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水中写真家 作品探訪

美しくて華やかなハナダイワールドを
ありのままに写してくれるハナダイ写真家

佐野誠一郎 Seiichiro Sano

佐野誠一郎

キンギョハナダイ 伊東 五島根
夏季限定ポイント「五島根(ごとうじね)」での1枚。潮が当たるタイミングで潜ると彩り豊かなソフトコーラルが咲いていてハナダイの楽園が広がっています。
撮影機材 カメラ:Canon EOS 5DMarkⅣ レンズ:SIGMA 15mm fisheye ストロボ:INON Z330  2灯 ハウジング:ノーティカム
撮影データ 1/15秒 F7.1 ISO500

ハナダイといえば佐野誠一郎。を実現

世界中のハナダイ・ハナゴイを撮影したい!

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-佐野さんはダイバーの多くが癒されるというハナダイ大乱舞の世界をメインに撮影されています。ご自身がハナダイに魅せられたきっかけ、理由を教えてください。

佐野誠一郎さん(以下、佐野)-元々カラフルなものが好きだったのもありますが、初めてハナダイの美しさに衝撃を受けたのは、一眼レフを使い始めた頃にパラオでオオテンハナゴイを撮った時です。肉眼では紫色に近い体色ですが、ふんわり設定で撮影すると鮮やかなピンク色に切り撮られて「こんな色で撮れるんや!?」と感動したのを覚えています。
当初はマクロ撮影ばかりしていたので、世界中すべてのハナダイ•ハナゴイを撮影したいという野望が芽生えました。調べてみるとハナダイの仲間は世界に170~180種類いるとわかりました。なぜこんなに派手な色になる必要があり、どのような進化で現在の色合いになったのか興味が尽きません。ハナダイの中には深い場所に棲む種類も多いので、日本でダイビング中に出会えるハナダイはあと数種類となりましたが、世界中の海となるとまだまだ道半ばといった感じです。

理想はハナダイの種類と背景から、どこの海かが表現できること

-世界中となると確かに大変ですが、日本に生息しているハナダイはあと数種類! スゴイですね。ところで、佐野さんのマイフィールドはどこですか?

佐野-当初は一眼レフを持つきっかけをくれたパラオによく通っていました。日本はダイビングで観察できるハナダイの種類がとても多いのですが、日本以外となるとパラオはひとつの国で見られるハナダイの種類が圧倒的に多いです。また日本では深場に行かないと会えないハナダイにも比較的浅い水深で会えるのも魅力的でした。
例えば日本だと水深30~40m台にいるオオテンハナゴイがパラオだと20mでも群れているといったように、ゆっくり撮影するにはとてもありがたい環境なのです。そしてドロップオフ沿いにはウミウチワなどが点在しているのでカラフルな背景で撮影できるのも魅力のひとつです。
次に安近短で行けるフィリピンのアニラオ、プエルトガレラ、セブ島のマクタン、モアルボアル、リロアンにはよく撮影に行かせてもらいました。浅い場所はメラネシアンアンティアスとパープルビューティーとキンギョハナダイがメインになるのですが、背景が美しい海が広がっているので毎年通っていました。
昨年12月に大きな台風がセブ島を襲い、陸も海中も甚大な被害が出てしまって現在復興の真っ只中です。私も微力ながら写真のチカラで何かしら協力できたらいいなと思っています。

-なかでもどのスポットでの撮影が良かったですか?

佐野-難しい質問ですね。
何を求めるかだとは思いますが、マクロ撮影ならパラオ、ワイド撮影ならフィリピン、インドネシア、モルディブでしょうか。僕の理想はハナダイの種類と背景からどこで撮影したか伝わる写真を撮ることです。そのエリアならではの地形や生物と一緒に写すことで表現できれば最高だと常々考えています。
フィリピンのプエルトガレラにある「キャニオン」というスポットは、暖色系のソフトコーラルが広い範囲に群生していて、そこにキンギョハナダイが本当にたくさん群れています。平均水深が24mと少し深めなので、肉眼で赤い色は認識しづらいのですが、ストロボが光る度にとても華やかな風景が浮かび上がり、撮影中テンションが上がりっぱなしになるので、大好きなポイントのひとつです。

日本を潜り込んでハナダイの魅力にさらにハマる

佐野誠一郎

アカオビハナダイ 鹿児島 錦江湾
2022年2月、アカオビハナダイとウミカラマツを撮影した1枚。冬はまだ魚体の小さなメス中心で迫力に欠けるのですが、この群れ具合は素敵な光景でした。これから徐々に水温が上がり大きく育っていきオスへ性転換する個体も増えるので、さらに素晴らしい風景を撮影できると信じています。
撮影機材 カメラ:Canon EOS 5DMarkⅣ レンズ:Canon EF16-35mm f/4L IS USM ストロボ:INON Z330  2灯 ハウジング:ノーティカム
撮影データ 1/20秒 F9 ISO400

-コロナ禍で国内で潜られることも多くなってきたと思いますが、潜ってみてびっくり!なエリア、スポットはありましたか? どこですか? どういった点に驚かれましたか?

佐野-コロナ禍で一番通ったのは東伊豆の伊東です。特筆すべきはハナダイの種類とソフトコーラルの豊かさ両方兼ね備えたダイブサイトであることです。季節にもよりますが観察できるハナダイの種類が多く、約20種類と驚異的な数を誇ります。山からの恵みと潮流が生み出す栄養豊かな海が育むソフトコーラルの群生を知った時は「日本にもこんなカラフルな海があるんだ」と驚かされました。そして中でも夏季限定ポイントの「五島根(ごとうじね)」はソフトコーラルが群生しているスポットで、彩り豊かな写真が撮れるので大好きな場所です。
コロナ禍は同じ海に足繁く通ったので、日本の海にはしっかりとした四季があることを再確認できたのも私にとっては大きな収穫でした。初夏にキンギョハナダイの産卵が盛んになり、秋にはサクラダイが増え産卵のピークを迎えるなど季節ごとのイベントがあり、それらを撮る楽しみは常夏の国では感じることがなかった感覚です。
次によく通ったのは鹿児島の錦江湾です。錦江湾はいろんな海を潜っている人ほど面白さをわかってもらえるのではないかと思う海なのです。多くの海で優勢種として勢力を伸ばしているキンギョハナダイは極々稀に1匹いるくらいで、ここでは99.9%アカオビハナダイにしか出会わないという不思議な環境だからです。ハナダイに限らず他の生物でもこういった現象が多々見られるそうで、興味深い海なのです。 

ハナダイのワイド撮影の成功の秘訣は?

-ところで、ハナダイはあまりにもキレイなので、水中写真を撮りたい!と思う方も多いと思いますが、なかなかうまく撮れない方が多いのではないかと思います。佐野さんのハナダイ撮影成功の鍵を少し教えてください。

佐野-私なりのハナダイ撮影の成功の鍵は「ハナダイの動きを観察すること」です。
初めての海での撮影時や初めての種類に出会った時はすぐに撮影せずにまず距離を保って観察するようにしています。自分が近寄った時にどこにどう逃げるかなどをよく観察して、動きを予測して近づき方を変えているのです。また群れにより近づくために手前で呼吸を整えて穏やかな呼吸でゆっくり近づくように心掛けています。
あとライトを煌々と焚いていると早々にハナダイに警戒されて近寄れなくなるので、よほど暗い環境でない限りライトは使わないようにしています。どうしても必要な場合もカメラが被写体を認識できる最低限の光量で撮影しています。
自然光で撮りやすい海は国内なら沖縄など南国がお勧めです。本州でも浅い場所に群れるキンギョハナダイなどは天気が良ければコンデジでも狙いやすいと思います。

-ストロボで撮るとすると2灯ですか? それ以上ですか?

佐野-ストロボは基本イノンZ330を2灯使用して撮影しています。
マクロ撮影の際は魚が赤い光は認識しづらい色といわれているので、ライトにレッドフィルターを付けて撮影に臨むこともあります。
レンズの種類によるのですが、ストロボの位置は広角のレンズほど長いアームを付けてレンズからなるべく遠く離しています。またストロボの光がムラなく回るようにと、光がレンズに直接干渉しないようにするためにもレンズより後ろに配置して撮影しています。
マクロ撮影の時はストロボの光が真っ直ぐ出ないように少し角度をつけて発光するようにしています。これもセミナーでお伝えしているので、これくらいで(笑)。

ハナダイをコンデジで撮る!

佐野誠一郎

ハナゴイ 奄美大島 大仏サンゴ
奄美大島の春の日没前にはハナゴイの産卵が盛んになります。他のハナダイ・ハナゴイの仲間は放精放卵の瞬間、オスがメスに巻きつくスタイルが多いのですが、ハナゴイは上下平行に泳ぎそのまま左右に離れます。放精放卵が少しずつ始まりピーク時にはあちこちでペアになって行くので、まるで花火大会のフィナーレのような光景は何度見ても感動します。
撮影機材 カメラ:Canon EOS 5DMarkⅣ レンズ: Canon EF100mm f/2.8L Macro IS USM ストロボ:INON Z330 2灯 ハウジング:ノーティカム
撮影データ 1/200秒 F14 ISO320

-そうですよね、セミナーも多数開催されていますから、企業秘密だと思うのですが、コンデジで撮影したい人向けにアドバイスもこっそりお願いします。

佐野-こっそり(笑)。最近のコンデジはとても進化しているので「この写真ほんとにコンデジで撮ったの?」と驚かされたりします。私が好きなスローシャッターやボカしたりするのは難しいですが、素敵な群れの写真を撮ることも可能ですので挑戦してほしいです。
ハナダイは動きが速い部類の魚なので撮影にはある程度の経験と勘が必要だと思います。ハナダイの動きにも法則があるので、スピードMAXの時は狙わず止まる瞬間を狙ってください。そのために「観察する」が重要になってくるのです。潮の流れる向きや捕食者が近づいてきた時にどこに逃げるか、どんなルーティンで動いているかを知ることで撮影の成功率は上がるはずです。
例えば、海がうねっている時はハナダイはウネリに合わせて前後に向きを変えます。そのタイミングを掴めればこちらを向くチャンスはわかるので、タイミング良くシャッターを切れるはずです。
ワイド撮影なら潮の流れる向きを計算に入れる事も大切ですね。ハナダイの食べ物はとても小さなプランクトンで潮通しの良い場所に棲んでいます。流れが強い時ほどハナダイも逃げづらくなるので近寄りやすくなります。当然人間も泳ぐのは大変ですが、僕は流れがある時の方が群れている写真を撮れる確率が上がるので好きです。ですから月齢表を参考に流れやすい日を選んで撮影に臨んだりしています。
よりクオリティの高い綺麗な写真を撮るためにはある程度装備が必要になります。
コンデジもムービーならライト、写真ならライトとストロボが欲しいですね。被写体を上手く照らすことができれば素早くフォーカスが合いピントの合った写真が撮れる確率は高くなります。詳しくは私のフォトセミナーに参加して頂ければお教えします(笑)。

-かなり惜しみなくお教えいただきまして、ありがとうございました。今後もセミナーなどめじろ押しだと思いますが、写真展などはご予定はありますか?

佐野-今年の9~11月に東京の《永田町オーシャン》さんで写真展をさせて頂く予定です。まだ詳細は決まっていないのでわかり次第SNSでお伝えしたいと思っています。

-それは楽しみですね。マリンダイビングWebでもご紹介しますね! 益々のご活躍をお祈りしています。

佐野誠一郎
Seiichiro Sano

PROFILE
さの せいいちろう
水中写真家。1974年生まれ。大阪府在住。
2007年にダイビングを始める。2015年脱サラ後、本格的に水中写真の世界へ。カラフルな生き物に引かれコンパクトカメラを持ち始めた頃はウミウシに興味を持つ。
2016年春、一眼レフでの撮影を開始。パラオでオオテンハナゴイを撮影 したのをきっかけにハナダイの魅力に取りつかれる。 現在は世界各地のハナダイ・ハナゴイを中心に撮影している。
2020年、自身初となる『しあわせの咲く海へ』を出版。

公式サイト

佐野誠一郎

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