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感動の一瞬はこうして生まれた…… フォト派ダイバー必見!
水中写真家 作品探訪

魚や海の生態を撮らせたら超一流
数々の新発見で海に興味を持つ人たちを生み出した第一人者

大方洋二 Yoji Okata

大方洋二

「完成したミステリーサークル」
約6日間かけて作るミステリーサークルは産卵床。中央の円に筋模様ができると完成の証でとても美しい。完成直後のサークルを微調整するアマミホシゾラフグを入れて撮ってみました。
ニコンD80 10~17mmズーム ハウジング ネクサスD80 ストロボ同調
奄美大島 水深18m
2012年7月

アマミホシゾラフグの巣づくりを発見!
レンズをのぞく目には温かさもたっぷり

趣味はダイビングと水中撮影という
サラリーマンでした

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-大方さんが水中写真家になったきっかけを教えてください。

大方洋二さん(以下、大方)-20代後半(1968年ごろ)、会社勤めしながら趣味で水中と陸の写真を撮っていたため、漠然とプロになりたいと思っていました。72年にマリンダイビング水中写真コンテストが始まり、腕試しのつもりで出品し、入賞しました。以来13回連続入賞を果たし、自信が付きました。
また、80年野生動物専門誌『アニマ』の動物写真コンテストで「海水魚の生態・共生」と題した組写真を出品し、最優秀作に選ばれたことも、背中を押された感じでした。
アマチュア時代は都内のダイビングショップ内のクラブに所属し、伊豆半島を中心に撮影していました。クラブには16ミリ撮影機(ベルハウエル)とそのハウジングもあったので練習を積み、仕事としてできるように。ビデオカメラはまだなかった時代で、テレビのロケはフィルムの16ミリで撮影していました。
最も大きな仕事がTBSのセミドキュメンタリー番組『残された碧い海』で、ニューカレドニアロケの水中撮影を担当しました。写真のほうでは、観賞魚専門誌に貸すことになり、その後は「ダイバーから見た海水魚の生態」というコラムの連載を始めました。75年のことです。
この連載を見たマリンダイビング編集者から、『マリンダイビング』にもと依頼され、「ダイバーの見た魚の世界」を78年にスタートしました。
また、自然写真専門のフィルムライブラリーと契約し、少しずつプロへの道を目指しましたが、このまま趣味で楽しむのも悪くない、という気持も。というのも、会社の後輩たちと水中写真グループを作って次第に輪が広がり、仲間と活動するのがとても楽しかったのです。
ところが、会社の方針で担当部署縮小・人員削減に伴い、有休が取りにくい状況に。趣味を第一に考えてきたので、組織の中にいてはダメになると思い、81年、39歳のときに退職し、フリーの水中写真家になったのです。
不安定な職業に就くのは不安でしたが、好きなことをして足跡を残したい、という気持が勝ったのです。今考えると、きっかけは水中写真コンテストだったようです。

生物学者にもまだ知られていなかった
エビのクリーニングシーンを撮ったことで生態写真に目覚めた!

大方洋二

「エビのクリーニング」
赤根崎で見つけたピンクのスナイソギンチャク。そこに住むアカホシカクレエビにクリーニングを受けに、多くの小魚が集まってきます。大きなエビはクリーニングに熱心ではないのですが、写真映りがよいので、動くのをじっと待って狙いました。
ローライフレックス 75mm+クローズアップレンズ ハウジング ローライマリン ストロボ同調
赤根埼 水深20m
1979年9月

-大方さんが生態写真に目覚めたきっかけを教えてください。

大方-生態に目覚めたのは、マクロを撮るようになったからです。知人から憧れのローライマリン(ドイツ製の高級二眼レフ・ローライフレックス用のハウジング)を譲り受けたのが始まりです。まだマクロレンズがない時代で、ローライマリンは水中で接写レンズの操作可能な画期的な設計なのです。倍率は低いものの、適度な距離でアップが撮れるのです。
78年ごろ、熱海の少し先の赤根崎(現在ニューアカオホテルの所)によく行き、水深約20mのピンクのスナイソギンチャクがお気に入りになりました。大小アカホシカクレエビが数匹住んでいて、小魚がクリーニングを受けにやって来ます。それを狙っていて、思いどおりに撮れたときに達成感を覚えました。
何度も通い、次はどんな魚が来るか、とても楽しみでした。陸では共生を見ることはほとんどありませんが、海では素人でも簡単に見られることに驚きました。しかもこのエビがクリーニングをすることは、このころ甲殻類学者には知られていなかったそうです。これが生態写真に目覚めたきっかけです(その後、スナイソギンチャクに住むのはハクセンアカホシカクレエビという和名に変わっています)。

自分の名前がついている
ヨウジウオにも親しみを感じて…

-大方さんのメールアドレスってヨウジウオなんです。お名前からきているのだとは思うのですが、ヨウジウオの仲間の印象的な出来事があれば教えてください。

大方-同じ名前なので、親近感がある魚です。特に浮遊タイプのノコギリヨウジ、オイランヨウジなどが好きです。生態写真に目覚めたきっかけになった赤根崎で、ウツボのそばにノコギリヨウジがいたのです。もしかしたらクリーニングするかも、と思って粘っていたら、そのとおりになったのです。その当時、ノコギリヨウジがクリーニングすることはあまり知られていませんでした。そういったことも、ヨウジウオに親しみを感じるのだと思います。

小さな体で精巧で大きな巣をつくるフグに気づく
アマミホシゾラフグ誕生の撮影裏

大方洋二

「産卵するアマミホシゾラフグ」
産卵もぜひ撮りたいと思いました。これまで多くの魚種の繁殖を観察した経験から産卵は早朝と予測し、NHK取材班と6時前に潜りました。予想は当たり、お腹が膨らんだメスが来て中央に着底。するとオスが近寄り、尾ビレを振りながら産卵。その瞬間、オスは必ずメスの頬を噛みます。受精のタイミングを合わせるためでしょう。産卵は2~3秒で、メスは去り、しばらくするとまたメスが来ます。メスは複数いるものと思われますが、同じ個体も数回産卵するようです。
ニコンD80 105mmマクロ ハウジング ネクサスD80 ストロボ同調
奄美大島 水深20m
2012年7月

-大方さんといえば、アマミホシゾラフグをNHKを通じて発表された水中写真家ということでも知られています。あれだけの巣作りをどのようにして撮影されたのですか? 撮影のときに大変だったことがあれば教えてください。

大方-1995年ごろ、奄美南部の人気ポイントの嘉鉄(かてつ)で、ミステリーサークルが見られるようになりました。水深は約8mの砂地です。見られるのは6月で、形がはっきりしなかったため、関心を持つダイバーは多くありませんでした。その後数年は同ポイントの少し離れたところに出現しましたが、01年を最後に見られなくなりました。今考えると、形がはっきりしないのは、途中で作るのをやめたか使用済みだからで、見られなくなった理由は、ダイバーが増えたからでしょう。
2010年、別のポイント清水(せいすい)の水深25mの砂地でミステリーサークルが見つかりました。嘉鉄では浅いところでしたので、こんな深いところでも見られるのだ、と驚きました。翌11年5月、清水の砂地にまたミステリーサークルがあり、40~50m離れた場所にももう一つありました。全体を撮影しているとき、1匹のフグがサンゴのかけらをくわえてやって来ました。そしてサークルの中に落とし、サークルの溝に体を沈め、ヒレを動かして溝を掘り進んだのです。信じられない光景でしたが、冷静に写真を撮りました。小さなフグがこのサークルを作つているのであれば、大発見になると思い、もう一つのサークルも確認することにしました。たまたまとか、偶然かもしれないからです。数日後確認し、どのようにしてこの大発見を発表するか考えました。そしてNHKの自然番組のプロデューサーに連絡し、「ダーウィンが来た!」の取材が決まったのです。
12年6月、ロケスタート。知られていないフグの生態を明らかにするのは大変で、特に産卵・ふ化のタイミングを押さえることが大変でした。産卵はミステリーサークルが完成した翌朝、ふ化は産卵から5~6日後の日没ごろと予測しました。ふ化は1日ずれたものの、どちらも予想は的中し、撮ることができました。
後にこのフグは新種と判明し、14年に新種記載、和名はアマミホシゾラフグと付けられました。これほどきれいな産卵床を作る魚はいないこともあり、15年に世界の新種トップ10に選ばれ、世界中で話題になり、発見者としてはうれしい限りです。

スズメダイで唯一子どもの世話をする
スパイニークロミスに注目中

大方洋二

「スパイニークロミスの親子」
スズメダイ科で唯一稚魚を守るスパイニークロミス。守るといっても、ダイバーが近寄ると親のほうが隠れてしまいます。ゆえに親子をはっきり撮るのはかなり難しいので、わかるように狙いました。
ニコンD80 50mmマクロ ハウジング ネクサスD80 ストロボ同調
コモド諸島 水深10m
2009年9月

-最近はまっている生き物について、可能な限り教えてください。はまった生物、はまった理由、撮影の大変さなども教えていただければと存じます。

大方-最近ではなく以前からですが、スズメダイ科のスパイニークロミスという魚に注目しています。スズメダイ科は親が卵の世話をしますが、卵がふ化した時点で世話は終わります。ところが、スパイニークロミスだけはふ化後も親のそばで暮らします。これまでGBR(グレートバリアリーフ)やPNG(パプアニューギニア)、インドネシアなどで撮影しましたが、地域変異があるのもおもしろいです。今後は動画でこのスズメダイの生態を撮るつもりです。

2022年は写真展「海で逢いたい」で特別展や
英BBCの撮影コーディネーターを予定

大方洋二

-今後の目標、写真展、写真集、その他撮影活動の予定があれば教えてください。

大方-顧問をしている写真展「海で逢いたい」Vol.25が開催予定されています。
神戸展  2月24日(木)~3月1日(火) 会場 アートホール神戸
東京展  3月4日(金)~3月9日(水) 会場 O美術館

今回は出品数減少が見込まれるため、写真集『サンゴ礁の海 生きるための知恵くらべ』の中から20点抜粋して展示する、特別企画展も併せて行います。新型コロナ感染拡大によって延期の可能性が高いですが、万一終息した場合のことも考慮し、準備を進めています。
イギリスのBBCが「知能の高い生物たちとその生態、行動」をテーマに番組を制作中で、今年から2年かけて世界各国に取材するとのことです。その中に奄美のミステリーサークル&アマミホシゾラフグも入っているため、5月ごろ取材に来ることになっています。その際、コーディネーターとしてロケに参加する予定です。

-楽しいお話をありがとうございました。楽しみがまた増えますね♪

大方洋二
Yoji Okata

PROFILE
おおかた ようじ
1942年、東京生まれ
1963年(21歳)にスクーバの講習を受け、同時に水中写真を独学で始める。以後、趣味で続け、39歳でフリーの水中写真家になり、現在に至る。
主に沖縄や奄美、インドネシアなどで魚類の生態を中心に撮影活動をしているほか、NHKの動物番組のコーディネーターも務める。
主な著書に『海水魚ガイドブック』(永岡書店)、『クマノミとサンゴの海の魚たち』(岩崎書店)、『奄美 生命の鼓動』(講談社)、『サンゴ礁の海 生きるための知恵くらべ』(岩崎書店)など多数。
ブログ「大方洋二の魚って不思議!」

大方洋二

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