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ニュース2024.09.26

水中写真家・上出俊作さんが世界屈指フォトコンテスト
IPA2024の複数部門で1位&上位受賞

マリンダイビングWebの「水中写真家作品探訪」にも出演し、マリンダイビングフェアの水中写真コーナーにも登場している水中写真家・上出俊作さんがIPA(International Photography Awards TM)2024のプロフェッショナル部門ネイチャー・マクロカテゴリーで1位および審査員特別賞を受賞しました! ちょうど大谷翔平選手が50/50とメジャーリーグ創設100年以来初の快挙を成した頃だったのですが、日本人の水中写真家がこの、水陸両方応募できるプロの部門とカテゴリーで1位を獲るということは、非常に画期的な出来事! おめでとうございます!!

早速上出さんにお話を伺いました。

※IPAは2001年に設立した世界的なフォトコンテストで、過去に日本人の写真家さんたちが何名か1位または上位に選ばれて、『マリンダイビング』でも紹介したことがある、世界でも名立たるフォトコンテストの一つです。米国にある、才能を持った芸術家を発掘し支援することを目的としているFarmani Groupが運営する写真と出版物を目的とするコンペティションです。

Q
まず受賞された作品を見せていただけますか? 組写真なんですね

IPAの面白いところとして、1枚の単写真でも、複数枚の組写真でも、同じ土俵で審査されるというのがあります。組写真の場合は、応募できる点数は2点から10点です。
水中カテゴリーには単写真も出したのですが、個人的には、そもそも普段から自分の作品を組写真としてとらえているので、組写真で応募するほうが自然でした。
写真家さんによってやり方考え方は異なるでしょうが、僕の場合は作品発表の中心を写真展・写真集だととらえています。ですので、当然テーマがあり、組写真です。
Titleの「Underwater Portraits」は、新作は入っているものの、ある意味では2022年の写真展・写真集『陽だまり』を元に、よりテーマを絞ったバージョンといえます。
今回は抽象的な表現はなくして、さらに甲殻類やウミウシなどの魚以外も省いて、魚だけに絞ったわけですが、魚のお気に入り写真だけでも手元に100点以上はあるので、頑張って10点に絞りました。みんな可愛い子たちなので、それより減らすのは無理でした(笑)

Q
IPAフォトコンに応募されたのはなぜですか?

海外のフォトコンテストに出したのは完全に初めてです(日本では一度だけ応募して受賞しました)。
知人から「海外フォトコンに出してみたらどうですか? 受賞できると思いますよ」と勧められて、自分でもいろいろ調べているうちに興味を持ちました。腕試しというよりは「勉強になるかな」という思いのほうが強かったですし、「世界」というものに少しでも触れてみたいな、と。
調べてみるとフォトコンテストって世界中に本当にたくさんあるのですが、せっかくなら今出せる一番大きいフォトコンテストに出そうと思いました。
プロとして活動していて、たくさんの方に応援してもらっていて、しかも国内のコンテストでは審査員も務めさせていただいていて、そういう立場で、誰も知らないフォトコンテストでグランプリを取って自慢してても、あんまり格好つかないじゃないですか(笑)
何も受賞できなければ誰にも言わなければいいだけですし、受賞した時に箔がつくコンテストのほうがいいな、と思ったのは事実です。
僕のプロフィールには今まで受賞歴が何もなかったので、初めて僕のことを知ってくれた方が「なんかこの人凄そう」と思ってくれるような受賞歴があったらわかりやすいかな、というのはありましたね。

Q
1位を獲得した「Underwater Portraits」の応募意図や撮影意図を教えてください。

タイトルの「Underwater Portraits」は、僕にとって水中のポートレートといえば「小さな生き物たちの表情」なんですよね。
テーマとしては、2022年に富士フイルムフォトサロンで開催した写真展「陽だまり レンズ越しに見つめた10mmの海」と一緒ですね。水中で暮らす1cmにも満たない生き物たちの世界が好きで、ずっと撮影し続けています。
僕が撮影する水中マクロ写真は海の青が入っていないことが一つの特徴なので、それも一つの撮影意図といえるでしょうか。青を入れないことが目的ではなく、被写体が本来持つ色を再現すること、あるいは彼らの世界を一旦海から切り離して、その魅力をより際立たせることが目的です。
今回のコンテストでは応募できる点数も10点まで限られているので、テーマがはっきりするように、「魚の表情」に絞りました。
コンテストという性質上審査員の目に留まらないといけないので、ビビッドな色のカットを1枚目に持ってきたのは意図的です。「赤」と「海」という意外性も感じてもらえたらいいなと。
10点の構成を考える上で、バランスや流れはかなり意識して作り込みました。10枚全て違う魚が写っていますが、一つの作品として評価してもらうために、被写体や背景の色、被写体の位置や視線の向きなどが自然に流れていくように構成しています。流れが断絶してしまうと最後まで見てもらえないし、流れが心地良ければ何度も見みてもらえて、結果につながりやすいと思ったので。そういう意味では、写真展や写真集の経験が生きていると思います。

Q
ネイチャー・マクロカテゴリーは水中だけでなく陸上写真でも応募できるのですね。

IPAには水中のカテゴリーもあるのですが、水中写真だからといって水中写真の枠の中だけに収まりたくないという気持ちは、このコンテストにかかわらずずっと持っています。水中写真の可能性を広げることが、自分に課せられた一つの仕事だという意識もあります。
「Underwater Portraits」はある意味自分の代名詞のような作品ですし、自信のある作品で水中以外の世界で勝負してみたいと思い、意外性を狙う意味でも水中以外のカテゴリーに出してみようと思いました。
水中以外だとマクロカテゴリーが一番しっくりきそうでしたし、マクロカテゴリーの過去受賞作を見ていたら虫の写真が多かったので、「審査員もそろそろ虫に飽きてるんじゃないかしら」と思って、その意味でも狙いに行きました。
結果的に今回のネイチャー・マクロカテゴリーの2位も3位も虫の作品だったので、大好きな魚で虫に勝てて嬉しいですね(笑)

Q
上出さんもいくつかの水中フォトコンテストで審査員されていますが、実際応募して受賞された今のお気持ちを教えてください

ある程度公的なフォトコンテストでいうと、2024年は伊豆大島フォトコンと葉山フォトコン、日本水中写真コンテストの審査員を務めています。
まず、応募するのって大事だなと思いました。フォトコンを知って、情報収集して、応募して、結果を見て、という一連の流れの中のそれぞれに学びがありました。
元々は「勉強になるかな」という動機が強かったのですが、いざ出そうとすると「受賞したい」という思いが生まれて、それが自分の作品と向き合うことにもつながったように感じています。外から見ているだけだと他人事で終わってしまいますが、応募してみると自分事になるので、学びの量が数倍にもなると思います。
受賞を知った時は、実は、それほど大きなことだとは思わず、自分の胸の内にしまっておこうかと思っていました。しれっと自分のホームページに「受賞歴」の項目を追加すればいいかなと(笑)
まあでもせっかく1位だし、皆さんの力をお借りして撮影・活動しているわけですから報告くらいするかと思い、SNSに上げたのです。すると、想像以上に皆さんからの祝福のメッセージが届きびっくりしました。一番嬉しかったのは、自分事のように喜んでくれた方がたくさんいたことですね。普段から応援してくださっている方に、少しだけ恩返しできた気がしました。
それから、いわゆる海外では受けなさそうな「明るくてカラフルで被写界深度の浅い水中マクロ」が世界で評価されたということも、多くの方に喜んでいただけました。応募する時には意識していませんでしたが、ちょっとだけでも日本のダイバーを代表して世界にさざ波を起こせたのかな、なんて思っています。

Q
今回の受賞を受けて、今後どのような水中写真家を目指しますか?

今回の受賞は本当に嬉しいことですが、自分がやることは特に変わらないですね。
たくさんの方から応援してもらっている、ということを再認識するいい機会になったので、水中写真を通して世の中に価値を創造して、皆さんに恩返ししていくだけです。
今後発表していきたいテーマがいくつかあるので、最優先は写真展と写真集ですが、HPの「受賞歴」欄にもう1つか2つ賞を書き足せるように、フォトコンテストにもたまにはチャレンジしようと思います(笑)

編集 お話をありがとうございました。ちなみに、今回のIPA2024で上出さんが受賞された他の部門は、プロフェッショナル部門ネイチャーカテゴリー・水中カテゴリーで3位と佳作を、単写真で受賞されています。

プロフェッショナル部門ネイチャーカテゴリー・水中カテゴリー≫「The White House」
同上≫「Escape from the underworld」

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