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- ヒメタツの繁殖シーズン 感動の出産映像!
現地の海から2020.06.10
熊本県・水俣市《水俣ダイビングサービスSEAHORSE》発信
ヒメタツの繁殖シーズンど真ん中
ハッチアウト映像&今後のハッチ・ハート予定も
熊本県・水俣の現地ダイビングサービス《水俣ダイビングサービスSEAHORSE》より、感動的なヒメタツのハッチアウト映像が届きました!
ハッチアウト動画(中盤)
現在、熊本県・水俣の海ではヒメタツが繁殖シーズンど真ん中を迎えています。
ヒメタツとは、2017年の秋に新種登録された、日本海側に生息する体長10cmほどのタツノオトシゴの一種。かつては工場排水で生態系が壊された水俣の海ですが、今では多くのヒメタツが生息し、まとまって繁殖行動をしていることで有名です。
今回は、水俣の海で約5年間ヒメタツの生態記録を行なっている《水俣ダイビングサービスSEAHORSE》のオーナー・森下誠さんにお話をお伺いしました。
ヒメタツのつがい
ーヒメタツの繁殖シーズンについて教えてください
「ヒメタツの繁殖シーズンは1月~8月ごろまで。それ以外の時期は同じ水俣の海の中で点々と、個々に暮らしているようですが、12月~1月になるとだんだん一か所に集まり始め、ペアリング(オスとメスがペアになること)が見られるようになってきます。2020年は1月に1組目のペアリングが見られました」
★タツノオトシゴは、メスがオスの体内(育児嚢)に卵を産みつけ、オスが授精させてそのまま子育てをします。メスからオスへの卵の受け渡しを「ハート」と呼び、オスによる出産を「ハッチ」といいます。
ヒメタツのハート
「2020年は1月に最初のハートが見られましたが、通常2月頃から見られ始めます。水温が低いと抱卵期間が長く、ハッチは60日~70日ほど後になります。2020年は3月に最初のハッチが見られましたが、通常4月になって最初のハッチが見られます。
出産の後3日以内に、またハート。水温が上がってくるので、40日前後でハッチして、またハート。同じ個体が繁殖期間中3~4回ハート&ハッチを繰り返します。
今抱卵中のオスは、だいたい3回目の卵を守っているところです。7月中旬に最後のハートがみられて、8月の第一週目くらいに最後のハッチアウトとなるでしょう。」
《水俣ダイビングサービスSEAHORSE》のFacebookアカウントには、6月のハッチ予想日が日にちごとに記載されています。これほど細かく予想することができるのも、過去5年の生態観察の成果。
ハッチ狙いで力を入れて調査を始めたのが2015年、ハートは2017年。
6月のこの時期だと、だいたいハートから23日後にハッチする、などとわかっていて予想ができるそうです。
とはいえ、どのヒメタツがいつから抱卵しているかわからないと予想は難しいのでは……?と思いきや、今は86尾いるヒメタツを皆個体識別できているというのですから、筆者もビックリ仰天!
ヒメタツは、1月に集まってからは基本的に気に入った箇所の半径1mから動かず、たとえ昼間いなくなっても夜は必ず同じところで眠っているのでわかるそうです。それにしても、すごすぎますね……。
「最後のハッチが終わったら、それぞれ自由に散らばります。生まれてすぐの赤ちゃんは皆メスですが、12~1月にはオス化して、繁殖期が近づいたら最初の年で繁殖活動に参加します。とはいえ、最初のうちは体が小さいオスは、ハート時に卵をこぼしてしまうことも。
今年生まれた子は、来年繁殖期を迎えるころには5cmくらい。繁殖しながら成長していきます。」
ヒメタツのハッチ(映像)
「ハッチアウト開始の様子です。パンパンに膨らんだオスの育児嚢から最初は零れ落ちるように赤ちゃんタツが出てきます。」
「ハッチ前半の様子です。オスがいきみますがなかなか出てきません。」
「ハッチ中盤の様子。数尾産んでは数分間休憩しながらを繰り返します。」
「ハッチ終盤の様子。約80尾前後の赤ちゃんが無事に旅立つことができました。この後、夜が明けるとメスから次の卵を渡されまた抱卵(卵保護)&育児を開始しました。」
―ハッチ・ハートが見られる時間帯は?
「ハッチが見られるのはだいたい夜中の1:00~4:00、日が昇るのが遅ければ5:00くらいまで。
夜明け前には絶対に済ませています。1~2時はゴールデンタイムで、一番出産の様子が見られます。次は3~4時台。ハッチには休憩しつつ30分~1時間かけるので、動画や写真撮影を長い時間楽しむことができますよ。
ハートは、1回目は時間帯不明。2、3回目は午前中、早いと夜明けすぐ、5:00~6:00くらい。
ハートはハッチ後3日以内に行なわれますが、ハッチ直後に行なわれることも。出産しそうなオスにメスが求愛行動をして、予約のようなことをしている様子も見られます。」
オスの産卵嚢がはっきりと見えます
―一回のハッチでどのくらいの数の赤ちゃんが生まれるのですか?
「一度のハッチで産まれる数は、最大100尾。少なくて50尾くらいです。1cm~1.5cmの大きさで産まれ、2~3日浮遊後、着底します。現在、海藻には2~3cmくらいのがたくさんいますよ。
水俣では、1割以上が大人になるまで生き残っていると思います。」
「今シーズン生まれたヒメタツの子供、体長2cm前後の個体をそこらじゅうで観察できます。」
―一般のダイバーでも見ることはできるのですか? 水深は?
「ナイトダイビングになるので、アドバンスは必須です。
見られる水深は、深くて11~12m。浅いと3mなので、平均で5~6mでしょうか。」
―なぜ水俣でヒメタツの繁殖活動が活発なのだと思われますか?
「閉鎖的な海域だからでしょう。隠れられるサンゴや藻場が多いし、えさになる好物のワレカラや小エビなどの小さな甲殻類もたくさんいます。内海で荒れないから、浅いところでも安心していられます。住処と食と穏やかさという点で、繁殖場所に最適なのではないでしょうか。」
―そのほかに見られる生き物を教えてください!
「ハッチアウト観察中には、ライトに魚がたくさん集まってきます。浮遊系、イカ、ジェリーフィッシュライダーやキハッソクの幼魚など。カタクチイワシを狙ったタチウオなんかも見られて、ほかの海ではあまり見られない光景が楽しめますよ。」
「ハッチ待ちの楽しみ夜の生き物観察で毎晩現れるダンゴイカ」
なんのポージングでしょう……かわいい!
森下さん、ありがとうございました!
ヒメタツの出産映像は、見ていてこちらが息が苦しくなるほど……。
実際に水中で見たら、感動すること間違いなしですね。
水俣の豊かな海に、ますます潜りたくなります。
情報・写真、動画提供:《水俣ダイビングサービスSEAHORSE》
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