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レポート2022.09.15

PADIアンバサダイバー
キャスター酒井美帆さんスペシャルインタビュー

スクーバダイビングの楽しさと海洋保護の大切さを世界中の人々に発信するべく、世界最大のダイビング教育機関であるPADIがワールドワイドに展開している「PADIアンバサダイバー™」(※)。2022年に就任したのが、NHK BS1『国際報道』などで活躍するニュースキャスターの酒井美帆さん。強力な発信力をもつ、美しきアンバサダイバーにお話を伺った。

※「PADIアンバサダイバー™ (PADI AmbassaDiver™)」情熱をもって活動するダイバー、ダイビング技術や知識の専門家やコミュニティーなど、これまでに世界中の様々なジャンルから選出されている。日本でも2021年から募集が始まり、水中リポーター・稲生薫子さんが就任。2022年からは、酒井美帆さんとチャンネル登録者数50万人超えの双子YouTuber・#TWINS(コウ&ひろむ)が加わって活躍中。

ダイビングは「ココロの美容液」、ストレス社会にこそ必要です

ダイビングが大好きな酒井さん。気さくにお話を伺いました。

ダイビングが大好きな酒井さん。気さくにお話を伺いました。

2年でレスキューダイバー取得。その次のステップは?

MDウェブ編集部(以下、編):PADIアンバサダイバーとしてはどんな活動をしているのですか?

酒井美帆さん(以下・酒井):始めたばかりなので、まだこれからなんですが、4月はマリンダイビングフェアのトークショー、6月は西伊豆でのイベント「マリンブルーフェス平沢2022」に、同じPADIアンバサダイバーでYouTuberのTWINSのお二人(コウ&ひろむさん)と参加しました。

:Cカードを取得されたのはいつですか? 何かきっかけはあったんですか?

酒井:Cカード取得は2018年8月です。姉がダイビングしたことがあり、興味があったのと、以前の勤務先が新潟だったのですが、私はウィンタースポーツというのが全くできなくて、それならば海のスポーツかなぁと思って始めたんです。実家が神奈川県の平塚で、海へは歩いて10分だったので、初日の出を見たり、お散歩に行ったりと、私にとって海は身近な存在でした。

:海に対するプレッシャーはあまりなかったわけですね。

酒井:ところが私、泳げなかったんです。元々はクロールと背泳ぎを25mしか泳げなくて。

:それは一般的には泳げるというのでは?

酒井:いえいえ、まだ平泳ぎと“立ち泳ぎができない”んです。でもダイビングなら水中で息が吸える、ということはわかったので安心しました。

:講習で潜った海はどちらですか? 初めて潜った印象は?

酒井:海洋実習で潜ったのは沖縄県の恩納村です。でも講習のときは周りを見る余裕はなかったですね。でも初めて海に潜ったときは、「わ~、水の中で息ができる!」と感動しました。

:今、レスキューダイバーまで取得されているそうですね。仕事がお忙しい中、どれくらいの期間でステップアップされていったんですか?

酒井:オープンウォーターからはあまり間を空けずに講習に行きました。2年でレスキューダイバーまで取得できたのですが、まだまだ経験が浅くて、まず自分をレスキューしなくてはいけない状態です(笑)。

:多忙なスケジュールの合間によく講習や海に通われましたよね。

酒井:週末はほぼ海へ、眠い目をこすりながら出かけていました。

:海洋実習で通った海はどちらですか?

酒井:熱海と稲取でした。熱海のときは海況も良かったんですが、稲取では2分に1回、大波がくるようなコンディションの日に、疲労したダイバーを100m曳行するという講習があったんです。レスキュー役の私が、ダイバーを後ろから引いて岸へ移動させるのですが、確認不足で、自分のすぐ後ろに波消しブロックがあるのに気付かず、大波を受けてブロックにタンクが思い切りガ~ンとぶつかってしまい……。マスクもレギュレーターも外した状態で泳いでいたのですが、ぶつかった後に、「レスキューダイバーらしく、しっかりレギュレーターリカバリーしてマスクも付けて戻ってきてくださ~い!」という教官の声が飛んできました(苦笑)。

:なかなかハードな、でもしっかりとしたトレーニングをされたわけですね。

酒井:ぶつかった衝撃で新品のレギュレーターが傷ついてしまったんです。「でも、(自分が)レスキューされてたまるか!」と、必死で頑張りました。大変でしたが、皆さんにも、レスキューダイバーコースはおすすめです。ぜひ取ったほうがいいですよ。何より自信につながります。自分の器材の扱い方をきちんと理解できるだけでなく、一緒に潜るダイバーの器材の扱いにも詳しくなって、それが安心につながるんです。

:となると、一気にインストラクターまで取得するなんてことは?

酒井:実はダイブマスターコースの筆記試験と、もろもろ他の体力テストにも受かってはいるんですが、ひとつだけ、まだ立ち泳ぎができないんです。ダイブマスターになるための体力テストには、水中での器材交換、400m水泳、800mスノーケルスイム、100m疲労ダイバーの曳行、それに15分間の立ち泳ぎができなければいけないんです。疲労ダイバーの100m曳行まではなんとかクリアしたんですよ。25メートルしか泳げなかった私が400m水泳も克服したんです! なのに、最後の立ち泳ぎだけは、1分半しかできなくて。

:フィンを付けずに立ち泳ぎで15分はけっこう長いですよね。

酒井:はい。その様子はYouTubeでも配信しているんですが、なんだか再生回数が上がってまして(苦笑)。立ち泳ぎは水着で行うか、ウエットスーツならウエイトを付けて行うのですが、もう完全に罰ゲームのようでした。それさえクリアすればダイブマスターの申請はできるんですが、いつ諦めるべきか……(冗談です)。

三陸ボランティアダイバーズの佐藤さんと!

三陸ボランティアダイバーズの佐藤さんと!

大船渡で磯焼けの現状を知りました

:ところで、これまで潜った海はどちらですか?

酒井:いつもは千葉や伊豆がメインです。沖縄本島、ケラマ、宮古島、この間は八丈島へダイビングに行ったんですが、とても混んでいて、宿もダイビングショップもなかなか取れず、苦労しました。それから岩手県の大船渡で潜りました。

:YouTubeでも磯焼けの原因になるウニの駆除体験を紹介されていますよね。そちらは何かきっかけがあったんでしょうか?

酒井:東日本大震災です。被災地には行ったことがあったのですが、ダイバーになったからには大きな被害を受けた海の中も、きちんと自分の目で見ておかなければならないと思ったんです。それまでは日本で磯焼けが起きていることなど、全く知りませんでした。

:その辺りはニュースキャスターとしてのジャーナリズム魂がうずいたんでしょうか。

酒井:いえ、純粋に一ダイバーとして見ておきたい、知らなくてはならないと思ったんです。

磯焼けした海は白と黒の世界

磯焼けした海は白と黒の世界

大切に育てられたアマモ畑に魚の群れ

大切に育てられたアマモ畑に魚の群れ

 
:実際に磯焼けを目の当たりにして、どんなお気持ちでしたか?

酒井:ビックリしました。越喜来湾(おきらいわん)のビーチからエントリーしました。砂地が広がって、透明度も20メートルくらいはある、とてもきれいな海なんですが、入った瞬間、私にはモノクロの世界のように見えたんです。色のない海の世界、音もなくシンとした世界で、見えるのは津波で流れ着いた崩れた防波堤と点々と黒いウニがいる。まさに白と黒の世界、それが磯焼けなのだと、そこで初めて知りました。一方で、もう少し沖へ出ると一気に色が鮮やかに、海が息を吹き返したかのような世界だったんです。一面のアマモが広がっていて、水面から太陽の光が緑色のアマモに降り注いで、お魚たちもたくさん棲んでいて、海の中の草原のような景色でした。実はそこは2年程かけて、ボランティアダイバーの皆さんの地道な活動で復活した世界だったんです。私たちダイバーは、潜るときは海という大自然を傷つけない、手を触れないというのが鉄則ですよね。でも失われた自然を取り戻すためには、人が何か手を加える努力を重ねていかなくてはいけないのだということを、大船渡を潜って初めて感じました。

:そういう海の現状や実際に体験をされた事実を皆さんに配信されているのですね。

酒井:実際は、だいぶ楽しそうにダイビングしているだけに見えますが(笑)。

:そういった活動がキャスターの仕事や考え方に影響を与えることはありますか?

酒井:直接ではありませんが、磯焼けのことを知って調べていくうちに、ブルーカーボンという存在を知りました。海草など海の植物によって吸収され、海底に貯蔵される炭素のことですが、脱炭素社会、CO2削減などが叫ばれる中、そのブルーカーボンが世界的にも注目されているという企画を1本放送しました。

ダイバーとキャスターの共通点

酒井さんのログブックは、自ら描いた可愛いイラストがびっしり!

酒井さんのログブックは、自ら描いた可愛いイラストがびっしり!

酒井:じつはダイビングとキャスターの仕事には、共通点があるんです。何にしても知識として“知る”ことは大事ですが、それ以上に現場に行って“経験する”ことはもっと大切だということです。これまでニュースキャスターや記者として、災害や事件、天気などを取材してきました。取材に行く前には事前にその場所や状況を調べますよね。例えば天気なら何センチの雪が降って、どんな被害が出ているのかといった情報を集めます。でも現場に行けばそれを体感できるわけです。10分でどれだけの雪が積もるとか、足の先からじんわり冷える寒さだとか、体感することで伝えられることはとても増えます。ダイビングも同じで、魚を図鑑で調べると知識がどんどん増えて楽しい。でも実際に海の中に潜ってみると、魚と目を合わせて一緒に泳ぐのは、もっと楽しくて嬉しいんだと気付けるんです。磯焼けの問題も、海に潜って自分の目で見たからこそ事態の深刻さに気付くことができました。そういう体験をし、経験を積んでいくことで、社会に発信できることはどんどん広がっていくと思うんです。

:これから挑戦していきたいことがあれば教えてください。

酒井:これまで私は環境面での活動をあまりしたことがなかったんですが、サンゴの植え付けは、ぜひやってみたいですね。この間、八丈島で潜ったんですが、白化したサンゴがちょこちょこ目に入りました。そういった体験からも、植え付け活動にはぜひ参加したいですね。

:サンゴの白化現象や危機は今、まさに再び各地で問題視されていますね。ぜひPADIアンバサダイバーとして発信していっていただきたいですね。

:カードランクが上がるにつれてスキルが身に付き、潜れる海も世界中で広がっていくと思いますが、酒井さんがこれから潜ってみたい海を教えてください。

酒井:コロナ禍がおさまったら、タイのクルーズに行きたいです! 大船渡で一緒に潜ったクマさん(《NPO法人 三陸ボランティアダイバーズ》代表・佐藤寛志さん)がもともとタイで働いていたそうで、一週間くらい船の上で、潜ってはご飯を食べて、また潜ってというダイブクルーズのことを教えてくれたので、ぜひ行きたいと思っています。メキシコのセノーテ(洞窟)にも行きたいです。それから、寒冷地でも使えるレギュレーターを買ったので、流氷ダイビングにも興味があります。それは経験を積んでからかなぁ。

:酒井さんにとってダイビングとはどんな存在でしょうか?

酒井:ココロの美容液ですね。私たちは、誰かと比べられたり、競争したり、結果を残さなければならなかったり、いろいろなストレスを感じる社会に生きているわけですが、海に入って、きれいな魚やサンゴや貝たちに囲まれた青い世界にどっぷり浸かっていると、もうありのままでいい、生きているだけでいいのかな、と思えてくるんです。水中には小さな生物もいれば、サメのように大きな生き物もいて、みんなそれぞれに魅力がある。劣等感や焦りを持たなくていいんだよと、海の生き物たちに教えてもらっているような気がするんです。

:SNSでも紹介されている酒井さんのお絵かきログには、そんな生き物の絵が愛情たっぷりに描かれていますよね。

酒井:潜った日の夜など、軽くお酒を飲みながら描くんです。水彩で色を付けて。でも私より上手にまるで図鑑のように描かれている方もいますよね。

:ところで今、酒井さんがダイビング以外に取り組んでいることは?

酒井:体型維持です(笑)。高校生のときは今より15キロ太っていて、遺伝的にも太りやすい体質なので。ちょうど2年前にウエットスーツを作ったときから2、3キロ増えてしまったので、今、ちょっときついな~と感じていて、それからはもう万年ダイエッターです。主食は玄米にしたり、脂質と糖質、たんぱく質などに気を付けたりしてバランスよく摂取するよう心掛けています。

:ダイビングは美容と健康には、どうなんでしょうか?

酒井:ダイビングはココロの美容液ですが、紫外線はお肌の大敵なので(笑)、潜る日以外の紫外線対策をしっかりしておくといいのかなと思います。潜る日はどうしても紫外線を浴びるので、それ以外の日常では、私はできるだけ紫外線を浴びないようにして、美白貯金というか、美白を蓄えておくようにしています。

:最後に全国のダイバーにメッセージをいただけますか?

酒井:今、私はPADIアンバサダイバーですが、実際はダイバーの皆さん、一人ひとりがアンバサダーだと思っているんです。私だけでは発信力には限界がありますよね。でも、例えば写真が好き、生き物が好き、大型の生物が好き、海中植物が好きなど、皆さんそれぞれダイビングにいろいろな魅力を感じていると思います。一期一会の出会いもあるでしょう。そんなダイビングの楽しさを、一人ひとりのダイバーの皆さんから、SNSに投稿したり、家族や友人に話したりして、ぜひ伝えていってほしいんです。ダイビングをしたことがない方にはぜひ挑戦していただきたいですし、ダイビングが好きな方にはもっともっと好きになってほしいです。

:これからもPADIアンバサダイバー™として益々のご活躍を応援しています!

(インタビュー/ライター西川重子)

酒井美帆
フリーアナウンサー(セント・フォース所属)
NHK BS1「国際報道2022」キャスター
元テレビ新潟アナウンサー兼報道記者
2012年度ミス日本「水の天使」
PADIアンバサダイバー

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