ダイバーなら知っておきたいサンゴのこと
第1回:サンゴって何だろう?
沖縄の島々では5~6月、九州・四国や紀伊半島では7~8月、サンゴの産卵の神秘的な様子が話題となりますが、サンゴって何でしょう?
サンゴやサンゴ礁(※)が地球の環境を守る大事な存在だということは今や小中学校でも学ぶのでご存じの方も多いでしょう。ダイバーなら知っておきたいサンゴのことを6回連載でお届けします。
サンゴとサンゴ礁の違いは、簡単いうと生物か地形かの違いです。サンゴ礁は主に造礁サンゴが集まって積み重なり、形成されたものです。
サンゴは何もの? 動物? 植物?
岩なのか? 石なのか?
岩礁にたくさんの種類のサンゴが群生している 撮影地:西表島
Photo by Yasuyuki Saito
サンゴと聞いてどんな形のものを思い浮かべますか? テーブルのような形をしたテーブルサンゴ? 大きな岩のようなハマサンゴの仲間? 人によってさまざまだと思いますが、海の中や、水族館などの水槽で初めてサンゴを見つけた時、泰然と動かないその姿に、岩? 石? はたまた枝状のものなどは植物?と思った方も多いのでしゃないでしょうか? 世の中には宝石サンゴと呼ばれるものもあるので、宝石だと思っている方ももしかしたらいるかも!?
でも、サンゴは私たち人間と同じ動物です。植物ではありません。鉱石でも宝石でもありません。
サンゴのつくり
私たちが認識するサンゴというのは塊(かたまり)や群体であることが多いのですが、サンゴの構造は骨格の上にある、ポリプと呼ばれるごくごく小さなものです。そこには褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる植物プランクトンが共生しています。ちなみにサンゴは、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞(しほう)動物の仲間で、ポリプの先端にある触手(しょくしゅ)には毒のあるものもいます。
また、餌をとるところと排出するところが同じ腔腸(こうちょう)動物の一種でもあり、これもクラゲやイソギンチャクなどと同様です。
このポリプが1つで成り立っているサンゴを「単体サンゴ」といいます。単体サンゴはクサビライシが有名。またポリプクローンと呼ばれるクローンが分裂を繰り返して集まったサンゴは「群体サンゴ」といい、多くのサンゴがこれにあたります。
小さなポリプが無数にあるのがわかるでしょうか 撮影地:沖縄本島国頭村
Photo by Marine Photo Library
クサビライシが無数に集まっている海底 撮影地:タイ タオ島
Photo by Yukari Goto
骨格を持っているのがサンゴの特徴
これだけのサンゴ礁をつくるにはどれだけの長い年月がかかっているのでしょう 撮影地:沖縄本島国頭村
Photo by Marine Photo Library
イソギンチャクに似ているサンゴですが、サンゴが決定的に異なるのは石灰質の硬い骨格を持っていること。特に「造礁(ぞうしょう)サンゴ」と呼ばれるサンゴの仲間たちは、サンゴが死んだ後もこの石灰質の骨格が積み重なって、新しいサンゴが生まれ、また死んで骨格となって積み重なり、長い年月をかけて「サンゴ礁」と呼ばれる地形を生み出すのです。
ちなみにサンゴには褐虫藻が共生していないものもいて、これらは「非造礁サンゴ」といいます。宝石サンゴとして使われるアカサンゴやモモイロサンゴ、ベニサンゴなどがあり、多くが深海に生息しています。
サンゴは何を食べている?
触手はごはんを食べるためにある
サンゴが小さなポリプの集合体であることは紹介しました。このポリプにある触手が海中に伸びてゆらゆらと動き、海を漂うプランクトンをキャッチ。口へと運び込んでいるのです。そう、サンゴのごはんはプランクトン。ただし、多くの栄養源は次のものだと考えられています。
褐虫藻が大きな役割を持っている
ポリプに植物プランクトンの褐虫藻が共生していることを前述しましたが、この褐虫藻は、サンゴが生きていく上でとても重要な役割を果たしています。というのも、褐虫藻は植物。光合成をして、栄養分となる二酸化炭素を取り込み、酸素を排出。多くの栄養分を体内に蓄えているのです。
光合成をするには光が強く当たることが必要ですので、多くのサンゴは赤道を中心とする熱帯、亜熱帯エリアに生息しているのも特徴です。
浅瀬に点在するサンゴの根。撮影地:西表島
Photo by Yasuyuki Saito
サンゴの地球における役割とは?
森林よりも大量の酸素を生み出している
サンゴにとって褐虫藻がとても大切なことに加え、二酸化炭素を取り込み酸素を排出するということこそが、地球の環境にとって、とても重要だということに気づきますね。
ちなみに、地球上のサンゴが吸収する二酸化炭素の量は、地球上の森林が吸収する領よりも多いことがわかっています。サンゴを守ることは地球を守ることになるわけです。
サンゴの海の中における役割は?
世界と日本のサンゴ
ところで世界の海に生息しているサンゴは約800種といわれています。そのうち半分以上が日本にも生息しており、日本はサンゴ天国といえます。多くが沖縄・奄美諸島など南西部と小笠原諸島にありますが、四国や串本、伊豆半島、房総半島や伊豆七島にサンゴの群落が存在しています。しかもその北限域が地球温暖化で北上しているのも事実。一見よさそうなことに見えますが、海の生態系が大きく変わるので危機的な状況ともいえます。
魚たちのすみかや隠れ家を提供
広がるサンゴ礁をすみか、隠れ家にしている魚たち 撮影地:西表島
Movie by Yukari Goto
そんなサンゴは地球の環境に貢献しているだけでなく、海の中でも素晴らしい働きをしています。
最も大きな役割は、魚たちにとってのすみかを提供していることでしょう。デバスズメダイなどの群れがサンゴの周りで大乱舞しているところに人間が近づくと、サンゴの隙間に隠れ込んでしまうように、サンゴはさまざまな魚にとっての隠れ家となります。
また、夜は外敵から身を守るための場所であったり、もともとサンゴに棲んですみかとしている魚や生きものも少なくありません。
大きなコブシメがサンゴの隙間に卵を産みつけることがあるように、とても大事な場所なのです。
サンゴの塊に空いた穴をすみかにしているカンザシヤドカリ 撮影地:沖縄本島国頭村
Photo by Marine Photo Library
枝状サンゴの隙間に卵を産みつけるコブシメ 撮影地:石垣島
Photo by Marine Photo Library
私たちダイバーを楽しませてくれるサンゴについて、もっと知りたくなりますね♪
次回をお楽しみに。
(デスク/後藤ゆかり)