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水中写真家 作品探訪

ジャーナリスティックな視点から海の中を切り取る!

道城征央 Masahiro Michishiro

道城征央

沈船は後世に語る
ミクロネシア連邦の中でも印象深いチューク諸島。「富士川丸」のエンジンルーム。静かな中に横たわる沈船。静かだけど語りかけたいこと、考えなければならないことはたくさんある

ジャーナリスティックな写真家活動を展開

編集者時代にダイビングと出会い、水中写真家に

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-道城さんが水中写真をお仕事にされたきっかけを教えてください。

道城征央さん(以下、道城と表記)-将来のことを考えるようになる中高生のあたりから、将来はクリエイティヴな世界で仕事したいと思っていました。営業系はまったく興味なしでした。今フリーで仕事してると営業が一番大切なんですがね(笑)。しかし自分には何もできない。それでもクリエイティヴな世界に身を置きたいと思い、音楽専門誌の編集者などマスコミの世界で仕事していました。しかし編集者って実際はカメラマンが撮った写真、ライターが書いた文章などの素材をデザイナーに渡して自分のイメージ通りのページを作るという、いわば現場監督のようなもの。やりたいことと「ちょっと違うな」と思っていました。逆に当時仕事をしていたカメラマンにしてもライターにしても皆、僕の思い通りのページを作ってくれる。そこにすごさを感じました。カメラマンに「こう撮ってくれ」と発注するとそれ以上のものがあがってくる。スゴいなと。逆に自分は何だかモヤモヤしている中で編集の仕事をしていました。職場は何度か変わり、雑誌以外の仕事もしていましたが、すべてディレクター的な仕事、現場監督的でした。
そんななか、たまたま始めたダイビング。最初のファンダイブからカメラを持って海に入っていました。当時のイントラが「何もないより、カメラでも持って入ったほうが良いですよ」と言ってくれたので、器材とカメラ(コンデジ)も一気に購入。伊豆でよく潜っていましたが、2ダイブで100枚以上平気に撮っていましたね。写真を撮るという行為にハマったんでしょう。徐々に撮りたいものも明確になっていき、その後一眼を持って入るようになり、写真もたまってきました。編集者でしたので、自分で一点物の写真集を作りました。コピー入れたり、見出しをつけたりして。それをダイバー仲間に見せたら皆「いいじゃん」「かっこいいよ」と言ってくれました。“こんだけ反応良いのなら写真展でもやってみるか”ということで写真展を始め、そしてこれで身を立てていこうかと思ったのです。
なので、僕の場合、編集者というカメラマンを使う立場から、真逆に変わっていった訳です。真逆になってものすごく良かったと思っていますね。

-カメラマンとしてどんな仕事をされてきたのですか?

道城-訪れるのはリゾートのような場所ではなく、ライフラインもない、あっても安定しない場所が多く、特にミクロネシア連邦へは頻繁に訪れるようになりました。
一時はグラビアなどもやっていましたが、編集者をやっていたんで取材経験も豊富ですから、その後はジャーナリスト的な活動をしております。取材対象者はガラッと変わりましたがね。
東日本大震災以降は講演、セミナーなどを多く行っています。テーマとしては「人と自然との関わり方」です。一応カメラマンですので、写真をスライドで見せながら話を進める形ですね。また自分でも環境セミナーを多く主宰しています。また埼玉動物海洋専門学校という園館の飼育員、ダイビングイントラ、ドルフィントレーナーなどで働きたい子を相手に自然環境保全論、海洋環境学の授業をもっています。
なので、最近の肩書きは水中カメラマン兼フォトジャーナリストとしています。

ミクロネシア連邦には撮影テーマがあふれている

道城征央

島の主
ポンペイは降水量も多く、山の養分が海へ流れ込む。そのためプランクトンが多く透明度は低い。しかしそう言った場を好む生き物がマンタだ
撮影機材 ニコンD300 18〜50mm

-近年もミクロネシア連邦によく行かれていますね。

道城-ミクロネシア連邦は4州、607の島からなる島嶼国です。すべての島には行ってませんが、主要な島――ヤップ島、チューク諸島、ポンペイ島、コスラエ島は制覇しています。
インパクトを考えるとどこも違った色があって面白い。ヤップはトラディショナルな雰囲気を残す島ですし、チュークは沈船ダイビングの聖地かつジープ島といった癒しの楽園もあります。ポンペイは800m級の山があり、年間降水量も世界有数だけに山の養分が海に流れ込み、透明度は落ちる中、プランクトンを求め、マンタやギンガメアジの魚群に出くわすチャンスが多い。まさに山と海とのつながりを感じることができます。またコスラエはマングローブに囲まれた島だけにその重要性を知ることもできます。
またミクロネシア連邦は戦前より日本との関わりも多くあり、今の日本人が忘れていることもこの国で再確認することもできます。

人間は海の生きものに学ぶことが多い

道城征央

都内の水族館
母島の海は母という言葉がついても女性らしさはなく、むしろ豪快で、多様な魚が集まってくる
撮影機材 ニコンD810 16mm

-水中撮影を通じて、人生を変えるほど大きな出来事はありましたか?

道城-僕はミクロネシア以外に小笠原諸島にもよく行きます。小笠原はミクロネシアとも関わりがあったので自身の中では非常に重要な場所です。特に母島では特例許可をもらってザトウクジラを撮影しています。小笠原で見られるザトウクジラは母子とエスコートと呼ばれるオスです。母子は片時も離れることなく泳ぎます。ただそれでも母親のほうが泳力あるんで、子どもより先に進んで行き、差が生まれてしまいます。すると母親は子どもが追いつくまで進んだ先で待っているんですよ。同じ海の中でも魚って待つというイメージないじゃないですか。いつも止まらず泳いでいる。でも彼らは止まることができる。それだけのことですが、子どもに対する母親の愛情を感じましたね。人間の場合、子どもを車に放置して死なせたり、虐待によって殺してしまったりと、そういう事件が多いですよね。子どもへ対しての愛情の深さは人間以外の生き物のほうが大きいと感じました。人間は決してエラくないですし、自然を牛耳ろうなんてもってのほかだと思います。もっと自然やそこに暮らす生き物から学んだほうが良いですよ。
あと余談ですが、小笠原諸島は東京都です。都内にザトウクジラが来るってすごくないですか?

あってはならない物がある不自然さをなくすために

道城征央

ゴミを集めるダイバー
コスラエ島にて。ゴミはサンゴに絡まりそれを死滅させ、島という土地が脆弱になる。温暖化による海面上昇以外に人的な圧力も土地が消える原因
撮影機材 ニコンD810 18mm~35mm

-人と自然の関わり方をテーマに、具体的にはどんな活動をしているのですか?

道城-もともとは僕が住む目黒区中目黒で近隣の企業、住民などと一緒に清掃活動を始めたのがきっかけでした。「中目黒村美化委員会」という任意団体を僕が作り、この活動はコロナ禍であっても継続させており、月に2度必ず行っています。中目黒は近くに目黒川が流れ、春には桜も咲きとてもきれいです。反面オーバーツーリズムで特にその時期はゴミが多いんですよ。
カメラマンとして想うことがあります。それは「あってはならない物があるという光景を不自然に感じたから」です。あってはならない物とはゴミ。撮った写真を後で見ると端っこにゴミが写り込んでいた。やっぱりそれなら最初からないほうが良いんです。なので清掃活動を行っています。また海洋ゴミの80%は川由来といわれていますので、海へ流れる前に食い止めるというのが大きな理由ですね。
また「Think Globally, Act Locally」という言葉があります。世界規模のことを考える前に、足下にある問題から解決しようということです。サンゴや気候変動のことを考えることも重要ですが、その前にもっとやるべきことがあるんじゃないの?と。
地元でそんな清掃活動をしていたら、ポンペイで環境活動を行っている麗澤大学(南柏)の先生や学生たちと知り合いました。彼らはPBL(Phenomenon Based Learning 科目にとらわれず一つの授業で複数のことを学ぶ)の一貫でポンペイで環境活動を行っています。ならば一緒に何かやろうと、ポンペイで清掃活動を行うことに。「マイクロクリーンアップキャンペーン」と呼んでいます。
ただ日本人という部外者がポンペイでそういうことをすることは非常に気を遣います。「オマエら、俺たちの島が汚いっていうこと?」と思われかねないからです。相手を不快な思いをさせる可能性もあります。これを心に留めておいたほうが良いですね。
ですから、清掃活動にはなるべく多くの島の人たちを誘い、麗澤大の学生たちとポンペイの小学校へ出前授業を行いました。もちろん僕は写真を見せながら島の自然を子供たちに話しました。
同じようなことは隣のコスラエでも行いました。現地のNGO、JICAボランティアなどと一緒に清掃活動を行った後、出前授業をしました。またチュークではJICAの草の根支援で訪れている八王子市の職員の方々、現地NGOと行いました。
現地の方々にゴミを捨てないという意識を持ってもらえるようになってきたのではないかと思っています。

-環境セミナーも開催されていますね。

道城-講演、セミナー、専門学校講師と、僕の場合はどちらかと言うとノンダイバーを相手にしています。「サンゴがよくない」「気候変動が起きている」「マイクロプラスチックは良くない」と言われてもピンとこない人が多いと思います。ダイバーならサンゴの重要性はわかるでしょうが、ノンダイバーは「サンゴが危ないと言われて、それが非常に重要だと言うのもわかるんだけど、東京に住んでるとピンと来ない」と言う人が多いです。そこをどう教えていくかが問題であり、そのためには1回こっきりではなく継続的に実施していくべきと思い今もやっています。
少し前はRGBlueの久野義憲社長協力のもと、ショールームを貸してもらって、そこをベースに「エコ自然塾」というセミナーをやっていました。しかしコロナ禍でオンライン主体に。昨今は対面で、しかもよりノンダイバー対象ということで「めぐろエコサロン」を目黒区内で実施しています。継続的にということを考えて、月1回の頻度で開催しています。
ちょっと前後しますが、まずは地元でやっている清掃活動に参加してもらって、身の回りの環境問題を知り、その後「めぐろエコサロン」に参加してもらって、地球上にある環境問題を知ってもらえれば良いかなと思っています。

自然の大切さを知ってもらう活動を続けていきたい

-今後のご予定を教えてください。

道城-まだ先ですが11/21〜11/25に写真展を開催します。海外へ清掃活動の場を広げるきっかけになった地元中目黒、そこにあるギャラリー(SPACE M)でやります。2019年にも写真展を開催したのですが同じ場所になります。内容もそれの延長版になりますが、ミクロネシア連邦以外に、今回はガラパゴス諸島、小笠原諸島の作品も加えます。それら各地の美しい自然とそこでたくましく生きる生き物、そして各地にある「負」の部分、つまりゴミ廃棄物の状況、そしてそれらを撤去するために活動している僕たちを紹介していきます。
ガラパゴス諸島は僕とNPO「日本ガラパゴスの会」との共催でツアーを過去に実現しました。どうせ僕が主催者なのなら現地の子供たちと清掃活動しようと言うことでサンクリストバル島、サンタクルス島で清掃活動を行いました。現地の子供たちの環境に対しての意識の高さを知り、その模様も皆さんにお見せしたいと思っております。
水中カメラマンでありながら清掃活動を地元や海外でやっているなんて例はあまりないと思いますが、「あってはならない物があるというという光景を不自然に感じたから」という想いと「Think Globally, Act Locally」の気持ちを持ちつつ公表活動を続けていきたいですね。

-とても大事なことだと思います。これからも頑張ってください!

道城征央
Masahiro Michishiro

PROFILE
みちしろまさひろ
水中カメラマン/フォトジャーナリスト/ビジュルア環境学。ミクロネシア連邦はジープ島、チューク諸島、ヤップ、ポンペイ、コスラエや同国の離島、小笠原諸島におもむくことから「南海の放浪カメラマン」の異名を持つ。また水中に限らず、陸上や現地の生活風習も撮る。
現在「本来あってはならないものがあるという光景を不自然に感じたから」という想いのもと、マイクロクリーンアップキャンペーンを起ち上げ、ミクロネシア連邦で環境活動(清掃活動、出張授業)をおこなう他、“Think Globally, Act Locally”の理念により地元(東京・中目黒)で中目黒村美化委員会を結成し、海への入り口である川(目黒川)の美化活動(清掃活動)をおこなっている。
また東北の震災以降、「人と自然との関わり」をテーマに講演、セミナー活動を行うと同時に埼玉動物海洋専門学校(大宮)で「自然環境保全論」「海洋環境学」の講師を務める。現在では2012年から続いている自身主宰の自然環境セミナー「エコ・自然塾」をリニューアルさせてRGBlue協力のもと再開、自身で撮った写真と動画を用いて自然環境や海洋環境、生物多様性の話しをおこなっている。

●ミクロネシアでは以下の環境活動を実施中!
https://blueshipjapan.com/crew/masamichishiro

●都内では以下の環境活動を実施中!
https://blueshipjapan.com/crew/nakamebika

公式HP

道城征央

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