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連載
ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!
第6回「水圧を計算してみよう」

ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!

ダイビング初心者の中には、なかなか上手にならない、と悩む方も多いですよね。一方で熟練インストラクターでも、自分ではできるけど人に理由をうまく説明できない、といった話も…
この連載「ダイビング博士 山崎先生のダイビングを科学する!」ではダイビングの悩みや疑問を科学的にわかりやすく解説します。第6回のテーマはずばり「水圧を計算してみよう」。科学的にダイビングを理解することで、スキルアップを目指しましょう!

※2025年2月の情報です

こんにちは!目指すは「ダイビング博士」の山崎詩郎です。普段は東京科学大学(旧東京工業大学)理学院物理学系の助教として物理学の研究と教育を行っています。そのかたわらで、科学を誰にでもわかりやすく伝える科学コミュニケーターとして、TV出演や映画の科学監修を多数務めています。

ダイビング中に起こることは数式で説明できる

ダイビング中に起こることは数式で説明できる

年末に受けた潜水士の試験ですが、、、無事に合格していました…!潜水士の試験は物理の問題や数式を用いた計算問題もあり、実際にダイビング中に起こる多くのことも物理や数式で説明できるんです。
この連載の第4回では「気体の浮力」について説明してきました。今回はその数式版になりますので、まだご覧になっていない方はぜひご一読ください
前々回までは、わかりやすくするために文章と図のみを用いて直感的に説明してきました。今回も前回同様にほんの少しだけ物理や数式の力を借りて、より正確により深く理解することを目指してみましょう。これまでに比べると少し難しいと感じる人もいるかもしれませんが、別に数式がわからなくても全然大丈夫です。数式を使っても、結局はダイバーの皆さんが経験的にすでに知っていることと同じ結論が得られるだけなんです。ただ、数式を使うメリットとして、数字やグラフで結論がより正確にわかることがあります。また、直感的にはわからない意外な発見につながる場合も多いです。

切っても切り離せない、ダイビングと圧力

切っても切り離せない、ダイビングと圧力

ダイビングと圧力は切っても切り離せません。ダイビングのエントリー前にタンクの残圧が200近くあることを確認しますが、それもタンクの圧力です。また、潜行していくとスーツがギュッとつぶされていくと思いますが、それも水の圧力です。さらに、水深30mでNDLが残り数分になるようなことがありますが、それも窒素の圧力が関係しています。このように、ダイビングでは圧力がありとあらゆるところに登場します。
この連載でも第1回から何度も圧力という単語が登場していますが、今回はその大きさを以下のようにアルファベットのPで表してみましょう。圧力を意味する英語Pressureの頭文字です。

「圧力」=P

よく日本語でも、上級者ダイバーの多いツアーで初心者ダイバーの私はプレッシャーを感じた、などと比喩的に表現しますよね。

大気圧は1気圧

大気圧は1気圧

ダイバーかノンダイバーか問わず、身の回りで一番身近な圧力は何だと思いますか?ヒントは今みなさんが体全体で感じています。答えは、身の回りの空気の圧力である気圧です。気圧は想像よりはるかに大きいのですが、そのことはこの連載の第1回でとても分かりやすくお話ししましたのでぜひご覧ください
地上での気圧の大きさのことを大気圧と言い、その大きさは1気圧です。
山腹の湖で行うような高所ダイビングを除いて、海で行う普通のダイビングは全て1気圧のもとで行われます。

そこで、大気圧である1気圧の大きさをP0と表してみましょう。Pの右下にある小さな0は、標高0mや基準であることを表すただの目印です。

「大気圧」=P0=1(気圧)

水だけの圧力「“水圧”」

水だけの圧力「“水圧”」

もし小学生に、水圧ってなに?、と聞かれたら皆さんはどう答えますか?多くの人は、水中で感じる水の圧力、などと答えると思います。文字通り水の圧と書いて水圧です。ところが、この水圧、実は水だけに由来する圧力ではないんです。それは、水だけの圧力に大気圧を足し算したものが水圧だからです。ここでは、水だけの圧力を「“水圧”」、大気圧を加えた圧力を「水圧」と書いて区別します。まずは水だけの圧力「“水圧”」を計算するために、必要な3人の登場人物を紹介しましょう。
前回も登場しましたが、まず、「水の密度」を以下のようにギリシア文字のρ(ローと発音)で表してみましょう。ρを使うのは風習で深い意味はありません。

「水の密度」=ρ

こちらも前回も登場しましたが、次に、地球の重力の強さを以下のようにアルファベットのgで表してみましょう。重力を意味する英語gravityの頭文字です。よく、このジェットコースターはGが強い、などと日常会話でも言いますよね。

「地球の重力の強さ」=g

ここで新人の登場です。最後に、水深の深さを以下のようにアルファベットのdで表してみましょう。深さを意味する英語depthの頭文字です。

「水深」=d

水だけの圧力「“水圧”」

これで必要な3人の登場人物がそろいました。では、水だけによる圧力「“水圧”」を計算してみましょう。ダイバーの皆さんはご存知のように、「“水圧”」は「水深」dが深ければ深いほど大きくなります。また、普段はあまり気にしませんが、「“水圧”」は「水の密度」ρが大きければ大きいほど大きくなります。海水は「水の密度」ρが少し大きいので「“水圧”」が少し大きく、その結果浮力が少し大きくなるんです。また、普段は一切気にしませんが「“水圧”」は「地球の重力の強さ」=gが大きければ大きいほど大きくなります。「“水圧”」が生まれるのも地球の重力のおかげなんです。もしも重力が6分の1の月でダイビングをしたら「“水圧”」も6分の1になるんです。まとめると、「“水圧”」は「水の密度」ρと「水深」dと「地球の重力の強さ」=gのどれが大きくなっても大きくなります。そういう時は全て掛け算すれば大丈夫です。

「“水圧”」=ρdg

これは少し難しかったですね。でも、ローディージーという呪文が「“水圧”」なんだと思ってもらえればとりあえず大丈夫です。カンの良い人は、これが前回計算した浮力ρVgと形が似ていると気が付いたかもしれません。まさに力であるρVgの体積Vを面積で割って長さdにしたものが圧力ρdgなんです。

「“水圧”」を簡単にすると

水だけの圧力「“水圧”」

では、少し難しかった「“水圧”」ρdgをより具体的な数字にしてみましょう。「“水圧”」ρdgをまじめに計算しても答えは出てきます。ただ、重力や単位の扱いが少し難しいので今回はやめておきましょう。その代わりに、水の入った1リットルのペットボトルを考えてみます。体積の1リットルは10cm×10cm×10cmのことで、そこに入っている水の重さはちょうど1kgです。ここで、体積が1000倍も大きい1m×1m×1mの立方体の大きな容器を考えてみます。そこに入っている水の重さは同じく1000倍も重い1000kgです。この容器の底の水深は1mで、底の面積は1m×1mの1m平方です。そこに1000kg分の力がかかっています。この圧力の大きさを大気圧と比べて見ましょう。大気圧の場合は、1m平方にさらに10倍大きい10000kg分の力がかかっています。ということは、水深1mでの「“水圧”」は1気圧よりも10倍小さくなります。よって、「水深」dでの「“水圧”」の大きさは以下のようになります。

「“水圧”」=0.1 d(気圧)
もし水深d=1mであれば0.1×1=0.1気圧、水深d=10mであれば0.1×10=1気圧、水深d=20mであれば0.1×20=2気圧、水深d=30mであれば0.1×30=3気圧、レジャーダイビングの深度限界である水深d=40mであれば0.1×40=4気圧となります。「“水圧”」は10mごとに1気圧増えるというダイバーの皆さんがみんな知っている結果が得られました。ただしこれは、水だけの圧力である「“水圧”」を考えていることに注意してください。

「水圧」は「大気圧」と「“水圧”」の足し算

「水圧」は「大気圧」と「“水圧”」の足し算

では最後に、空気の「大気圧」と、水だけの「“水圧”」を足し算して、合計の圧力である「水圧」を計算してみましょう。「大気圧」はP0、「“水圧”」はρdgだったので、それを足し算すると、

「水圧」=P0 +ρdg

となります。ただ足し算するだけなので、計算自体はとても簡単ですね。

では、「水圧」を具体的な数にしてみましょう。「大気圧」P0は1気圧、「“水圧”」ρdgは0.1d気圧だったことを思い出してください。すると、「水圧」P0 +ρdgは以下のようになります。

「水圧」=1+0.1 d(気圧)

とっても簡単ですね。

例えば、水深がd=10 mだったら1+0.1×10=1+1=2気圧、水深がd=20 mだったら1+0.1×20=1+2=3気圧、水深がd=30 mだったら1+0.1×30=1+3=4気圧、水深がレジャーダイビングの深度限界であるd=40 mだったら1+0.1×40=1+4=5気圧になります。計算自体は小学生でもできるとても簡単なものですね。このように、数式を使ってもダイバーの皆さんがすでに知っていることと同じ結論が得られます。じゃあなんで、すでに知っている簡単なことをわざわざ難しい数式で表すんだと思うかもしれません。でも、数式で表現した真価が発揮されるのはもう少しだけ先なのでご辛抱を。

まとめ

まとめ

第6回となる今回は、「気圧」、水だけの「“水圧”」、「水圧」を数式で表現しました。前回同様に少し難しかったと感じた人も心配いりません。計算はそんなもんだと雰囲気だけ感じていただければ大丈夫です。第7回となる次回は、今回計算した「水圧」から「気体の体積」がどう変わるのかを計算してみましょう。数式で表現した真価が発揮されるまでもう少しです。浮力の姿がグラフで一目瞭然になるときが近づいてきています。

この連載では、ダイビングの科学に関する素朴な疑問を大募集しています。初心者の方からインストラクターの方まで、ぜひ質問を編集部までお寄せください。皆様の質問が記事に採用されるかもしれません。
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物理学者
山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)


東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士(理学)を取得後、日本物理学会若手奨励賞を受賞、東京工業大学理学院物理学系助教に至る。科学コミュニケーターとしてTVや映画の監修や出演多数、特に講談社ブルーバックス『独楽の科学』を著した「コマ博士」として知られている。SF映画『インターステラー』の解説会を100回実施し、SF映画『TENET テネット』の字幕科学監修や公式映画パンフの執筆、『クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修、『オッペンハイマー』(早川書房)の監訳を務める「SF博士」でもある。2022年秋に始めたダイビングに完全にハマり、インストラクターを目指して現在ダイブマスター講習中。
次の目標は「ダイビング博士」または「潜る物理学者」。

山崎 詩郎 (YAMAZAKI, Shiro)