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【連載コラム】もっと知りたいダイビング医学
第2回 
減圧症
~ダイバーが知っておくべきこと その1~

もっと知りたいダイビング医学

ダイビングを安全に楽しむうえで、知らないわけにはいかない減圧症。Cカード取得講習でも必修の項目ですが、症状や対処方法など覚えていますか? 重症の減圧症を発症した場合には、早期の再圧治療が必要です。このため、ダイバー自身による予防、さらに万が一の際には、症状から適切に減圧症を疑い、すみやかに治療へつなげることが重要です。
減圧症に関しては、以前と考え方が変わってきている部分もあります。実際に再圧治療にたずさわる潜水医学の専門医として、減圧症とはなにか、また発症後の対応、ダイバーへのメッセージなどを3回にわたって解説します。

文責/小島泰史(東京医科歯科大学高気圧治療部、東京海上日動メディカルサービス)

減圧症とはなにか

●減圧症はなぜ発症する?

潜水中に吸った高圧のガス中に含まれる生理的不活性ガス(空気潜水では窒素、以下窒素)は、周囲の圧力に応じて体内に溶け込みます。溶け込んだ窒素は、浮上(減圧)とともに呼吸によって排出されます。

しかし、呼吸による排出が追いつかない場合には、窒素は組織内や血管内で気泡化します。気泡は、物理的に血管を詰まらせ、組織を圧迫することで障害を起こします。また、気泡は血管内皮細胞を障害したり、血液が固まりやすくなったりする等の二次的な障害も引き起こし、減圧症が発症するとされます。

●減圧症は何メートル以上潜ると発症する可能性がある?

減圧症の発症には一定量以上の窒素負荷が必要です。文献的には、飽和潜水状態から直浮上しても、約6メートル(20フィート)より浅い深度であれば減圧症は発症しないとされます。そこからは、最大深度が約8メートル(20から25フィート)以下では減圧症は発症しないと考えられています。1)
注意:動脈ガス塞栓症はより浅い潜水でも発症し得ます。

●減圧症はいつ発症する?

米海軍の空気潜水データベースによれば、水面浮上後1時間以内の発症が42%、3時間以内の発症が60%、8時間以内の発症が83%、24時間以内の発症が98%とされます。2)浮上後48時間以上では、減圧症の発症可能性は殆どないとされますが、症状発現に気づかず数日後に症状がはっきりしてくる症例もあるため、注意が必要です。
なお、重症例ほど潜水終了後すぐに、場合によっては浮上中に発症します。脳症状の90%は浮上後30分以内、脊髄症状の90%は浮上後4時間以内に発症するとの報告もあります。3)浮上後短時間で発症する減圧症ほど予後も不良(後遺症が残る、死亡する)であり、逆に、時間が経過してから気づかれる症例は、軽症例が多い傾向です。

●減圧症ではどのような症状が現れる?

気泡による障害は、あらゆる組織に起こる可能性があるため、減圧症の症状は多彩です。皮膚のかゆみ、関節の痛み、上下肢のしれびから、めまい、麻痺(筋力低下)、心血管障害、死亡と多岐にわたります。
図1は、減圧障害の各症状(初発症状/全症状)の出現頻度を示したものです。4)ここからは、疼痛、しびれ・知覚異常といった症状がよく見られることがわかります。また、意識障害、心血管障害といった生命に危険が及ぶような重症の減圧障害の頻度は低いこともわかります。

関節の痛みや、しびれなどの知覚異常は下肢(股関節からつま先まで)よりも上肢(肩関節から手指まで)に多く、筋力低下は上肢にも下肢にも同じくらい出現するとされます。痛みは、部位としては肩や肘が多く、持続性の鈍痛、深部痛で、関節を動かしても痛みの程度は変わらないことが特徴とされます。内耳型減圧症の症状(回転性めまい、吐き気、嘔吐など)は、通常は浮上後2~3時間以内に発症し、約18メートル(60フィート)よりも深い潜水で起こるとされます。3)

なお、図1に示されている「減圧障害」は、減圧症と動脈ガス塞栓症の2つを併せた疾患概念です。臨床現場では、必ずしもこの2つの区別を要さないことから、このような表記となっています。このため、厳密には「減圧症のみの症状の頻度」とは異なりますが、動脈ガス塞栓症の発生頻度は減圧症と比べて稀です。よって、図1の減圧障害の各症状の頻度は、概ね「減圧症」の頻度と捉えてもよいと考えます。

図1 減圧障害の各症状(初発症状/全症状) 文献4より著者抄訳作成

古典的には、減圧症はその症状に応じ、Ⅰ型(軽症)とⅡ型(重症)に分類されます(表1)。表1からは、痛みや皮膚症状のみであれば軽症と分類されることになります。ただし、痛みの中でも腰痛、皮膚症状の中でも大理石斑については、重症減圧症(脊髄型:下肢麻痺、膀胱直腸障害)の前兆として現れることがあり、注意が必要です。発症時には一見軽症(Ⅰ型)に見えても、時間経過で重症化することがあります。

表1 減圧症の古典的分類

Ⅰ型減圧症(軽症)
皮膚の発赤(掻痒感を伴う)、大理石斑
四肢の関節痛
四肢の浮腫・むくみ
Ⅱ型減圧症(重症)
脊髄型:知覚・運動・膀胱直腸障害
脳型:意識障害、痙攣、片麻痺
肺型(チョークス):胸痛、咳、息切れ
内耳型:めまい、嘔気、聴力低下
その他:Ⅰ型以外の症状

減圧症の発生頻度は?

減圧症の発生頻度は、潜水条件(例:冷水下で多い)や潜水の種類でも異なるため、様々な報告があります。また、後述しますが、医師の間で広く受け入れられた減圧症の診断基準はありません。このため、医師や報告者によって減圧症の診断根拠が異なり、実際よりも高い/低い頻度と評価されている可能性もあります。
しかし、発生頻度はそれほど高くはなく、レジャーダイバーでは10,000~5,000ダイブに1例程度とされています。4)

減圧症の診断方法について

現在、減圧症の診断基準は確立されておらず、潜水プロフィール(潜水深度、潜水時間他)、症状発現時期、症状・所見、既往症、再圧治療への反応等から「総合的に」診断されます。

なぜなら、減圧症に特有の異常検査結果(採血、心電図など)は存在せず、また、レントゲンやMRIといった画像検査の感受性(減圧症患者で異常所見が見られる確率)は低いためです。そのため、これらの検査結果から減圧症を証明することは困難です。

減圧症は、気泡により生じます。実際、減圧症の患者に超音波検査やCT検査をすると、気泡が見つかることがあります。しかし、減圧症患者の全員には見つかりません。逆に気泡があるにもかかわらず減圧症を発症しないダイバーも相当数います(サイレントバブル)。このように、気泡の有無のみで減圧症の診断をすることはできないのです。

Topics

「総合的に」診断する上で留意すべき点のひとつに「鑑別診断」があります。鑑別診断とは、潜水後の体調不良者に対して、減圧症以外の疾患が発症した可能性を考慮することです。現在、ダイバーの高齢化により問題となってきており、2018年にはUHMS(米国高気圧潜水医学会)で鑑別診断をテーマとしたコースが開催されました。3)すべての議論をここで紹介するのは難しいため、基本的な考え方のみを記します。

① 若い健康なダイバーの潜水後の体調不良を見たらまずは減圧症/減圧障害を疑うことが合理的だろう

実際、そのようなダイバーが多いと思われる米国海軍潜水マニュアル2)では、
・ 発症から時間が経つにつれて再圧治療の効果は減弱する。
・ 潜水医官の到着前でも再圧開始する。
・ 意識障害を見たら、減圧障害の可能性が疑いなく否定できない限りは、減圧障害として再圧する。
・ 減圧障害を疑ったら常に再圧する(潜水後の内耳症状)。
などの記載を認め、潜水後に何か異常があれば且つ心肺停止でなければ、「まずは減圧障害を疑い再圧開始すべし」とのスタンスです。

② 高齢者や持病のある方(糖尿病、高血圧など)の潜水後の体調不良の原因は必ずしも減圧症/減圧障害とは限らない

高齢者、持病有りでは、潜水後の体調不良の原因が減圧症/減圧障害とは限りません。たまたま水中で心筋梗塞などの病気を発症したのかもしれないからです。このため、鑑別診断(脳卒中、心疾患、椎間板ヘルニアの悪化等、他の疾患の除外)が問題となります。

例えば、脳梗塞の治療は発症後早期に行なうことが推奨されます。以前は再圧治療前に画像検査を含む各種検査を施行することは推奨されていませんでしたが、治療を急ぐべき疾患は減圧症/減圧障害だけではない、という理由から、近年変化してきています。現在では、潜水事故の患者が病院に搬送された場合、必要に応じて画像検査、採血検査などを再圧治療前、もしくは初回の再圧治療後に行う傾向にあります。3,5,6)

以上、減圧症の症状や発生頻度、診断方法などについてお伝えしました。
次回は減圧症の治療方法について、解説します。

参考文献

小島泰史先生プロフィール

小島 泰史 (コジマ ヤスシ)

小島 泰史
(コジマ ヤスシ)

1997年にダイビングを始め、その後東京医科歯科大高気圧治療部で潜水医学を学び、専門医を取得。現在は同大学の高気圧治療部非常勤講師として、潜水障害患者の診療を行っている。専門である整形外科の知識を活かし、損害保険会社の顧問医として、医療事故などに関する医療コンサルを行っており、リスクに関する造詣も深い。元DAN Japan Medical Officer。現在、日本高気圧環境・潜水医学会において理事、広報委員会委員長、国際情報委員会委員長を務めている。UHMS、SPUMS、日本渡航医学会他、多数の学会に所属。
日本整形外科学会認定整形外科専門医。日本手外科学会認定手外科専門医。日本医師会認定産業医。日本高気圧環境・潜水医学会認定高気圧医学専門医。