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テツ先生の新・海のいきもの
連載第4回 秋に咲くサクラダイの恋

新・海のいきもの

海のいきもの観察の楽しさを、東海大学海洋生物学科准教授でダイビングインストラクターのテツ先生が教えてくれる連載。第4回は冬の澄んだ海を彩るサクラダイです。晩夏から始まる繁殖期に奮闘するオス、恋のドラマをテツ先生の写真で観察!

※2025年12月の情報です

英語の俗称はCherry anthias

サクラダイのメス 学名:Sacura margaritacea 撮影地:三保真崎 水深20m 体長12cm

サクラダイのメス 学名:Sacura margaritacea 撮影地:三保真崎 水深20m 体長12cm
Photo by Takashi Tetsu

生物にはいくつかの種類で英名が付いていないものがみられますが、それは英語圏に生息していないため、固有種の存在する国が有する言語表記か学名しかありません。さらに言えば学名の命名が追い付いていない種については、属名にSp.(species)という表記になっている種もあります。
サクラダイは日本の固有種と考えられていたため、長いこと英名がありませんでした。近年になって日本以外でも存在が確認されたことから、英語の俗称としてCherry anthiasと表記されていることもあります。
それでは、サクラダイの生態について写真を交えながらマニアックになり過ぎない(自分ではそのつもりです)ように解説していきましょう。

生まれた時はみんなメス

性転換中のサクラダイ(通称:オナベ) 撮影地:三保真崎 水深18m 体長12cm

性転換中のサクラダイ(通称:オナベ) 撮影地:三保真崎 水深18m 体長12cm
Photo by Takashi Tetsu

サクラダイは、スズキ目ハタ科ハナダイ亜科に属する雌性先熟(しせいせんじゅく)、つまり、生まれた時はみんなメスで、状況と必要数に応じて、繁殖前に性転換する魚です。
三保真崎では、5月の下旬頃からオスの集団に比較的大きなメスが加わり始めます。その時の水温や環境によって若干の差はありますが、2週間程度でメスの体色が変化し、背ビレの黒斑が消え、各ヒレの先端が伸長するなどしてオスの完全体になります。

恋の季節は晩夏から

ペアリングしたサクラダイの雌雄 撮影地:三保真崎 水深20m 体長15cm、12cm

ペアリングしたサクラダイの雌雄 撮影地:三保真崎 水深20m 体長15cm、12cm
Photo by Takashi Tetsu

ダイビングでサクラダイの繁殖行動が見られるのは、早ければ8月下旬から、遅くとも9月中旬から11月頃まで。オスとメスのペアリングは年によって若干の差があり、産卵のスタート時期は異なりますが、9月に入ると始まります。オスがお目当てのメスに向かって、回り込んでみたり、ヒレを広げてみたりして、メスの注意を引きます。「ちょっといぃなぁ~」と思ったメスは、オスと並泳しながら動きをシンクロさせてゆきます。

実る恋あれば、散る恋もあり

他のペアの邪魔をするオス 撮影地:三保真崎 水深20m 体長15cm、12cm

他のペアの邪魔をするオス 撮影地:三保真崎 水深20m 体長15cm、12cm
Photo by Takashi Tetsu

ペアになったサクラダイは、左右にジグザグに動き、徐々にその間隔を狭めていきながら上昇、ペアリングを開始した水深から2mほど上がったところで放卵放精をします。
中には他のペアリングの邪魔をして、ペアを解消させてしまうようなオスが出てくることがあります。あるいはメスにその気がなくなり、そのまま下方修正してペアを解消してしまうような場合もあります。また、「二雌を追う雄は一雌をも得ず」みたいなことも、観察を続けていると多々見られます。

どのメスにするか迷っているオスのサクラダイ 撮影地:三保真崎  水深20m 体長15cm、12㎝

どのメスにするか迷っているオスのサクラダイ 撮影地:三保真崎 水深20m 体長15cm、12㎝
Photo by Takashi Tetsu

秋には幼魚が誕生!

サクラダイの幼魚 撮影地:三保真崎 体長2㎝ 水深23m

サクラダイの幼魚 撮影地:三保真崎 水深23m 体長2㎝
Photo by Takashi Tetsu

10月後半になると、ボトム近くの岩と岩の隙間に群れたサクラダイの幼魚を観察するようになります。なので、放卵放精から2カ月ほどの浮遊期間を経て着底するのではないかと推察しています。秋にはサクラダイの幼魚が誕生するので、今月のタイトルは花が咲くイメージにしてみました。
近年はサクラダイの繁殖行動を、膨大な蓄積データに基づいてガイドをしてくれるダイビングサービスも何軒かありますので、興味の湧いた方はコンタクトしてみてください。観察時には、きっとこの情報が役に立つと思いますよ。

Profile

鉄 多加志
Tetsu Takashi

1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授

鉄 多加志

ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。

専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。

主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。