年間125万人が訪れるダイビング情報サイト

ブルーカーボンって何?
ブルーカーボン生態系と、ダイバーができること

ブルーカーボンって何?

今、世界的に深刻な問題となっている地球温暖化や気候変動。ダイビングをしていると、海水温の上昇やダイビングで見られる生き物の変化から、地球温暖化の影響が海にまで及んでいることを実感することもあるのではないでしょうか。
地球温暖化の対策として、最近注目されているのが「ブルーカーボン」です。ダイバーにとっては身近な生き物が、海の、そして地球の未来を左右するかも……?

※2024年9月現在の情報です

「ブルーカーボン」、「ブルーカーボン生態系」って何だろう?

最近、テレビなどで「ブルーカーボン」という単語を見かけることが増えてきました。「マリンダイビングWeb」でも実は何度か紹介しています。皆さんは「ブルーカーボン」が何か知っていますか?

植物などが光合成をする時に二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留することはよく知られていると思います。「ブルーカーボン」とは、海中や海面付近の生態系が光合成の際に吸収・貯留している二酸化炭素由来の炭素(カーボン)のことです

ブルーカーボンを吸収・貯留する海中や海面付近の生態系のことを「ブルーカーボン生態系」と言います。日本には大きく分けて、以下の4種類のブルーカーボン生態系があります。

① 海草(うみくさ)の藻場
② 海藻(うみも)の藻場
③ 湿地・干潟
④ マングローブ林

①の海草の藻場は、アマモ場などのことです。②の海藻の藻場には、ガラモ場(ホンダワラ類)や、アラメ・カジメ場(暖流系のコンブ類)などが含まれます。
(参考:国土交通省港湾局 パンフレット「海の森ブルーカーボン CO2の新たな吸収源(2023更新)」)

海藻の藻場は、ダイビングで見かけることも多いのではないでしょうか。

ガラモ場。春の西伊豆にて(写真/蕗澤音々)

ガラモ場。春の西伊豆にて(写真/蕗澤音々)

アラメとオオバモクの大群落(写真/株式会社渋谷潜水工業)

アラメとオオバモクの大群落(写真/株式会社渋谷潜水工業)

なぜブルーカーボンが注目されているの? 

現在ブルーカーボンが注目されている背景として、地球温暖化があります。
CO2をはじめとする温室効果ガスの大気中濃度が上昇すると、地球の温室効果がこれまでより強くなり、地球温暖化を引き起こします。産業革命以降、主に人類が石油や石炭などの化石燃料を大量に消費していることで大気中のCO2の濃度は上昇し続けていて、それに伴い世界の平均気温も上昇しています。

温室効果ガス
温室効果ガスは、地球表面の温度を上げる働きをする気体の総称です。温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)などが含まれます。

地球温暖化は、地球上の気温や気象のパターンが長い期間変化する「気候変動」を引き起こしています。今私たちが経験している猛暑や豪雨などの極端な気候現象は、気候変動の影響と言えます。気温上昇が進んだら、気候変動による自然災害がさらに増え、これまでと同じ暮らしができなくなる可能性があるのです。

海水温の上昇により白化したサンゴ(写真/蕗澤音々)

海水温の上昇により白化したサンゴ(写真/蕗澤音々)

地球温暖化は海にもさまざまな影響を及ぼしています。海水温の上昇や、それに起因するサンゴの白化現象や北上、磯焼け、そして海洋酸性化や海水面の上昇などがその例です。海水温の上昇により、さまざまな場所で季節来遊魚が年間を通して見られるようになったりしていますよね。私たちが潜る海が、変化してきています。

これ以上の気温上昇を防ぐためには、どうすればいいのでしょうか?
日本を含む世界の120以上の国と地域は、地球温暖化対策として「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げ、2050年までに「カーボンニュートラル」を実現するとしています。

カーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは、人間活動に起因する温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすることを意味します。カーボンニュートラル達成のためには、地球温暖化を引き起こしているCO2をはじめとした温室効果ガスの排出量を減らすと同時に、温室効果ガスの吸収源を保全、強化する必要があります。
(参考:環境省 脱炭素ポータル)

ブルーカーボン生態系の単位面積当たりの炭素吸収量は、陸域の森林の約5倍にあたると言われています。
これがまさに、今ブルーカーボンが注目されている理由です。炭素の吸収・貯留量が多いということは、それだけ多くの温室効果ガスを大気中から取り除くことができるということ。多くの炭素を吸収・貯留するブルーカーボン生態系を保全・再生することは、カーボンニュートラルの実現、つまり地球温暖化の進行を食い止めるのに重要な役割を果たすことが期待されています。

減少しているブルーカーボン生態系

今、世界中でブルーカーボン生態系の保全・再生活動が盛んに行なわれています。
地球温暖化対策として期待されているブルーカーボン生態系は、実は現在すごいスピードで失われつつあり、保全・再生などの措置を講じなければ、今後20年以内にほとんど失われてしまう可能性があると言われているのです。ブルーカーボン生態系の減少にはさまざまな原因があります。

藻場の場合

元気な藻場はまるで森のよう(写真/株式会社渋谷潜水工業)

元気な藻場はまるで森のよう(写真/株式会社渋谷潜水工業)

藻場の減少理由としては、高度成長期の沿岸域の開発に伴う埋立や、化学物質の流入、水質悪化による透明度の低下などが挙げられます。
加えて、現在各地で問題視されているのは「磯焼け」です。水産庁の「第3版 磯焼け対策ガイドライン(令和3年3月) 第3章 磯焼けとは」によると、磯焼けとは「浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義づけられています。「海の砂漠化」と言われることもあります。

磯焼けした状態(写真/株式会社渋谷潜水工業)

磯焼けした状態(写真/株式会社渋谷潜水工業)

海藻が減少する理由は、海藻が、①植食動物に食べられる、②枯れる、③芽生えなくなる、④流失する、のいずれか、もしくはこれらの組み合わせによると言われています。
海水温の上昇を主な要因として、①海藻をエサとするウニや貝、アイゴを代表とする植食性の魚の摂餌活動が盛んになり、②高水温に耐えられない海藻は枯れ(枯れる原因としては低塩分もあります)、③気候変動による暴風雨などからの堆積物によって海藻が芽生えるのが阻害され、④暴風雨の激化に伴い波浪の影響が増大すれば、海藻の流失が盛んになり、海藻が、藻場が減少してしまいます。
一度磯焼けが発生すると、藻場の回復には長い年月を要します。

マングローブ林の場合

藻場以上に世界的に減少が懸念されているのが、マングローブ林です。
マングローブとは、海水と淡水が入り交じる沿岸に生育する植物群の総称を指します。日本国内では鹿児島県と沖縄県の一部離島にしか自然分布していないため、見たことがない方もいるかもしれません。

大きく成長したマングローブ林。根の形がタコの足のよう(写真/蕗澤音々)

大きく成長したマングローブ林。根の形がタコの足のよう(写真/蕗澤音々)

マングローブ林は大型植物として多くの炭素を貯留しますが、過剰な伐採や開発、水面上昇などの影響で世界的に減少し続けています。マングローブ林が減少すると、地球の炭素吸収量が減少しますし、伐採された場合は、これまで長い時間をかけて貯留されていた炭素が大気中に放出されてしまいます。

ブルーカーボン生態系は「生命のゆりかご」

失われつつあるブルーカーボン生態系。
藻場やマングローブ林が減少すると、地球が吸収できる炭素の量が少なくなる/貯留されていた炭素が大気に放出され、さらなる地球温暖化に繋がることを説明してきました。しかし、ブルーカーボン生態系が失われることによる影響はそれだけではありません。
ブルーカーボン生態系は、多くの生き物が生まれ、育つ場所を提供しています。

藻場は多くの生き物に産卵の場を提供しています。稚魚の食べ物となる生き物も豊富ですし、外敵から隠れられる場所もたくさんあります。干潟も、たくさんの貝の仲間が生息しているほか、魚を始めとする多くの生物が幼少期を過ごすための保育場となっています。マングローブ林にはさらに多種多様な生物が住んでいます。マングローブは、エビやカニ、貝、稚魚などの水生生物だけでなく、鳥類や哺乳類、昆虫類の生息域にもなっているからです。

カジメに定着するダンゴウオの赤ちゃん(写真/蕗澤音々)

カジメに定着するダンゴウオの赤ちゃん(写真/蕗澤音々)

ホンダワラに産み付けられたアオリイカの卵(写真/株式会社渋谷潜水工業)

ホンダワラに産み付けられたアオリイカの卵(写真/株式会社渋谷潜水工業)

このことから、藻場や干潟、マングローブ林は「生命のゆりかご」などと呼ばれ、実はブルーカーボンが注目される前から重要視されてきました。
たくさんの生き物の生活を支えているブルーカーボン生態系が失われることは、生物多様性が失われることも意味するのです。

ブルーカーボン生態系と、ダイバーができること

ブルーカーボン生態系の保全・再生のため、現在さまざまな取組が行なわれています。
「マリンダイビングWeb」では、藻場再生プロジェクトの先駆者であるプロ潜水士の取組を紹介しました。ここでは、一般的なレジャーダイバーにもできることを紹介します。

ブルーカーボン生態系を直接的に守るためにできること

ダイビングを通じてできる代表的なブルーカーボン生態系の保全・再生活動として、地域やダイビングサービスで実施している藻場の再生活動への参加があります。再生活動では、アマモの移植や海藻の観察・定着、海藻を食べてしまうガンガゼなどの駆除活動を実施します。これらの活動は一般ダイバーのボランティアを募集していることが多いので参加しやすいです。「マリンダイビングWeb」のニュース・トピックス(環境保護カテゴリ)でも定期的に紹介しているので、ぜひこまめにチェックしてみてください。

ダイビング以外でできることとしては、潜らなくてもできるアマモの苗付け、藻場の保全・再生活動への寄付や、干潟の保全・再生活動、マングローブ植林活動への参加などがあります。

海の環境を守るためにできること

ブルーカーボン生態系の保全・再生に直接的に繋がる活動でなくても、普段から環境を意識してダイビングをしたり、地球環境にやさしい生活をすることが巡り巡って保全・再生に繋がります。

海底・海岸清掃

例えば海ごみは、マングローブなどの成長を妨げることがあります。生き物が間違えてごみを食べてしまうこともよく知られていますよね。
海ごみの多くは街から流れてきているものが多いので、普段からごみを出さないようにする、見つけたら拾う、ごみ拾い活動に参加することが、海を守ることに繋がります。
海に流れ出てしまったごみも、ダイバーであれば拾えます。

海底清掃の様子。神奈川県・城ヶ島にて(写真/MPL)

海底清掃の様子。神奈川県・城ヶ島にて(写真/MPL)

「マリンダイビングWeb」のニュース・トピックス(環境保護カテゴリ)でも定期的に海底・海岸清掃イベントを紹介しているのでぜひチェックしてみてくださいね。

1 Dive 1 Cleanup プロジェクト

1 Dive 1 Cleanup プロジェクト

マリンダイビングでは、海の環境プロジェクトとして「1 Dive 1 Cleanup プロジェクト」を実施しています。“ダイビング中にごみを見かけたら、ひとつでもいいから拾うことを当たり前(マナー)にしよう!” という活動です。ぜひ参加して、活動をご報告ください!

環境にやさしいダイビング

ダイビング中、うっかりサンゴを折ってしまった、海藻を引っこ抜いてしまった……という経験はありませんか? スキルを磨いて、海の生き物を傷つけないようにダイビングするのが理想的です。
→サンゴを守る中性浮力

UNEPが公開している、環境に優しく持続可能なダイビング・シュノーケリングガイドライン「Green Fins(グリーン・フィンズ)」もぜひ確認してみてください。
→「Green Fins」とは

環境にやさしい製品の使用

最近は環境に配慮した製品がたくさん販売されていますよね。環境に有害な成分が入っていない製品や、プラスチックごみが出ないよう包装を工夫してある製品を選ぶことも海の生き物を守ることに繋がります。「マリンダイビングWeb」のニュース・トピックス(環境保護カテゴリ)でもサンゴにやさしい日焼け止めや環境にやさしいコンタクトレンズなどを紹介しています。

地球温暖化に対してできること

地球温暖化や気候変動がブルーカーボン生態系の減少に繋がっていること、海にさまざまな影響を及ぼしていることをお伝えしました。地球温暖化に対して個人ができることを国連広報センターがまとめています。
→個人でできる10の行動

ダイバーだからこそできること

最後に、一番気軽にできて、しかも私たちダイバーだからこそできることを紹介させてください。
それは、たくさん潜って、海の中の現状を知ること、そして発信すること。

写真や動画に収めて記録しておくと、研究などにも役立つ可能性も(写真/蕗澤音々)

写真や動画に収めて記録しておくと、研究などにも役立つ可能性も(写真/蕗澤音々)

海の中の変化にいち早く気づくことができるのはダイバーなのではないでしょうか。
ダイバーとして海の魅力や現状を周りに伝えたり、環境に配慮した生活を送ることが、周りの誰かの気づきになるかもしれません。
環境のため、私たちが潜る海を守るため、できることから始めてみませんか?

文/蕗澤音々