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連載
野生のイルカと泳ごう!
第2回「御蔵島のイルカに会いに行こう!」

野生のイルカと泳ごう!

「一生に一度は、野生のイルカと一緒に泳いでみたい!」
ダイバー、ノンダイバーを問わず、こんな声をよく聞きます。でもその後にはたいてい「どこに行けば野生のイルカと泳げるの?」「私なんかでもイルカと泳げるのかな?」という問いが続きます。
この連載では、そんな「野生のイルカと泳ぎたい」あなたの疑問に、写真と動画をふんだんに使って、丁寧に、楽しく答えていきます!

※2025年9月の情報です

はじめに

三宅島より御蔵島を望む(2016年10月24日 ) Photo by JUN HASEGAWA

三宅島より御蔵島を望む(2016年10月24日)
Photo by JUN HASEGAWA

こんにちは!素潜りツアーガイドの長谷川です。今回は、日本のドルフィンスイムの「聖地」御蔵島について解説したいと思います。
さて、御蔵島は主にその地形的な条件から「たどり着く」こと自体がちょっと難しい島。でも、そんなハードルを乗り越えてでも会いに行きたくなってしまうほど、御蔵島の自然とイルカたちは魅力的なのです。
御蔵島でのドルフィンスイムは、イルカの遭遇率もフレンドリーさも世界トップレベル。まずは、御蔵島のドルフィンスイムがどんな感じなのか、動画をご覧ください。1泊2日(スイム3回)の旅で、これだけの体験ができてしまうのです!

御蔵島に行こう!

御蔵島ってどんな島?

御蔵島ってどんな島?
御蔵島ってどんな島?

御蔵島(2020年11月1日)
Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島(伊豆諸島/東京都)は東京都心から約200km南に位置する周囲約16kmの島です。断崖絶壁に囲まれ、人が暮らしているエリアは港がある北側の集落のみになります。人口は約300人。島の大部分が原生林に覆われ、陸地の約90%以上が保護区域に指定されています。このため陸のほとんどのエリアはガイドなしでは立ち入ることができません。かつては林業が盛んでしたが、現在はドルフィンスイムを軸とした観光が産業の中心になっています。

御蔵島への交通手段

竹芝桟橋で出航を待つ橘丸  Photo by JUN HASEGAWA

竹芝桟橋で出航を待つ橘丸
Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島への主な渡航手段は、東京・竹芝桟橋から出航する東海汽船の大型客船「橘丸(たちばなまる)」。船は毎日夜に東京を出発し、途中三宅島を経由して翌朝御蔵島に到着します。帰りの船は昼に御蔵島を出発し、夜に東京・竹芝桟橋に到着します。

大荒れの御蔵島桟橋(2021年1月8日) Photo by JUN HASEGAWA

大荒れの御蔵島桟橋(2021年1月8日)
Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島は、一つしかない港が外洋に面しているため、海が少しでも荒れると客船が着岸できず欠航となってしまいます。ドルフィンスイムシーズン中の着岸率は平均60%程度。ちなみに橘丸は他の島にも寄港するため、御蔵島に着岸できない可能性がある場合でも出航します。この場合、御蔵島行きは「条件付き出航」となります。条件付き出航とは「御蔵島に着かない可能性があるが、それでも良ければお乗りください」ということ。ちなみに、往路で御蔵島に着岸できなくても、あきらめるのはまだ早い!御蔵島の先の最終寄港地、八丈島から東京に折り返す復路の便で、再び御蔵島に着岸するチャンスがあるからです。

宿の予約

御蔵島の宿から見る夕日(2022年5月2日) Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島の宿から見る夕日(2022年5月2日)
Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島の宿の数と受け入れ可能人数は決して多くはなく、ドルフィンスイムのシーズン中は宿の争奪戦になります。GWやお盆期間はもちろんのこと、通常の土日の予約も宿の予約解禁日(概ね宿泊日の2~3カ月前)に埋まってしまうのが普通です(御蔵島の宿の予約はこちらを参照)。抽選がある宿については確実に抽選申込みを行い、また先着順で予約する宿については、予約解禁日・時間に確実に電話をかけられる体制を作っておきましょう!

ドルフィンスイム船の予約

近付いてくるイルカたち(2023年5月10日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

近付いてくるイルカたち(2023年5月10日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

利用可能なドルフィンスイム船は宿泊する宿ごとに決まっています。宿が所有するドルフィンスイム船は宿と同時に申込むことができます。その他の船については宿とは別々に申し込むことになりますが、「宿は予約できたけれどドルフィンスイム船は予約できていない」(またはその逆の)状況になることもしばしば。その場合は「キャンセル待ち」を申込み、空き部屋や空席が出るのを気長に待ちましょう!

客船の予約

橘丸からの下船  Photo by JUN HASEGAWA

橘丸からの下船
Photo by JUN HASEGAWA

乗船券の予約は、乗船日の2カ月前の同日深夜0時からインターネット予約が可能になります。G Wや夏休みシーズンの土日などの繁忙期は、0時ちょうどにインターネット予約することを強くお勧めします。繁忙期以外の土日も、予約解禁後になるべく早く予約した方が安心です。ちなみに乗船券は電話で予約することも可能です。

「御蔵島ならでは」の旅の計画

御蔵島の里から三宅島を望む(2020年7月26日) Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島の里から三宅島を望む(2020年7月26日)
Photo by JUN HASEGAWA

さて、ここまで読んで冒頭で書いた「『たどり着く』こと自体がちょっと難しい島」の意味がお分かりいただけたのではないかと思います。そんな手ごわい御蔵島に対して、リピーターたちはこんな工夫をしています。

旅の計画回数は「5割増し」

海況不良で渡航できなくなることを前提に、複数の日程で旅行計画を立てておきます。ぼくは、実際に行きたい回数の1.5倍(年に2回行きたければ3回分の旅行計画を立てる)を目安にしています。

仕事の休みは1日多く取っておく

海と空が溶けあう(2024年10月4日 御蔵島)  Photo by JUN HASEGAWA

海と空が溶けあう(2024年10月4日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

帰りの船が欠航になる可能性を考えて、実際の旅行日程プラス1日の休みを取ることをお勧めします。客船が着岸するかしないか微妙な予報の場合、たいていは宿かドルフィンスイム船の船長から「船、着かないかもしれませんが、どうしますか?」という連絡が来ます(着岸確率が低い場合は「中止にしましょう」という連絡が来ます)。このような連絡が来た場合、大事を取ってキャンセルするのが安全策であるのは言うまでもありません。ですが、せっかく苦労して予約したドルフィンスイム、簡単に諦められない!という方は、延泊する宿が確保できそうなら、チャレンジしてみるのも一案です。

御蔵島のドルフィンスイムのスタイルは?

御蔵島のイルカについて

御蔵島のミナミハンドウイルカ(2023年11月5日)  Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島のミナミハンドウイルカ(2023年11月5日)
Photo by JUN HASEGAWA

御蔵島周辺には約150頭のミナミハンドウイルカが定住しています。ミナミハンドウイルカはインド洋から西太平洋の温暖な沿岸域を中心に生息する中型種。日本では各所で定住する群れが確認されていて、ウォッチングツアーやドルフィンスイムが行われています。好奇心旺盛で人間を恐れず近付いてくる個体も多いため、ドルフィンスイムを行うのに最も適したイルカの一種であると言えます。
御蔵島では1994年に観光目的のドルフィンスイムが始まり、年間数千人の「ドルフィンスイマー」が島を訪れます。御蔵島のイルカは、人と遭遇する機会が多いためか、他地域の同種のイルカよりも人馴れが進んでいると感じます。世界中の海でイルカと泳いでいるドルフィンスイムガイドによれば、御蔵島のイルカの人馴れ具合は、ドルフィンスイムの世界的な聖地・バハマにも匹敵するレベルなのだそうです。

切れた背びれが特徴的な「ジョー」(2023年10月27日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

切れた背びれが特徴的な「ジョー」(2023年10月27日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

イルカたちがいつから御蔵島に定住しているのか、なぜ御蔵島を選んだのかは定かではありません。一説では、海が荒れやすく、断崖絶壁に囲まれて内湾のない御蔵島では漁師を生業(なりわい)とすることができないため、漁師に追い立てられる危険のないこの島にイルカたちが集まってきたのではないか、と言われています。同じイルカの群れを継続的に観察できるため、御蔵島はミナミハンドウイルカの研究拠点にもなっています。イルカたちは研究者やボランティアの調査員によって個体識別され、「ジョー」のように個性的な名前が付けられているイルカもたくさんいます。

ドルフィンスイムの概要

ドルフィンスイム船上から見る朝日(2023年10月28日 御蔵島)  Photo by JUN HASEGAWA

ドルフィンスイム船上から見る朝日(2023年10月28日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

ドルフィンスイムは、小型の漁船タイプの船で島の周囲を巡ってイルカを探し、スノーケリングやスキンダイビングでイルカと泳ぐ、というスタイル。島を一周できる海況であれば、ほぼ100%の確率でイルカに会うことができます。ツアーの開催期間は3月中旬~11月中旬。1日2回、午前と午後に行われ、1回の所要時間は約2時間。海へのエントリー回数は最大8回までと決められています。ちなみに御蔵の海は荒れやすく、比較的穏やかな日でもドルフィンスイム船はかなり揺れます。これまで船酔いをしたことがないという方も含めて、酔い止めの服用をお勧めいたします。

ドルフィンスイムの手順と注意点

朝のドルフィンスイム船(2023年10月28日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

朝のドルフィンスイム船(2023年10月28日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

いよいよ、ドキドキ・ワクワクのドルフィンスイム本番!ここではスイムの手順や注意点、ルールについて解説します。
港でドルフィンスイム船に乗り込み出港したら、島の周囲を航行しながらイルカを探します。しばらくすると船の進行方向に、波間に見え隠れする複数の背びれが!イルカの群れです!!しかしイルカの姿が見えても勝手に海に飛び込むのは厳禁。海に入るタイミングは船長が指示します。まずはマスク・フィンなどの器材を装着し、船長の指示を待ちます。船長から「(船の)右側から入って」「両側から入って」という声がかかったら、船縁をまたいで静かに海に入ります。スクリューがある船の後部はとても危険なので、船の後ろには回らないようにしてください。

船上からイルカをウオッチング

船上からイルカをウオッチング

ドルフィンスイム船からのエントリー

ドルフィンスイム船からのエントリー

海に入ったら、水面にイルカの姿が見えている場合はイルカが進んでくる方向に向かって泳ぎます。イルカが水中に潜っている場合は、水中を見てイルカの進行方向を確認します。イルカの姿がなかなか確認できない場合は、時々顔をあげて、船長の方を見てみましょう。「(イルカが)あっちから来るよ!」などと知らせてくれている場合があります。また他のお客さんの動きからイルカの動向を探るのも有効です。

人間に興味を示して近づいてくるイルカたち(2022年11月13日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

人間に興味を示して近づいてくるイルカたち(2022年11月13日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

水中でイルカが近付いてきたら、いよいよスイム開始です。イルカを保護するために定められた以下のルール(御蔵島観光協会HPより)を守って、楽しくイルカと泳ぎましょう!

・イルカに触らない。触ろうとしない
・イルカに餌を与えない
・小さい子供を連れた群れにはこちらから接近しない
・イルカの食事や交尾、出産などの自然な行動を妨げない
・水中カメラで撮影するときはフラッシュを使用しない
・ホイッスル、ダイビングコンピュータなど、人工音を発する器具は使用しない
・「自撮り棒」は水中に持ち込まない

母イルカに寄り添って泳ぐ赤ちゃんイルカ(2023年5月11日 御蔵島)

母イルカに寄り添って泳ぐ赤ちゃんイルカ(2023年5月11日 御蔵島)
Photo by JUN HASEGAWA

上の写真の母子イルカは、嬉しいことに向こうから近付いて来てくれました。こういう時もむやみに近付こうとせず、やさしく見守りましょう!

イルカの群れが去ってしまったら、深追いはせず、海から顔を上げて船長の指示を待ちます。船にはしごがかかり、船長が「上がりましょう!」と声をかけたら、速やかに船に向かって泳ぎ、譲り合いながら船に上がります。全員が船に上がったら、また同じ群れに再アプローチするか、別の群れを探します。水中でこちらに寄って来ない群れには再アプローチせず、別の群れを探すのが普通です。

まとめ

帰りの船に乗る前の記念撮影(2023年11月7日御蔵島桟橋 )

帰りの船に乗る前の記念撮影(2023年11月7日御蔵島桟橋 )

御蔵島ドルフィンスイムの旅、イメージはつかめたでしょうか? この島独特の大変さはありますが、ひとたびイルカと泳ぐ感動を体験してしまえば、たいていの方は「また絶対来たい!」となってしまいます。実際、島に行く前に「一生に一度でいいから野生のイルカと泳いでみたい」と言っていた方の多くがリピーターになっているのです。海で出会うイルカたちも、御蔵島の自然が見せる表情も、毎回違うのが楽しいですよ!
まずは一度、御蔵島を訪れて、ドルフィンスイムの「沼」に足を突っ込んでみましょう。個人で行くのが不安な方は、ダイビングショップが企画するツアーに参加するのも手です。いつか、読者の皆さんと御蔵島で会えたら嬉しいです。
次回は小笠原諸島のドルフィンスイムについて解説いたします。乞うご期待!!

ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)


素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。
>>dive station baseの御蔵島ドルフィンスイムツアー

長谷川 潤