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1枚の戦場写真が人生を拓いた!

岡田裕介 Yusuke Okada

岡田裕介

トンガのザトウクジラ
トンガで撮影した親子のザトウクジラとエスコート。
ゆっくりと移動する親子を撮影していたらその奥でエスコートがブリーチングして海へ飛び込んできた。
撮影機材
NIKON D800E 18-35mm
撮影データ
1/350秒 f/6.7 ISO560

実際に体験して初めて学べる、を信条に
巨大なクジラやイルカと出会い、感動を写真に表現

フリーランスのフォトグラファーとしてスタート
パラオで体験ダイビングをしたら海にハマって……

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-岡田さんがカメラマンになったいきさつを教えてください。

岡田裕介さん(以下、岡田)-写真に興味を持ったきっかけは高校の修学旅行で中国に行った際に見た、1枚の戦場写真です。ラグビーに夢中だったスポーツ少年がその衝撃に足を止め見入ってしまった。その時写真の持つ力を初めて知り、写真の影響力を実感したことでカメラマンという職業に憧れを抱き始めました。大学生時代はカメラを持ってアジアや国内へ旅に出る生活を繰り返し、その後は写真の専門学校、広告カメラマンのアシスタントを経て独立し、雑誌など中心に活動していました。自然写真を始めたのは26〜27歳の頃です。

-フリーランスフォトグラファーとして独立した際、石垣島やオアフ島などに移住されたそうですが、まず石垣島に行かれた理由、そしてハワイのオアフ島を選んだ理由を教えてください。

岡田-石垣島への移住はダイビングスキル向上と水中写真の修行が目的でした。川平に当時あったブレニーダイビングサービスの松村知彦さんにお世話になり、とにかく毎日海に潜って写真を撮りまくっていました。毎日のように「川平石崎マンタスクランブル」に行っていたので、その年、マンタスクランブルで一番シャッターを切ったのは僕だと自負しています(笑)。海のない埼玉県で生まれ育ったので、海が目の前にある環境で暮らせたのは本当に幸せでした。
しばらくすると撮影の仕事が徐々に入るようになり、出張が多くなったので利便性を考えて東京に拠点を移しました。
ハワイへの移住は、とにかくハワイが大好きだったのでいつか住んでみたいという夢を叶えるための移住でした。ハワイはあの空気感、海にはイルカもクジラもいて、同時に山も楽しめるところが魅力的ですね。

ただ実際にいろいろな場所に住んでみて気がついたのは、自分がひとつの場所に長く住むのに向かない人間だということです。慣れてくると、あの美しい石垣島の川平湾を眺めながらアラスカに行きたいと思っている自分には呆れましたし(笑)。
自分が移動し続けることが好きな人間だということを知る、良い経験になったと思います。実際に経験したことでしか、本当の意味で学べないのが人間だと思っているので……。

-ダイビングを始めたのはどの時点だったんですか?

岡田-初めてのダイビングは旅をしている当時、パラオでの体験ダイビングでした。残念ながら天候がいまいちで薄暗い大雨の中のダイビングだったのですが、水中から空を見上げた時に水面に突き刺さる雨に魅せられて。水中に広がる、今まで見たことのない新しい景色に惹かれて後日すぐに、講習を受けてCカードを取得しました。それとほぼ同時期にハウジングを購入して水中写真を始めたのですが、もうすべてが新鮮で楽しくて楽しくて……。ギンガメアジのトルネードとか、あんな世界を見たらもう戻れないですよね。
あと忘れられないのがカミソリウオを初めて見た時のこと。ガイドさんが指示棒で教えてくれたのですが葉っぱにしか見えなくて。目を凝らして見たら目が付いていて。こんな生き物が地球上にいること自体に衝撃を受けたのを覚えています。
とにかく水中で生物と対峙してシャッターを切ることが心底楽しかったので、これを職業にしたいと強く思いました。

日常の中でも、偉大な彼らの姿を思い出すと満たされる

岡田裕介

バハマのイルカ
日没寸前、水平線ギリギリの低い位置からの太陽光と、イルカの親子のシルエット。
バハマでカリビアンブルーの海に囲まれて船上生活をしながら、ひたすらイルカを探す至福の時間。
撮影機材
NIKON D800E 18-35mm
撮影データ
1/350秒 f/11 ISO400

-その後、岡田さんはイルカやクジラに魅せられていきましたね。

岡田-イルカとの出会いは友人に誘われた御蔵島でした。初めてのスイムで運良く並泳しながら目が合うという経験をして一気に恋に落ちてしまい、すぐにイルカで有名なバハマへと向かいました。
ザトウクジラに興味を持ったきっかけは、東京都写真美術館で行われた中村征夫さんの写真展で、モノクロの等身大のザトウクジラの写真を見たことです。こんなにも大きな生き物を水中で間近に見てみたい!と強く思いました。
ザトウクジラに初めて会った時はとにかくあの大きさに圧倒されました。その後7年連続で南半球の冬の時期にトンガへ通っているのですが、毎年初日に「デカい!」と新鮮に驚きます(笑)。何度遭遇しても、バスのような大きさの生き物が海中を泳いでいる姿には慣れることはありませんね。

-イルカ・クジラ撮影で、人生に影響を与えたことはありますか?

岡田-彼らの生きる世界にお邪魔して、一緒に過ごした時間は確実に僕の心を豊かにしてくれました。
イルカと目を合わせながら一緒に泳ぐ時の胸の高揚感や、巨大なクジラを目の当たりにした時に感じた圧倒的な存在への敬畏。日常の中でも、今も海で生きている彼らの姿を想像するだけで心が満たされ幸せな気持ちになれます。

想いをふんだんに込めた写真集を発売

-また、2年前に写真集『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of blue-』を自家出版されましたが、どんな思いで写真を選び、制作されたのですか? そしてその写真集に込めた思いはどんなものだったのですか?

岡田-写真集制作のきっかけはコロナ禍でほぼすべての撮影仕事がストップしてしまったことです。非常事態宣言の中、体力を落とさないようにと自宅の裏山を歩いている時に、“イルカとクジラの写真集を作ろう!”と思い浮かびました。何年もかけて膨大な量を撮り溜めていたので、有り余る時間がある今がチャンスだなと。
ご時世的に出版社に営業にいくのも難しく、また隅々までこだわりを詰め込んだ1冊を作ってみたいという思いもあり自費出版を選択しました。
10年弱をかけて撮り溜めていた写真を全て見直しながら、海に思いを馳せる毎日は先の見えないコロナ禍の生活の中での希望でもありました。また写真集の完成に合わせて開催した写真展では、コロナ禍という異常な状態の中で生きている人たち、特に旅行に行くことも好きなことをすることもままならない医療従事者をはじめ、エッセンシャルワーカーの方々に喜んでもらえてことが強く印象に残っています。

-そしてこのたびまたニュースがあるようですね。

岡田-このイルカとクジラの写真集『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of blue-』は、発売から1年で完売してしまったのですが、ありがたいことに再販の希望を多数いただいたこともあり、2022年9月15日に第2刷を再販します。また同日から9月25日まで神奈川県茅ヶ崎市のギャラリー「CREATIVE SPACE HAYASHI」にて写真展を開催します。

-それはおめでとうございます!
写真集はクジラやイルカのスケールの大きさを感じさせる印刷で、ページをめくるたびにドキドキしますよね。ハードカバーでとてもセンスのいいデザインですので、手元に置いておきたい一冊です。

写真集『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of blue-』

写真集『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of blue-』
2022年9月15日に再販 A4変型判 96ページ 税込価格5,500円
オンラインストアで販売
https://yusukeokada.stores.jp/
なお、写真展情報はこちら
http://www.cs-hayashi.com/

自然の写真を撮る一方で、アーティストのライブ撮影も

岡田裕介

前日に、マナティの周りに魚が集まる写真のような現象になっていることを遠くで見ていたので、この日は1日中このマナティを観察し続け、光の方角やタイミングを見てシュノーケルで潜り撮影した。
2009年にNational Geographic International Photography Contestで奨励賞を受賞
撮影機材
NIKON D300 12-24mm
撮影データ
1/90秒 f/5.6 ISO800

-ところで、岡田さん、普段はどのようなスタイルでお仕事をされているのですか?

岡田-コロナ前は写真展や写真集に向けた作品撮りを基本に、トンガでのホエールスイムツアーなどのお手伝いをしり、自然以外ではアーティストのライブ撮影などをしています。自然写真とライブ写真を並行して行っている写真家は他にいないとは思うのですが、僕にとってはとても自然なことなんです。
基本的に自然写真では太陽光、コンサート写真では照明光、共に自分が制御できない光の中、被写体の動きを読みながら、カメラを持つ自分も動きながら「良い」と思った瞬間を切り取る。行っている作業は同じなんです。
その中で大きな違いは音の有無です。
例えば過去には1カ月間トンガでクジラの撮影をした後に、そのままアーティストのヨーロッパツアーに同行したこともありました。水中の無音に近い環境からのコンサート会場での爆音の世界に入ると慣れるまで圧倒されてフワフワした不思議な感じになりました。
非日常の世界を行ったり来たりする生活はとても刺激的で、相乗効果で表現の幅も広がると思っています。

-水中写真家さんや自然写真家さんの中でもかなり特異ですね。でも人生が楽しそう。今後の夢もぜひお聞きしたいです。

岡田-今後の夢は自分のギャラリーを持ち、写真プリントや写真集などの作品を販売する拠点を持つことです。どんなにデジタル社会になっても、好きな写真プリントを部屋に飾って日常を過ごすこと、お気に入りの写真集を枕元に置いて一日の終わりに写真を見て穏やかな気持ちになること、目や手を使って味わうアナログな感覚は無くならないと思います。
そのための作品を撮り続けながら、一瞬を切り取る「写真」にこだわって生きていけたら幸せですね。

-ありがとうございました。ますますのご活躍を期待しています!

岡田裕介
Yusuke Okada

PROFILE
おかだ ゆうすけ
埼玉県生まれ。
2003年より、フリーランスフォトグラファーとして独立。沖縄・石垣島、ハワイ・オアフ島への移住を経て、現在は神奈川県の三浦半島を拠点に活動中。
水中でバハマやハワイのイルカ、トンガのザトウクジラ、フロリダのマナティなどの大型海洋ほ乳類、陸上で北極海のシロクマ、フォークランド諸島のペンギンなど海辺の生物をテーマに活動。
2009年National Geographicでの受賞を機に世界に向けて写真を発表し、受賞作のマナティの写真は世界各国の書籍や教育教材など表紙を飾る。温泉に入るニホンザルの写真はアメリカ・ スミソニアン自然博物館に展示。国内でも銀座ソニーアクアリウムのメインビジュアルをはじめ企業の広告やカレンダーなどを撮影。
またミュージシャンのライブ撮影も行い、雑誌、WEB、広告などに作品を発表している。

岡田裕介

◆著書
写真集『KOTARO』(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)
写真集『Penguin Being -今日もペンギン』(玄光社)
写真集『これが君の声 青の歌-Sound of echo, Song of blue-』(私家版)
写真集『その背中を風が撫でて-Horses in the wind-』(私家版)

◆個展
2019年~2020年「Colors-ペンギン島の物語-」富士フイルムフォトサロン全国5都市巡回展
2020年3月「Colors-ペンギン島の物語-」京都写真美術館
2020年9月~11月「これが君の声 青の歌 -Sound of echo, Song of blue」東京・京都・名古屋
2021年3月~6月 長崎ペンギン水族館開館20周年記念企画「Colors-ペンギン島の物語-」
2021年10月~11月「その背中を風が撫でて-Horses in the wind-」東京・京都

公式ホームページ

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