海のいきもの
第38回 タツノオトシゴ&ヨウジウオ
前回「ニシキフウライウオと、その仲間」を紹介したので、
今回は引き続き親戚筋のヨウジウオ科(タツノオトシゴ&ヨウジウオ)でいきます。
地味だけど、冬だからちょうどいいかもね。●構成・文/山本真紀(2017年12月制作)
人気のピグミーさんたち
タツノオトシゴの仲間の中でも人気が高いのはピグミーシーホースの仲間たち。ピグミーシーホースとは一種ではなく、指先サイズの超ミニの種類をこう呼んでいるだけで、実際には世界の海に10種類近く確認されている。
通称バージバンティさん
最もポピュラーなのがコレ! 学名ヒポカンパス・バージバンティ(Hippocampus bargibanti)から、通称「バージバンティ」とも呼ばれるピグミーシーホースで、やや深場の特定のヤギ類の枝上に生息している。インド-西太平洋に分布しており、大きさは1~2㎝程度。日本では1998年頃に小笠原から初めて報告されて以来、奄美大島や沖縄、八丈島、四国や紀伊半島などでも確認されている。
写真❶:赤いヤギで見つけた赤い個体。体中にヤギのポリプとよく似たコブがあることが特徴。撮影/小笠原
写真❷:こちらは黄色のヤギにいた黄色の個体。たいていホストとよく似た色になる。撮影/沖縄本島
通称ジャパピグさん
浅い岩礁や藻場で見られ、体に網目状の模様があるピグミーシーホース。南日本でよく見つかったことから、通称「ジャパニーズピグミーシーホース」略して「ジャパピグ」と呼ばれる種類。伊豆諸島をはじめ南日本各地で見つかっている。
このほかにも浅い藻場や砂地で見られるヒポカンパス・セベルンスィ(Hippocampus severnsi)やヒポカンパス・デニセ(Hippocampus denise )というヤギに付くのっぺりした種類など、日本だけでも複数種のピグミーシーホースが確認されている。
ご近所のタツノオトシゴ
先に人気のピグミーシーホースを紹介したが、ここからは南日本の海でよく見られる種類を紹介。
それにしても、「龍の落とし子」という名はまさにピッタリ。長い顔に鎧のような皮膚はまさに龍。尾ビレのない尾部はヘビの尾のように自由に動き、海藻やヤギなどにクルリと巻き付けることができる。
繁殖生態も面白く、オスの腹部にはよく発達した育児嚢があり、孵化するまでメスが産んだ卵を保護する習性がある。この育児嚢は完璧で、カミソリウオ科やヨウジウオの仲間(下記)のように外部から卵が見えることもない。
ポピュラーなハナタツ
南日本の海で、ダイバーが最もよく見る種類がハナタツ。タツノオトシゴより深場の岩礁に生息し、ヤギやカイメンなどに付いていることが多い。色や模様はさまざまで、枝状の突起があることも。大きさ5~8cmほど。
写真❸:赤いヤギに並んで付いていた黄と白の2尾。撮影/伊豆大島
写真❹:色も違うし体に樹状突起もあるし、まるで別種のようだけどコレもハナタツ。撮影/三浦半島・城ヶ島
これがホントのタツノオトシゴ
浅い藻場やアマモ場に生息するため、ダイバーが見る機会は意外と少ない。頭部の突起が非常に高いことが特徴。なお、最近になって日本海側で見られるタツノオトシゴの中に別種がいることが確認され、ヒメタツという標準和名で新種記載された。撮影/三浦半島・城ヶ島
トゲトゲのイバラタツ
体に鋭い棘が多数あることが特徴。タツノオトシゴの仲間は個体によって色などの変異が激しく、正直なところ種類を見分けるのが難しいけれど、その中にあって本種は比較的わかりやすい。色は薄い黄色から焦げ茶色までいろいろありますけれど。撮影/西伊豆・大瀬崎
多彩なヨウジウオにもっと光を!
ヨウジウオ科は、タツノオトシゴの仲間とヨウジウオの仲間に大別される。派手というか珍妙というかユニークな姿のタツノオトシゴに比べると、ヨウジウオはどうも地味。水中写真のモデルにもいまひとつ人気がない。でもタツノオトシゴは1属40種前後しかいないのに対し、ヨウジウオは50属以上もあって姿も生態も多彩、種数も約200と多い。もっと注目を浴びてもいいんじゃないか? とはいえ、うちにもストックが少なくてすみません。
ウィーディーシードラゴン
一見タツノオトシゴのようだが、尾の先で何かにつかまることができず、分類的にはヨウジウオの仲間。海藻近くを遊泳して暮らすことから weedy(雑草のような、ひょろひょろした)という英名がついた。オーストラリア南西部、タスマニア島に分布する大型種で、成長すると40㎝を超えることもある。撮影/タスマニア島
リーフィーシードラゴン
ウィディーシードラゴン同様、タツノオトシゴのように見えるヨウジウオの仲間。成長すると30㎝となる大型種で、流れに身を任せるように海藻の近くをユラユラと遊泳している。体中の皮弁によるカムフラージュ効果は絶大で、千切れた海藻が漂っているようにしか見えない。撮影/オーストラリア・カンガルー島
タツノほにゃらら
タツノイトコ(orタツノハトコ)という種類。背ビレ付け根の肉質部分が盛り上がっているのがイトコで、盛り上がらないのがハトコなのだが、よく見えないので「タツノほにゃらら」で。なお、タツノオトシゴのように尾でものに巻き付くことができ、育児嚢も袋状になっていることから、ヨウジウオの仲間なのだが「タツノ~」と名付けられたらしい。撮影/東伊豆・富戸
タツウミヤッコ
これまた不思議な姿のヨウジウオの仲間。写真は幼体で、さらに小さな時期には体側に並ぶ翼のような皮弁を利用して浮遊生活を送っている(成長につれて皮弁は小さくなっていく)。岩礁付近の砂地でみられるが、底引き網では200~300mの海底から捕獲されたこともある。成長すると15㎝以上となり、インド-西太平洋や紅海に分布する。撮影/奄美大島
ノコギリヨウジ
主に南日本や伊豆・小笠原諸島の岩礁で見られる7~8㎝ほどの小型種。写真はオスで、腹部に卵をつけている。ウツボなどをクリーニングする習性が知られ、よく似た種類にヒバシヨウジがいる。撮影/三宅島
オビイシヨウジ
海底を這いまわるタイプのヨウジウオで、インド-西太平洋の暖かい海に分布。日本でも沖縄や奄美諸島でよく見られる。赤っぽい横帯が11~14本あることで、他の種類との識別は簡単。撮影/奄美大島
メニイリングドパイプフィッシュ
低層を浮遊するタイプのヨウジウオで、岩の亀裂など隙間にいることが多い。大きさ15~18㎝ほどで、サイズも生息環境もオイランヨウジと似ているが、本種はリング模様がより細かい。撮影/フィリピン・セブ島
オイランヨウジ
低層を浮遊するタイプのヨウジウオで、岩の亀裂や海底近くのオーバーハングなど隙間をのぞくとよく見つかる。独特のリング模様で識別も簡単。写真はオスで、腹部に卵をつけている。撮影/フィリピン・セブ島