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テツ先生の新・海のいきもの
連載第7回 海にある空 ソラスズメダイ

新・海のいきもの

ダイビングで海のいきものを観察する楽しさをインストラクターで東海大学海洋生物学科准教授のテツ先生が語る連載、第7回はソラスズメダイ。メルヘンチックなタイトルで登場です。

※2026年3月の情報です

テツ少年が初めて調べたサカナ

ソラスズメダイ 英名:Neon damselfish 撮影地:三保真崎 水深12m 体長6cm

ソラスズメダイ 英名:Neon damselfish 撮影地:三保真崎 水深12m 体長6cm
Photo by Takashi Tetsu

もしかすると、地域差もありますが、体験ダイビングやスノーケリングを含めて、人が海に入った時、一番初めに目につく魚はソラスズメダイではないでしょうか。
私が認識したのは、小学生の頃に防波堤で釣りをしていて、獲物を探して水中を凝視している時に「なんだ?この空のようにキレイな魚は」と思って家に帰り、祖父にその話をすると「それはコバルトスズメだな」と教えられました。その後、百科事典を一式買い揃えてもらって、早速コバルトスズメダイを調べましたが、載っていません(笑)。一番近いと思ったのが、ソラスズメダイでした。実は、私が初めて魚類を図鑑で調べたのがソラスズメダイなのです。

美しいソラスズメダイの群れで「ダイバー予備軍一丁あがり!」 撮影地:三保真崎 水深6m  体長4cm

美しいソラスズメダイの群れで「ダイバー予備軍一丁あがり!」 撮影地:三保真崎 水深6m 体長4cm
Photo by Takashi Tetsu

その後、マスクを着けて海中をのぞく機会があったので、顔を水につけてみると青い魚がいっぱいいました。コ、コバルトじゃなく、ソラスズメダイが視界一面にいます。そりゃあもぉ水面から見るのとはわけが違います。子どもが海の魅力に取り憑かれていく最もベーシックなケースです。その影響もあって、全12巻あった百科事典の「魚」が載っている一冊は群を抜いて古本のようになりました。
そのような理由で、私のソラスズメダイへの深い愛情を理解していただいたところで、わりと早い段階で気がついた違和感の話に繋げたいと思います。

繁殖期の夏、すでに幼魚が!?

冒頭の画像も先程の群れの画像もボディの青の色彩の濃淡は別として、尾ビレの黄色味に関しては、似たような印象だと思います。
ソラスズメダイは7〜8月が繁殖期とされているので、その時期になると牡蠣殻や適当な産卵床を見つけるとオスがメスを呼び込んで産卵・放精となり、しばらくはオスが育メンとして孵(ふ)化までの期間、卵の世話をします。
ところが同じタイミングで幼魚が観察されるようになります。もちろん、若干のズレは生じるので、もしかすると早いタイミングで産卵・放精し孵化した幼魚なのかも知れません。観察当初は、そのように思っていましたが、明らかに違和感があります。

腹から尾ビレが黄色いソラスズメダイの幼魚 撮影地:三保真崎 水深12m 体長1.5cm

腹から尾ビレが黄色いソラスズメダイの幼魚 撮影地:三保真崎 水深12m 体長1.5cm 
Photo by Takashi Tetsu

ソラスズメダイは、時期や生息環境などの影響を受けて、若干色彩に変異が生じることがあります。しかしながら、上の写真のように、ここまで黄色が強く反映してくると違和感しかありません。

南方由来やハイブリットも混在?

疑問を解消するため、文献・論文を検索すると東海大学海洋科学博物館の館長をお務めになった経験のある鈴木克己先生の論文がヒットしました。断定的ではありませんでしたが、この移入を裏付ける記載があったことで、南方からやってきたのがこの黄色味の強い個体群ではないかと認識ができてホッと胸をなで下ろしました。

ボディ全体の青みの面積が多い従来型のソラスズメダイの群れ 撮影地:大瀬崎(湾内) 水深4m 体長3cm

ボディ全体の青みの面積が多い従来型のソラスズメダイの群れ 撮影地:大瀬崎(湾内) 水深4m 体長3cm
Photo by Takashi Tetsu

腹部から尾部が黄色い加入型のソラスズメダイ 撮影地:三保真崎 水深12m 体長5cm

腹部から尾部が黄色い加入型のソラスズメダイ 撮影地:三保真崎 水深12m 体長5cm
Photo by Takashi Tetsu

そもそもの産卵期に、幼魚を確認することで違和感を覚え、探究したことで混在に気がつくことができました。既に、従来型と南方からの加入型のハイブリッドは少なからず混在しているのかも知れません。

成長して底にいる個体は紫っぽく見える 撮影地:三保真崎 水深12m 体長8cm

成長して底にいる個体は紫っぽく見える 撮影地:三保真崎 水深12m 体長8cm
Photo by Takashi Tetsu

黒潮の大蛇行が終息し、果たしてどうなる?

黒潮の大蛇行が終息して、徐々に7〜8年前の姿を取り戻しに向かっている海を日々楽しんでいます。この状況が環境のタイムマシンとなって、生物が以前の状態に徐々に戻ってゆくのか、あるいは水温やエサとなる生物などの環境適合によって、それほど多くの変化は生まれないのかは、ここからしばらくは私たちダイバーが見守っていかなければならないと感じています。まさか、いきなり12℃台に水温が落ちるとは思っていなかったので、極端な海藻の繁茂に一喜一憂しながら地元の海を見つめています。

Profile

鉄 多加志
Tetsu Takashi

1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授

鉄 多加志

ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。

専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。

主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。