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【連載】耳ぬき不良は治る!(文・三保 仁)
第5回 耳ぬき不良の診断

耳ぬき不良は治る!

連載第5回では、耳ぬき不良の診断と治療の流れについてお話ししていきます。
※月刊『マリンダイビング』2017年3月号に掲載された記事です。

耳ぬき不良の診断と治療の流れ

これからダイビング講習を受講する人で、これまでに飛行機や体験ダイビングで耳ぬきがしにくいという経験があった人、またはすでにダイバーになっていて耳ぬき不良を起こした人たちは、当院で年間約500人受診されます。その人たちにはまず耳管機能検査を行ないます。
つばを飲んだり顎を動かすなどの、鼻をつままない耳ぬき方法の嚥下(えんげ)法と、鼻をつまんで耳ぬきを行なうバルサルバ法とフレンツェル法をチェックできる気流動態法という2種類の検査をすることができます。

その結果、嚥下法がよく抜けているのにバルサルバ法でしか耳ぬきをやったことがない方には、嚥下法で行なうようにアドバイスするだけですが、こういう方はめったにいません。ほとんどの場合、あらゆる方法を試しても耳が抜けないから、医師を受診するからです。嚥下法は治療や訓練が極めて困難なので、嚥下法で抜けない方はバルサルバ法の治療や訓練を行なう事になります。

ちなみに、連載第1回でご紹介したように、鼻をつまんでつばを飲む耳ぬき方法をトゥインビー法といいますが、この方法も鼻をつまみはするものの、嚥下法を反映する耳ぬきです。トゥインビー法で十分に抜けない場合にも、バルサルバ法に変更してもらう必要があります。

図1 耳ぬき不良治療フローチャート

耳ぬき不良の検査「耳管機能検査」

図1のフローチャートに、耳ぬきの治療プランと、最後まで治療が完結できた6288人の統計を示します。耳管機能検査で技術的に問題がない人は、アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎の検査を行ない、見つかった方の鼻の病気を治療するだけですが、これはたったの2.9%しかいません。97.1%の人は技術的に問題がある、すなわちやり方が下手という結果になっています。

どのような耳ぬき方法であっても、まったく困ることなくよく抜けていればいいのですが、実際に耳ぬき不良を起こすのであれば、その人たちには理想的なバルサルバ方法を訓練してもらいます。それだけで、95.9%の人たちは耳ぬきができるようになります。訓練は鼻で膨らませる医療用風船のオトヴェントを使いますが、その詳細な使い方については連載第5回でお話しします。

理想的バルサルバ法を取得してもまだ耳ぬきが不十分な人たちは1.2%しかおらず、その人たちも鼻の病気を検査して治療します。鼻の病気が原因で抜けない人の合計は4.1%で、専門的な鼻治療で耳ぬきができるようになります。

鼻の病気はほとんどが
耳ぬき不良の原因にならない

前述のように、鼻の慢性的な病気であるアレルギー性鼻炎または副鼻腔炎、あるいはその両方が原因で耳が抜けない人は、たったの4.1%だけです。約96%の人たちは、いくらひどいアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎があっても、耳ぬきを理想的な方法に変えるだけで抜けるのです。

要するに、ほとんどの人たちは技術的に問題があるから抜けないだけなのですから、いくら先に鼻の治療を行なっても抜けるようになるわけがない。にもかかわらず、潜水医学を知らない耳鼻科医は、鼻の治療だけを行なってしまい、結果が出せないのです。
もちろん、通気治療にいくら通っても、下手なままですから治りません。まれに、通気治療に通って耳ぬきがしやすくなったという人も聞きますが、それは上記の4.1%の人たちで、鼻の病気が原因で抜けなかった一部の人なのです。通院して通気をしたことで抜けるようになったわけではなく、鼻の治療をしたことで耳ぬきができるようになっただけなのです。

耳ぬき不良の3つのパターン

ちょっと難しい話になりますが、代表的な3つの技術的問題例を解説します。

まずは、理想的な耳ぬきのバルサルバ法の検査結果を図2に示します。

上の段の曲線が鼻にかけている圧力を、下の段の曲線がどれくらい鼓膜が膨らんだかを示しています。鼻の圧力を徐々に上げてゆくと、それに伴って途中から鼓膜がどんどん膨らんで、最終的に膨らみきった状態になっているのを示しています。鼻の圧力が強すぎても弱すぎても抜けず、理想的な強さであるオトヴェントの強さで息むのが理想です。そして鼻に圧力をかけている時間(グラフの横軸)は、おおよそ合計5秒ぐらいです。これを参考に、次の3つのパターンを見てみましょう。

図2 理想的なバルサルバ法

一気に強く一瞬だけ息む(男性型)(図3

鼻にかける圧力が、力まかせに強く一気に、そして一瞬だけ「フン」と息んでいる耳ぬき不良のパターンです。耳管開口部の周囲には血管がたくさんあり、一気に息むとこの血管がうっ血して耳管がロックしてしまいますので、十分に耳管が広がりません。そして一瞬しか空気が送られないので、鼓膜が完全には膨らみきっていない状態です。ですから、ほかの人よりも何度も耳ぬきをしないといけなくなります。そして耳ぬきが追いつかないと、耳ぬき不良になってしまうのです。
さらにこの方法の問題点は、一気に強く息むことによって頭に血が昇り、脳圧が上がってしまうので、外リンパ瘻に陥ってしまうリスクが高く、危険で十分に抜けないというわけです。もっとゆっくりと、4〜5秒ぐらいかけて徐々に圧力を上げなくてはならないのです。そしてその強さはオトヴェントの範囲にしてもらうように、息みの圧力を弱めてもらう必要があるのです。このパターンは男性に大変多いので、私は男性型と呼んでいます。

図3 一気に強く息む(男性型)

弱くしか息めない(女性型)(図4)

男性型とは正反対に、鼻にかける圧力が、あまりにも弱すぎて耳管が開かないという、女性に多い耳ぬき不良パターンです。強すぎると耳を痛めるのが怖いと言う人もいますし、女性は非力だから息む力が弱いという場合もありますが、この強さでは耳が抜けないか、抜けたとしてもちょっとだけ膨らむだけです。弱すぎる息みによる耳ぬき不良でも、外リンパ瘻になってしまう可能性があることには変わりありません。

こういう方にオトヴェントを試してもらうと、まったく膨らませることができない方がほとんどです。ですから、まずはオトヴェントを膨らませられるように訓練するところから始めなくてはいけません。膨らませられるまでにかなりの時間がかかる人がいますが、最終的に膨らませられなかった人の経験がありません。自転車に乗ることと同じで、力をいかにかけるかというよりも、やり方のコツといった方が良いのです。自転車と同様に、ひたすら練習するしかありません。

図4 鼻の圧力が弱い(女性型)

耳ぬきを途中でやめている(勘違い型)(図5)

耳に圧力をかけていくうちに、耳管が開いて鼓膜が膨らみ始めます。そうすると、耳に「プス」とか「ボッ」と音がする人がいます。その音が聞こえると、耳ぬきができたと勘違いして、その時点で耳ぬきをやめてしまうという耳ぬき不良パターンです。途中で圧力を上げなくなってしまうので、少ししか鼓膜が膨らんでいません。

こういう人も、一気に圧力をかけている人が比較的多いです。音を耳ぬきの指標にしてしまっているので、音がするように一気に息んでしまうのです。ゆっくりと鼻に圧力をかけられるようになると、音がしなくなる人が多く、それが理想的な耳ぬきです。いくらゆっくりと圧力をかけても音がする人もいるのですが、音は耳管が開いた時のものですから、そこで耳ぬきをやめずに更に圧力をかけ続けると、どんどん鼓膜が膨らんでゆき、4〜5秒後にはとうとう鼓膜が膨らみきるのです。この膨らみきった状態を、医学的には「耳ぬきができた」というのです。ちょっとだけ膨らんだ状態は耳ぬき不良であり、何度も耳ぬきをしなくてはならないのです。

図5 途中でやめている(勘違い型)

「全く抜けていないわけではない」が
最も危険!

これらの各パターンのように、まったく抜けていないわけではないが、完全には抜けきっていないのに、自分は耳ぬきができていると勘違いしている人はたくさんいます。これまでに何度もお話ししてきましたが、まったく抜けない人は水深2mにも潜れないので、途中で潜水を中止することになり耳を壊しません。よく抜ける人も壊しません。

外リンパ瘻に陥って耳を壊した人たちは、このようなパターンで完全には膨らみきっていないけれど、ちょっとだけ抜けているという人たちばかりです。「抜けづらいけれど抜けている」が一番危険な状態だと心得てください。

耳ぬき不良治癒率

当院における過去15年間、7371人の耳ぬき不良治癒率を図6に示します。自己判断で抜けるようになったので来院しなくなってしまったのか、あるいは耳ぬきが治らずにあきらめてしまったのかわかりませんが、その後来院せずに転帰不明の人が3.6%、現在治療中の人が0.07%、そしてそれ以外の96.3%の人は完全に耳ぬき不良が治りました。転帰不明のダイバーたちに偶然海で出会ったり、ダイバーの会で出会ったりすることが時々ありますが、皆さん耳ぬきは治っているようですから、本来は96%以上の治癒率だと思われます。治療期間は1週間から半年位と個人差が大きいですが、平均2.6ヶ月で治っています。現在鼓膜が正常な人は、継続して専門的な治療や訓練をしていれば、耳ぬきは治らない人はほとんどいないというのが私の持論です。

図6 耳ぬき不良治癒率

耳鼻咽喉科 医師
三保 仁先生

潜水歴32年、潜水本数約3,000本、講習実績200人以上のPADIマスターインストラクター。最近ではテクニカルダイビングを専門とし、トライミックスでの水深100m超え潜水、リブリーザーなども行なうが、もっぱらサイドマウントでのケーブダイビングを専門とする。これまでに診察したダイバーは7,000人以上。耳ぬき治療には定評がある。ダイバーおよび一般医師へ潜水医学を広報・普及させるために、各種学会、医学専門誌、ダイビング雑誌など多方面での講演や執筆活動に努めている。

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