- ホーム
- 水中写真
- 水中写真家 作品探訪
- 上出俊作
感動の一瞬はこうして生まれた…… フォト派ダイバー必見! |
被写体の魅力にこだわったら“青のない”水中写真に
上出俊作 Shunsaku Kamide
沖縄に惹かれ住み着いたら、近くの海の宝物たちを撮る写真家になっていた
ダイビングと出会い、すっかり魅了され…
マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-上出さんは大学4年の時にダイビングと出会ったそうですね。
上出俊作さん(以下、上出)-2008年の12月に、サイパンでCカードを取得しました。それ以前に沖縄の海でスノーケリングをして水中の世界に興味が湧いていたところに、たまたま友人からの誘いがあり、サイパンでCカード取得ということになりました。
実はサイパンでの初めてのダイビング(OW講習)の記憶はあまりないのですが、その後すぐに一人で訪れたの石垣島でのダイビングが楽して。そのとき石垣島の現地ガイドさんが見せてくれた写真のインパクトが、もの凄かったんですよね。3枚のマンタが乱舞する様子を、一眼レフとフィッシュアイレンズで画面いっぱいに収めていて。
いつかこんな写真が撮りたいな、と朧(おぼろ)げに思ったことから、自分の水中写真人生が始まったように思います。
編-卒業後はいったん就職されて営業マンをされていたそうですが、その間、ダイビングはどんなスタンスで行かれていたのですか?
上出-配属が横浜の営業所だったので、週末は伊豆、GWや年末年始など長い休みがあると沖縄、という感じでダイビングをしていました。
ダイビングを始めた時からコンデジで水中撮影をしていて、「もっといい写真が撮りたい」という思いが徐々に高まり、オリンパスのミラーレス一眼、ニコンの一眼レフ、とステップアップしていきました。
2012年にPADIのインストラクター資格を取得し、横浜の都市型ショップで週末イントラ&ガイドもしていたので、本業よりもダイビングと水中写真に夢中でしたね。
沖縄に住みたい!が第一歩に
編-会社員を辞めて水中写真家になろう!と思ったきっかけは何ですか?
上出-製薬会社をやめたのは、水中写真家になりたかったからではなく、ただ沖縄に移住したかったからなのです。ダイビングを始める前から沖縄にはまって一人旅をしていて、ダイビングを始めてからはさらに沖縄にはまり、沖縄の海の近くに住みたいという思いが抑えきれなくなりました。
会社員を続けている限り、沖縄移住は叶いそうになかったので、動くなら独身で若いうちかなと思い、思い切って仕事をやめました。まあ、今も独身ですが。
沖縄移住し水中撮影環境が整って……
なりゆきでなった水中写真家は天職!
サンゴ
伊江島のサンゴを初めて見た時、家の近くにこんな光景が広がっていたのかと驚いた。大潮で凪の日を狙って、干潮のタイミングで撮影した。沖縄の海の近くで暮らしているからこそ撮れた写真だと思っている
撮影機材/Nikon D850、AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm f/3.5-4.5E ED、NA D850 自然光
撮影データ/f13、1/400秒、ISO500
編-沖縄に移住された後はどうされていたのですか?
上出-移住する時には、沖縄の海の近くで暮らして、休みの日に趣味で水中写真が撮れたらいいなと思っていました。実は、ゆくゆくは自分で飲食店でもやろうと思っていて、移住後は那覇のBARで修行し始めたのです。しかし、働き始めてすぐに「自分には合っていないし体力的にも無理だ」と感じ、2カ月ほどで辞めて、路頭に迷いました(笑)。
とはいえ働かないと生きていけないので、ザ・リッツ・カールトン沖縄に就職し、レストラン・バー部門でしばらく働いていたのです。
リッツ・カールトンが名護にあったので、その時名護にやってきて、気に入って今も住んでいます。
編-そんな上出さんが水中写真家になったきっかけは?
上出-ホテルで働いていた頃に仲の良くなった友人と先輩が「水中写真で勝負できるよ!」と言ってくれたのが、水中写真家になろうと思ったきっかけでした。
水中写真はずっと趣味で続けるつもりで、仕事にしようと思ったことはありませんでしたが、「そう言ってくれる人がいるならやってみるか」という感じで、ブログから始めました。
なので、水中写真家を目指したり夢見たりしたことはなく、いろいろなものに流されてここまで来たという感じです。
今ではもちろん水中写真家としての自覚や思いはありますし、天職だと感じることもありますが、同時に「自分が写真家?」とふと不思議に思うこともあります。
沖縄での水中撮影で自分が感じることは、そこに根を張って暮らしているからこそ撮れる写真があるということですかね。
星野道夫さんが好きなので、一つの場所に根を張って撮り続けたいという思いがあります。
編-流れに乗るのも人生ですね。どなたか師事された水中写真家はいるのですか?
上出-どなたかに教わるということはありませんでした。“尊敬”という意味では、水中写真家の皆さんを尊敬しています。個性的で、思いのある方が残っていると思っていますので。ただ、「あの人みたいになりたい」と思ったことはありませんでしたし、今もありません。
尊敬や憧れとは違う気がしますが、ダイビングを始める前から、高砂淳二さんの写真と文章が好きでした。そんな話を周りにもしていたようで、自分の誕生日に、友人が高砂さんの写真集をプレゼントしてくれたことを今も覚えています。
そういう意味で、2024年4月に発表となる第2回日本水中フォトコンテストの審査で高砂さんとご一緒できるのは本当に嬉しいですし、感慨深いです。
水中で暮らす小さな生物の魅力を最大限に引き出したい
カクレクマノミ
ダイビングを始めた頃からずっと大好きで通っている石垣島。この島では、サンゴそのものも、サンゴの仲間に暮らす生き物も、たくさん撮影してきた。2022年には大規模なサンゴの白化現象が確認されたが、またいつか元気な姿を見せてくれるだろう
撮影機材/Nikon D850、AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED、NA D850、Z-330
撮影データ/f7.1、1/250秒、ISO64
編-上出さんの作風は、背景がパステルカラーで被写体もかわいらしく、海といえば青色一辺倒だった世界に一石を投じられています。何がきっかけでそういう作風になったのですか?
上出-元々「青のない」水中マクロ写真を撮ろうという気持ちはありませんでした。水中で暮らす小さな生き物たちの魅力を最大限写真に乗せるためにはどうすればいいか?という思いで撮影していくうちに、自然と写真から青が消えていました。
2022年の写真展開催、写真集刊行の際、「青のない水中マクロ」というコンセプトが固まり、それ以降は意識的に青のない水中写真を撮っています。また同じテーマで発表したいので。
ちなみに、実際に画面の中に海の青が入っていないということもありますが、意識としては、「青かぶりさせずに被写体が本来持つ色を再現したい」という思いのほうが強いですかね。
編-そうした“上出作品”を撮る際はどのように工夫されているのでしょう?
上出-一番大切なのは、青被りを防ぐために、自然光を入れないことです。自然光が入っていない状態で、ストロボ光だけで撮影すると、被写体の色を再現することができます。そのためには、シャッタスピードはできるだけ速く、ISO感度はできるだけ低く、が基本です。
中層を泳いでいる魚だとどうしても海そのものが入ってしまうので、そういう被写体は自然と避けていますね。
陽だまりのような水中写真たち
編-2022年の写真集、写真展に使われた『陽だまり』というタイトルもとても素敵だと思います。どのような思いで命名されたのですか?
上出-ブログを始めるときに、ブログ全体のタイトルを決める必要がありました。自分の作風に合っていて、明るい雰囲気のものがいいなと思い、いろいろ悩んでいました。
結果的には当時自分にとって大切だった方が、僕の写真を見て「陽だまり」という言葉を出してくれました。それからブログを「陽だまりかくれんぼ」という名前でずっと続けていて、写真展・写真集の時も色々悩んだ末「陽だまり」が一番しっくりくるなと。
僕の作品、特にマクロの世界を一言で表すなら陽だまりしかないなということになりました。
冬はザトウクジラの撮影に夢中
ザトウクジラ
水中写真家になる前からザトウクジラと泳ぐことが夢だった。
奄美大島でホエールスイムを始め、この島でクジラのことを一から勉強させてもらった。笑顔の船長がクジラの向こうで手を振っているのが見えた時には、自然と半水面を狙っていた
撮影機材/Nikon D850、AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm f/3.5-4.5E ED、NA D850、自然光
撮影データ/f9、1/640秒、ISO220
編-今後、こんな水中写真が撮りたい!とか、行ってみたい撮影フィールドなどがありましたら教えてください。
上出-沖縄が好きで沖縄に移住したので、これからも沖縄の海に関わるテーマを撮り続けていきたいですね。
「青のないマクロ」も、自分の代名詞的なテーマになりつつあるので、これは撮影地にかかわらず続けていきたいです。
水中以外では、2023年に初めて憧れのアラスカに行って、アラスカの中でも北極圏に惹かれたので、またアラスカ北極圏に行こうと思っています。
編-2022~2023年は宮古島フォトコンテストの審査員を務め、第2回日本水中写真コンテスト2024でも審査員をされるとのことですが、フォト派ダイバーの作品を見て感じることがあったら簡単に教えてください。
上出-僕のような駆け出しの水中写真家に審査員という大事な仕事を任せていただいたので、できるだけ一つひとつの仕事を丁寧にやろうとは思っていました。
皆さんの作品を拝見していて感じることはいろいろありますが、一つは、「やっぱり水中写真っていいな」ということですね。海の中には野生の生き物がたくさんいて、色もたくさんあって、ストロボを使ったり自然光で撮ったり、撮り方も無限に工夫できる。
こんな写真が撮れるのか〜こんな世界があるのか〜と、審査のたびに感動しています。
それと同時に、どうしてもダイビングの延長線上に水中写真があるので、なんとなく紹介されたから撮ったというような写真が多いのも事実です。これは自分自身の課題でもありますが、写真全体あるいはアートという広いくくりの中で、キラリと輝く水中写真が増えたらいいなと感じています。
編-本当ですね。さて、今後のご予定があれば教えてください。
上出-テーマとしては、水中写真家として活動し始めた時から撮り続けている奄美・沖縄のザトウクジラと西表島のマングローブは、2025年以降に発表しようと思っています。
ある程度公的なフォトコンテストだと、この後は第2回日本水中フォトコンテスト、第9回伊豆大島海中フォトコンテスト2024 の審査員を任せていただいています。
編-応募するほうも楽しみですね♪ 上出さんの将来の夢をお聞かせください。
上出-流され流されやってきているので、成し遂げたい大きな夢はありません。ただ、何者でもなかった僕を信じてついてきてくれた人、応援し続けてくれている人がいるので、そんな方々に恩返しできたらと思っています。そのためには、写真を通してチャレンジし続けて、みんなと一緒に夢を見続けられたらいいなという気持ちです。
目の前の人たち、そして自分の仕事と誠実に向き合っていけば、またいつか素敵な世界に流れ着くだろうと、ふわっと思っています。
編-素敵な世界に流れ着きたい! 本日はありがとうございました。
PROFILE |