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感動の一瞬はこうして生まれた…… フォト派ダイバー必見! |
イルカに特化した水中写真家、
ドルフィンスイマー、そして水中モデル
鈴木あやの Ayano Suzuki
イルカの生態や社会生活は知れば知るほどおもしろく、子育てはメスの群れで協力して行っています。私自身2014年に長男、2019年に次男を出産してから、母に寄り添い覗き込んでくる赤ちゃんイルカが可愛くて仕方がありません(笑)
■使用機材:カメラ:Canon EOS-1D X ハウジング:Nauticam NA 1DX レンズ:Canon EF16-35mm F4L IS USM ストロボなし 自然光
■撮影データ:f4.5、1/500秒、ISO320
イルカの瞳や表情を自然にとらえるために切磋琢磨
悲鳴をあげていた心と身体を癒しに小笠原へ。そこでイルカと恋に落ちる
マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-あやのさんは「イルカ」をテーマにして、写真家としてだけでなく水中モデル、スイマーとしても活躍されています。そもそもイルカに魅せられたのはなぜですか?
鈴木あやのさん(以下、あやの)-これを言うと驚かれるのですが、小さい頃から海やイルカが好きだった……わけではないんです! 海水はベタベタするし、日焼けもしたくないし、ってことで、野生のイルカに出逢った28歳の時まで、ビキニを着たことがありませんでした(笑)。
小さい頃から生き物や植物が大好きで、中学生の頃に科学雑誌ニュートンを読み、DNAや遺伝子といったバイオ系の研究者になりたいと思うようになりました。大学では農学生命科学研究科でバイオ系の研究をし、大学院修了後は企業の研究職に就きましたが、働く意味や研究を仕事とする意味について考えてしまい……企業の研究職は(当然ではありますが)利潤を追求するための研究であり、当時の私は、そんなものは研究ではない! 生命の意味を解き明かすようなサイエンスが好きなのに!と。
一体自分は何がしたいのか、自分は何者なのかと鬱々とした日々が続きました。転職をしたり、興味のあった広告やマーケティングの学校に通ったり、バイオベンチャーの手伝いをしたりと自分を忙しくすることで考えないようにしていましたが、心も身体も悲鳴をあげ、一旦全てを辞めて逃げて、小笠原諸島に一人旅をしました。小笠原諸島にしかいない固有の動植物を見てみたいという思いはずっとありました。
2007年28歳で初めて訪れた小笠原諸島、そこには驚愕の大自然がありました。この雄大な自然の前で、自分という存在はなんてちっぽけなのか、小笠原で過ごすうちに自然と心が癒され楽になりました。
そんな時に、小笠原の人からイルカやクジラが見られるよ〜と聞いて、船に乗ったのです。イルカがいると知らずに小笠原諸島へ行ったのですよ(笑)。
初めて大海原で見た野生のイルカの群れは、ただただ可愛く、美しくて驚きました。そしてウエットスーツを着させられて、はい入って〜とイルカの群れの近くに落とされ(笑)、海の中で初めて遭遇! 海の中で「ピーピー」と鳴く声が聞こえ、寄ってきたイルカ! その愛らしい姿に一瞬で恋に落ちてしまいました。
初めて一眼レフカメラを海に入れて撮影したときの1枚です。野生のイルカと目を合わせ泳ぐとき、イルカは斜め後ろを泳ぐ私を見て「こっちにおいでよ!」というような表情で誘ってきます(笑)。
2010年に初めての個展「イルカの瞳に魅せられて」を開催したときのDMに使用しました。
そのDMを水中写真家中村征夫さんにお渡ししたときに、
「え~イルカってこんな風に見るのー? すごいねーよく撮ったね~」とおっしゃられて、私は野生のイルカと泳ぐときにはいつも見ていた風景だったので、逆に驚きました!
その時に、私の中では「当たり前」になっていたイルカの瞳や表情は当たり前ではなかったのだな、と気づかされ、これからもイルカの表情を撮影し発信していこう!と決意を新たにしたのでした。
■使用撮影機材:カメラ Canon EOS Kiss X3 レンズ EF-S10-22mm F3.5-4.5 USM ハウジング Recsea ストロボ無し、自然光
■撮影データ:絞りf4、シャッタースピード1/200秒、ISO400
イルカの瞳や表情をちゃんと撮りたい!
編-イルカと泳ぐことから水中写真家への道も選んだのではないかと思うのですが、きっかけはどんなことだったのですか?
あやの-イルカと出逢う前から植物や風景の写真を撮るのが好きでした。大学生の頃にコンデジを買い、その後一眼レフカメラを買って、身近な植物を撮影したり、利尻島や礼文島などで山歩きしつつ高山植物を撮っていました。
小笠原諸島でイルカと泳ぐようになり、イルカの瞳ってこんな風なんだ、一緒に泳ぐとこんなふうに見えるんだ、この感動を写真に撮りたい!と思うようになりました。最初は小笠原諸島で売っていた防水の写ルンです、その後に防水のコンデジを買いましたが、当時のコンデジはなかなかピントも来なく、動きが速いとブレてしまい、防水の写ルンですのほうがイルカを撮れましたね(笑)。
イルカの瞳や表情をちゃんと撮りたい!と思い、一眼レフカメラをハウジングに入れて、御蔵島で初めて撮影しました。2009年のことです(その写真が冒頭の写真です)。
最初は一眼レフの大きさと重さ、水中抵抗に驚き、これはスノーケリングや素潜りがしっかりできない人がカメラを持ったら溺れるな、と思いました。
私の場合はまず泳ぐことに専念して、それからカメラを持つようになったので撮影もしやすかったと思います。
ドルフィンスイマーとして野生のイルカと泳ぎ、写真家としてイルカを撮影し、水中モデルとして泳ぐ様子を撮られる、それらを組み合わせた新しい視点からの発信を試み、やがて作品が評価されるようになり、変わった生き方をしているということで(笑)、メディアにも取り上げていただくようになりました。
イルカとうまく泳ぐために、プールでイメージトレーニング
編-イルカと泳いで撮影するのは スクーバではなくスキンダイビングなんですね。スキンだとすると、普段からどのような練習をされているのですか?
あやの-野生のイルカと泳ぐときは必ずスノーケリング&素潜り(スキンダイビング)です。というのも、海洋哺乳類であるイルカは呼吸をするため数秒から数十秒に一度必ず水面に上がってきます。イルカと長い時間一緒に泳ぐためには、イルカと共に潜り、動きを合わせて目を合わせくるくる回ったりして一緒に浮上してまた一緒に潜って、と繰り返します。⇒参考動画「イルカと泳ぐということ」
スクーバダイビングでは潜った状態で空気を吸うため、急潜降急浮上を繰り返して減圧症に罹るリスクが大きく、大変危険です。
なお、日本でイルカと泳げる場所として有名な御蔵島ではスクーバは禁止されています。小笠原諸島ではスクーバダイビング中にイルカと遭遇することもありますね。海外でスクーバでイルカと泳げるところもありますが、肺損傷や減圧症に気をつけてください。
あと、スクーバダイビングの水面休息中にイルカと泳がせるショップもありますが、潜降浮上は血中の気泡化を促進し、水面休息の意味がなくなり減圧症に罹る可能性が高まるので、潜らず水面で泳ぐのがいいでしょう。
スキンダイビングの練習は、主に東京辰巳国際水泳場のダイビングプールで、水中にフラフープを設置してくぐったり、しなやかに泳ぐ練習をしていました。
また、水深5mの水底にカメラを置いて自分の泳ぐ姿を動画に撮り、自分の目で見ることで改善してきました。⇒参考動画「ダイビングプールでフラフープ、素潜り練習」
イルカと泳ぐ練習としては、水面を泳ぐイルカにお腹を合わせるように水面下を仰向けで泳いで、イルカが潜り込む時に同時に仰向けのまま身体を反らせて潜り込む、というのをイメトレしたり、ジャックナイフで潜り込んだ瞬間に身体を反転させて進行方向を向いてイルカの位置を確認する、というのをよくやっています。
このあたりは言葉で説明すると難しいので、マリンダイビングフェアのステージで映像を交えてお話ししましょうかね(笑)。
素潜りが上達すれば、水中で自分の身体を自在にコントロールすることができ、心に余裕が生まれ、スクーバダイビングでも安全に泳ぐことができるので、ぜひ練習をしてください!
自分も母になって、ますます赤ちゃんイルカがかわいくて…
編-あやのさんの撮るイルカの目はとってもかわいらしいものが多いのは、そういった泳ぎの練習が効果を上げているんですね。ところで、これまで一番の思い出を教えてください。
あやの-イルカは知れば知るほどおもしろく、特に御蔵島では個体識別が進んでいるので、行くたびに同じイルカに出逢えたりします。成長して赤ちゃんを産んで母になったり、赤ちゃんが成長して大きくなったりと、何度も通っていると、もはや親戚のおばさんのような感覚になります(笑)
特に、自分が子供を産んでからは、赤ちゃんイルカが可愛くて仕方ありません(笑)
中でも印象的だったのは、水面を泳ぐ私のすぐ下を母イルカがゆったりと泳ぎ、何度も何度も赤ちゃんに授乳させていることがありました。私も少し潜って赤ちゃんの横に行ってみて授乳風景を観察したり、私も飲めるかな?とか思ってみたり(笑)。
「こしゃくれ」というかなりしゃくれたイルカがいるのですが、赤ちゃんを連れていたある年、春先の平日だったこともあり、出ている船も乗っている人も少なく、イルカたちがとてものんびりゆったりと泳いでいました。生まれて間もない赤ちゃんイルカを連れたこしゃくれがずっとそばで泳いでくれて、赤ちゃんが真横でぴょこぴょこと息継ぎをしていて、その様子が本当に可愛く、のどかで幸せな時間でした。
イルカと目を合わせて泳いで、カメラは持っていない振り
編-イルカを撮るときにこだわっていること、あやのさんならではのスタイルなどがありましたら、教えてください。
あやの-イルカの瞳や表情を撮影する時は、カメラを持っていないような振りをして、いつも通りイルカと目を合わせて泳ぐようにしています。カメラのファインダーを覗くと距離感が変わり、視野も狭くなるので、イルカと目を合わせたままカメラを向けて適当にパシャパシャ撮影します(笑)。デジタルだからできることですね!
風景としてイルカの姿や海の様子を撮影する時は、ファインダーを覗いて構図を決めたりもします。また、イルカの生態行動を撮影するときには、その行動を妨げないように少し離れて観察し撮影しています。
水中写真を始めた頃は、フィッシュアイ(魚眼)レンズをつけて歪んだ絵を撮るのが主流のようでしたが、私は見たままの感動を伝えたい! イルカや人の身体が歪むのはあり得ない!と思い、広角だけれども歪まないような絵作りをするためにレンズとドームポートの組み合わせを研究し、作品作りをしてきました。
ドルフィンスイマー・写真家・水中モデルとしての活動を始めた頃の写真で、当時いくつかのフォトコンテストに応募して入選した中の1枚。海の中から眺めた太陽の光、水の煌めき、そしてイルカと人が心通いあっているようすが伝わり、大好きな1枚です!
■2010年 環境フォト・コンテスト 日立情報システムズ賞「きらきら」
■撮影者名:福田克之
■撮影地:御蔵島
イルカを撮影したい人とイルカと一緒に撮られたい人のニーズを生かした企画を
編-昨年、ドルフィンスイマーを写した写真展及び公募展を開催されましたが、いかがでしたか? また今後のご予定を教えてください。
あやの-イルカと泳いでいるところを撮って欲しい人(特に女性)はとても多く、撮影したい人と撮られたい人を結びつける場になればと企画プロデュースしました。
ただ、展示なんて恐れ多い〜と遠慮して応募してくれない友人も多く(笑)、もっと気軽に展示できる場があればいいなと感じました。
今はデジタルでSNSなどにアップして終わり、写真をプリントしたことがない人が大多数だと思いますが、プリントして部屋に飾るのも良いものです。
ぜひ、お気に入りの写真をプリントしたり飾ったりして楽しんでください!
今後のことは……テレビや映画出演、カタログなどの掲載などの話をいただいていますが、また決まってからマリンダイビングwebにもお知らせします(笑)。まずはマリンダイビングフェアのステージ(4/2土 13:45~ 鈴木あやのトークショー 「野生のイルカと泳ぐ、その魅力とは」)を楽しみにしています♪
編-ありがとうございました。
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