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連載
ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!
第8回「圧力と体積のグラフ」

ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!

ダイビング初心者の中には、なかなか上手にならない、と悩む方も多いですよね。一方で熟練インストラクターでも、自分ではできるけど人に理由をうまく説明できない、といった話も…
この連載「ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!」ではダイビングの悩みや疑問を科学的にわかりやすく解説します。第8回のテーマはずばり「圧力と体積のグラフ」。科学的にダイビングを理解することで、スキルアップを目指しましょう!

※2025年4月の情報です

こんにちは! 目指すは「ダイビング博士」の山崎詩郎です。普段は東京科学大学(旧東京工業大学)理学院物理学系の助教として物理学の研究と教育を行っています。そのかたわらで、科学を誰にでもわかりやすく伝える科学コミュニケーターとして、TV出演や映画の科学監修を多数務めています。

パラオのツノダシの群れ(撮影:山崎詩郎)

パラオのツノダシの群れ(撮影:山崎詩郎)

ダイビング歴弱小2年の私。この春、ついに初めての海外ダイビングに挑戦してきました…! マリンダイビングでも大人気連載中、アクアマジックの堀さんにお世話になり、世界一とも言われるパラオの海を堪能してきました。特に、世界有数のダイビングポイントであるブルーコーナーにてツノダシの大群に囲まれながら、ダイビング200本記念を祝うことができたのは本当に良い思い出となりました…帰国してこの原稿を書かなければならないという現実に引き戻されつつも、まだしばらくはパラオの余韻に浸っていたい気持ちです…
この連載の第1回から第4回までは、わかりやすくするために文章と図のみを用いて直感的に説明してきました。第5回からはほんの少しだけ物理や数式の力を借りて、より正確により深く理解することを目指しています。そして第8回となる今回から満を持してグラフが登場します。

【数式版】水深が深くなると圧力は何倍に?

「水深」が深くなると、「圧力」は大きくなります。ダイバーのみなさんなら全員知っている常識ですよね。第6回となる前々回は、そんな常識をわざわざ数式で表現してみました。復習でもう一度その数式を出してみましょう。

【数式版】水深が深くなると圧力は何倍に?

dは「水深」が何メートルか、Pはその水深での「圧力」が何気圧か、P0は「大気圧」を表しています。数式の左側のP/P0は「圧力」Pが「大気圧」P0の何倍かを表しています。式の右側の1+0.1 dは、水深dを0.1倍して1を足してくださいということです。一見難しく感じるかもしれませんが、計算自体は実は小学生4年生で習うとても簡単なものなのでご安心ください。

【表版】水深が深くなると圧力は何倍に?

では、ある「水深」の深さのときに、「圧力」がどのくらいの大きさになるのでしょうか。この数式を使って、具体的に計算してみましょう。「水深」dのところに、例えば0m、10m、20m、30m、40mなどの具体的な数字を入れてみましょう。その計算の結果をまとめたのが次の表です。

【表版】水深が深くなると圧力は何倍に?

表の左側が「水深」d、中央が計算の過程、右側が「圧力」が何倍になるかの答えです。「水深」が、0m、10m、20m、30m、40mと深くなっていくと、「圧力」は、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍と大きくなるんですね。
このような対応表はみなさんが初めてダイバーになるときの学科講習できっと見たことがあると思います。実はそのような表の背景には数式があったんです。でも、数式で表した真価が発揮されるのは、このような表を作るときではありません。ついに、この連載で最初のグラフが登場します。

【グラフ版】水深が深くなると圧力は何倍に?

後に、「水深」が深くなっていくときに、「圧力」がどのように変化していくのか。この数式を使って、グラフにしてみましょう。エクセルで計算した結果を示したのが次のグラフです。

【グラフ版】水深が深くなると圧力は何倍に?

グラフの横軸は「水深」dを表し、0mから40mまでを表示しています。グラフの縦軸は「圧力」が何倍になったかのP/P0を表し、0倍から5倍までを表示しています。そして、グラフの中の赤く太い線が、それら2つの関係を示しています。その形はなんと直線、とっても簡単な関係ですね。横軸の水深が0mの時は、縦軸の圧力は0倍ではなく、少し上の1倍からスタートしていることもグラフから一目瞭然です。水深が深くなると、圧力は右肩上がりで一直線に増えていくこともグラフから一目瞭然です。中学生の時に数学で1次関数を習った記憶がある人もいるかもしれません。その文脈で言うと、傾きが0.1でy切片が1の1次関数ということができます。
このように、グラフを使えば、「水深」と「圧力」の関係を一目でわかるように表現することができます。さらに、このグラフを使えば、わざわざ計算しなくても、自分の好きな水深で圧力が何倍になるか大まかに読み取ることができます。
さて、ここまでは「圧力」に注目して、その数式と表とグラフを見てきました。これと完全に同じことを「体積」でもやってみましょう。あえて文章も全く同じように書いています。

【数式版】水深が深くなると体積は何倍に?

「水深」が深くなると、「体積」は小さくなります。ダイバーのみなさんなら全員知っている常識ですよね。第7回となる前回は、そんな常識をわざわざ数式で表現してみました。復習でもう一度その数式を出してみましょう。

【数式版】水深が深くなると体積は何倍に?

dは「水深」が何メートルか、Vはその水深での「体積」、V0は「大気圧での体積」を表しています。数式の左側のV/V0は「体積」Vが「大気圧での体積」V0の何倍かを表しています。式の右側の1/(1+0.1 d)は、水深dを0.1倍して1を足したもので、1を割ってくださいということです。一見難しく感じるかもしれませんが、計算自体は実は小学生4年生で習うとても簡単なものなのでご安心ください。

【表版】水深が深くなると体積は何倍に?

では、ある「水深」の深さのときに、「体積」がどのくらいの小ささになるのでしょうか。この数式を使って、具体的に計算してみましょう。「水深」dのところに、例えば0m、10m、20m、30m、40mなどの具体的な数字を入れてみましょう。その計算の結果をまとめたのが次の表です。

【表版】水深が深くなると体積は何倍に?

表の左側が「水深」d、中央が計算の過程、右側が「体積」が何倍になるかの答えです。「水深」が、0m、10m、20m、30m、40mと深くなっていくと、「体積」は、1倍、1/2倍、1/3倍、1/4倍、1/5倍と小さくなるんですね。
このような対応表はみなさんが初めてダイバーになるときの学科講習できっと見たことがあると思います。実はそのような表の背景には数式があったんです。でも、数式で表した真価が発揮されるのは、このような表を作るときではありません。ついに、この連載で二つ目のグラフが登場します。

【グラフ版】水深が深くなると体積は何倍に?

最後に、「水深」が深くなっていくときに、「体積」がどのように変化していくのか。この数式を使って、グラフにしてみましょう。エクセルで計算した結果を示したのが次のグラフです。

【グラフ版】水深が深くなると体積は何倍に?

グラフの横軸は「水深」dを表し、0mから40mまでを表示しています。グラフの縦軸は「体積」が何倍になったかのV/V0を表し、0倍から1倍までを表示しています。そして、グラフの中の青く太い線が、それら2つの関係を示しています。その形は曲線、少し複雑な関係です。横軸の水深が0mの時は、縦軸の体積は1倍からスタートしていることもグラフから一目瞭然です。水深が深くなると、体積は右肩下がりで小さくなりますが、水深が浅いほど急で水深が深いほど緩やかであることもグラフから一目瞭然です。中学生の時に数学で反比例を習った記憶がある人もいるかもしれません。このグラフは反比例に近いですが、分母に+1があるので少し横にずれています。
このように、グラフを使えば、「水深」と「体積」の関係を一目でわかるように表現することができます。さらに、このグラフを使えば、わざわざ計算しなくても、自分の好きな水深で体積が何倍になるか大まかに読み取ることができます。
そして、「水深」と「圧力」の関係は一直線で簡単でしたが、「水深」と「体積」の関係は曲線で複雑でした。このように、複雑な関係を示すときにこそグラフと数式の真価が発揮されます。日本語だけではどう頑張ってもこのグラフを正確に表現することはできないんです。

まとめ

まとめ

第8回となる今回は、前半は「水深」と「圧力」の関係を数式と表とグラフで表現しました。後半は、完全に同じようにして、「水深」と「体積」の関係を数式と表とグラフで表現しました。数式は難しかったけど、グラフはなんとなく分かったという人もいたのではと思います。第9回となる次回は、前回計算した「体積」から「浮力」を計算し、そこから「ダイバーの言う“浮力”」を計算してみましょう。いよいよ数式で表現した本当の真価が発揮され始めます。「ダイバーの言う“浮力”」がどのような姿をしているのか、ついにグラフで一目瞭然になります。

この連載では、ダイビングの科学に関する素朴な疑問を大募集しています。初心者の方からインストラクターの方まで、ぜひ質問を編集部までお寄せください。皆様の質問が記事に採用されるかもしれません。
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物理学者
山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)


東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士(理学)を取得後、日本物理学会若手奨励賞を受賞、東京科学大学理学院物理学系助教に至る。科学コミュニケーターとしてTVや映画の監修や出演多数、特に講談社ブルーバックス『独楽の科学』を著した「コマ博士」として知られている。SF映画『インターステラー』の解説会を100回実施し、SF映画『TENET テネット』の字幕科学監修、『クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修、『オッペンハイマー』(早川書房)の監訳、『片思い世界』の科学監修を務める「SF博士」でもある。2022年秋に始めたダイビングに完全にハマり、インストラクターを目指して現在ダイブマスター講習中。次の目標は「ダイビング博士」。

山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)