年間125万人が訪れるダイビング情報サイト

新連載
ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!
第2回「浮力を科学する!」

ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!

ダイビング初心者の中には、なかなか上手にならない、と悩む方も多いですよね。一方で熟練インストラクターでも、自分ではできるけど人に理由をうまく説明できない、といった話も…
この連載「ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!」ではダイビングの悩みや疑問を科学的にわかりやすく解説します。第2回のテーマはずばり「浮力」。科学的にダイビングを理解することで、スキルアップを目指しましょう!

※2024年10月の情報です

こんにちは!目指すは「ダイビング博士」の山崎詩郎です。普段は東京工業大学理学院物理学系の助教として物理学の研究と教育を行っています。そのかたわらで、科学を誰にでもわかりやすく伝える科学コミュニケーターとして、TV出演や映画の科学監修を多数務めています。

ダイビングの魅力とは?

ダイビングの魅力とは?

皆さんはダイビングの一番の魅力ってなんだと思いますか?ダイビングの魅力を単語1つで表してくださいと言われたら、なんて答えますか?おそらく、7割以上の人は大迫力の魚の群れや、可愛らしいウミウシなど海の生き物に関係する単語を答えると思います。
私は夏休みに宮古島に行ってきました。ダイビング系YouTuberとしても有名なBIGHOLIDAYのTottyさんらのガイドのもと、3大ポイントである魔王の宮殿、アントニオガウディー、通り池などに行ってきました。そんな光と闇のジャングルジムをめぐるような地形こそダイビングのもう一つの魅力だという人も多いと思います。

撮影:山崎詩郎

撮影:山崎詩郎

でも、生物や地形に加えて忘れてはならないもう一つの魅力、それは浮遊感です…!生物も地形も何もなくても、ダイビングそのものにスポーツやアクティビティーとしての唯一無二の魅力があります。そんな浮遊感を支えているもの、それが「水」や「水圧」であり、そして「浮力」なんです。この連載では誰にでもできる中性浮力を目指しています。第2回目の今回は「浮力」について改めて考えてみましょう。

「浮力」ってなに?

「浮力」ってなに?

皆さん、もし小学生に「浮力」ってなに?と聞かれたらどのように説明しますか?おそらく多くの方が、水中で物が浮かぶ力、などと答えると思います。必ず浮く向きに力が働くので、浮く力と書いて「浮力」と呼ばれています。でも、小学生に「浮力」はどこから来るの?と聞かれたら、ダイビング初心者の方はもちろんインストラクターの方でも説明に困ってしまうのではないでしょうか?「浮力」っていったいどこから来るのでしょうか?「浮力」ってどうして上向きに働くのでしょうか?ここでは、そのわけを少しだけちゃんと考えてみましょう。

前回の第1回では「水」と「水圧」についてお話ししました。今回の話とも関係が深いため、まだご覧になっていない方はぜひご一読ください。第1回目では、「水圧」は浅いと小さく深いと大きい、ということを学びました。実はこれが浮力の原因なんです。

「浮力」の正体は、上下の水圧の差

図1

図1

図1のように、水中にある立方体を考えてみましょう。立方体は水中にあるのでもちろん全方向から「水圧」を受けています。それでは、立方体の上下左右前後のそれぞれの面にどちら向きの「水圧」がかかっているか考えてみましょう。まずは、立方体の上の面を見てみてください。どちら向きに「水圧」がかかっているかわかりますか?答えは下向きです。では今度は、立方体の下の面を見てみてください。どちら向きに「水圧」がかかっているかわかりますか?答えは上向きです。このように、上の面には下向きの「水圧」、一方で下の面には上向きの「水圧」がかかっています。お互いに逆向きなんですね。

「浮力」の正体は、上下の水圧の差

ではその大きさはどうでしょうか?上の面の下向きの「水圧」と、下の面の上向きの「水圧」はどちらが大きいと思いますか?ここで第1回の「水圧」は浅いと小さく深いと大きい、ということを思い出してみましょう。立方体の上の面は少し浅いところに、下の面は少し深いところにあります。ということは、上の面の下向きの「水圧」よりも、下の面の上向きの「水圧」のほうが必ず少し大きくなるんです。図1では矢印の長さで「水圧」の大きさを表現しています。上の面の下向きの「水圧」は短い矢印、下の面の上向きの「水圧」は長い矢印で表現されています。

では逆向きに働く上下の力の綱引きの結果はどうなるでしょうか?上の面の下向きの「水圧」よりも、下の面の上向きの「水圧」のほうが必ず少し大きくなるので、その差の分だけ上向きの「水圧」が勝って立方体は上向きに力を受けます。この上下の水圧の差、これが浮力の正体なんです…!極論を言えば、浮力なんて特別な力はないんです…!水圧の合計にすぎないのですから…!

「浮力」の正体は、上下の水圧の差

次に、立方体の右側と左側にかかる水圧の向きを考えてみましょう。右の面には左向きに、左の面には右向きに水圧がかかっています。やはり、お互いに逆向きです。では、今度は大きさを考えてみましょう。水深が深いほど少しずつ水圧が大きくなりますが、右側と左側で全ての水深で必ず打ち消し合っています。だから左右の力を合計するとゼロになるんです(図1)。左右の水圧は等しいため、浮力を生み出しません。全く同じように考えて、前後の水圧は等しいため、浮力を生み出しません。結局、上下の水圧の差だけが浮力として残り、前後左右の水圧は常に打ち消し合ってゼロになります。

「浮力」は体積で決まる

図2

図2

さて、「浮力」の正体は上下の水圧の差であることがわかりました。では、図2のように高さが2倍の直方体があったら「浮力」はどうなるのでしょうか?高さが2倍だと上下の「水圧」の差も2倍になります。そのため「浮力」も2倍になります。高さが高いほど「浮力」は大きくなるのです。

図3

図3

今度は、図3のように底の広さが4倍の直方体があったら「浮力」はどうなるでしょうか?底面の広さが4倍だと上下の「水圧」のかかる面積も4倍になります。そのため「浮力」も4倍になります。底の面積が広ければ広いほど浮力は大きくなるのです。

ここまで、高さが高いほど、底の面積が広いほど、「浮力」が大きくなることがわかりました。底の面積と高さを掛け算したものは体積そのものですので、結局は体積が大きいほど「浮力」が大きくなるという一文に美しくまとめることができるんです。実は、ものの特徴としては「浮力」は体積だけで決まります! よく誤解されますが、ものの重さは「浮力」に関係ありません。重たいものでも、軽いものでも、体積が同じなら「浮力」は同じです。物体の形も「浮力」に関係ありません。丸いものでも、四角いものでも、体積が同じなら「浮力」は同じです。なお、水深も「浮力」に関係ありません。浅くても、深くても、体積が同じなら「浮力」は同じです。

まとめ

まとめ

ここまで、「浮力」の正体は上下の水圧の差であること、「浮力」は体積だけできまることを説明してきました。これでダイビングで重要な浮力がばっちり理解できました、おめでとうございます…!と、言いたいところですが…ここで爆弾発言をさせてください…実はダイバーの言う“浮力”という単語、ここで説明した本当の「浮力」じゃないんです!
え?どういうこと?と思った皆さん、ぜひ次回の「ダイバーの“浮力”の科学」をお楽しみに!!

この連載では、ダイビングの科学に関する素朴な疑問を大募集しています。初心者の方からインストラクターの方まで、ぜひ質問を編集部までお寄せください。皆様の質問が記事に採用されるかもしれません。
≫質問・疑問はこちら!

※お問い合わせ内容に「山崎先生に質問!」と記載してください

ダイビングを科学する 第1回「水と水圧」≫

物理学者
山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)


東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士(理学)を取得後、日本物理学会若手奨励賞を受賞、東京工業大学理学院物理学系助教に至る。科学コミュニケーターとしてTVや映画の監修や出演多数、特に講談社ブルーバックス『独楽の科学』を著した「コマ博士」として知られている。SF映画『インターステラー』の解説会を100回実施し、SF映画『TENET テネット』の字幕科学監修や公式映画パンフの執筆、『クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修、『オッペンハイマー』(早川書房)の監訳を務める「SF博士」でもある。2022年秋に始めたダイビングに完全にハマり、インストラクターを目指して現在ダイブマスター講習中。
次の目標は「ダイビング博士」または「潜る物理学者」。

山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)