「マリンダイビング」2018年2月号
『マリンダイビング』2月号連動企画
国際サンゴ礁年2018スタート!
サンゴ礁を守る中性浮力10
今やサンゴが石でも岩でもなく生き物であることは誰もが知っていること。
けれど、実際に海中で見るとやっぱり石や岩に見えなくもないため、
ダイバーの中にはまだ平気で触ったりつかんだりしている人もいる。
また、生き物だと知ってはいても、浮力コントロールができずにサンゴに墜落!なんてことも。
地球上に酸素を生み出してくれるといわれるサンゴ礁を、私たちダイバーが傷つけることのないよう、
中性浮力をとることは「絶対スキル」なのだ。
2018年は国際サンゴ礁年
サンゴ礁の貴重なことを
再認識できる一年
2008年に第2回国際サンゴ礁年が実施されて10年。
サンゴ礁生態系保全の国際協力の枠組、国際サンゴ礁イニシアチブ(ICRI)が2018年を3回目の「国際サンゴ礁年」(IYOR:International Year of the Reef)に指定した。
それにともない、日本では環境省自然環境局が中心となって「つながる、広がる、支えあう」をキャッチフレーズに、国内でのサンゴ礁保全キャンペーンをバックアップしていくもので、
具体的には、国際サンゴ礁年2018活動登録制度、国際サンゴ礁年2018オフィシャルサポーター制度を実施。
1月28日(日)には「国際サンゴ礁年2018オープニングシンポジウム」を開催。
琉球大学名誉教授・土屋誠氏による特別講演「サンゴ礁生態系と共生する社会の実現」をはじめ、アンバサダー任命式、さかなクン&土屋名誉教授のトークショーなどが開催される。
またこのとき事前登録される「国際サンゴ礁年オフィシャルサポーター」の任命式も実施予定。
『マリンダイビング』もオフィシャルサポーターに登録予定だ。
ということで、2018年はマリンダイビングWebや月刊『マリンダイビング』ほかさまざまなメディアでサンゴ礁の現状や保護について訴える機会も増えるはず。
皆さんも、サンゴ礁の、海の、地球環境の保全について考えてみる機会にしていただけたらと思う。
サンゴは生き物
見た目ですぐわかるサンゴと
石や岩みたいなサンゴ
ブリーフィングなどで「着底したり、流れがある時は石などをつかんでもいいですが、サンゴや生き物には触れないようにしてください」といったことを言われることがある。
「わかった、わかった」と聞いていても、実際に流れがあって、どこかにつかまらなければならなくなった時にとっさに判断できるだろうか?
サンゴなのか、岩なのか、わかるだろうか?
エダサンゴという通称で語られるミドリイシの仲間はサンゴ礁をつくるハードコーラルとして有名
サンゴは世界に約800もの種類があり、沖縄だけでも約半分に当たる380種以上が生息しているといわれる。
大きく分けて、骨格を持つハードコーラル、骨格を持たないソフトコーラルがあり、
見かけはかなり異なる。
ソフトコーラルはいわゆるサンゴのイメージがないものの、ポリプが開いているとお花のようで、岩や石には見えないかもしれないが、
ハードコーラルはポリプが閉じていると、本当に岩や石のように見えることがあるので注意が必要だ。
特にコブハマサンゴなどは間違えやすい。でも、よく見るとソフトコーラルのように小さなポリプがあり、生物だということがわかるはず。
流れが激しい時などは、「自分の命のほうが大切」と思ってしまうかもしれないけれど、
地球上の生き物を守るためには、自分にも厳しくありたいもの。
そのためにも、スキルを上達させる必要がある。
ソフトコーラルの代表、ヤギの仲間
ソフトコーラルもハードコーラルもポリプが集まった集合体。デニスピグミーシーホースが生息しているヤギの仲間も、お花のようにポリプを開いている
コブシメの周りにあるものは岩ではなく、ハマサンゴの仲間や、海底を覆っているたぶんコモンサンゴ類。れっきとした生き物だ
サンゴ礁を守る絶対スキル
中性浮力
1 適正ウエイト
水の中で、浮きもせず沈みもしない、ふんわりと浮かんだ状態であることを「中性浮力」という。
普通の陸上世界ではあり得ない、無重力を感じられるダイバーならではの醍醐味だ。
この中性浮力を決めるには、身につけるウエイト量が大きく左右。
自分の適正ウエイトを知っておくことが、中性浮力をとるための第一歩だ。
BCのエアを抜いた状態で水面に直立状態で浮かび、水面が目線にくるぐらいが一番ぴったりなウエイト量だ
BCのエアを抜いた状態で水面に直立状態で浮かび、水面が目線にくるぐらいが一番ぴったりなウエイト量だ
2 ウエイトバランス
通常、鉛のウエイト玉はウエイトベルトに通して身に着ける。
ウエイト玉のバランスが左右非対称だと、水中でのバランスがとりにくくなるので注意が必要。
また、ウエイト玉は体の前に多めにつけると、水平姿勢をとるときにラクチンだ。
ウエイト玉のバランスが悪いと、中性浮力もとりにくくなる
3 臨機応変なウエイト量
「自分の適正ウエイトを知る」ことが大切ではあるけれど、
ウエットスーツのときとドライスーツのときではウエイト量は異なるし、
ドライスーツもインナーの量によってウエイト量は違ってくる。
タンクにはアルミニウムとスチール(写真)の2種類があるけれど スチールのほうが質量が重いため、ウエイトはアルミタンクを使用するときより1~2kg軽くすること
タンクにはアルミニウムとスチール(写真)の2種類があるけれど スチールのほうが質量が重いため、ウエイトはアルミタンクを使用するときより1~2kg軽くすること
4 適切なBC給排気
水中で「あ~浮く~!!」「きゃー、沈む~!!」というような状態になったとき、またはなりそうなときは、BC内の空気の出し入れ(給排気)をすぐに行なえば大丈夫。
自分のBCのインフレーターにある給気ボタン、排気ボタンの位置をしっかり押さえ、
浮き沈みにもすぐさま対処できるようにしておこう。
インフレーターの給排気ボタン。排気するときはできるだけホースを上に上げるのがコツ
5 潜降スピードのコントロール
ダイバーがエダサンゴをポキッと折ってしまうような、サンゴを傷つける行為の最も大きな原因は中性浮力がとれていないこと。
中でも初心者にありがちなのが、海底にサンゴの群落が広がっているのに、潜降のスピードコントロールができずにドスンと落ちてしまい、サンゴを傷つけるという失敗。
最近はダイビングサービス側ではそうしたことのないよう、潜降ポイントの真下にサンゴ礁がないように気を配ったり、ブイやアンカーロープを使ってフリー潜降をさせないようにしたりと工夫を凝らしてはいるけれど、そうでない場合もあるかもしれない。
フリー潜降の場合は、特にウエイトを重くしすぎないようにして、潜降スピードをコントロールできるようにしておこう。
お尻から落ちるような潜降スタイルも、サンゴを傷つける大きな原因に。直立姿勢からやや前かがみになるようなスタイルがベスト
6 肺のトリミング
BCの給排気をするほどではなく水深を上げたり下げたりしたい場合は、
肺の空気を出し入れする(トリミング)ことで、中性浮力の微調整ができるようになりたい。
BCの給排気も同様だが、肺の中の空気を出し入れする場合も、
実際に浮いたり沈んだりするのにややタイムラグが起きるので、浮かない、沈まない、といって焦らないこと。
ちょっと浮き気味だなと感じたら、息を吐いてみる。2秒後ぐらいに体は沈むはず。 普段のダイビング中、少し練習してみるといいだろう
7 海底付近でのバランスコントロール
7 海底付近でのバランスコントロール
サンゴを傷つけるダイバーの悪い行ないのうちで、最大なのがコレかもしれない。
海底にサンゴ礁が広がっているにもかかわらず、バランスがとれず、全身または下半身、上半身がサンゴに接触してしまい、エダサンゴなどをバキバキ折ってしまったり、
知らないうちにフィンでサンゴを蹴り上げていたり……。
中性浮力が苦手という方は特に、マスターできるまでは海底を泳ぐときは、ギリギリスレスレで泳ぐのではなく、2m以上(自分の身長以上)は、高いところを泳ぐようにしよう。
そうすれば、たとえ墜落しそうになっても、まだサンゴに届くことなく、リカバリーできるはずだ。
こちらのキャベツのようなものもサンゴの仲間(リュウキュウキッカサンゴ。キャベツサンゴなどと呼ばれる)なのだが、こうしたサンゴの群落の上では、ある程度離れて泳ぐようにしたい
こちらのキャベツのようなものもサンゴの仲間(リュウキュウキッカサンゴ。キャベツサンゴなどと呼ばれる)なのだが、こうしたサンゴの群落の上では、ある程度離れて泳ぐようにしたい
8 サンゴを蹴らないフィンワーク
同じように、サンゴの群落の上を泳ぐときには、フィン先まで気を配ることが大切。
自分はある程度上を泳いでいるつもりでも、足先はサンゴを蹴っている可能性が大だからだ。
また、サンゴ礁の上を泳ぐときはとっても気をつけているのに、
横を通るときはまったく気づいていないダイバーをたまに見かける。
サンゴは海底や根の上に生息しているだけではなく、ドロップオフの壁や根の壁にも生息している。そしてその他の生物(カイメンや海藻など)もたくさんいる。
自分の体の範囲は、陸上で見える範囲とは異なって見えるのが水中世界。
ちょっとした体の動きで、知らぬ間にサンゴやほかの生き物を蹴ってしまっているかもしれない。
周囲に何かがある場合は、くれぐれもご注意を。
ドロップオフで枝を広げるように広がっているヤギの仲間(オオイソバナなど)もサンゴの仲間。 泳ぐときは蹴ったりぶつかったりしないように気をつけて
9 砂地でのフィンワーク
砂地ならサンゴじゃないから大丈夫。
そんなふうに思っている方がいたら、今すぐ考えを改めてほしい。
というのも、砂地にサンゴは生息していないかもしれないが、潜んでいる生物がいるので、蹴り上げてしまうことで、その生物の生命を脅かすことになるし、
実は舞い上がった砂粒が、周囲にあるサンゴに乗ってしまい、サンゴを窒息させてしまう可能性もあるからだ。
よく砂を巻き上げるダイバーを“煙幕ダイバー”などと言うが、
本人はまったく気づいていないことが多い。
砂地を泳ぐときは、時々振り返って自分がフィンで砂を巻き上げていないかどうか、確認することも大事。
もし蹴り上げて、砂が巻き上がっていたら、海底からの高さを上げて泳ぐこと!
砂地を泳ぐときのフィンワークはフィンをアップダウンする泳ぎ方ではなく、 あおり足、しかもやや足を上に上げた感じで泳ぐようにするといいだろう
10 ブラブラ禁止!
自分の体や手足は大丈夫だとしても、ダイビング器材でサンゴを傷つけてしまうこともある。
特に注意すべきはゲージ類とオクトパス。ホースが長いので、そのままの状態にしておくと、海底をガガガッと引きずりながら泳いでいる可能性もある。
ゲージとオクトパスはホルダーなどに留めて、ダイビング中ブラブラさせないのがポイントだ。
これはオクトパスもゲージもホルダーに留めていないので悪い例。
ホルダーがない場合は、オクトパスをBCのカマーベルトのところにあるベルトに挟み、ゲージはBCの左脇から胸の下に通すような感じにすると、ブラブラは防げるし、ゲージの画面を見たいときに胸元で見られて便利だ
普段のダイビングから
スキルアップはできる
中性浮力をとる! という
意識を持つことが大事
「ワタシ、1000本潜ってます」
という方が、見るも無残なスキルやマナーだったりすることがある。
その一方で、まだ10本も潜っていない超初心者ダイバーがしっかり中性浮力がとれて、カッコよく潜れている場合もある。
要は、「中性浮力をとりたい、スキルアップしたい」という意識を持っているかどうかの問題だと思われる。
普段、普通にファンダイブをしているときも、中性浮力がとれるようにBCの給排気をこまめにしたり、肺のトリミングをしたりして練習したり、海底に近づきそうになったら、肺のトリミングだけで浮上してみようとか、フィンワークを中層のときと、海底近くを泳ぐときと、変えてみたりとか、自分にテーマを課して、ダイビングをしてみるのも手。
ウエイトも少し軽いなと感じたら、500gとか1kg増やしてみるなど、ちょっとした微調整をいろいろやってみていただきたい。
2018年は、サンゴ礁にやさしい、中性浮力のできるダイバーになろう!