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感動の一瞬はこうして生まれた…… フォト派ダイバー必見!
水中写真家 作品探訪

リサーチからアプローチするジャーナリスティックな写真家

越智隆治 Takaji Ochi

野生動物とのアイコンタクトに魂が震えた

新聞社の写真記者として水中撮影を始める

マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-越智さんが水中撮影をするようになったきっかけ、動機を教えてください。

越智隆治さん(以下、越智)-18歳からダイビングを始め、プロとして水中撮影を始めたのは産経新聞社の写真記者時代です。もともと潜ることは好きでしたが、当時はまだ仕事としてではなく、趣味の延長でした。新聞社時代には、潜水取材班に所属して、国内外で特に環境破壊などをテーマに企画を立てて潜ることが多かったです。在職中、水中写真で東京写真記者協会賞、新聞協会賞を受賞し、好きな報道潜水取材で賞を頂くなど、恵まれた環境でした。 転機となったのは、仕事で南洋の島々を巡る機会が増えたこと。陸上の取材だけでは伝えきれない、圧倒的な透明度と青の世界に魅了されました。言葉では表現しきれない「海の真実」を視覚化したいという欲求が、本格的にハウジングを手に取る原動力となりました。

野生生物の感情が伝わる距離感で撮る

越智隆治

バハマのイルカ
イルカの写真は気に入ったものがたくさんあります。この写真はイルカたちが、私と一緒にゆったりと、本当にゆったりと海中を水面に向かって泳いでいるシーンです。バブルを出し続けながら、気持ちよさそうに泳ぐ彼らの仲間になれたと感じられる瞬間を切り取れた、本当に幸せな作品です
撮影機材: CANON EOS 5D MarkⅡ EF15mmF2.8 Fisheye
撮影データ:絞りf/8 シャッタースピード1/250 ISO 400

-産経新聞在籍時にバハマや御蔵島のイルカの撮影を始めたことで、撮影スタイルが確立されたように思います。

越智-バハマや御蔵島のイルカたちとの出会いは、私の撮影スタイルに「野生動物との対峙」という軸を植え付けました。彼らは単なる被写体ではなく、意志を持った個体です。追いかけるのではなく、向こうから興味を持って近づいてくれるのを待つ。そのプロセスで生まれるアイコンタクトの瞬間に、魂が震えるような感覚を覚えました。この経験から、生物の生態を尊重しつつ、その「感情」が伝わるような距離感で撮る現在のスタイルが確立されました。

今、この瞬間に立ち会えたという多幸感

同じ空間にお邪魔している一個体として生きものと向き合う

-フリーランスになってから、イルカ以外にさまざまな撮影をして活躍されていますが、何が原動力となって越智さんを突き進ませていたのでしょうか?

越智-フリーになってからの原動力は、「まだ誰も見ていない現場を自分の目で確かめたい」という純粋な好奇心でした。イルカに限らず、様々なクジラやシャチ、バショウカジキ、タイガーシャークなど、被写体が変わっても共通しているのは、生きものが生きている環境そのものに興味があることです。未知の海域や生態に出会うたびに、自分の世界が更新されていく感覚があり、それが次の取材へと背中を押していました。新聞社という組織を飛び出したことで、より深く、より長く一つのフィールドに没頭できるようになりました。また、取材を通じて出会う人々や、現地のガイドたちとの絆も大きな力になっています。

-撮影する被写体はいわゆる大物が多いように思いますが、それはなぜですか?

越智-彼らは海の生態系の頂点や要となる存在であり、その姿を通して環境全体を感じ取ることができるからです。撮影の際は「支配する存在」ではなく、「同じ空間にお邪魔している一個体」として向き合うことを意識しています。恐怖や緊張感も含めて、その場の空気を写し取れた瞬間が理想です。地球のスケールをダイレクトに感じさせてくれるし、クジラやカジキといった巨体と対峙するとき、人間がいかに小さな存在であるかを痛感します。撮影中は、恐怖心よりも「今、この瞬間に立ち会えている」という多幸感に包まれます。単に巨大な姿を記録するのではなく、彼らが海という宇宙の中で、どのように生き、何を表現しているのかを切り取りたいと考えています。

驚異の海を開拓してきたカメラマン

越智隆治

メキシコのシャチの親子
今一番のテーマとしてゲストと一緒に撮影に挑んでいる被写体がメキシコのシャチです。遭遇の確率は、他のスペシャルトリップで会える生きものに比べると低いのですが、今は彼らの生活する海に少しでも長くいることで、交流を深めたいという気持ちが強いです。海の王者のお茶目な一面が見られる体験をさせてもらえて面白いです
撮影: CANON EOS 7D MarkⅡ 8〜15mm F2.8 ZOOM
撮影データ:絞りf/5.6 シャッタースピード1/320 ISO 800

-近年、日本からのダイビングツアーにはなかった海域でザトウクジラやカジキなどの撮影をされています。どうやって見つけたのですか?

越智-クジラやカジキなどの新海域は、机上の調査だけでなく、世界中の現地ガイドや水中写真家、研究者とのネットワークから見つけ出します。噂を聞きつけたら、まずはリサーチで現地へ飛び、自らの足と目で可能性を確かめます。誰も注目していない海域で、予測を立てて海に飛び込み、狙い通りのシーンに出会えたときの達成感は、撮影そのものと同じくらい刺激的です。

感動を共有したいから少人数制ツアーを開催

-そうした珍しい“秘境”へ、一般のダイバーやスノーケラーを連れていくために、旅行会社と提携されていますね。

越智-撮影を続ける中で、「この感動は自分だけのものにしてはいけない」と感じるようになりました。そこで、信頼できる旅行会社と提携し、時には企画段階から関わりながら、少人数制で安全と自然配慮を重視したツアーを形にしています。単なる観光ではなく、生きものとどう向き合うかを共有できる場を作ることが目的です。
基本的には、提携する旅行会社が現地までの旅程手配、私は現地集合現地解散が基本のプログラムとして、受け入れをする形です。

-今また地球上の珍しい海域での撮影に挑んでいるそうですね。

越智-現在は、まだ一般的に知られていないクジラの回遊海域での撮影に挑んでいます。狙いは単なるジャンプや迫力あるカットではなく、繁殖や子育てといった生活の一部が垣間見える瞬間です。そこには、その海域が持つ本来の価値や守るべき理由が凝縮されていると考えています。

海の世界もオーバーツーリズム

環境問題は決して遠い話ではない

-地球の海と接してきて、気になる環境問題、ヒトと生物の関わりなど、考えるところがあれば教えてください。

越智-世界中の海を見て感じるのは、環境問題は決して遠い話ではないということです。プラスチックごみや船の影響、観光圧など、人間の活動は確実に生きものの行動を変えています。一方で、正しい距離感とルールがあれば共存は可能だとも感じています。写真を通して、その微妙なバランスを伝えられたらと思っています。 懸念する一番のテーマは、世界的に大型海洋生物ブームになっていて、海の世界もオーバーツーリズムに陥っていることですね。それと、大型海洋生物との自撮りのブーム。彼らが許せる距離感を無視して接近する行為が増えすぎているし、そのアプローチの方法も、生きものに配慮せず、ただ撮りたいだけになっているのは問題だと思います。あくまで生きもののことを最優先に考え、敬意の気持ちを持って接することをまず皆が意識するようにすれば、だいぶ変わってくると思います。

写真と文章、映像を組み合わせた「海の物語」をつくりたい

越智隆治

メビウスの輪・バショウカジキとベイトボール(人生最高の1枚)
今の時代だとAIではないかと思われるかもしれませんが、バショウカジキの捕食対象のイワシの群れが変幻自在に形を変えて、身を寄せ合うときの動きのほんの一瞬のタイミングを捉えた写真です。人生最高ってことはないですが、とても思い出深い出会いでした。スキューバプロ(器材メーカー)の宣伝に使えるんじゃない?と結構多くの人に言われましたが、僕の中では、「メビウスの輪」というタイトルで、自分の人生のあり方を感じさせてくれる作品になったかなと思っています
撮影機材:CANON EOS 5D mark Ⅱ EF16-35mmF2.8 II USM
撮影データ:絞りf/5.6 シャッタースピード1/400 ISO 800

-これまで撮影してきた中で、この一瞬が良かった、このショットは最高だったということはありましたか?

越智-ありますが、正直いつまでたっても、最終的な完成系にはならないような気がしています。

-越智さんは今後、どのような撮影をしていきたいですか? 夢があれば教えてください。

越智-今後は、より長い時間を一つの海域に費やし、生きものと人の関係性を立体的に記録していきたいです。夢は、写真と文章、映像を組み合わせた形で「海の物語」を残すこと。それが次の世代にとって、海を知り、守るきっかけになればこれ以上の喜びはありません。また、後継者というか、ショップも持っていないのに後継者を育てると言っても……とは思いますが、育てることで、自分はよりリサーチに力を入れて、地球的視野で海の生きものたちを見守っていきたいです。 テーマが広大過ぎるのと、寒いのが苦手という問題点があり、まとめるのが難しいですけど。

-笑。でも越智さんの高い志を知って、一緒に歩んでくれる人も現れるのではないでしょうか。これからも頑張ってください! ありがとうございました。

越智隆治
Takaji Ochi

PROFILE
おち たかじ
1965年9月2日神奈川県生まれ 慶應大学卒
水中写真家
産経新聞社写真報道局(当時)の写真記者及び、潜水取材班を経て1998年にフリーに。
ビキニ環礁に核実験で沈められた戦艦長門や空母サラトガなどを潜ったり、海中の環境公害などを取材する水中フォトジャーナリストとして活動するとともに、イルカ、クジラ、アシカ、マナティ、カジキ、サメなど、世界中の大物海洋生物と泳ぐスペシャルトリップを企画。
2023年に写真展「Inverted World」を富士フイルムフォトサロン東京、大阪、名古屋で開催。 三陸ボランティアダイバーズ理事。

公式ホームページ

越智隆治

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