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連載 野生のイルカと泳ごう!
第6回「イルカと泳ぐと人生が変わる!? イルカとの出会い名場面集」

野生のイルカと泳ごう!

「一生に一度は、野生のイルカと一緒に泳いでみたい!」
ダイバー、ノンダイバーを問わず、こんな声をよく聞きます。そんな「野生のイルカと泳ぎたい」あなたの疑問に、素潜りガイドの長谷川さんが写真と動画をふんだんに使って、丁寧に、楽しく答える連載。今回は長谷川さんがイルカと泳ぐ中で出会った名場面を紹介し、「人生を変える」ほどに奥深いドルフィンスイムの魅力に迫ります。

※2026年2月の情報です

はじめに

赤いブイの周囲で謎の行動をするイルカの群れ(2025年1月2日 小笠原・父島)

赤いブイの周囲で謎の行動をするイルカの群れ(2025年1月2日 小笠原・父島)
Photo by JUN HASEGAWA

こんにちは!素潜りツアーガイドの長谷川です。今回は御蔵島と小笠原でドルフィンスイム中に出会った印象的なシーンを写真や動画で紹介します。両エリアのドルフィンスイムの対象となるミナミハンドウイルカは、これまでの連載で見てきた通り、人間に対して強い好奇心を抱き、また高度な社会性を持つが故の不思議な行動が多く見られます。ここでは、ぼくが見てきたそんなイルカたちの行動の中から選りすぐった5つの「名場面」をお見せしたいと思います。

イルカとの出会い 名場面集

① 通り過ぎたと思ったイルカが戻ってきて…

ドルフィンスイムの醍醐味の一つであるイルカとのアイコンタクト。ここでは近年で一番印象に残っているアイコンタクトの瞬間をお見せしたいと思います。

群れで近づいてくるイルカたち(2022年11月12日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

群れで近づいてくるイルカたち(2022年11月12日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

ドルフィンスイムシーズンの終わりが近い11月中旬、御蔵島では海が荒れやすく船が着岸しないことも多いのですが、イルカが最もよく遊んでくれる時期でもあります。この日は島の南側エリアで大きな群れを発見し、船から海中にエントリー。イルカたちはスイマーをめがけてまっしぐらに向かってきます。その中には、背びれが切れている人気者の「ジョー」の姿も。「たくさん遊んでくれるかも!」と期待が高まります。

群れの中に、スイマーに興味津々なイルカを発見(2022年11月12日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

群れの中に、スイマーに興味津々なイルカを発見(2022年11月12日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

しかしイルカたちは人間には見向きもせず、どんどん素通りしていきます。そんな中、ぼくの方を見つめながら近づいてくるイルカを発見!「これはいけるかな?」と感じてカメラでこのイルカを追うことに。

振り向いてカメラのレンズを覗き込んでくるイルカ(2022年11月12日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

振り向いてカメラのレンズを覗き込んでくるイルカ(2022年11月12日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

そのイルカはぼくのほぼ真上を通り過ぎて、そのままスルーしてしまうかと思いきや、突然こちらを振り返り、ぼくに向かって戻って来るではないですか!そして手を伸ばせば触れるくらいの距離まで顔を近づけてきて、じーっとカメラのレンズを覗き込んできたのです。そのまなざしは、流し目で微笑む人間の表情にも似ていました。

通り過ぎたと思ったイルカが戻ってきて… 2022.11.12 御蔵島

② イルカと心を通わせるスイマー

ベテランドルフィンスイマーの中には、ただ上手にイルカと泳ぐだけではなく「この人、本当にイルカと心を通わせているのかも」と感じさせる方がいます。ここでは、そんなスイマーの一人であるカヨさんの泳ぎをご紹介します。

イルカと目を合わせて泳ぐカヨさん①(2023年9月29日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

イルカと目を合わせて泳ぐカヨさん①(2023年9月29日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

バハマや小笠原などで何度もご一緒しているカヨさんは、生き物に対する愛や優しさを「泳ぎ」で体現できるスイマー。イルカやウミガメなどにスッと寄り添うように近づき、いつの間にかとても自然に一緒に泳いでいるのです。

イルカと目を合わせて泳ぐカヨさん①(2023年9月29日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

イルカと目を合わせて泳ぐカヨさん①(2023年9月29日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

ドルフィンスイムでイルカと上手に泳ぐための「技術以上に大切なこと」を、彼女の泳ぎからたくさん学ばせてもらっています。

イルカと心を通わせるスイマー 2023.9.29 御蔵島

③ 虹をまとうイルカ

晴天時の浅い海でのドルフィンスイムでは、海面の波と太陽光が織りなす美しいパターンがイルカの体に投影されます。この時、波がプリズムの役目を担って、イルカの体に「虹」が現れることがあります。

虹をまとうイルカ①(2022年10月21日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

虹をまとうイルカ①(2022年10月21日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

燦々と降り注ぐ陽の光の下、1頭のイルカが気持ちよさそうに目を細めて、ぼくに向かって泳いできました。絶え間なく変化する光の模様が、イルカの体表上を流れていきます。そしてイルカが近づくにつれて、白い光の模様の中に七色の光の帯が現れはじめました。

虹を纏うイルカ②(2022年10月21日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

虹を纏うイルカ②(2022年10月21日 御蔵島)Photo by JUN HASEGAWA

イルカは、ぼくの前まで来ると身をひるがえして海面に向かって上昇していきました。この時、さらにはっきりした「虹」がイルカの体表上に出現!自然が織りなすアートにしばし見とれるひと時でした。

虹をまとうイルカ

④ イルカの胎動を捉えた!

お腹の中にいる赤ちゃんイルカが動くことによる「胎動」。お腹が大きなメスのイルカを撮影していたら、偶然に胎動のようすを撮影することができました!その時一緒に潜っていたガイドさんが、「御蔵島でイルカの胎動をはっきり撮影できたのは、たぶんこれが初めてですよ!」と興奮しながら教えてくれました。
…しかし、この日に撮影した映像や写真をチェックした時に痛恨のミスが発覚。カメラのフォーカスモードが「マニュアル」になっていて、撮影したすべての動画と写真がピンボケになっていたのです(涙)。そんなわけで、動画はなんとか胎動が分かるレベルだったので配信します。
胎動の様子がよく分かるように、動画の後半(10秒~)は拡大+スローモーションにしました。

イルカの胎動 2024.5.15 御蔵島

⑤ イルカ版「ヒートラン」!? そして不思議な行動の目的とは…?

ラストは、お正月の小笠原で捉えたイルカの珍しい行動を紹介します。長年さまざまなイルカの生態を見てきたツアー船の船長が「こんなの見るのは初めてだよ!」と驚くレベルの不思議な振る舞いをするイルカたち。その理由は、いかに?

1頭のイルカを追いかける6頭のイルカたち①(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

1頭のイルカを追いかける6頭のイルカたち①(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

1月2日のドルフィンスイム・ツアーも後半に差し掛かった午後、他船から「二見湾(客船の港がある市街地に面した湾)の入り口にミナミハンドウイルカの群れがいますよ」という無線が入りました。その場所に急行すると、連絡をくれた船のお客さんがエントリーしていて、その周囲には複数の背びれが見えました。海に入ると、密集した7頭のミナミハンドウイルカがまっしぐらにこちらに向かって来て、あっという間に群れの一員に!
…ここまでは普通に嬉しい体験でした。

次の瞬間、イルカたちは「絡み合い行動」(オス同士での交尾の練習と考えられています)のような動きを始めました。が、いつもと少し違う!?
というのは、1頭のイルカが先頭を泳ぎ、他の6頭が先頭のイルカを追い始めたのです。絡み合い行動では交尾の「受け手」役は頻繁に入れ替わり、1頭を全員が追いかける、という行動はあまり見られません。

1頭のイルカを追いかける6頭のイルカたち②(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

1頭のイルカを追いかける6頭のイルカたち②(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

小笠原のイルカの個体識別に詳しい現地ガイドさんによると、追いかけられていたのはやはりオスではなく、「ライン」ちゃんという2017年に生まれた若いメスのイルカでした。つまりこの行動は絡み合いではなく、ザトウクジラでいうところの「ヒートラン」(繁殖期に見られる、複数のオスが1頭のメスを激しく追いかける現象)のようなものだったのです。
しかしこの行動の結果、誰かがラインちゃんのハートを射止めた感じはなく、次に紹介する不思議な行動へと移行していくのでした。

イルカ版「ヒートラン」!?2025.1.2 小笠原・父島

ヒートランのような行動が一段落すると、イルカたちは二見湾の入り口近くに設置されている赤いブイの周囲に集まってきました。そして、ブイの周囲をぐるぐると周りはじめたのです!

赤いブイの周囲をぐるぐると回るイルカたち(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

赤いブイの周囲をぐるぐると回るイルカたち(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

イルカたちは、「ギギギギー」「ジジジジー」という鳴き声(クリックス)を発しながら、ひたすらブイの周りを泳ぎ続けます。じっくり観察していると、どうやら上の方(水面近く)を気にしている様子。

「立ち姿勢」で赤いブイの上方を見るイルカたち(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

「立ち姿勢」で赤いブイの上方を見るイルカたち(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by JUN HASEGAWA

泳ぎまわっていたイルカたちが急に止まって「立ち姿勢」になり、皆でブイの上の方を見ている瞬間がありました。やはり、何か「お目当て」のものがこのブイの上方にあるようです。

ブイの周囲をぐるぐる泳ぐイルカの群れ 2025.1.2 小笠原・父島

水中で撮影している時は、結局この不思議な行動の理由は分からなかったのですが、スイムが終了して船に上がってから、一緒に潜った人たちの話を聞いてイルカたちの行動の目的がついに判明!

ツムブリを捕食するイルカ(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by YUKAKO YOKOTA

ツムブリを捕食するイルカ(2025年1月2日 小笠原・父島)Photo by YUKAKO YOKOTA

イルカたちの謎の行動は、ブイの上の辺りで泳いでいた魚(ツムブリ)を捕食することが目的だったようです。同じ船に乗っていたアマチュア写真家のヨココ(横田有香子)さんが、イルカがツムブリを捕える決定的瞬間を撮影していました!

まとめ

今回の5つの名場面は、ぼくが本格的に水中映像の撮影を始めた2022年の秋から約3年の間に体験し撮影したものになります。これに対して、ぼくのドルフィンスイム歴は32年。カメラを持つ前にも、数多くの感動的なシーンに出会い、その結果、人生の半分以上をイルカと泳いで過ごすことになりました。野生のイルカと泳ぐ感動体験は、まさにぼくの人生を大きく変えたのです。ではなぜ、ぼくはこんなにもイルカに惹かれているのだろうか、と考えてみました。

イルカと見つめ合う(2023年9月29日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

イルカと見つめ合う(2023年9月29日 御蔵島) Photo by JUN HASEGAWA

野生のイルカと泳ぐことの魅力は、大きく分けて2つあると考えています。1つ目は、野生動物としてのイルカの行動観察、2つ目は、イルカとのコミュニケーションです。
1つ目の魅力については特に説明の必要はないと思いますが、2つ目については、いろいろ思うところがあります。連載第1回のまとめにも書かせていただきましたが、イルカは利害関係なしに人間と遊んでくれる稀有な生き物。餌付けなどをしなくても、イルカ自身が遊びたくて、自分から近寄ってきてくれる…このことが、ぼくにとっての大きな魅力なのです。

尾びれに釣り具が絡まった幼いイルカ(2021年 御蔵島) Photo by YUKI KUSACHI

尾びれに釣り具が絡まった幼いイルカ(2021年 御蔵島) Photo by YUKI KUSACHI

年中海に潜っていると、楽しいばかりではなく、人間が海の環境や生き物たちに対して行ってきた「仕打ち」を目の当たりにして、辛くなることがあります。地球温暖化によるサンゴの白化現象や磯焼け、開発による水質汚染、海洋プラスチックごみ…上の写真のように、生き物たちが直接苦しめられている姿を見かけることも。「自分は海の中に居てはいけない存在なのではないか?」と思ってしまうことも多々あります。そんな時、イルカたちが「遊ぼう!遊ぼう!」と近寄って来てくれると、自分が自然から「許してもらっている」気持ちになり、少しホッとするのです。
もちろんそれはただの勝手な思い込みなのですが(苦笑)、そんなイルカたちの好意に報いなければ!という想いが、今の自分の活動(御蔵島などで自然保護の活動を行っています)の原動力になっているのは間違いなさそうです。

「野生のイルカと泳ごう!」の連載は今回で一区切りになります。少しお休みをいただいてリフレッシュした後に再開する予定です。乞うご期待!

ダイビングガイド・自然保護活動家
長谷川 潤(HASEGAWA, Jun)


素潜り・ドルフィンスイムがメインのダイビングショップdive station baseのツアーガイド。海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を、映像・写真・文章のすべてを駆使して発信することがライフワーク。1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。

長谷川 潤