ダイビングの魅力を伝えていく、やりがいのある仕事
PADIインストラクターを目指そう!
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2022年10月某日、静岡県稲取マリンスポーツセンターにてPADIインストラクター・エグザミネーション(IE)が開催されました。数々の取材・撮影を経験してきたMDW編集部も、IEの取材は初体験。和やかななかにも独特な緊張感が漂う会場でしたが、インストラクター誕生の瞬間は感動的。取材を通して、インストラクターへの挑戦は「魅力的だな…」そう感じた2日間でした。「ダイビングが好きだ、この気持ちを誰かに伝えたい!」そんな思いに駆られたら、インストラクターへのはじめの一歩、踏み出してみませんか?
PADIのダイバーランクシステム
インストラクター・エグザミネーション(IE)のことをお伝えする前に、Cカード(Certification Card)を取得されたエントリーダイバーのみなさまに、あらためてPADIのランクアップシステムについて説明します。
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※・・・点線は各SPコースへの参加前条件を示しています
■オープン・ウォーター・ダイバーからマスター・スクーバ・ダイバーまで
ダイビングの世界への第一歩は「オープン・ウォーター・ダイバー(OWD)」。ダイビングの基本理論や、安全を確立するための予防や万が一のトラブルへの対応策を学ばれたと思います。国内外で潜れるようになる入門ライセンス(Cカード)です。OWDコースの基本構成は、自分自身の安全を確保することと、海の環境を壊さない為の基本水中スキルの習得が目的ですが「講習で経験した深度まで」しか潜れません。せっかくダイバーになったのだから、沈船や洞窟や深い場所にあるポイントに行ってみたい!そんな方は、次のステップへ進みます。
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プロコースを開催してるショップが発行するCカードはゴールドカード(photo by PADI)
それが「アドヴァンスド・オープン・ウォーター・ダイバー(AOW)」。講習で経験したディープ・ダイビングの深度まで潜れるようになり、OWDのライセンス(Cカード)では行けないようなポイントにも遊びに行けるようになります。AOWとしてダイビングを続けていくと自分自身のダイビングスタイルも少しずつ確立されていくはずです。
楽しいことが増えていくと同時に、海の怖さも少しずつ感じるのもこの頃。次のステップは「レスキュー・ダイバー(RED)」コース。中上級ダイバーへの入口です。レスキューというと、人助けのようなイメージですが、このコースで学ぶのはセルフレスキューが中心。自分のことは自分でできるようになり、一人前のダイバーになろう!というのが狙いです。海のトラブルについて徹底的に学ぶので、コース受講前と受講後では安全に関する知識や考え方がガラッと変わり、自分自身とバディや仲間への安全意識が向上します。
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ダイビングの遊びの達人「MSD」認定でもらえるログバインダー(photo by PADI)
※数量限定。無くなり次第予告なく終了となります。
REDまでの認定を受け、5つ以上のスペシャルティ(SP)取得すると、ファンダイバーの最高ランク「マスター・スクーバ・ダイバー(MSD)」にランクアップすることができます。「MSDコース」という講習はなく、表彰制度と考えていいでしょう。ここまでくると、ダイビングを楽しむだけでなく、海の環境問題などにも興味関心が湧いてくると思います。大好きな海でダイビングを続ける為にも、環境保全はとても大切なことですよね。そして、まわりの人たちに「ダイビングの魅力」をもっともっと伝えたくなるのでは?
■プロコースへ
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IE合格後、発行されるCカードはプロの証(photo by PADI)
ファンダイビングを続け、ダイビングでお仕事していきたいと思ったら、プロコースへの受講とステップへ進んでいきます。プロコースのはじめの一歩がダイブマスター・コース(DM)です。ダイビング知識とスキルをプロレベルまで高め、コース修了後はダイバー達のリーダーとして一定条件のもとで活躍の場が得られます。
そしていよいよ次のステップが、プロへの道の正念場インストラクター開発コース(IDC)です。IDCは(1)アシスタント・インストラクターコース(AI)、(2)オープン・ウォーター・スクーバ・インストラクター(OWSI)プログラムの2つから構成されています。
【アシスタント・インストラクター(AI)コースの参加条件】
・PADIダイブマスターまたは同等の資格を有していること
・60ダイブ以上の経験本数をお持ちの方
・過去12か月以内の健康診断書
・18歳以上であること 他
【オープン・ウォーター・スクーバ・インストラクター(OWSI)コースの参加条件】
・PADI AIまたは同等の資格を有していること
・認定ダイバーになって6か月以上が経過していること
・過去12か月以内の健康診断書
・18歳以上であること 他
インストラクター開発コース(IDC)は、PADIショップの中でもコースディレクターが所属する「プロコースが開催できるお店」でしか受講できません。IDCがプロを目指すうえで、もっとも鍛錬が必要な段階と言えるかもしれません。
IDCを修了したら、インストラクター認定の最終試験、がPADIインストラクター・エグザミネーション(IE)です。ここまでのライセンス(Cカード)はプロコース開催店のPADIコースディレクターのもとで行なわれますが、IEからは違います。PADI本部のエグザミナーが認定していくことになります。それだけ責任のあるプロへの最終認定試験ということです。
【PADIインストラクター試験の参加条件】
・ダイバーの認定を受けてから6か月以上の期間が経過している方
・100ダイブ以上の経験本数をお持ちの方
・IDC/OWSIプログラム終了日から1年以内の方
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ランクアップシステムは段階的で全てのダイバーが挑戦することができます
PADIがインストラクターに込める想い
オープン・ウォーター・スクーバ・インストラクター(OWSI)以上の、インストラクター開発や、PADIプログラムのクオリティ・マネージメントをPADIで行なっているわけですが、プロコースを目指しているダイバーへの想いやアドバイスを、今回のインストラクター試験(IE)の認定責任者でもある生駒大輔氏にお話を伺いました。
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生駒大輔/PADIジャパン インストラクター開発&クオリティ・マネージメント部
2017年PADIジャパン入社。大学で海に関わる研究の機会や、海が好きな友人が多かったことがダイビングを始めるきっかけになる。好きなダイビングスタイルは、ケーブ・ダイビング/テクニカル・ダイビング/ダイナミックな地形やレック・ダイビング。
インストラクターになることの最大の魅力は「やりがい」です。インストラクターになると、オープン・ウォーター・ダイバー(以下、OWD)からダイブマスター(以下、DM)までを認定することが可能になります。ダイブマスターまでのライセンス(Cカード)を持つダイバーなら、誰もがダイビングが大好きだと思うのですが、インストラクターへステップアップしていくことで、自分が大好きな海の魅力を、これから初めて海に潜るダイバーに伝えることができる喜びは、なにものにも代えがたいものです。
とはいえ、インストラクターは簡単な仕事ではありません。高水準でバランスのとれた知識と経験が求められます。一度きちんと習得した知識や経験は、忘れることがないという考え方で、知識と経験をバランスよく積み上げていく、PADIではこれを「マスタリー」と表現します。
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インストラクター規準の「ダイビング本数100ダイブ以上」は、単にダイブ本数をカウントしているのではなく、知識と経験を積みながら継続的な100本のダイビングをすると、インストラクタークラスの「優れたダイバーレベル」に到達している。というのが根底の考え方になっています。
そして優れたダイバーとは、自分自身の安全管理が確立されていること。バディやチーム、関係者への気遣い、心遣いができること。環境への意識、配慮をしていること。いわゆる基本的なダイビングスタンスを保有している状態のダイバーを指します。
インストラクターを目指そうと思ったら、基本的なダイビングスタンスを有している優れたダイバーになろうと常に意識し、継続的に知識と経験を積み重ねていって欲しいです。それがダイビングの楽しさを正しく伝えられるスキルにつながることだと思うからです。PADIは一人でも多くの方にダイビングの素晴らしさを知ってもらいたい。そして、それを伝えられるインストラクターを増やしたいと考えています。
さて、インストラクターへの最終試験のIEですが、IEはこれまでのダイバーキャリアの棚卸と確認というイメージが正しいかもしれません。
インストラクターに求められるものには知識や経験、技術だけではなく「責任」があります。これまで海に潜ったことのない方を、オープン・ウォーター・ダイバーとして認定するという責任です。自分が教育・認定したダイバーが安全で楽しいダイビングを続けるためのスキルを伝え、習得させなければなりません。中途半端に講習を実施し、ライセンス(Cカード)を発行するのは命の危険につながります。インストラクターとは大きな責任を伴う仕事なのです。
多くのダイバーに“プロダイバー”を目指していただきたいですが、全てのダイバーにインストラクターを目指して欲しいということではないのです。水中での楽しみ方は十人十色。写真を撮ることが好き、沈船(レック)が好き、洞窟(ケーブ)が好き…。個々のダイバーが楽しみ方のプロフェッショナルになっていただきたいと思います。そのなかで「ダイビングの楽しさを教えていくことが好き」なダイバーは、インストラクターというプロフェッショナルをぜひ目指して欲しいと思っています。
ダイビングは奥が深く、無限の可能性を持つスポーツです。一人でも多くの方にダイビングの素晴らしさや感動を伝えていきたいですよね。インストラクターはそれを実現できる素晴らしい仕事です。簡単ではありませんが「海が好き。ダイビングが好き。という気持ち」「伝えていきたい。という気持ち」「安全で楽しめる知識と経験と技術」これらがあればインストラクターの素質が備わっていると思います。ぜひインストラクターを目指してください!
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試験内容を伝えるブリーフィングの様子
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フィードバックも丁寧に行なっていきます
マリンダイビング編集部IE試験潜入レポート
さて、ここからはIE試験当日の様子をお届けします。
■1日目
初日の試験内容は、筆記試験(潜水理論を含む5つの理論エグザムとPADIシステム・基準・手続きエグザム)と、オープン・ウォーターでの実技試験のオープン・ウォーター・プレゼンテーションとレスキュー・デモンストレーションが行われました。
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リラックスを呼びかけるエグザミナーの生駒氏
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全員参加のプレゼンテーション
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いよいよ実技試験開始・・・!
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遠くからでも真剣さが伝わります
■2日目
筆記試験も終え、いよいよ試験2日目です。
朝8時過ぎ、インストラクター候補生がプールに集まってきました。みなさん、これからインストラクターとなって活躍していくダイバーです。動きもテキパキしていて、器材のセッティングも早い。さすが潜り込んできたダイビングのプロのたまご。そんな感じが伝わってきます。
8:30限定水域(プール)セッションの試験
インストラクター候補生が集まり、試験で与えられた課題のスタート。プール試験では「限定水域におけるスキルサーキット」「限定水域におけるプレゼンテーション」が行なわれます。
スキルサーキット試験では基本となる重要なスキルの中から5つのスキルを選択し、候補生が自ら実施していきます。これからインストラクターとして教えていくスキルです。自分自身でも完璧にできなければいけないということですね。
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素早いセッティングはさすがの一言
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試験に向かう背中にはやる気が溢れています
プレゼンテーション試験は自分自身が実施するスキルサーキットとは異なり、候補生がインストラクター役と講習ダイバー役、アシスタント役とそれぞれが役割を変えながら進行していきます。インストラクター役になった候補生はブリーフィングを行ない、デモンストレーションをします。エグザミナーの生駒氏は試験官として、何かしらのトラブルが発生する想定を講習ダイバー役に演じるよう指示します。インストラクター役になった候補生はトラブルの状態を見て、冷静に判断し、正しくアドバイスしていきます。
ひとつのスキルを実施修了したらデブリーフィング。講習ダイバーの方が上手にできたところを具体的に褒めていきます。トラブル役のダイバーにはトラブルの原因を伝え、次回同じトラブルを起こさないための具体的なアドバイスを話します。もちろん、トラブルクリアできたことは褒めていきます。
海況は日々変わります。トラブルも100人の講習ダイバーに100通りのトラブル発生の可能性がある。冷静に対応できるよう、これまでトレーニングを続けてきた成果を披露する試験ということが伝わってきました。
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スキル&プレゼンテーションの様子。生駒エグザミナーが採点(写真奥)しています。
12:00屋内試験会場へ移動
IEでは、ダイビングのスキルだけではなく知識開発も重要な課題項目になっています。単に教材を暗記するのではなく、インストラクター候補生がプレゼンター、講習ダイバー役とわかれ、座学形式でプレゼンテーションを行なう試験です。学んだことを自分なりの言葉や表現に変え、コミュニケーションを取りながら進めていきます。
環境問題について、スキルアップやランクアップについて、器材の選び方について、様々なダイビングスタイルについて、与えられたテーマを候補生がプレゼンテーションを実施します。準備や練習をしてきた濃淡がかなり分かれるな、というのが印象です。それでもさすがインストラクター候補生です。広く、深い知識を披露していました。
14:00合格者発表とクロージング
2日間のIEの合格者、すなわち「PADIオープン・ウォーター・スクーバ・インストラクター」の発表です。1回目の挑戦で合格する方もいれば、2回目3回目の挑戦で合格する方と色々な方がいましたが、皆さん合格を本当に喜んでいたのは印象的でした。
生駒氏とともに、試験官をされていた、エグザミナーの小林氏から候補生に「また同じ試験があったらやりたいですか?」の問いに誰も手を上げず笑いが起きていました。それだけ大変な準備やトレーニングを実施し、緊張のなかIEを頑張ったことが伝わってきました。
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エグザミナーの生駒氏から、1人ずつ合格者の発表と認定証の授与が行なわれます
合格者の声
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吉田 力さん:海講座(IDC/MOANAダイビングカレッジ石垣島)
ゲストの皆さまに最高に楽しい思いをしてもらえるインストラクターになりたいと思っています。温暖化やゴミ問題にも積極的に向き合い、ダイバーだからこそできる取り組みにも注力していきたいと思っています。石垣島にぜひ、遊びに来てください!
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長島 祥太さん:城ヶ島ダイビングセンター(IDC/城ヶ島ダイビングセンター)
さまざまな生物の紹介をしていきたいと思っています。正しい関わり方を伝えていくことで、安全で楽しいダイビングを体験してもらえるようなインストラクターになりたいです。海洋ゴミも増えてきていますが海だけでなく陸のゴミ問題にも意識できるダイバーになりたいです。
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岩城 亜希子さん:城ヶ島ダイビングセンター(IDC/城ヶ島ダイビングセンター)
もともとそんなにダイビングが上手な方ではなかったのですが、初めてダイビングした時の楽しさを忘れられず、また潜りたいと思って続けてきました。スキルが苦手だったからこそ、ゆっくり寄り添ったサポートができるインストラクターになりたいと思います。
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出口 弘親さん:会社経営者(IDC/ディーポック)
なんとなく始めたダイビングでしたが、潜れば潜るほどスキルがあがり、上達していくスポーツにのめり込んでいきました。いつか、ダイビングショップを海外で経営してみたい。そんな夢を持っています。そのためにインストラクターの資格を取得しました。
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10月1日(土)~2日(日)の2日間にわたり開催された、PADIインストラクター・エグザミネーション(IE)に合格されたみなさん。おめでとうございます!
■インストラクターになったみなさんへ
生駒エグザミナーとともに、今回のIEを担当されていたエグザミナーの小林氏から、プロの道を歩み出したみなさんへのメッセージが印象的でした。

小林秀一/PADIジャパン インストラクター開発&クオリティ・マネージメント部マネージャー
1991年PADIジャパン入社。海との関わりをもちたく海洋学部のある大学へ行き、そこで様々な海洋研究サークルを立ち上げた経験のなかで、スクーバダイビングにのめり込む。現在は自身がダイビングを始めるきっかけともなった“OWD”の講習で、「ダイバーになってよかった!」と笑顔になるダイバー輩出にやりがいを感じる。好きなダイビングスタイルは、レック・ダイビングや地形、外洋でのドリフト・ダイビング。
みなさんがインストラクターを目指したのは「ダイビングが好きだから」「少しでも感動を伝えたいから」ですよね。ぜひ一人でも多くのダイバーを育てていただきたいと思います。認定するダイバーが、安全に楽しくダイビングを続けられるようにすること。これがインストラクターの使命であり責任です。責任は重いですが、その分やりがいも喜びも大きいものです。ライセンス(Cカード)には、認定インストラクターが氏名をサインしますね。これからは、みなさんが「サイン」するわけです。サインの重みを感じつつ、ダイビングの魅力を伝え続けていきましょう。
協力/PADIジャパン、稲取マリンスポーツセンター、ダイブコーヴィー
ライター/嶋崎真太郎
プロコースを受講できるPADIショップを探す
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ダイビングのプロを目指すなら、このマークのPADIショップが目印。自宅や職場近くのお店? それともリゾートで集中コース? 開催コースや日程はお店によって異なります。PADIのホームページでチェックしてみよう!