プロが語る魅力と今後への期待
ダイビングギアメーカー
《スキューバプロ(SCUBAPRO)》
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ダイバーに人気のGULLブランドなどを取り扱う株式会社キヌガワが、2024年よりダイビング総合器材メーカーであるスキューバプロ(SCUBAPRO)の日本国内正規総代理店に。今後の展開が期待される中、以前よりスキューバプロ製品を愛用する3名のプロダイバーの皆さんに、スキューバプロ製品の魅力と今後への期待について語っていただきました。
※2024年5月に取材したものです。
スキューバプロ(SCUBAPRO)とは
1963年にロサンゼルス・グラナダで誕生したスクーバダイビング総合器材メーカー。US NAVY特殊部隊出身者であるディック・ボーニンとグスタフ・ダラバレの2名が、先行きの見通せない「SCUBAPRO」ブランドを1ドルで購入したところから、そのサクセスストーリーは始まりました。MK2スタンダードピストンレギュレーターを皮切りに、JET FIN、MK5バランスピストンレギュレーター、自動減圧計、スタビライジングジャケット(通称スタビ)などを次々と開発し、スクーバダイビング器材メーカーとして不動の地位を築いています。
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今回お話をうかがった皆さん
■傍島 浩史さん
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株式会社キヌガワ
国内営業部所属、SCUBAPRO担当。長年スキューバプロ器材を愛用しており、Dシリーズセカンドステージとスタビが最高であると言い切る。全国のダイビングショップにスキューバプロ器材でつながった知人も多い。今回の3名のプロインストラクターも長年の知人。
■魚地 司郎さん
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かっちゃまダイビングサービス代表
ダイビング暦50年、内房でダイビングショップを経て現在は稼働率90%を誇るかっちゃまダイビングサービスで現役ガイドとして活躍。初めての器材はもちろんスキューバプロ、現在もスキューバプロを愛用。長年オーバーホールも行っており、古いタイプのレギュレーターもお手のもの。スタビライジングジャケットやレギュレーターはデザイン変更があるものの、製品の本質は変わらず、スキューバプロのイメージ一新を期待している。
■仲榮眞 充さん
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赤沢ダイビングセンター代表
ダイビング歴23年、ダイビング器材販売店勤務経験があり、スタビを中心に数多くのお客様に販売してきた。そのセールストークは自身の使用経験から得たもので、水面、水中での浮力バランスに始まり、とても深くその他のスキューバプロ製品知識もピカイチ。2021年6月から赤沢ダイビングセンターをリニューアルオープンさせ、愛用のスキューバプロ器材と共に日々赤沢の海を潜り込んでお客様をご案内しています!そのガイディングはスタビとともに冴え渡り、質実剛健のガイディングは続く。
■矢部 拡さん
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エムズダイビングアドベンチャー代表
エムズダイビングアドベンチャー東京と西船橋の都市型ショップを経営する傍ら、業界初の8Kシネマ撮影をトータルコーディネートする、エムズアンダーウォータープロダクションズを運営。15年以上、都内専門学校にてインストラクター養成を担当し、DANジャパンにてトレーニングディレクターとして、指導団体の垣根を越えてインストラクター開発者の指導、試験を行う。単純にそのかっこよさからスキューバプロの器材を長年愛用し、「本質」を教えられるインストラクター育成に励む。スキューバプロ器材の「こだわり」を大切にしたブランド展開に期待している。
かつてダイビングシーンで一世を風靡したスキューバプロの現在地
今年(2024年)から株式会社キヌガワが日本総代理店としてスキューバプロ製品を取り扱うこととなりました。かつてのダイビングシーンでは一世を風靡したスキューバプロですが、今の若い世代だとスキューバプロを知らない人が増えてきている気がします。現場でもスキューバプロを知らないという声は結構あるのでしょうか?

和気藹々とした雰囲気で座談会がスタート
仲榮眞 「スキューバプロって何?」という声は、今は普通に聞きますね。うちのスタッフは僕が愛用しているので知っていますが、業界の中でも知らない人が多く、名前は知っていても何がいい良いかとかはわからない。ロゴのイメージが強いので「なんか見たことはあるけれど知らない」といった感じになっています。
傍島 先日、とあるディーラーが担当しているインカレの学生さん70人に来てもらって器材の試着会をやったのですが、これから講習を受ける人や始めて1年くらいの人は、GULLも知らないですからね。矢部さんのところはIDCをはじめ様々なコースを開催して、若いお客様も多いと思うのですが、スキューバプロについてはどうですか?
矢部 僕は日本のダイビングにどんな歴史があって今があるのかを知ることは、未来を考えるうえでも大切だと思っているので、授業のときにダイビングのヒストリーを若い人たちに紹介しています。その中で、スキューバプロは、例えば映画『彼女が水着にきがえたら』で主役の織田裕二が使っていたとか、横浜にオフィスを構えていたとか、日本の総代理店がどのように変わってきたのかなど多少は触れているので、僕がインストラクター開発コースを担当した人たちは、一応知っていると思います。ただ、スキューバプロの器材を使ったことがあるかといえば、使ったことがない人がほとんどで、器材について詳しく説明できる人はまずいないのではないでしょうか。
魚地 確かに年配のダイバーはスキューバプロのことを知っているけれど、若い人たちは知らないですね。それと、うちにパーツがたくさんあることを教えてあげると、「どこに連絡していいかわからなくて困っていた」という話をよく聞きます。「昔お父さんがスキューバプロの器材を使っていたので、それをオーバーホールしたい」といったリクエストもありますが、そういったこと以外で若い人からスキューバプロの名前を聞くことはほとんどありませんね。
傍島 ただ昔から、自分が使っている器材のメーカーを認識している人はあまり多くなかったですよね。かつてスキューバプロの製品を使っていた人たちが、製品の良さで使っていたのか、映画で織田裕二が使っていたからなのか(笑)、今でも自分が使っている製品についてきちんと説明できる人は少ないのではないでしょうか。
矢部 ですので今回、キヌガワさんがスキューバプロを取り扱うということで、「スキューバプロが好き」というファンを増やしてほしいと思っています。僕の中では、スキューバプロの製品は値段が高くて上級者向け、でも一生保証がついていて信頼性が高いというイメージでした。そのイメージでダイバーの皆さんから支持を集めていたと思うのですが、それがだんだん薄れてきてしまって、今に至るのだと思います。改めてスキューバプロ製品の価値をしっかりとダイバーの皆さんにPRして、ファンを増やしていってほしいですね。
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スキューバプロへの期待を語る矢部さん
水中をより快適に&安全にするスキューバプロ製品の魅力
矢部 ただ最近の若いダイバーに感じるのは、物への依存度がとても低いということ。僕らより上の世代では、趣味にお金をかけるのは普通で、知識を深く持つことに喜びを感じていましたが、今はそうではないんですね。そんな中でも、うちは都市型ショップなので、教えるということと器材を販売するということがリンクしてきますので、いかに製品の価値が伝わるか、価値を持った製品であるかが重要だと思っています。
傍島 確かに、理由がないものは売れないですよね。たとえばGULLでも、フィンのバラクーダのように、その海域に適していると認められたものや、ダイバーがステップアップして欲しいと思うようなものは人気があります。スキューバプロ製品も、それを使って潜ると楽しい、より潜りやすいと思ってもらえるようなものにならなければいけないですね。
魚地 そう考えると、やっぱりスキューバプロ製品の中ではBCのスタビ(スタビライジングジャケット)の存在が大きいですよね。BC内部の肩のところまでエアが回る分、水中での安定感が抜群です。私はジャストフィットで潜りたいので、ドライスーツ用とウエットスーツ用で2着のスタビを持っていましたが、「スタビ以外は使いたくない」というくらい、愛用してきました。
仲榮眞 そうですね、中性浮力をとるのが苦手な人が使うと、すごく浮力コントロールをしやすく感じると思います。バランスよくBC全体に空気が回り込むので、安定した姿勢で中性浮力が取りやすいのは大きなメリットですね。あとは、BCに余計なものがついていなくて、スッキリしているのも僕は気に入っています。抵抗になる部分が少ないので、潜降や水中の移動なども楽なんじゃないですかね。
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仲榮眞さん自身も含め、赤沢ダイビングセンターではスタッフ全員がスキューバプロのスタビを着用している
魚地 それとよくレスキュー講習に際して、スタビはBC脱着がしにくいからダメ、なんて声もありますが、そんなことないんですよ。エアを抜いて、肩を上げてから外してあげれば、スポーンと簡単に脱がすことができて、バックルを外すタイプよりも格段に早いです。そんなことも知ってもらえると、スタビももっと普及するのではないでしょうか。
矢部 僕もIDCの講師をしていて、それはすごく感じますね。他のショップで教わった人を見ると「型」を教わっているだけで「本質」を教わっていない。レスキュー講習でのBC脱着についても、どんな状況でも脱がせるようになることが大切なのに、いかに楽に脱がせることができるかの「型」を用意することを重視してしまっている気がします。やっぱり柔軟性を持つことが大事ですし、インストラクターがそれを指導できなければいけないのではないでしょうか。そういった状況に一石を投じる意味でも、スキューバプロのスタビは貴重な存在だと思います。「こういう場合はこんな工夫ができる」といったノウハウをスキューバプロが広く発信していくことも必要かもしれませんね。

スタビについて熱く語る矢部さん、仲榮眞さん、魚地さん
魚地 私は講習をすることはほとんどないのですが、ゲストから「間違っていますよ」と指摘されることがあって、以前に「スタビを着ている人はBCが脱がせにくいので、いざというときに助けなくていいとインストラクターに言われました」と言われたことがあります。スキューバプロファンの私としては、すごく腹立たしかったですね。
仲榮眞 「型」といえば、バックアップ空気源についてもそうですよね。僕は基本的にスタビ+AIR2を使っているのですが、講習でバックアップ空気源を使う練習ではオクトパスが一般的です。でも緊急時にオクトパスを落ち着いて渡すなんて、相当余裕がないとできないと思うんです。相手に自分がくわえているレギュレーターを渡す方がよっぽど早いし、それからすぐ近くにあるAIR2をくわえるのが一番合理的ではないかなと。オクトパスがダメだと言っているのではなくて、いろいろな選択肢があることをもっと知ることが大事なのではないかと思います。
矢部 そういうのをスキューバプロにはバンバンSNSやYouTubeなどで出してほしいですよね。炎上覚悟で(笑)。何かのやり方を否定するのではなく、「こうしたらもっと便利じゃないですか?」というような感じで、ダイバーの皆さんに気づきを与え、その中でスキューバプロ製品の良さを伝えることで、ファンは増えていくのではないかと思います。
ピックアップモデル
CLASSIC ADVENTURE 2
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スタビライジングジャケットの原型モデルであり、国内外で多くのベテランダイバーやインストラクターにも支持されているBC。丈夫な420デニールダブルネオプレーンコーティング生地を採用し、摩擦などのダメージに対して高い強度を誇ります。水中/水面での浮力バランスに優れており、ルーズフィットタイプで締め付けもないため、ストレスフリーに使用できるのも特徴。左胸に配置された蛇腹ホースは、水中で容易にインフレーター/AIR2を探すことができるのでとても便利です。
皆さんにスタビに対する熱い想いをうかがうことができましたが、他の器材、たとえばレギュレーターについてはどうでしょうか?
傍島 実は正直な話、スキューバプロはレギュレーターについてはあまりモデルチェンジをしていないのですが、大きな特徴としてはピストンタイプということですね。他のメーカーはダイアフラムタイプが多いのですが、スキューバプロのほとんどのレギュレーターは深度や残圧に関係なくエアを安定供給し、メンテナンスもしやすいピストンタイプを採用しています。
魚地 私が好きなのはピストンタイプですね。自分が欲しいぶんだけエアが出てきて、自然な呼吸ができるのがいいですね。セカンドステージの呼吸抵抗を少し軽めに設定すれば、本当に呼吸が楽です。よく、エアの消費が速い人に対して、流量を絞るように指示するインストラクターがいるのですが、これは逆だと思います。シェイクとジュースのようなものですね。シェイクをずっと飲み続けるのは大変じゃないですか。軽くした方が逆にエアの持ちは良くなるんだよと私は教えています。
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ピストンタイプならではの吸い心地のよさを語る魚地さん
仲榮眞 僕はセカンドステージにS600やS620を使ってきましたが、吸い心地を考えると、これくらいの大きさのダイアフラムがないと無理ですね。これ以上小さくなったり、角度がつくとダメだと思います。S600とS620を比べると、S620のほうがひと回り小さいのですが、ダイアフラムの大きさは一緒で、角度もフラットなのでとても呼吸がしやすいです。
矢部 僕はスキューバプロのレギュレーターは、ファーストステージのどのポートにつないでも効率よくエアがコントロールされる点が気に入っています。テクニカルダイビングもするので、左右対向HPポートデザインで、ホースやゲージ類の配置を最適化できることもメリットに感じています。
ピックアップモデル
MK25 EVO/S620Ti
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MK25 EVOはエアバランスフロースルーピストンにより、水深や残圧、呼吸数にかかわらず、一貫して楽なエアフローを実現。優れた凍結防止システムを搭載しており、過酷な環境下でも確実に作動します。左右対向HPポートデザインにより、ホースやゲージ類の配置・配分を最適化するのも特徴。またS620Tiセカンドステージは、信頼性の高いS600からバルブシステムを受け継ぎ、呼吸抵抗に大きく起因するダイアフラムの大きさはそのままにケースの小型化に成功し、吸気抵抗も約37%軽減されています。
スキューバプロが日本のダイビングシーンを変えていくことに期待
傍島 スキューバプロの製品にいろいろな魅力を感じていただいていてありがとうございます。やはりお客様に製品を販売するうえで、「買ってよかった」と思っていただけるものを提供することが大事ですね。今日お話をうかがった3名の皆さんのように、スキューバプロ製品を自信を持っておすすめいただけるプロが増え、そこからスキューバプロ製品を購入したお客様が「これを選んでよかった」と思える、そこを第一に考えてこれから展開していきたいと思います。ではどうすればそのような状況を作っていけるのか、皆さんから何かアドバイスはありますか?
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スキューバプロの今後の展望を話す傍島さん
矢部 やはりスキューバプロ製品を使っていることを輝かせることですかね。うちのダイビングショップは、お客様がどんどん外に直接潜りに行くことを勧めているのですが、そこで現地ダイビングサービスを利用したときに、スタッフや他のお客様から「いい器材を使っているね」と言われたら、すごくうれしいと思うんです。「安物を買わされた」と思われるのは嫌ですし、うちのショップのお客様には誰から見ても良いものを使ってほしい。ですからスキューバプロの製品は価値に見合った価格で、そのポジションを築いてほしいと思います。プロもお客様も「スキューバプロっていいよ」というイメージが持てる価値の創造が大切ですね。
仲榮眞 矢部さんが言うように、お客様の物への依存度が低くなってきているのは僕も感じています。特にダイビング器材は、日常的に持ち歩くものでも、身につけられるものでもなく、海でしか使いません。そんな中で、いかにスキューバプロが欲しいと思ってもらえるか、僕らプロ側としたら、いかにスキューバプロを販売すれば安心と思わせてくれるかがポイントかと思います。
魚地 私はただただスキューバプロが好きなんですよね。「海が好き」というのと同じように、その理由を聞かれると説明が難しいのですが、やっぱりそのブランドに惹かれているのかなと。ですから、安売りはしてほしくないし、できればインターネットなどでの販売はせずに、信頼できるディーラーからのみ買える形がベストじゃないかと思っています。
矢部 一番の理想は、お客様が「どうしてもスキューバプロの製品がほしい」と言ってくれることですよね。そのためにはやはりスキューバプロ器材を所有していただく価値の創造が欠かせません。「プロならスキューバプロ」のように尖ったキャッチフレーズでもいいと思うので、スキューバプロがプライドを持って製品を出していることが伝わるようなイメージ戦略を打っていけるといいのではないでしょうか。最初のほうでお話ししたように、現在のダイビングシーンにも一石を投じて欲しいですね。
仲榮眞 スキューバプロがしっかりと情報を出していくことはもちろんですが、スキューバプロを愛用しているインストラクターなどにアンバサダーになってもらったり、インフルエンサーに使ってもらうなどして、スキューバプロについてたくさんの人に知ってもらえるといいですね。もちろん、僕も協力します!
魚地 そうですね、キヌガワさんがもう一度日本にスキューバプロを持ってきてくれたのは本当にうれしいので、ひとりでも多くのダイバーに認知されるよう、私も協力していきたいと思っています。
皆さんがスキューバプロというブランドを大切に育てていきたいという想いがすごく伝わってきました。今後の日本のダイビングシーンでのスキューバプロの展開を楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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協力
・かっちゃまダイビングサービス
・赤沢ダイビングセンター
・エムズダイビングアドベンチャー