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【連載コラム】もっと知りたいダイビング医学
第4回 
減圧症
~ダイバーが知っておくべきこと
その3~

もっと知りたいダイビング医学

減圧症の発症メカニズムから治療、予防方法について、前回まで解説しました。減圧症は、発症予防が最も重要ですが、ダイビングは自然の中で楽しむアクティビティです。予期せぬ事故が発生する可能性もあるため、緊急時に備えて、減圧症を疑うための知識、応急手当を含む対処について、事前に計画しておくことが重要です。今回は緊急事態への備えや、実際に減圧症を疑った場合の対応などについて説明します。

文責/小島泰史(東京医科歯科大学高気圧治療部、東京海上日動メディカルサービス)

緊急行動計画を準備しよう

潜水実施にあたり、「緊急行動計画」を作成しましょう。緊急行動計画とは、潜水中や潜水後にトラブルが発生した場合、どのように対処するか事前に計画し、まとめたものです。応急手当や潜水地に応じた緊急連絡先などの情報を記載し、緊急時に迷わず対応できるように潜水前に準備します。実際に講習時に作成したダイバーもいるのではないでしょうか。

参考までに、図1は著者がかつて海洋実習中に作成したものです。あまりに昔過ぎて潜水地は覚えていませんが、緊急連絡先として東海大学医学部付属病院、DAN Japanを記入しているので、東伊豆だったのでしょう。日本中毒情報センターの電話番号も記入しています。

図1 著者が海洋実習中に作成した緊急行動計画

著者が海洋実習中に作成した緊急行動計画

しかし、全てのゲストダイバーが、訪れる潜水地ごとに毎回、緊急行動計画を作成することは現実的ではないと感じるかもしれません。
ダイビングサービスやショップは、ツアーに対応した緊急行動計画を策定し、事故に備えて安全も提供する存在です。ゲストダイバーが体調不良を訴えた際には、事前に定められた計画を発動することになり、緊急行動計画を予め準備することが難しいダイバーにとって、心強いパートナーとなります。

減圧症を疑ったら何をする?

●まずは疑えるように、自身の知識レベルを高める

まず、前提条件として、自身やバディが「減圧症を発症したかもしれない」と疑えるための知識を持つことが必要です。人は知らないことには気づけません。

減圧症の症状は多彩ですが、減圧症シリーズの第1回の図1に示したように、出現しやすい症状があります。また、各潜水指導団体は講習で減圧症についての説明を実施していると思います。本シリーズの減圧症、指導団体のテキストなどを見直すことで、減圧症の特徴、症状などについておさらいすることをお勧めします。
また、医療従事者向けテキストではありますが、日本高気圧環境・潜水医学会では、高気圧酸素治療法入門の「潜水による障害、再圧治療」を公開しています。1)

●減圧症を疑ったら何をする?

① なにはともあれインストラクター、ガイドに相談する

重症減圧症は、潜水終了後早期に発症する傾向があります。つまりは、ダイビングセンター滞在中、あるいはツアーからの帰途に体調不良に気づくことになるでしょう。その場合は、迷わずインストラクター、ガイドに相談してください。

② DAN Japanホットラインサービスに相談する

軽症減圧症では、ツアー解散・帰宅後に体調不良に気づくこともあるでしょう。深夜等で近くに相談できる方がいない状況もありえます。潜水医学に造詣の深い医師は少なく、地域によっては、近辺に相談できる医師がいない場合もありえます。

DAN Japanでは、ダイビングの緊急事態に電話でアドバイスとサポートを行なう「緊急ホットラインサービス」を24時間365日体制で運用しています。ただし、救急車やチャンバー受診などの実際の手配はできず、相談、助言が主になります。そのため、「緊急行動計画=DANに電話する」で十分とは言えず、補助的に考えることが適当でしょう。

③ 応急手当

減圧症が疑われる場合には、特に大気圧下での酸素吸入が大事です。心肺停止をしている場合には、心肺蘇生法(CPRやAED)が優先されます。

2018年に、減圧障害が疑われる場合に求められる応急手当について、海外の潜水医学会によるコンセンサスガイドラインが公表されました。2)
著者は以前概要を日本語で紹介しており3)、要点を表1にまとめます。

なお、注意すべき点としては、ガイドラインが示しているのはあくまで応急手当であり、医師につなぐまでの手段と理解して下さい。自己判断での中止は禁物です。

表1 減圧障害が疑われた場合の応急手当要点 文献2,3より著者作成

  • 1. 潜水後に不調を感じたダイバーは、可及的早期に潜水医学専門医に相談する。
  • 2. 応急手当
    • A. 常圧酸素投与(大気圧下で投与される、可能な限り100%に近い酸素)を発症後可能な限り速やかに投与する。
    • B. ダイバーに対して酸素投与のトレーニングが強く推奨される。
    • C. 基本的に水平仰臥位が奨励され、可能であれば患者搬送中も保持する。意識のない患者には回復体位が推奨される。
    • D. 経口水分補給は推奨されるが、意識清明でない場合には避ける。炭酸、カフェイン、アルコールを含む飲料は避けるべきであり、アイソトニック飲料が最も良い(飲料水でも良い)。
    • E. ダイバーを適温で管理する(温かく、しかし高体温にはしない)。特に重度の神経症状を伴う場合、高体温は避ける。日照、不必要な運動、過度な着衣を避ける。

ダイバーが酸素投与を含む応急手当の知識を持つことは、緊急事態に適切に対処できることにつながります。

減圧症への取り組み

ダイバーへのアンケート調査で、潜水後に減圧症を疑うような症状を経験した方は、病院で診断された数の25倍以上いた、との報告があります。4)
その多くは軽症で、幸い自然治癒したのだと思われますが、減圧症を疑いつつも実際の治療につながっていない現状も浮かび上がります。

しかし、一見軽症に見えても実際には再圧治療を要する症例も存在します。本来、全ての体調不良者が潜水医学の専門医へ相談することが理想ですが、専門医の数は少なく、我々医療側のキャパシティには限りがあるのが実情です。潜水後に不調を訴える方を、少しでも早く治療につなげられるような取り組みが各方面で行なわれていますので、いくつか紹介します。

●日本高気圧環境・潜水医学会の取り組み

減圧障害対策委員会設置

日本では、医学部及び大学卒業後の潜水医学教育はごく一部に限定されており、減圧障害を治療する施設は限られます。そのため、潜水医学に造詣のある医師は多くありません。
その現状を踏まえ、「減圧障害の診断と治療が適切にされるように再圧治療施設対象に支援し補助すること」を主たる活動目的とし、「減圧障害対策委員会」が立ち上げられました。著者も委員の一人ですが、活動を通じて、日本でより多くの医師が潜水事故の治療に関与することを目指しています。
多くの地域で必要な治療にアクセスできる環境が整うことで、ダイバーが安心して潜れるようになると良いと思います。

チャンバー治療実績情報の開示

学会では定期的に第1種(1人用)及び第2種(多人数用)チャンバー保有医療機関にアンケート調査を行なっており、各チャンバーでの減圧障害治療実績情報を学会ウェブサイトで開示しています。5)
潜水予定地での緊急行動計画策定の一環として、あらかじめ目を通すことで、地域で減圧障害の治療を行なっている医療機関について把握することができます。また、学会ウェブサイトではチャンバーのメンテナンス情報も提供しており、治療ができない期間の把握をすることもできます。一般の方も閲覧可能ですので、ぜひ活用していただければと思います。

ちなみに、直近のアンケート調査は2019年で、204施設から回答があり、うち第2種チャンバー(註:高気圧酸素治療安全協会の安全基準では、再圧治療は第2種チャンバーで行なうことが原則です)は28施設でした。その中で、24時間体制で減圧障害患者を受け入れることができるのは17施設です。17施設の大まかな場所を日本地図にプロットしましたが(図2)、地域偏在があります。具体的には、関東に8施設、沖縄に3施設ある一方で、他の地域では少ないことがわかります。

図2 24時間体制で減圧障害患者を受け入れることができる第2種チャンバー 文献5より著者作成

24時間体制で減圧障害患者を受け入れることができる第2種チャンバー 文献5より著者作成

●伊豆半島地域の取り組み

多くの首都圏ダイバーを受け入れる伊豆半島では、重症減圧障害患者のドクターヘリ搬送システムが構築されています。6)順天堂大学医学部附属静岡病院の基地からの出動で、伊豆半島で重症減圧症が疑われる患者が出た場合、東伊豆町稲取を境に、東伊豆では東海大学医学部付属病院に、西伊豆では静岡済生会総合病院に患者搬送します。

関係者間の迅速な情報共有用にダイビング事故チェックリストが作成され7)、地域の潜水関係者、消防関係者、フライトスタッフでの合同勉強会も定期的に開催されています。その中でチェックリストの改定、浸透などが図られており、事故後のスムーズな対応につながっています。同時に潜水事業者の知識レベルの向上にもつながっていると考えます。

緊急時の対応には、インストラクター、消防関係者、医療関係者等多くの方々の協力が必要です。著者は、上記の伊豆半島のような取り組みが全国的に広がることを期待しています。そのためには、地域の潜水事業組合などが中心となり、行政、消防、メディカルコントロール協議会などへ働きかけを行なうことが必要と考えています。安心してダイビングできる環境整備のためには、潜水事業者の方の尽力が必要です。ぜひ、ダイバーのために各地域で何ができるのか、ご検討ください。

最後に

3回にわたり、減圧症や、その対処方法などについて説明しました。多くのダイバーは、減圧症は無謀な潜水や、特別なダイバーだけが発症すると考えがちです。

しかし、実際にはダイブコンピュータの無減圧潜水時間を守っていても、減圧症を発症することがあります。また、体調、海況、器材トラブルやエア切れなどの予期せぬトラブルによって、発症するリスクは誰にでもあります。自身は注意をしていてもバディが発症する可能性も考慮にいれるべきでしょう。

「事故が起きたときに考える」のではなく、減圧症に関する知識を持ち、緊急行動計画で万が一に備えることによって、救える命、避けられる後遺症があるかもしれません。
事故を起こさないように十分な予防をしつつ、ダイビングを楽しんでください。

Hope for the best and prepare for the worst.

参考文献

小島泰史先生プロフィール

小島 泰史 (コジマ ヤスシ)

小島 泰史
(コジマ ヤスシ)

1997年にダイビングを始め、その後東京医科歯科大高気圧治療部で潜水医学を学び、専門医を取得。現在は同大学の高気圧治療部非常勤講師として、潜水障害患者の診療を行っている。専門である整形外科の知識を活かし、損害保険会社の顧問医として、医療事故などに関する医療コンサルを行っており、リスクに関する造詣も深い。元DAN Japan Medical Officer。現在、日本高気圧環境・潜水医学会において理事、広報委員会委員長、国際情報委員会委員長を務めている。UHMS、SPUMS、日本渡航医学会他、多数の学会に所属。
日本整形外科学会認定整形外科専門医。日本手外科学会認定手外科専門医。日本医師会認定産業医。日本高気圧環境・潜水医学会認定高気圧医学専門医。