第8回 危険なアイツ編
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海には毒の棘や強大な牙を持つ生物も少なくありません。でも、大丈夫。「危険なアイツ」たちの多くは専守防衛がモットー。事前に知っておけば事故は防ぐことができます。代表的な海の危険生物を紹介しますので、しっかりとチェックしておいてくださいね。
フワフワ癒やし系に注意!
のんびり漂うクラゲは癒やし系の海の生き物として水族館で大人気。
でも、それは水槽の中と外、完全に遮蔽されているからこその感想。触れる可能性がゼロだから、「きゃーカワイイ」なんて言ってられるのだ。なぜって、クラゲはれっきとした刺胞動物。毒針で獲物を刺し、麻痺させて食べてしまう動物なのだ。獲物はたいてい小さな動物プランクなどだけれど、小魚を捕える猛者もいる。人間はもちろんクラゲの獲物ではないけれど、あの長い触手に触れてしまうと勝手に毒針が発射される仕組みになっている。注意一秒、ケガ一生。クラゲを見たら触らないこと。
ただ、種類によってクラゲの毒の強弱は差が激しい。ほとんど無毒とされるミズクラゲなどがいる一方、特に危険なクラゲは下記の2種。そのほかアカクラゲやアンドンクラゲ、ハナガサクラゲ、カギノテクラゲなども刺されると非常に痛い。
【対策】海に入るときは、肌の露出はなるべく避ける。夏でも(むしろ夏こそ)腕や脚が隠れるウエットスーツやラッシュガードを着用。
【応急処置】ピンセットなどで患部に付着する触手を取り除き、海水で洗い流し、病院へ。「ハブクラゲに刺された」ということが200%確実であるなら、酢をかけると効果的。
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カツオノエボシ
クラゲといっても海中に没することはなく、常に気泡体(青い風船部分)が海面に浮いているという変わり種。伸縮自在の触手は、気泡体同様に青く美しいが、強烈な刺胞毒を持っている。刺されると激しく痛み、ミミズ腫れや炎症を起こす。症状が重い場合は頭痛、吐き気、不整脈などを起こし、死亡例もある。
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ハブクラゲ
「箱クラゲ」というグループのクラゲで、立方体の傘を持ち、四隅からは強い刺胞毒を持つ触手が伸びる。沖縄の猛毒ヘビ、ハブの名を冠されていることからわかるように非常に毒性が強く、死亡例もある。熱帯ではハブクラゲ、本州付近の箱クラゲの仲間は、夏に沿岸で増えてくるアンドンクラゲがよく知られている。
ダイバーならではの恐怖対象
ダイバーが最も恐れる危険な生物といえば、サメでもウツボでもなくゴマモンガラであろう。貝やウニが大好物で、その強大な歯とアゴで殻をバリバリとかみ砕いてしまう。そしてモンガラカワハギ科の魚は、親が卵を保護する習性があり、ゴマモンガラも同様だ。この時期、メスは卵を守るために非常に攻撃的となる。
【対策】幸いゴマモンガラは体が大きく、産卵床は開けた場所のことが多いのでよく目立つ。発見次第、すみやかに離れること。または迂回。
【応急処置】すみやかにエグジットして病院へ。
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ゴマモンガラ
大きなものでは50cmにもなる巨体。繁殖期(沖縄では初夏~夏)になると砂地にすり鉢状の産卵床をつくり、近寄る者は相手が何であれ攻撃してくるようになる。頭や耳を咬まれ、何針も縫う大ケガを負った人もいる。なお、ムラサメモンガラなども産卵床に近寄るダイバーを攻撃する。
海底の猛者に注意せよ!
ダイバーは常に中性浮力を保ち、着底せず岩に海底に手やひざをつけないことが理想だ。本来は自然保護が目的のマナーだが、ダイバーの身を守るためのルールでもある。とはいえ、写真派ダイバーや中性浮力がおぼつかないビギナーは、そんなこと言っていられないときも・・・・。
【対策】岩や海底にはなるべく触れない。どうしても手やひざをつく必要があるときは、砂中に危険生物が潜っていることもあるので事前に十分注意を。
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オニダルマオコゼ
オニオコゼ科の魚は、ヒレに非常に強い毒棘があるため基本的にどの種類も注意が必要だ。特に猛毒なのはオニダルマオコゼで、死亡例もある。背ビレに13棘、尻ビレ3棘、腹ビレに各1棘に毒があるのだ。
【応急処置】タンパク毒のため熱変性する。火傷しない程度の熱い湯(45度前後)に浸けるとよい。
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イイジマフクロウニ
ナイトダイビングで岩にひざや手をついて刺されてしまうケースが多いイイジマフクロウニ。ゼブラガニやコールマンシュリンプなどエビ・カニが寄生、共生していることも多く、撮影中のアクシデントも多い。
【応急処置】ピンセットなどで棘を取り除き、症状が重いようなら病院へ。
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オニヒトデ
イシサンゴを食害することで悪名高い大型ヒトデ。腕は10~20本、背面にある長い毒棘は2~3㌢にもなる。刺されると激しく痛み、患部が壊死することも。死亡例もある。しばしば大量発生することが知られ、コレも悩みの種。【応急処置】ピンセットなどで棘を抜き、火傷しない程度のお湯(45度前後)に浸す。即病院へ。
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ガンガゼ
20~30㌢もある長い毒棘はスッと簡単に突き刺さるうえウエットスーツも簡単に突き通し、体内で折れやすい。昼間は集団で岩陰など暗がりに隠れおり、夜になると周囲をうろつき出す。【応急処置】ピンセットなどで棘を取り除き、水でよく洗う。体内に残った棘はガーゼに食酢を浸し、患部に当てておくとよい。
うっかり触れるとケガするぜ
イソギンチャクとかサンゴとか、何となくなめてかかっているけれど、よく考えればこれらもクラゲと同じ刺胞動物。触手に毒の刺胞を持っているわけで、種類によって毒の強弱はあれど、うっかり触れると刺される危険性は大。特に、沖縄などでも見られるウデナガウンバチやハナブサイソギンチャクは非常に危険。激しい痛みや水疱、長く続くかゆみが生じる。症状が重いときはヒフの壊死や吐き気、筋肉痙攣が起きる。海水浴や磯遊びで気づかずに踏みつけたり触れたりすることもある。
【対策】肌はなるべく露出しない、触れない。
【応急処置】ピンセットなどで触手を取り除き、海水で洗う。症状が重いようなら病院へ。
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スナイソギンチャク
48本ある触手を広げると15~40cmとなるスナイソギンチャクは色彩変異が激しく、美しいピンクやグリーン、茶色や縞模様の個体もいる。アカホシカクレエビの仲間が共生していることあり、撮影や観察時は注意。
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ファイヤーコーラル(全体)
アナサンゴモドキの仲間のことで、触れると火傷したかのような痛みが走る。イシサンゴ類とそっくりだが強い刺胞毒をもつヒドロ虫類の仲間。写真では中央の黄色部分。種類によって枝状、板状、被覆状など形はいろいろ。
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ファイヤーコーラル(拡大)
イシサンゴ類の表面はポリプがはっきり見えるのに対し、ファイヤーコーラルの表面はのっぺりして細いケバケバがある感じ。強い痛みやただれ、かぶれなどが長く残ることも。直に触れなくても刺される場合がある。
命の危険はあるけれど・・・・
ここで紹介した3種は咬まれたり刺されたりすると命の危険があり、「海の危険な生物」といえば必ず上位にランクイン。でも、ダイバーが被害に遭ったケースはそれほど多くはないので、必要以上に恐れることはない・・・・のだが、いずれも注意するにこしたことはない。
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ヒョウモンダコ
咬毒にはフグ毒と同じテトロドトキシンを含み、しびれや言語障害などが生じ死亡例もある。が、ダイビングよりは磯遊びで咬まれる危険性のほうが高いだろう。青いリング模様は警戒色。【対策】岩の亀裂などにはうかつに手を入れない。【応急処置】即エグジットし病院へ。時間があれば流水で洗い流しながら患部から血を絞る。
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イモガイの仲間
肉食性の巻貝で、長い吻の先端にある歯舌を獲物に撃ち込み、猛毒を注入する。イモガイの仲間のうち最も恐ろしいのは沖縄で「ハブガイ」の異名をとるアンボイナガイで、死亡率が高い。【対策】イモガイと思われる形態の巻貝を見かけても決して手を触れない。【応急処置】即エグジット、速やかに病院へ。
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ウミヘビの仲間
爬虫類のウミヘビはコブラ科に属し、牙に猛毒を持つ。エラブウミヘビではハブの70~80倍といわれ死亡例もある。ただクロガシラウミヘビやマダラウミヘビなどはやや攻撃的だが、エラブウミヘビをはじめ全般におとなしい種類も多い。【対策】種類の見きわめが非常に難しいので、基本的に手出しはしない。【応急処置】早急に病院へ。
油断は禁物だけれど・・・・
一般にもよく知られ、磯遊びでも見かけるありふれた種類のため、「海の危険な生物」では必ず紹介されるけれど、ダイバーが手を出さなければまず問題は生じない。
【対策】基本的に手出しは無用。また、岩や亀裂には何か生き物がいないか常に注意すること。
【応急処置】すみやかにエグジット、病院へ。
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ウツボの仲間
鋭い歯と大きなアゴを持つが、ダイバーを積極的に攻撃してくることはない。ウツボによる咬傷はダイバーが棒などでイタズラして逆襲に遭ったか、存在に気づかず岩の亀裂などに手や足を突っ込んでしまったケースが多い。
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ミノカサゴの仲間
ミノカサゴの仲間を紹介するときは、「きれいなバラにはトゲがある」をもじって「きれいな魚には毒がある」というフレーズがつきもの。確かにヒレに毒棘があることは事実だが、ダイバーが注意すれば避けられる。
信頼関係はないからネ
「好きな海の生き物は?」というアンケートを取れば、おそらくトップ5に入ってくるだろうサメの仲間。特に、メジロザメ系のかっこよさ、その機能美は文句なし。一方、「海の危険生物」としてもトップクラスだ。実際にウミガメや大型魚類、海洋哺乳類を獲物とするホホジロザメやイタチザメの被害に遭って命を落とした人も少なくはない。いくらこちらが「大好き」と思っていても、それは片思いと心しよう。何しろ相手は野生動物、特に「咬んでみて食えれば食うし、ダメなら吐き出す」という大雑把な性格の種類もいるらしいので注意ですよ。
とはいえ、ネムリブカ(ホワイトチップリーフシャーク)やシロワニなどは穏和な性格らしいので、必要以上に警戒することもない。
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イタチザメ
「世界三大人食いザメ」の1種(残りの2種はホホジロザメとオオメジロザメ)。外洋性のせいかダイバーが出会うこと事態が珍しいが、もし出会っても深追いは禁物だ。【対策】レジャーダイバーが襲われる可能性は高くないが、もし挙動がおかしいサメに遭遇したら静かにゆっくり立ち去ろう。【応急処置】すみやかにエグジット。実際にシャークアタックがあった場合は、病院・警察・海上保安庁などへ連絡する。
おまけ~けっこう痛いです
「危険」というほどのことはないけれど、けっこう痛い。
相手が小さいもんだから、被害に遭ったときのショックが大きいせいかもしれません。
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モンハナシャコ
カマキリの「鎌」のような捕脚で貝やエビ・カニなどを叩き割り、美味しい中身をいただいてしまうという、美人さんに似合わぬハードパンチャー。飼育下では水槽を割ってしまうことも。まあ、手出ししなければパンチを食らうこともありません。
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クマノミ
繁殖シーズン、卵を守っているクマノミやハマクマノミ、トウアカクマノミなどはかなり攻撃的。卵を狙って近寄るベラなどを追い払うのだが、ダイバーまでもが襲われる。まぁ、襲われると言っても小さな口で咬まれたり体当たりされるだけですけど。