ガイドが教える神子元島の凄い海
ハンマーヘッドシャークと戯れる休日

伊豆半島・下田の南東沖に位置する神子元島は、ダイバーの憧れハンマーヘッドと泳げることで大人気。海外ダイバーも年々増えています。これからの時期はハンマーリバーと呼ばれる大群が出現することも! 神子元島を安全に楽しく潜るためにも地元のガイドさんの話をよく聞いて、充実した休日をどうぞ♪
※この特集は2025年月8月現在の情報です。
神子元島ってどんな島?
無人の島の周囲がダイビングスポット

《海遊社》のボート「290」(ふくまる)より神子元島を望む
写真/海遊社
「神子元島(みこもとじま)」は無人島なのでダイビングサービスはなく、近隣の南伊豆町の弓ヶ浜や手石にある港からボートで出かけ、島の周りの「カメ根」「ジャブ根」などのダイビングスポットに潜ることになります。宿泊する場合は弓ヶ浜の近辺が便利です。
ちなみに神子元島は最長部の長さが約400m、面積およそ0.1平方km、最高標高32mのとても小さな岩の島。世界歴史的灯台百選に選ばれた、神子元島灯台が建てられています。
神子元島への行き方
神子元島は伊豆半島の南端、下田沖約11kmに浮かんでいます。所要時間は約15分です。
利用するダイビングサービスがあるのは南伊豆町の弓ヶ浜や手石などで、電車の場合は最寄りの伊豆急下田駅を目指します。到着時間/出発時間によってはダイビングサービスの送迎が利用できます。
車の場合、東京方面からは東名高速の厚木ICから小田原厚木道路で石橋ICまで行き、国道135号をひたすら南下(途中、有料道路を利用したほうが速い)。
名古屋方面からは東名高速の沼津ICまたは新東名の長泉沼津ICから伊豆縦貫道を南下、月ヶ瀬ICまで来たら414号を下田方面へ。
いずれも夏~秋の連休や週末は渋滞が予想されるので、移動時間を調整しましょう。
神子元島でハンマーヘッドシャークに会いたい!
東京からその気になれば日帰りもできるアクセスの良さ

超エキサイティングな出会いが期待できます
写真/神子元ハンマーズ
神子元島は今や海外のダイバーたちの間でも話題となり、実際に訪れる海外ダイバーも少なくありません。日本人ダイバーも海外ダイバーも一番見たい、会いたいのがハンマーヘッドシャーク。少し前まではハンマーヘッドシャークの何百という群れや川状の群泳“ハンマーリバー”を見るなら、ガラパゴスやココアイランド(コスタリカ)など、気が遠くなるほど遠い夢の海域に行くしかありませんでしたが、日本にもそんなビッグスポットがあり、遭遇率が高いことが知られるようになったのです。東京から3~4時間で、その気になれば日帰りで行けるのですから、驚きです!
※以下、ハンマーヘッドシャークは「ハンマー」と表記します
ハンマーに会える神子元島のダイビングスポット

ハンマーは島の周囲のどこのダイビングスポットでも会える可能性があります
写真/海遊社
神子元島の主なダイビングスポット

●がダイビングスポットを表します
神子元島は古くから地元ダイビングサービスのガイド陣によってダイビングスポットが開拓されていて、そのほとんどすべてでハンマーとの目撃例があります。
主にハンマーを見に行くのはどこでしょうか?
《海遊社》と、《神子元ハンマーズ》の飯田達哉さんがそろって答えてくれたのが
1. カメ根(カメネ)
2. ジャブ根(ジャブネ、ザブ根)
3. Aポイント
の3カ所です。「Aポイント」は「カメ根」の一部として以前は紹介していましたが、最近は分けて案内されていますね。
飯田さんは「特にカメ根、ジャブ根からのドリフトコースは、ハンマーが見られる確率が高いです」と言います。
《海遊社》も「島の南のスポットでハンマーの遭遇率が高いのは、上げ潮、下げ潮で流れる方向は変わりますが、黒潮の影響を多大に受けている潮が海中に南北に連なる根にかかっているからだと思います」と言います。

プランクトンが増え、他の魚たちが集まってくるとハンマーも群れ群れに
写真/神子元ハンマーズ
飯田さんはまた、餌の多さもこのスポットたちの特徴だと言います。「ハンマーは流れに乗って移動するため、効率よくエサとなる小魚や季節回遊魚が集まる場所を好みます。また、神子元の海域は黒潮の影響が強く、ハンマーに適した高水温と流れがあるからだと思っています」。
夏から秋は一年でベストなハンマーの季節
水温が高い夏~秋に遭遇率が最も高い
画像/海遊社
「神子元島のハンマーは、例年7月頃から10月初旬ぐらいまで遭遇率が高いのですが、特に8~9月はハンマーリバーがよく見られる傾向があります。水温で考えるとこの時期が一年で最も高く、水温も23℃以上あり26~27℃になることも。この温かい海水をハンマーが好んでいるように思います」と《海遊社》。
今年は6月頃から既にハンマーリバーも登場しているようですが、これからの時期もまだまだ狙えますね♪
ハンマーの群れに会える予感って!?

せっかく潜るならこんなハンマーリバーに会いたい! でも、いつも会えるわけじゃないんです
写真/神子元ハンマーズ
それにしても、首都圏から日帰りで行ける神子元島でこんなにハンマーヘッドシャークに会えるのは奇跡だと思います。《神子元ハンマーズ》の飯田さんに、ハンマーの群れやリバーに会える兆候はあるのか、お伺いしました。
「3点あると思います。
1) 黒潮が安定して当たっている日。潮が暖かく、透明度も良くなるのでハンマーが集まりやすいです。
2) 潮の動きがはっきりしている日。流れがあることでハンマーが活発に動き、群れで現れやすくなります。
3) 早朝1本目。当社は他のダイビングショップ3社より早くボートが出航いたします、人がまだ少なく、海も静かなので遭遇率が高くなることが多いです」
では、逆にこんな日は会えないなという予兆みたいなものは?
「あります。
・潮が全く動いていないとき。水中が“無”になり、魚全体の動きが少なくなります。
・風が強く、海が荒れている日。エントリー・エキジットも難しく、潜れるポイントが限られるため探索範囲も狭まります。
・濁り潮や水温が低下している日。視界が悪くなり、群れがいても発見しづらくなることがあります」
ハンマーは一年中見られる!?

今年3月に遭遇したハンマーリバー
写真/海遊社
ところで、ほかの季節はハンマーはどこかへ行ってしまうのでしょうか?
「いえいえ、ハンマーは10月を過ぎてもまだまだいます。水温が下がっていくので遭遇率が少し落ちますが、でも会えることも多いのです。以前は12月頃から4月頃まで休業状態だったのですが、その期間に海に出てみたらハンマーの群れに会えることが多くて今は一年を通して皆さまをご案内しています」
こう《海遊社》から答えていただいたが、どうやら神子元島の周辺にハンマーは一年中生息しているのですね。きっとハンマーの餌となる魚がとても多いのかもしれません。
ドリフトダイビングでハンマーウオッチング
神子元島のダイビングはドリフトがメイン

ハンマーヘッドの群れが間近で見られることも!
写真/神子元ハンマーズ
伊豆半島ではビーチダイビングや船を係留してのダイビングが多いのですが、神子元島はほぼ100%ドリフトダイビングです。潮が速くなることもあり、アンカリングができないという事情もありますが、流れに乗って(時には逆らって)泳いでハンマーや魚群に会うことが神子元島の海の醍醐味なのです。
エントリーはフリー潜降(ロープ潜降はありません)、海中(水深10mぐらい)で集合したらガイドの後ろをまとまって中層を泳ぎ、ダイビングを楽しんだ後に浮上、安全停止。きちんと安全停止した後に浮上(エグジット)して船にピックアップしてもらうというスタイルになります。
スキルとしては、フリー潜降ができること、中層で中性浮力をとりながら泳げること、自分のダイビング管理ができること、が必要です。
「Aポイント」では着底してハンマーウオッチング
画像/海遊社
ドリフトメインの神子元島ですが、「Aポイント」はトップが水深13m、ボトムが26mの大きくはない根で、ここでは着底してハンマーウオッチが楽しめます。
「神子元島の『Aポイント』は島の南東〜東側に位置し、大きな湾のような形状をしており、潮通しが非常に良く、暖かい下り潮が流入しやすいのが特徴です。湾の周囲では着底してハンマーヘッドシャークのウオッチングが楽しめ、近年は初夏に数十〜数百匹規模の群れが見られることもあります。
ただし、これはあくまで自然の海の中での出来事であり、遭遇状況は以下の条件によって大きく変動します。
・潮の流れ(特に下り潮の時)
・水温
・透明度
・時間帯
そのため『Aポイントに行けば必ずたくさん見られる』というわけではなく、日によってはほとんど出会えない場合もあります」と《海遊社》。また同社では独自のルールを定めていて、
・ハンマーヘッドが出入りする湾への入り口を塞がないこと。
・基本は着底して鑑賞し、湾内には入らずじっと待つ。
・GoProなどのカメラ用一脚は、サメを刺激しないことや他ダイバーへの配慮から伸ばすことは原則禁止。
ということをブリーフィングで徹底。「各社が定めるルールやマナーを正しく守ることで、信じられないような素晴らしい光景に出会える可能性が広がりますよ」
ルールやマナー、大事ですね!
一日のダイビングスタイル
ダイビングサービスによりますが1日2~3ダイブ、ダイビングボートは午前2~3回、午後1~2回(週末に多くなる傾向があります)出港しています。1ダイブごとに港に戻り、ダイビングサービスで休憩します。ちなみに、弓ヶ浜から神子元島へは約8km、片道15分ほどで行けます。
潜水時間は最大40分(潜降して安全停止、浮上するまで)とダイビングサービス同士の取り決めで決まっています。
神子元島の海を潜る条件
「神子元は上級者向けのドリフトダイビングが中心となるため、以下の条件を設けて当店では下記のような制限があります。
・経験本数:最低50本以上
・ブランク1年以上の方は、事前のリフレッシュダイブが必須
・持病のある方・60歳以上の方は診断書が必要、70歳以上はご参加不可
・ダイビング時は安全管理のためダイブコンピューターとシグナルフロートを必ず携行」
(神子元ハンマーズ/飯田さん)
「ローカルルールでは経験本数30本以上となっていますが、《海遊社》では
・経験本数:50本以上
・レスキューフロート必携
・グループ内の誰かが一人でも残圧70になったら、全員で浮上開始
・60歳以上の方は、メディカルチェックの『どの項目』にも該当せず、既往症は無く、全く問題なくダイビングが可能」という医師の診断書が必要
・また、指定する病歴(症状)のある方は医師の診断書が必要」
となっています。
ハンマーウオッチングのルールやマナー
事前のブリーフィングは真剣に聞いて!
神子元島の場合、1ダイブごとにブリーフィングが行われるのではなく、朝一番に実施されるブリーフィングに全員が参加することになります。
「ダイビングボート乗船前の器材セッティング、乗船後のマナー、エントリーの仕方、水中での動き、万が一、はぐれたときの対処方法などをわかりやすくご説明しています。ご自身の安全に関わることですので、必ず参加して聞いてください」と《海遊社》。
《神子元ハンマーズ》の飯田さんはブリーフィングの中でも重点的に聞いてほしいことを教えてくれました。
「特に力を入れているのは以下の3点になります。
1. 『追わない』
サメにストレスを与えず、自然な姿を観察できる距離を保つよう指導しています。
2. フィンワークと中性浮力の徹底
無駄な動きを抑えることで、サメを驚かせず、群れの中に長くいられる可能性が上がります。
3. チーム行動の重要性
バラバラに泳がないことで、安全面と観察時間の確保、他のチームへの配慮にもつながります」
海中で他のグループと交叉しそうになったら?
人気の神子元島。時にはほかのグループとごちゃごちゃになって、迷子になってしまうダイバーも。そうならないための対策を《海遊社》に伺いました。
「エントリーする前に担当ガイドの特徴(フィンやマスクの色など)をお伝えするので、それを参考について来てもらっています。また海遊社は全ガイドがオレンジ色のフラッグを必ず携帯しているので、それも目印になると思います」
こちらの記事もぜひ併せてご覧ください!
神子元島で安全に楽しくハンマーヘッドシャークを
ウオッチングするためのマナーとルール
安全にハンマーを見るためにこんな工夫をしてくれています

上級者向けのハンマーウオッチだからこそガイドも尽力
写真/神子元ハンマーズ
ガイドの腕も光るハンマーウオッチング。飯田さんに普段気を使っていることを伺いました。
「そうですね。以下のような工夫を日々行っています:
・潮の読みとルート選択の柔軟性:エントリー直前まで潮流・風・透視度を見極めて、最適なコースを決定します。
・水中サインの共通化とスムーズな誘導:ゲストが理解しやすいサインで、安全かつ効率的に誘導します。
・『先読み』行動:潮流・魚の動き・先行チームの動向などを常に把握して、ベストポジションを狙います」
一緒に潜っている他のダイビングチームはハンマーに会えたのに、こちらは会えないというケースもたまにあるので、ガイドさんも本当に努力していることがわかりますね。
超大物も現れる神子元島
地球最大の魚類やダイバー憧れの超大物も出現!
画像/上原剛己(神子元ハンマーズ)
ハンマーのように狙って会えるものではないけれど、神子元島を取り巻く海には、思いがけない超大物も出現することがあります。例えば地球最大の魚類ジンベエザメ。毎年2~3回、報告が上がっています。

昨年の秋(11月)に出現したマンボウ
写真/海遊社
体の上下にある大きなヒレをパタパタとはためかせながた泳ぐ姿がナントもかわいらしいマンボウ。しかもその体長は大きなものでは3mにも及び、迫力モノ。神子元島では年に一度か二度(もしくはもっと)安全停止中、浅いところでダイバーが遭遇している例が多いです。
ほかにも外洋性の大型のサメで、メジロザメの仲間や、バショウカジキ、クロカジキなど、会えるとうれしい超大物が現れる神子元島。運次第ではありますが、いつか出会ってみたいですね♪
回遊魚の大群やウミガメはほぼ常連

成長魚ブリのほぼ成魚バージョン、ワラサも群れ群れ
写真/神子元ハンマーズ
ハンマーウオッチのできる海域は潮通しが良く、水温が上がってくると同時にプランクトンも増え、魚影が非常に濃くなってきます。ハンマーの群れが観察できない日はブリの幼魚~成魚の群れやカンパチなど大型の回遊魚が回ってくることが多く、エキサイティングなダイビングとなります。

海面近くでぷかぷか泳いでいたクラゲを食すアオウミガメたち
写真/海遊社
回遊魚の数も多いですが、神子元島の周辺ではよくウミガメ(主にアオウミガメ)に会えます。普通は根の周りで会えることが多いのですが、ある日、ウミガメが4匹海面近くに集まっていて、クラゲを奪い合っている珍しいシーンに出会えました。
こんなふうに何に出会えるかわからない、わくわくドキドキな神子元島の海。ハンマーに出会えなくても満足できそうです!
神子元島を潜るおすすめダイビングサービス
海遊社
〒415-0152 静岡県賀茂郡南伊豆町湊898-2
TEL:0558-62-3650
E-mail: kaiyusha@gmail.com

ダイビングクルーザー「290(ふくまる)」は日本最大級のダイビング専用ボート
写真/海遊社
創業35年目となったダイビングセンター《海遊社》は、まさに神子元島のパイオニア! 船長で代表取締役社長の佐藤新吾さんは神子元の水中マップを最初に描いた超ベテランガイドで、操船テクニックだけではなく水中の知識も豊富です。ガイド陣も若手からベテランまで幅広く、”安全があってこその楽しいダイビング”をモットーに無理をしないダイビングを心がけています。
ダイビング船「290(ふくまる)」には温水シャワー、トイレ、冷暖房器具も備え付けられていてダイビング船としては日本最大級です。パワーリフト付きのラダーなので、エグジットがとにかくラクチン。ダイバー思いのダイビングクルーザーとなっています。
神子元ハンマーズ
〒415-0152 静岡県賀茂郡南伊豆町湊353-6
TEL:0558-62-4105
E-mail: info@mikomoto.com

2025年5月29日に新店舗が弓ヶ浜エリアにオープン!
写真/神子元ハンマーズ
今年5月に新店舗が完成、移転リニューアルオープンして、さらにパワーアップしています。神子元の魅力を知り尽くしたガイド陣による高確率のハンマーウオッチングを、プロフェッショナルで安全第一のガイド体制でお届けします。「ゲストのスキルに応じたサポートとブリーフィング、安全意識の高さが強みです」と飯田さん。リピーター続出の温かい雰囲気と地元密着サービスで、ダイビング後の温泉・グルメ情報も充実。神子元の海と町の魅力を丸ごとお楽しみいただけます。追加料金なしのナイトロックスもあるのでぜひご利用を。
文/後藤ゆかり(マリンダイビングWeb)