テツ先生の新・海のいきもの
連載第6回 冬の人気者キアンコウ

ダイビングで出会う海のいきもの。ただ見つけるだけでなく、知識があれば観察はもっと面白くなります。東海大学海洋生物学科准教授でインストラクターでもあるテツ先生が今回、紹介してくれるのは冬の人気者、キアンコウ。アンコウとの見分け方や深海から現れる理由などを教えてもらいましょう。
※2026年2月の情報です
実は食べていたのかも?

威嚇するキアンコウ 英名:Yellow goosefish 撮影地:三保真崎 水深19m 体長80cm
Photo by Takashi Tetsu
今回は最近、駿河湾沿岸のダイビングスポットで目撃情報が多くなっているキアンコウを取り上げたいと思います。一般的に「あんこう鍋」のイメージから、鮟鱇(あんこう)=アンコウと思われる方が多いと思いますが、実は食用として多く流通しているのはキアンコウです。もちろんアンコウも食用として流通していますが、その数はキアンコウの数にはかないません。とはいえ、その違いを水中で判断するとなると、それなりにポイントをおさえないと困惑します。
アンコウとキアンコウの違い
形態的な話をすると、アンコウは頭長と胴部&尾部の長さが同じで、それに対してキアンコウは胴部と尾部の長さが頭長を上回ります。寸詰まりな感じがすれば、それはアンコウかも知れません。
また、近寄ると威嚇のためだと思いますが、体を反せる、あるいは口を大きく開けます。その際に口の中にライトを当てて、舌を観察してみてください。キアンコウの舌の先端は白いので、マニアな見分け方ができます(笑)

キアンコウの口の中 撮影地:三保真崎 水深19m 体長80cm
Photo by Takashi Tetsu

キアンコウ頭部周辺の皮弁 撮影地:三保真崎
Photo by Takashi Tetsu
体格差や個体差はあると思いますが、キアンコウのほうが頭部周辺の皮弁(ひべん)がアンコウよりも発達しているように感じます。
大きく見せてメスにアピール
基本的に日中、海底で遭遇する60cmを超える個体は繁殖期間のメスです。昼の間にオスを見ることはまずありません。オスはメスの半分程度の大きさで、明るいうちはメスを探して中層を泳いでいます。メスを探し当てたオスは、メスの真上に来て自分の影(シルエット)を大きく見せることで、メスにアピールをします。つまり、天気が良くて透明度が高い時ほど、メスから距離をとることで影を大きく見せることができるのです。小さなオスにとっては、自分を売り込むチャンス到来!です。この話は、漁師さんや漁師さんみたいなカメラマンの先輩の方々から聞きました。
漂いながら成長し、着底するのは初夏
ペアリングした雌雄は、日没くらいのタイミングで放卵・放精します。受精した卵塊は中性浮力を保ち、並岸流に乗って漂いながら成長し、孵(ふ)化します。浮遊生活を続けながら孵化した仔魚は幼魚へと成長し、やがて初夏には着底して、自分の大きさに見合った食べ物を探しながら、成長を続け、深い水深へと向かいます。

肉食のキアンコウは鋭い歯を持つ 撮影地:三保真崎
Photo by Takashi Tetsu

つぶらな瞳 撮影地:三保真崎
Photo by Takashi Tetsu
冬に深海のいきものが現れる理由
深海のエリアに生息する生物は、冬になると比較的ダイバーが容易に到達できる水深に上がってきて産卵をします。その理由はいくつかあります。
まず浅場が、普段から生息している水深の水温に近くなるから。次に、特に駿河湾の場合は冬に発生する湧昇(ゆうしょう)流を利用して深海の生物が上がって来やすくなるから。最後に、幼稚仔(小さな子ども)が食べやすい餌が豊富にあるから、などが挙げられます。加えて、水温の低い冬の時期は生息する生物の種類が減り、その行動も活発でなくなることから、幼魚期に捕食されにくいという繁殖戦略もあります。
普段は、ダイバーが到達できないような水深にいる生きものも、この時期になるといくつかの種が繁殖のために浅い水深に上がってくるので、観察できる可能性が高くなります。ドライスーツの練習は必要ですが、冬の海の魅力にチャレンジしてみませんか。
Profile
鉄 多加志
Tetsu Takashi
1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授
ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。
専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。
主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。










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