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水中写真家 作品探訪

半水面写真で新たな風を

三浦エリカ Erika Miura

女性半水面写真家として誰も見たことのない景色を撮ってみたい

テレビ局出身の異色写真家

三浦エリカ

撮影機材 OM-D E-M1 Mark II、LUMIX G FISHEYE 8/F3.5
撮影データ 焦点距離:16mm 1/800秒 f/4 露出補正:±0 ISO200
沖縄県石垣島周辺では、冬の時期になると餌となるプランクトンを求めてマンタが水面へやってきます。大きな口を開けてお食事中の様子を撮影しました

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-三浦さんは慶應義塾大学環境情報学部卒業とのことですが、大学に入る頃はどんな夢を持って、志望大学を決めたのですか?

三浦エリカさん(以下、三浦)-もともとテレビっ子だったこともあり、テレビを通して自分の制作したものを多くの人に見てもらいたいという思いから、マスコミ業界に強い大学への進学を決めました。在学中はアラビヤ語を勉強してみたり、バックパッカーとして海外を一人旅してみたりと、自分の知らない世界を知ることに時間を使っていました。

-活動的な大学生だったのですね。2014年に大学を卒業後、テレビ局に就職。どんな仕事をされていたんですか?

三浦-テレビ局では番組制作の部署に配属され、実際にスタッフとして制作に携わっていました。具体的には番組で取り上げる内容の検討やリサーチ、台本制作、ロケ、編集、放送の立ち合いなどです。自分が作った映像がテレビで流れ、それを数十万人、数百万人の方に見てもらえるというのはとても刺激的な体験でした。

-おもしろそうですが、なぜそこから水中写真家になったのでしょう? ダイビングはいつ始めたんですか?

三浦-ダイビングを始めたのは大学生の頃です。バックパッカーをしていた時、たまたま同じ宿でダイビングインストラクターの方に出会い、「世界中を旅しているのに、どうして陸の上しか見てまわらないの? 地球の70%は海でできているんだよ」と言われたのがきっかけです。その後すぐにタイのタオ島でライセンスを取ったのですが、初めての海洋実習で数え切れないほどの魚の群れに囲まれたことを今でもよく覚えています。その瞬間、陸上では決して出会えない美しく壮大な海の景色に一気に惹かれてしまいました。
水中写真家という選択肢を考えたのは、テレビ局で働いていた時です。テレビの仕事はやりがいが大きく、たくさんの人に自分の作ったものを見てもらえる喜びもあったのですが、次第にもっと自分自身でいろいろな場所に行き、自分の力で発信してみたいと思うようになりました。そんな時、以前から好きだったダイビングと旅という自分の興味を掛け合わせ、水中写真家という仕事ができたら楽しいのではないかと思いつき、テレビの仕事を辞めてダイビングインストラクターとしてまずは働くことを決めました。

清水淳さん率いる店でスタッフに

-ものすごい行動力ですね。しかも仕事を辞めて沖縄の、清水淳さんがいらっしゃる《マリーンプロダクト》で働きながら水中写真を学んだのだとか。

三浦-2018年からの2年数カ月間《マリーンプロダクト》にいました。水中写真の基礎的な知識や撮影に必要なダイビングスキル、生物への向き合い方など、働いている中で清水さんの後ろ姿を見ながらたくさん学ばせていただきました。この時の経験が私の今の活動の礎となっています。
2年半ほど那覇に滞在していたのでそろそろ環境を変えたいと思い、2021年に石垣島に移りました。那覇が大きな都市だったのでもう少し小さな島がいいと思ったのと、石垣島は周辺にある八重山諸島をつなぐハブの役割を担っているので、様々な島の雰囲気を感じながら楽しめそうだと思ったのが理由です。実際に石垣島に住んでみると、自然をより近くに感じることができ、創作活動にも反映されることができたのでとても良い環境でした。

フォトコンテストでグランプリや最優秀賞を獲得!

三浦エリカ

撮影機材 OM-D E-M1 Mark II、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
撮影データ 焦点距離:16mm 1/320秒 f/7.1 露出補正:±0 ISO250
東京都御蔵島は、周辺に生息する野生のイルカと一緒に泳ぐことのできる世界的にも珍しい場所。優雅に泳ぐイルカと御蔵島を一緒に写しました。OM SYSTEM主催のフォトコンテストOM SYSTEM GALLERY「Limelight」Under40部門でグランプリを獲得した作品

-三浦さんは2020年頃から国内外の主に水中写真コンテストで様々な賞を取り、2022年にはOM SYSTEM主催のコンテストでグランプリを獲得されています。さらに今年は第41回「日本の自然」写真コンテストでプリント部門最優秀賞を取っています。

三浦-フォトコンに応募するようになったきっかけは、せっかく納得のいく写真を撮っても誰にも見てもらえなかったら意味がない、と思ったからです。特にOM SYSTEMのコンテストはグランプリの副賞がOM SYSTEMギャラリーでの個展開催だったので、20〜30点の半水面写真をポートレートにまとめ、気合を入れて応募しました。水中写真や半水面写真は、ダイバーの方にとっては身近で興味を持って見てもらいやすいのですが、ノンダイバーの方にはなかなか届きにくいのが現状です。個人的には、海に興味のない方にこそ私の写真を見てもらい、地球や水中世界に思いを馳せてもらいたいと考えています。なので、OM SYSTEMというカメラメーカーのギャラリーで個展を開催させてもらい、ダイバー・ノンダイバー問わずたくさんの方に見ていただけたのは大きな転機だったと思います。残念ながら、仕事はあまり増えていません(笑)

半水面写真は撮影前の情報も大事

三浦エリカ

撮影機材 OM-D E-M1 Mark II、OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
撮影データ 焦点距離;16mm ±0 ISO1600
マングローブは豊かな生態系の要となるだけでなく、地球温暖化の抑制や防災においても大きな役割を果たしています。マングローブの若木・天の川・街明かりを同時に写すことで、自然と宇宙と人間の繋がりを描き、この星の「希望」を表現しました。朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会主催の「日本の自然」写真コンテスト【プリント部門】で「希望」というタイトルで最優秀賞を受賞

-半水面のお写真ですが、ポンと行って撮れるものではないと思います。三浦さんはどうされているのですか?

三浦-「日本の自然」の写真についてお話ししますと、星空の半水面写真は、数年前から構想していました。少しカメラの技術的な話になりますが、半水面写真は水中と陸上の両方にピントが合っているように見せるため、レンズの絞りを絞るのが一般的です。一方で星空を撮影する時には、少ない光を取り込むために絞りを開くことが多いです。つまり星空を半水面で撮ろうとする時、水中と陸上の両方にピントが合うようにすると星が映らない、星が映るように撮ると片方にしかピントが合わないというジレンマがあり、この問題を解決するのに非常に長い時間と労力がかかりました。他にも天候条件や潮汐、海況など様々なコンディションが全て整わないと撮影ができなかったため、コンセプトを決めてから2年ほどかけて実現させた1枚です。

まだ誰も見ていない景色を撮影したい

三浦エリカ

撮影機材 OM-D E-M1 Mark II、LUMIX G FISHEYE 8/F3.5
撮影データ 焦点距離:16mm 1/250秒 f/4 露出補正:±0 ISO250
ザトウクジラは冬になると出産や子育てのために沖縄周辺へとやってきます。寄り添いながら泳ぐ親子クジラの様子を撮影しました

-やはり2年もかけて撮ることができたお写真だったんですね。ところで、水中写真の世界でプロの女性水中写真家は日本ではとても少ないのですが、どのように感じていますか?

三浦-確かにダイビング器材やカメラ機材はとてつもなく重いし、水中でも陸でもある程度の体力が求められるし、海外などへ潜りに行く際には男性よりも危険が伴うため、女性の方がどうしても不利な場面が多いのは事実だと思います。ただ世界へ目を向けてみると、女性の水中写真家も多く活動しています。作品が良ければ男女関係なく評価していただける世界だと信じているので、周りと比べずひたすら自分の感性のままに邁進したいと思います。でもやっぱり、もう少し女性の水中写真家が増えてくれると嬉しいですね。

-先ほどお仕事は増えないとおっしゃっていましたが、次に狙っているフォトコンテストがあれば教えてください。

三浦-私の場合「このフォトコンに出したいから写真を撮ろう!」という動機ではなく、納得のいくいい写真が撮れた時にマッチしそうなフォトコンがあれば応募するというスタイルなので、現時点では未定です。とにかく今は自分がいいと思える写真と撮影することに専念したいと思います。

-「マリンダイビングWeb」ではライターとしても活躍されていますが、今後、どのような活動をしていきたいですか? また、撮ってみたい写真、写真集や写真展のご予定があれば教えてください。

三浦-私が今、活動の軸としている半水面写真は、自然が作り出す風景やそこに暮らす生き物の生態をより多くの情報とともに伝えられるという点において意義深いものだと考えています。カメラを半分だけ水に浸して撮影するこの技法は、確かにそこにあるけれど誰も見たことのない風景を切り取ることができます。これまではコロナ禍ということもあり日本を中心に撮影していましたが、これからは積極的に海外にも行き「確かにこの地球上に存在しているけれど、まだ誰も見たことのない景色」を撮影し続けたいと思っています。

-半水面を中心とした、女性の水中写真家というだけで、“まだ誰も見たことのない”プロフェッショナルではあると思いますが、これからも頑張ってほしいです。ありがとうございました。

三浦エリカ
Erika Miura

PROFILE
みうら えりか
1990年横浜生まれ。慶應義塾大学卒業後、テレビ局へ就職。
その後、沖縄でダイビングインストラクターとして働きながら写真家・清水淳氏の下で水中写真を学ぶ。
水中と陸上を一緒に写した半水面写真に魅了され、現在は半水面写真家として活動を行う。
2023年、OM SYSTEM主催の若手写真家支援「Limelight」Under40部門にてグランプリ獲得。
2024年、第41回「日本の自然」写真コンテストプリント部門にて最優秀賞を受賞。
「マリンダイビングWeb」のライターとしても活躍中。

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Instagram

三浦エリカ
Erika Miura

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