遇した数十頭の群れ。お腹を見せたり絡み合ったりして遊んでいるように見えます。後半はバウライド(船の舳先に付いて泳ぐ)をしている群れ。なんと!群れにハンマーヘッドシャークが混ざっていました!!イルカやクジラの群れの後尾にサメが付いて泳ぐのは、割とよくあることのようです。

小笠原 父島沿岸ドルフィンスイム・夏

そして、いよいよミナミハンドウイルカとのドルフィンスイム!
ゆったりと泳ぐイルカ、燦々と降り注ぐ陽光の下で人と戯れるイルカの群れ、そして仲睦まじい母子イルカ。ラストは熟練のスイマーと見つめあって泳ぐ人懐っこいイルカ。小笠原では、こんな憧れのシチュエーションを体験できてしまうのです。

小笠原 父島沿岸ドルフィンスイム・冬

温暖な小笠原では、冬もイルカと泳ぐことができます。水温と気温が下がるためウェットスーツ着用は必須。また海が荒れやすくなるため、ツアー船が出なかったり、行ける海域が限られてしまったりする場合もあります。でもイルカたちのフレンドリーさは年中無休。この時もテンションMAXな子イルカちゃんの大撮影会になっていました!

小笠原 父島沿岸船上ウォッチング ザトウクジラ

そして冬の小笠原といえばホエールウォッチング。ザトウクジラの一大繁殖地である小笠原はクジラとの遭遇率が高く、シーズン序盤の12月でもこの通り。クジラのアクションの中でも一番人気があるブリーチ(背面ジャンプ)を連続して見ることができました。

小笠原 父島沿岸フィッシュウォッチング

スノーケリング・スキンダイビングでの見どころもたくさん!「キャベツビーチ」という愛称で知られる兄島海域公園は、美しいサンゴとトロピカルフィッシュが見られるため人気があり、ツアーの合間に寄ることが多い場所です。父島の北西に位置する無人島「西島」の北側にはツバメウオの群れが常駐。また父島で一番人気のダイビングスポット「ドブ磯」では、コバンアジやツムブリの群れ、ウミガメなどが見られました。そして、同じくドブ磯で撮影した次の動画には驚くべき「大物」の姿が!

小笠原 父島沿岸 マンタと泳ぐ

このマンタは採餌に夢中で、約20分間、何度も宙返りしながら同じ場所を行ったり来たりしていました。そしてある時、ぼくに急接近して来たのです。上方向によけつつマンタの目をアップで撮っていたのですが、出来上がった動画を見てびっくり。そこには、背びれと胸びれの先が白い大型のサメが写っていたのです。どう猛なことで知られる外洋性のサメ「ヨゴレ」です!撮影している時はマンタに夢中でまったく気付かず。肉眼で見たかった…(泣)。
小笠原の底知れぬポテンシャルを思い知った一日でした。

父島外洋エリア(マッコウ海域)

外洋エリアより父島を望む(2021年6月24日) Photo by JUN HASEGAWA

外洋エリアより父島を望む(2021年6月24日) Photo by JUN HASEGAWA

父島の沖合に位置する通称「マッコウ海域」。水深1000mを超えるこのエリアでは、マッコウクジラをはじめとした外洋性の生き物たちに会うことができます。ツアーは主に海況が安定する5~11月に開催。ツアーを開催する船と日時を早めに確認して申し込みましょう。

小笠原 外洋 マダライルカ・アカボウクジラ・ブルーウォータースイム

父島から東に10kmほど沖へ出ると、海の色はさらに青さを増していきます。まずは外洋性のマダライルカの群れに遭遇。そのスピーディーな動きはハシナガイルカをも上回ります。そして水深が深い海域に生息する中型のクジラ「アカボウクジラ」が登場!地元の方でもなかなか見ることができない超レア者の登場に船長もゲストも大興奮でした。ラストは水深1000mでのブルーウォータースイム。周りはただひたすら、青、青、青。贅沢なひとときを過ごさせていただきました。

小笠原 父島外洋 マッコウクジラ

そしてこのエリアの主役といえば、やはりマッコウクジラ。母子2頭のマッコウクジラに出会ったのですが、子どものクジラが不意に船に近寄って来て、船縁でポコッと顔を出したのです。船に乗っていたゲストは感激と興奮の嵐!イルカもクジラも、子どもは本当に好奇心の塊ですね。

嫁島エリア

嫁島マグロ穴(2021年6月24日) Photo by JUN HASEGAWA

嫁島マグロ穴(2022年7月2日) Photo by JUN HASEGAWA

父島の北約50kmに位置する無人島「嫁島」はイルカと高確率で出会える人気エリア。海の中も手つかずの自然そのもので、魚影の濃さは半端じゃありません。夏の時期に100匹を超えるイソマグロが集まる「嫁島マグロ穴」は、スノーケリングやスキンダイビングでも楽しむことができます。ツアーは主に海況が安定する6月下旬〜10月半ばに開催されます。

小笠原 嫁島 ハシナガイルカ・イゾマグロ・アオウミガメ・ミナミイスズミ

この時に見たハシナガイルカの群れは、おそらく100頭を軽く超えていたと思います。ミナミハンドウイルカと違って人間にはほとんど見向きもせず、仲間同士で遊んでいましたが、そんな自然な姿を観察するのもまた楽しい!
「嫁島マグロ穴」は、マグロたちはわりと浅いところで泳いでいるので、潮止まりの時間帯を狙っていけばじっくり観察することができます。またミナミイスズミは、小笠原で最もよく見かける魚のひとつですが、これだけの数が群れると圧巻!

まとめ

「嫁島マグロ穴」前にて記念撮影(2021年6月24日) Photo by JUN HASEGAWA

「嫁島マグロ穴」前にて記念撮影(2021年6月24日)

小笠原ドルフィンスイムの旅、イメージはつかめたでしょうか?小笠原はエリアが広く、イルカ以外に見られる生き物も多いので、目移りしてしまうかもしれませんね。1航海(6日間)の旅ですべてを体験するのは難しいので、まずは基本の父島沿岸ツアーをじっくり楽しむのが良いかもしれません。
小笠原は船で24時間かけて行くしか方法がない島。だからこそ貴重な自然がたくさん残り、魅力的な場所であり続けているのです。ぜひその不便さも含めて楽しんでいただければと思います。 次回は「イルカの行動を知る」というテーマでお届けいたします。乞うご期待!

ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)


素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
>>dive station baseの小笠原ドルフィンスイムツアー 
※2026年ツアー予定は近日公開!

長谷川 潤