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連載
ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!
第17回 中性浮力の難易度は計算できる!
最終回でついに明かされる衝撃的な結論とは?

ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!

ダイビング初心者の中には、なかなか上手にならない、と悩む方も多いですよね。一方で熟練インストラクターでも、自分ではできるけど人に理由をうまく説明できない、といった話も…
この連載「ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!」ではダイビングの悩みや疑問を科学的にわかりやすく解説します。第17回のテーマはずばり「中性浮力の難易度は計算できる!」。科学的にダイビングを理解することで、スキルアップを目指しましょう!

※2026年1月の情報です

こんにちは! 目指すは「ダイビング博士」の山崎詩郎です。東京科学大学(旧東京工業大学)理学院物理学系にて物理学の研究と教育を行い、TVでの科学解説や映画の科学監修を多数担当しています。
第17回まで続いたこの連載もついに最終回、中性浮力編が完結します。そこで、このダイビングを科学するという非常に珍しい連載はいったい何だったのかを少し振り返ってみましょう。この連載では浮力とは何か?という簡単なところから始まり(このころはわかりやすかったですね…)、中盤で浮力を計算したりグラフにしたりして(数式が出てだんだん難しくなってきましたね…)、後半では「中性浮力水深」という考え方を紹介しました(難しすぎましたね…)。ですが、中性浮力の連載なのに、なんと、中性浮力はこうすればとれる…!といった答えは1年半17回の連載でたったの一度もしませんでした。それどころか、中性浮力は不可能とまで言い切り、どのように不可能なのかを調べてきました。いったいなぜそのようなことになったのでしょうか…?

撮影:山崎詩郎

撮影:山崎詩郎

巷には、こうすれば中性浮力がとれる…!などと高らかにうたった記事や動画が数多く出回っています。もちろん、その内容は正しいものもあります。ですが、その多くは中性浮力の直接的な説明はしておらず、結局は呼吸が…呼吸が…と繰り返しているものも少なくありません。さらには、慣れや経験やはたまた根性だと言い張るものもあります。もちろんそれでも全然OKだと思います。中性浮力さえ取れればいいのですから。
ですが、この連載を通して皆さんに感じ取っていただきたかったことは、中性浮力はちゃんと理解できる素晴らしく美しいものであるということです。中性浮力ひとつでも1年半17回も連載するだけの豊かで奥深い内容が含まれています。そういった想いが少し伝わったのか、この連載はDAN JAPANの安全講習会にも採用され、浮力に関するTV出演や監修が3回あったのは良い思い出です。いつかこの連載をPADI等のディスティンクトスペシャリティ「ダイビングの科学」にするのが私の密かな夢です。

撮影:山崎詩郎

撮影:山崎詩郎

この連載の第10回では、この連載で最も重要な“浮力”と水深の関係式を導きました。この連載の第12回では、この式を積分して「中性浮力は不可能」という衝撃的な結論を導きました。そして第17回となる今回は、この式を微分して「中性浮力の難易度」を計算してみましょう。最終回ぐらいまとめらしく簡単にしたかったのですが、残念ながらこれまでで最も難しい計算になります…ただし、得られる結論は極めてシンプルで衝撃的ですらあります。

“浮力”と水深の関係

この連載の第10回では、”浮力”と水深の関係を導きました。この連載で最も多く登場した大切な式なので復習しておきましょう。

“浮力”と水深の関係

この数式が意味することは、”浮力”は気体の浮力からウエイトの重力を引き算したものであるということ。そして、ひとたびBCDやスーツの地上での体積Vg0と、ウエイトの重さmwなどのダイビング器材の条件が決まってしまえば、青い字で書かれた水深dによって、赤い字で書かれた“浮力”Fは自動的に決まるということです!!  つまり、“浮力”は計算できるんです!! なお、黒い字で書かれている水面での気圧P0、重力の強さg、海水の密度ρは気にしなくて大丈夫です。

“浮力”の変化率

この連載の第12回では、この式を積分して世界初(!?)の浮力ポテンシャルを導きました。それによって、ダイビングの中性浮力とは、とがった山の上に片足で立つようなもの、ずばり「中性浮力は不可能」という衝撃的な事実を明らかにしました。今度は同じ式を逆に微分してみます。すると、その山がどれくらい尖っているのかを知る準備ができます。微分した結果が以下の式になります。

“浮力”の変化率

ここで、dのような∂という記号はデルと発音し、微分の印だと思っていただければ大丈夫です。微分の途中計算は気にしなくて大丈夫です。では、この式にはどのような意味があるのでしょうか? この式の左側は赤い字で書かれた“浮力”Fが水深dに対してどのくらい急に変化するかという変化率を意味しています。この式の右側は、一見複雑ですが、ひとたびBCDやスーツの地上での体積Vg0と、ウエイトの重さmwなどのダイビング器材の条件が決まってしまえば、結局は青い字で書かれた水深dで決まります。つまり、青い字で書かれた水深dによって、赤い字で書かれた“浮力”Fの変化率は自動的に決まるということです!! つまり、“浮力”の水深変化は計算できるんです!

中性浮力になる唯一の水深「中性浮力水深」

先に進む前に、ひとつ思い出す必要があります。この連載の第14回では、中性浮力になる唯一の水深「中性浮力水深」という新しい考え方を紹介しました。大切な式なので復習しておきましょう。

中性浮力になる唯一の水深「中性浮力水深」

この数式が意味することは、ひとたび赤い字で書かれたBCDとスーツの気体の体積Vg0と、ウエイトの重さmwを決めれば、青い字で書かれた中性浮力になる唯一の水深である「中性浮力水深」dnが自動的に1つに決まってしまうということです!! つまり、「中性浮力水深」は計算できるんです!

「中性浮力水深」での“浮力”の変化率

先ほど、“浮力”を微分して“浮力”の変化率が水深によってどのように変わるかを求めました。そして、たった今「中性浮力水深」の式を復習しました。では、中性浮力になる唯一の水深である「中性浮力水深」での、“浮力”の変化率はどうなるのでしょうか? これここそが、片足で立っている山がどれくらい尖っているかを表します。つまり中性浮力の難易度そのものなんです…! そうです。なんと、中性浮力の難易度は計算できるんです…!! 復習したばかりの「中性浮力水深」dnを、微分して出したばかりの式の水深dに代入してみましょう。すると、以下のようになります。一見複雑ですが、地道に掛け算割り算を進めて少しずつ簡単にしていきます。途中計算は気にしなくて大丈夫です。

「中性浮力水深」での“浮力”の変化率

その結果、あんなにぐちゃぐちゃだった式が、なんとなんと、こんなにも美しい簡潔な次のような式になってしまいました!

「中性浮力水深」での“浮力”の変化率

どうやら、ここまでの方針や計算は正しかった…努力は無駄ではなかった…と感じさせるのに十分な美しく簡潔な式です。では、この式にはどのような意味があるのでしょうか? この式が意味することは、「中性浮力水深」での “浮力”の変化率を表す左側が、赤い字で書かれたウエイトの重さmwやBCDとスーツの気体の体積Vg0などダイビング器材の条件のみで簡潔に表せたということです。つまり、中性浮力の難易度が器材の条件で表現できたんです…! この式の中にはmwをVg0で割ったところがあり、「中性浮力水深」の式を利用すると、さらにもう一歩簡単にできそうです。その途中計算が以下ですが、気にしなくて大丈夫です。

「中性浮力水深」での“浮力”の変化率

すると、最終的には以下のような式になります。

「中性浮力水深」での“浮力”の変化率

ここで、黒い文字で書かれた大気圧P0 =1気圧 = 100,000N/m2、水の密度ρ = 1 g/cm3 = 1000 kg/m2、重力の強さ10m/s2を代入してみましょう。いろんな単位が登場しましたが、気にしなくて大丈夫です。すると、以下のような驚くほどシンプルな式になります。

「中性浮力水深」での“浮力”の変化率

この式が意味することは、「中性浮力水深」での “浮力”の変化率を表す左側が、赤い字で書かれたウエイトの重さmwと、青い字でかかれば「中性浮力水深」dnなどのダイビング中の条件で自動的に決まるということです。つまり、中性浮力の難易度がダイビングの条件で表現できたんです…! では、どのように表現できたのかを具体的に見ていきましょう。

中性浮力はウエイトが軽いほど簡単

まず、ウエイトの重さmwに注目します。すると、“浮力”の変化率はウエイトの重さmwに比例していることがわかります。これを端的に表したのが次です。

中性浮力はウエイトが軽いほど簡単

この式は衝撃的な事実を我々に突きつけます。ずばり、「ウエイトが重いほど中性浮力は難しくなる」、逆に言うと「ウエイトが軽いほど中性浮力は簡単になる」ということです。この計算を信じていた私は、ウェットスーツではウエイトを0kg、ドライスーツでもウエイトを4kgと軽くしています。これは、ヘッドファースト気味に行けば潜降もできて、5mでの安全停止時にBCDの空気を全て抜いてちょうど中性浮力でいられるギリギリの条件です。深場に潜ってもBCDに過剰に空気を入れる必要もなく、中性浮力もとても簡単です。さらに、ドライスーツの場合は、締め付けを防ぐ程度にドライスーツに吸気すると、ちょうど中性浮力になり、結果としてBCDを使う必要もありません。潜降と安全停止ができる範囲でギリギリまでウエイトを軽くする、これが科学的に導かれた真の適正ウエイトです。適正ウエイトといわれると、まるでそれぞれの人に最も良い重さがあるかのように聞こえますが、本当は安全停止と潜降さえできれば軽ければ軽いほど良いんです。

インストラクターの方の中には、初心者にウエイトを10kgなど重めにつける方もいます。もちろん潜降できなければ話にならないし、急浮上しては危険だからというのはわかります。ですが、これが初心者の中性浮力を難しくしている原因の一つなんです。また、ウエイトが過剰に重いほうが、中性浮力がより不安定になるため、急浮上のリスクはむしろ上がってしまいます。

中性浮力はウエイトが軽いほど簡単

撮影:山崎詩郎

中性浮力は水深が深いほど簡単

次に、「中性浮力水深」dnに注目し、端的に表したのが以下の式になります。

中性浮力は水深が深いほど簡単

水深は深いほどマイナスになる、つまり-dnはプラスになることだけ注意してください。すると、水深が0mのときは1、水深が-10mのときは1/2、水深が-20mのときは1/3、水深が-30mのときは1/4、水深が-40mのときは1/5になります。ずばり、「水深が浅いほど中性浮力は難しくなる」、逆に言うと「水深が深いほど中性浮力は簡単になる」ということです。この結果は経験的に感じていた方も多いと思います。私も初心者のころは水深5-8m程度の浅瀬でダイビングをしていて、中性浮力はとれずに地面を這うようなダイビングをしていました。ところが、初めて18mの深場でダイビングしたときに、初めて中性浮力がとれて自由自在に動けるという嬉しい経験をしました。
インストラクターの方の中には、初心者に水深1-2mで中性浮力の練習をさせる方もいます。ですが、これは水深10-20mで中性浮力をとるより2倍難しいことなんです。中性浮力の練習をしたいなら、むしろ18mなどの深場が良いです。そこで中性浮力の感覚をつかんでから、難易度の高い浅瀬でも中性浮力がとれるように練習すると早道です。

まとめ

まとめ

撮影:山崎詩郎

第17回にして中性浮力編の最終回となる今回は、「中性浮力水深」での“浮力”の変化率を計算し、そこから「ウエイトが重いほど中性浮力は難しい」という衝撃的な結論と、「水深が浅いほど中性浮力は難しい」という受け入れやすい結論を導きました。1年半続いたこの連載も、中性浮力編の完結をもっていったん皆さんとお別れです。ダイビングで中性浮力をとっているときに、少しでもこの連載のことを思い出していただけたら嬉しいです。

この連載では、ダイビングの科学に関する素朴な疑問を大募集しています。初心者の方からインストラクターの方まで、ぜひ質問を編集部までお寄せください。皆様の質問が記事に採用されるかもしれません。
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物理学者
山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)


東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士(理学)を取得後、日本物理学会若手奨励賞を受賞、東京科学大学理学院物理学系助教に至る。科学コミュニケーターとしてTVや映画の監修や出演多数、特に講談社ブルーバックス『独楽の科学』を著した「コマ博士」として知られている。SF映画『インターステラー』の解説会を100回実施し、SF映画『TENET テネット』の字幕科学監修、『クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修、『オッペンハイマー』(早川書房)の監訳、『片思い世界』の科学監修を務める「SF博士」でもある。2022年秋に始めたダイビングに完全にハマり、インストラクターを目指して現在ダイブマスター講習中。次の目標は「ダイビング博士」。

山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)