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感動の一瞬はこうして生まれた…… フォト派ダイバー必見!
水中写真家 作品探訪

イカ・タコや海藻の生態や撮影などで
世界的に評価を得る水中写真家

阿部秀樹 Hideki Abe

阿部秀樹

テンガイハタ幼魚
浮遊系といわれる写真です。どのように綺麗な海でも海中にはわずかな塵やゴミがあります。指先ほどの小さな生き物を単純な背景で撮影するとその塵は必ず映り込みますが、そのゴミを現像処理で消すのではなく、いかに美しく撮るかを考えて撮影しています。
撮影地:小笠原父島
撮影機材:Nikon D800 60㎜マクロレンズ  Nauticamハウジング   INON S2000ストロボ 2灯ハニカムグリッド装着
撮影データ:1/320秒 f20

ストイックな撮影は“夢を撮る”ため

生態撮影は王道中の王道

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-阿部さんがプロの水中写真家になったきっかけ、その当時目指したかったことを教えてください。

阿部秀樹さん(以下、阿部)-ダイビングを始めてしばらくたった(40年以上前ですが)、『マリンダイビング』の水中写真コンテストで入賞したりし始めた頃に、なんとなくプロの写真家もいいなぁと思っていました。 まずは当時活躍されていたプロ写真家の方々の秀作を真似して撮影することを目指しました。人真似をすることは、自分の写真がなくなるのではと思った時期もありましたが、いつしか真似をさせて頂いた先輩プロの方々から“独自の作風”と評価を頂くようになりました。

-水中写真家として活動をされていくうちに、イカ・タコの生態や、さまざまな生きものの繁殖行動などテーマを持った撮影をされていったように思います。最初にこれだ!と思った生きもの、生態はどんなことでしたか?

阿部-ダイビングを始めた頃は皆さんと同じように美しい生き物を単に撮影しているだけでしたが、その過程の中で行き着いたのは生態撮影です。アマチュア時代に100種以上の生態行動を解明、撮影をしました。同時に今では浮遊系と呼ばれるプランクトンの撮影も始めました。この挑戦はプロになっても続いていて、新たな撮影に常に挑んでいます。生態撮影は水中に限らず野生生物撮影において“王道中の王道”だと思います。奥が深い上に、産卵などの瞬間でなくても生態がわかっているのと、わかっていないのでは、写真の仕上がりに大きく差がつきます。自分の写真がレベルアップできるのも生態撮影があるからと言っても過言ではないと感じています。

生態行動の中に感じる夢を撮りたい

阿部秀樹

ジャイアントケルプ
造形的に素晴らしい海藻の葉先ですが、気包体の丸とそこから放射状に伸びる葉先。その葉先が背景のシャドー部に消えてゆくように光と影を考えて撮影しました。2灯ライティングの面白さと光と影の妙が気に入っている写真です。
撮影地:モントレー湾(アメリカ)
撮影機材:Nikon 105mmマクロ ストロボ2灯

-阿部さんは海の生き物たちの生態撮影の分野でテレビ番組の撮影や監修、コーディネート、助言などで活躍されています。特にイカ・タコ類の撮影や海藻の撮影では国内外の研究者からの信頼も厚く、数々の貴重な映像や画像を発表され、国際的な評価を得ていますが、ストイックなまでに撮影されるようになったきっかけは?

阿部-長年取り組んできた浮遊系にせよ、他の生物にせよ、生物本来の美しさは今後も伝えていきたいと思っています。僕は自分なりに心に残る写真は光の使い方だと思っていましたが、映画『OCEAN』撮影など、欧米チームと仕事をした時に私の写真を評価していただいたことで、より強くそのことを意識するようになりました。透明感を出すのも、被写体を浮かび上がらせるのも、臨場感を出すのも光の使い方次第です。写真は“光と影の芸術“といわれますがまさにその通りだと思います。その中で“夢を撮る”を常に心がけています。

流氷からサンゴ礁まで多様性あふれる日本の海を撮り続ける

阿部秀樹

富戸「ヨコバマ」
東伊豆・富戸の「ヨコバマ」は、後ろの林からランダムな光線が海底に差し込んできて非常に美しい景観を作り出してくれます。この景観を生かすためには光と海底だけで十分で、生物はかえって入れない方が両方を引き立ててくれると感じました。満足いくダイビングのエグジット間際の情景を再現したいと思って撮影した1枚です。光と影をより強く印象付けるために露出オーバーにならないように撮影しました。
撮影地:静岡県 伊豆半島 富戸
撮影機材:SONY α7s  16㎜ アクアパッツアハウジング 自然光
撮影データ:1/400秒 f11

-世界の海を潜られていらっしゃいますが、毎年必ず潜っている海はありますか?

阿部-20年くらい前から海外の海にはほとんど行っていません。それは日本の海があまりにも多様だからで、流氷とサンゴ礁、両方の海があるのは世界中で日本とアメリカだけです。海外の撮影チームと一緒に仕事する機会がありますが、日本の海の素晴らしさは欧米人も舌を巻くほどです。そのような理由から国内で伊豆大島、小笠原、伊豆半島大瀬崎、紀伊半島、高知柏島、山口、長崎、鹿児島、沖縄など数カ所は年に1~2回必ず訪れています。

阿部さんが開催するフォトコン「ABECUP」のこと

-阿部さんといえば阿部さんの名前が冠の「ABECUP(アベカップ)」が日本各地で開催されています、その審査をする上で心がけていること、また感じていることがあれば教えてください。

阿部-ABECUPは一般的な水中フォトコンテストとは大きく異なります。一般的なフォトコンテストでは入賞者だけが審査員の評価を得られますが、ABECUPではすべての参加者が、その日に決められた被写体の中から5点(種)を提出して、技術点がピント・露出・構図の3項目、芸術点が被写界理解度、芸術性・独創性で各々点数を出し、それを合算して評価します。ABECUPの考え方は誰もが短時間で後悔のない写真を残すことができるようになることです。例えば、エクジット間際にリュウグウノツカイが出た時に大人数でも、短時間であっても、焦って失敗することがよくあります。そのようなことがないようにするという考え方が根底です。参加することで自分の写真の長所・短所がわかりますから、できなかった点または長所に力を入れていけば今後の写真技術向上につながります。
開催されているABECUPで一番大きなものは和歌山県串本町にある紀伊大島須江のものですが、長崎では「カステラカップ」という名称で開催したりしています。
参加者にとって写真力アップになるようにいろいろな被写体を選定すること。自分自身で採点マニュアルを作って点数評価でブレが出ないようにしています。

撮りたいテーマは無限

-ありがとうございます。そろそろ須江でのABECUPの開催時期ですからね。参加者の方にはぜひこれを読んで対策を練っていただきたいです。
さて、阿部さんの今後のご予定を教えてください。

阿部-写真集ではないですが、本の出版は長年取材をしていた“寿司の本”が今年(2022年)末から来年明けに出版されます。ほかにも来年末になりますが生態をわかりやすく写真と共にストーリー仕立てにした本、食と海の本が数冊出版されます。この本で使う写真は写真集の写真よりも手間のかかったものが多く撮影は大変でした。

-今後やってみたいこと、夢なども教えていただけますか。

阿部-30年来取り組んでいる浮遊系と呼ばれているプランクトン撮影、月や星明かりで撮影しているテーマなどがありますが、まだ完成には時間がかかりそうです。一つのテーマで短くて10年は撮影にかかります。さらにそこから派生する撮影テーマがいっぱいありますから、それを追いかけるだけで大変です。海は無限、撮影テーマも無限です。

-ありがとうございました。これからも阿部さんの作品を楽しみにしています!

阿部秀樹
Hideki Abe

PROFILE
あべ ひでき
1957年神奈川県生まれ。
鎌倉市稲村ヶ崎育ち。目の前が海という環境に生まれ、幼少時代から遊び場が海だった。立正大学文学部地理学科卒業後、22歳の時に素潜りで水中写真を始めたが、その後に葉山で本格的にスクーバダイビングを習い今に至る。
サラリーマン時代にはフォトコンテストにおいて数々の賞を受賞する。その後、プロ写真家に。
30年以上前から日本の海の多様性に着目して北海道から沖縄までの水中、海を取り巻く人々の姿をテーマとして撮影するかたわら、魚を含めた水中生物の生態撮影ではテレビ番組の撮影や監修、コーディネート、助言などでも活躍。イカタコ類の撮影や海藻の撮影では国内外の研究者からの信頼も厚い。
ライフテーマとして、日本人の海を取り巻く知恵である「里海」の姿、30年来の撮影対象であるプランクトン(浮遊系生物)、月光による水中や水辺の風景がある。
伊豆の国市在住 沼津市観光大使、鹿児島県沖永良部島知名町観光大使歴任

主な著作及び作品
仏映画『Oceans(オーシャンズ)』スチル撮影担当メンバー
「ダーウィンが来た」「Wild Life」「にっぽん印象派」撮影並びに出演、共にNHK(日本放送協会)
『美しい海の浮遊生物図鑑』文一総合出版 『魚たちの繁殖ウオッチング』誠文堂新光社
『昆布』『鰹節』『煮干』(偕成社)では、第23回学校図書館出版賞(2021年)を受賞。

日本自然写真作家協会 会員
Nauticam Japan アンバサダー

阿部秀樹

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