- ホーム
- 水中写真
- 水中写真家 作品探訪
- 茂野優太
感動の一瞬はこうして生まれた…… フォト派ダイバー必見! |
わきあふれる夢を背負って歩み出した
Under Water Creator
茂野優太 Yuta Shigeno
大瀬崎のボートダイビングで撮った1枚。
10年以上ポイントとして潜られていなかったボートポイントは大復活を遂げ壁一面のソフトコーラルが育っていた。伊豆の海の豊かさを知るキッカケになった。
Nikon z7 fisheye 8-15mm
自然の素晴らしさを引き出せるプロダイバーでありたい
銀行員になるも2年で脱サラ。水中カメラマンを目指す
マリンダイビングWeb編集部(以下、編)-茂野さんはプロフィールに生年月日が公表されていませんが、今回シリーズで紹介する中でも最年少の若手だと思います。おいくつなんですか?
茂野優太さん(以下、茂野)-1991年8月22日生まれで今、30歳です。
編-ダイビングはどこでいつ、始めたのですか?
茂野-横浜国立大学のダイビングサークルで始めました。2010年、大学1年生18歳の時に大瀬崎でライセンス取得して、そのままダイビングにハマって大瀬崎でアルバイトを始めて大学卒業までで800本潜ってました。
編-すごいですね。ダイビング業界に入るのかと思ったら、卒業後は普通に就職されましたよね?
茂野-大学卒業後は横浜銀行で働いてました。なんと配属先は希望通りの藤沢支店で、湘南のエリアを営業で回っているうちに、やっぱり海で働きたいと思い、2016年24歳の時に銀行をやめてダイビング業界に入りました。
最初からカメラマンになりたいと思っていたので、ダイビングショップに就職するということはせず、大学時代の先輩と学生サークル限定のダイビングショップを作ってそこで働いていました。
僕が大学時代に新しく作ったOceanKIDsというダイビングサークルが当初は3人しかいなかったのですが、今では400人規模のサークルになり、そこの学生の子たちの講習やファンダイブ、ツアーをやっていました。
冬などの暇な時期はカメラマンになりたいという思いがあったので、修行のためセブ島のリロアンやインドネシアのラジャアンパットで短期スタッフとして行って、ダイビング業務の手伝いをしながら撮影技術を磨きました。
写真は人を幸せにする力がある
編-脱サラ後、得たものはどんなことですか?
茂野-メインの学生向けダイビングショップの活動は会社の後輩がやってくれていますが、繁忙期やスタッフの休暇などのタイミングは僕も今でも活動していて、定期的にガイドや講習はやっています。
プロのダイバーとしては、ガイドでは生物への寄り添い方、そしてインストラクションでは水中での自分の見え方や姿勢の大切さを知りました。
カメラマンである前にプロのダイバーであり、憧れられる存在になる時もあります。だからこそ生物への優しいアプローチや撮影している姿勢などにはすごくこだわるようにしています。
編-水中写真家として、生きて行こうと思ったきっかけはどんなことですか?
茂野-水中写真家を目指そうと思ったキッカケは銀行で働いていた時です。仕事がちょっと辛いなと思って、ちょっと職場から逃げ出して休憩していた時にインスタグラムに流れてきた1枚の水中写真を見て「あ、もっかい頑張ってみよう」と前向きな気持ちになったことがありました。今はその写真がどんなものだったかすら覚えていませんが、たった1枚の写真が人を明るくすることができる。そして写真には人を幸せにする力があるのかもしれないと思ったからです。
Under Water Creatorの意味
コロナ禍で撮った1枚。社会が大変な中、水中写真を撮ることしかできない自分の無力さと写真の癒す力の大事さを感じながら、そのはざまで撮影した1枚。
Nikon z7 fisheye 8-15mm
編-特に水中写真には不思議と力がありますね。でも茂野さんは水中写真家からまた一歩進んだ表現を肩書にされています。
茂野-Under Water Creatorという肩書きを使うようになったのは海の楽しさを表現したい。そして海やダイビングの楽しさをもっと伝えたいし、知ってほしいと思った時に写真にこだわる理由に疑問を思ったからです。
写真にこだわるよりも自然や海の美しさにこだわりたい。そう思った時に映像や写真や文章、あらゆる面から海っていうのを伝えられる存在になろうと思いUnder Water Creatorという肩書きを使おうと思いました。
編-美しい自然、感動の海がそこにあったのではないかと思うのですが、具体的に決意した場所はありますか?
茂野-実はあんまり、この経験が1本が人生を変えたというものはないんです。
ただダイビングを始めて1個だけ自分の中で確実に変わったのは価値観の軸が増えたことです。
僕は学生時代、周りの友人がするのと同じように就職活動をして、サラリーマンになってと友人と同じような人生を送りたいと思っていました。
自身の親も会社員として長く同じ会社に勤めていました。それしか選択がないと思ってました。
でもダイビングと出会って、好きなことを仕事にしている人たちがいること。学校にいるだけでは感じられない価値観が世の中にはあることを知りました。
当たり前のことですが「好きなことを仕事にしてもいいんだ」ということをその時に知りました。
なんとなくで周りと同じように受験勉強をして同じように就職活動をするだけじゃなく、自分で選択できるということを。
それで僕はダイビングを仕事に。
自分の本当に好きなものを突き詰める仕事がしたいと思って水中写真家になろうと決心しました。
自分自身よりも、この海の素晴らしさ、面白さをどう表現するか?
みんなが潜りたくなるか?を考えて
編-先輩の水中写真家がたくさんいらして、そこに入っていくには勇気もいることだったでしょうし、“茂野優太”として認められる努力も必要だったのではないかと思うのですが、その部分で考えたこと、意気込みなどがあれば教えてください。
茂野-あんまり努力しているつもりや苦労をしているという実感は全くないんです。仕事じゃなくてもダイビングはしたいし、お金を払ってでも今までもずっとしてきました。
だから本当に好きなことを好きなようにやっている感じ。そしてそれを伝えられるなんて、めちゃくちゃいいじゃん! ずっとそんなテンションでここまできました。
だから茂野優太を売り出そう。自分を売り出そうという思いはあまりないです。
どちらかという、この面白い海をどう表現したら、みんな潜りたくなるかな? そればっかり意識しています。
主役は自分じゃなくて自然だったり、その海を紹介するガイドさんであってほしい。
もし唯一、意識していることがあるとすれば……新しいことは全部やってみようということです。
やっぱり水中写真家の中では一番若いので一番失敗しやすいと思います。だから新しいことがあったら、まずやってみる。そしてその失敗や成功した様子を見て同じ業界にいる人が改善してくれたり、より良くしてくれたらいいなと思ってやってました。
伊豆半島の海中の色の豊かさをテーマにしたい
伊東の五島根で撮影した1枚。これだけのソフトコーラルとハナダイが群れるのは伊豆半島ならではの1枚。こんなに身近なところに知らない景色がまだあったと感じた場所でした。
Nikon z7 fisheye 8-15mm
編-茂野さんのフィールドは伊豆半島だそうですが、伊豆半島の海にどんな魅力を感じていらっしゃいますか?
茂野-伊豆半島の魅力は色だと思います。
多種多様なソフトコーラルやホヤ、カイメンなどが海底を覆っています。一見色の少ない世界に見えますがそこに光をあてると驚くほど色鮮やかで美しい景色が広がっています。
伊豆半島の海の豊かさは海産物やジオ、深海などで語られることが多いですが、色をテーマに水中の豊かさを表現するという僕のコンセプトも伊豆半島でできました。
ダイビング専門の映像編集者にも光を
編-また海の魅力を写真だけでなく映像を通して伝えていらっしゃると思います。1ダイブでスチールと動画の割合はどんな感じで考えて撮っていらっしゃいますか?
茂野-基本的にはスチールと映像は1ダイブごとに分けて撮るようにしてます。僕はそんに器用なタイプではないので写真の時はとことん写真の頭で行きたいし、映像の時は映像の頭でいきたい。
一瞬の今しかない驚きの瞬間を撮りたいという思いよりかは、日常のその海を自分らしい目線で撮りたいという思いが強いので、撮影は比較的のんびり、本数も多めに潜るようにしています。
編-動画の編集作業はどうされているんですか?
茂野-動画の編集は基本的には相方の石井健斗くんという大学生がやってくれています。
いまダイビングの仕事というとガイドやイントラが主流になっていると思うのですが、もっとダイビング専門の映像を編集する人やダイビングに付随する仕事が増えて行ってほしいと思っています。
だから動画の編集など石井くんのような才能ある子とチームを組んで、そんな子に新しい仕事を作ってあげられたらと思っています。映像は音楽のように見てもらえたら嬉しいなと思っています。
落ち込んだ時や気分を上げたい時、癒されたい時、お気に入りの音楽をかけたりするじゃないですか? そういった時にふと見ようといった映像を作るようにしています。なので、何回見ても飽きないような構成になるように意識しています。
プロダイバーってカッコイイ。チームCONTRASTで表現したい
編-今年、「CONTRAST」というチームを結成されました。具体的にどんな企画をされているんですか?
茂野-海外ではチームを組んで撮影をするというスタイルが当たり前になっている中で日本にはチームでの撮影は少ないんです。だから1人では撮れない写真、チームでだからこそ撮れる写真を作ろうと思っています。
またプロダイバーってカッコいいんだよ。っていう発信をしていきたいってずっと思っていました。
もちろんカメラマンとして自然を伝えることも大事だとは思うんですが、僕が先輩方含めたプロダイバーのカッコ良さに憧れてダイビングの世界に踏み込んだことがキッカケです。だからこそプロダイバーであることのカッコ良さ。そして憧れられる仕事になるような発信をしていきたいと思っています。
またCONTRASTで学んだ各地のお互いの技術なんかを発信して僕ら世代の底上げとなるような情報を共有発信していきたい。
本当の意味でのプロダイバーになりたい
小笠原の父島で夕陽に照らされるミナミハンドウイルカを撮影した。自然の生き物の美しさを目の当たりにした。
Nikon D810 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
編-茂野さん個人として今後進んでいきたい道、考えていることなど、教えてください。
茂野-一貫してずっと言っていることなんですが……本当の意味でのプロダイバーになりたいです。
例えばプロ野球選手やサッカー選手を考えると、彼らは野球やサッカーをすることでお金を稼いでいます。試合をすることが練習することが稼ぐことに繋がります。
しかしダイビングの世界はダイビングをするだけでお金を稼げる人はいないと思います。例えばガイドだったら案内をすることにお金をもらっているし、イントラなら教えること。写真家だとしたらフォトセミナーや写真を売ること。
僕はどんなに難しかったとしても僕がダイビングをすること、それ自体でお金をもらえるような本当の意味でのプロダイバーになりたいと思っています。
まだその答えはスポンサーをつけることなのか、何かは出ていませんが、そこを目指したいと思っています。
編-茂野さんの夢が実現しますように! ありがとうございました。
PROFILE |