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レポート2022.08.03

PADIジャパン創立40周年記念 中野龍男会長スペシャルインタビュー

1982年4月、日本において株式会社PADIインターナショナル・ジャパン(現:株式会社パディ・アジア・パシフィック・ジャパン=通称PADIジャパン)が設立されました。
1966年、米国のシカゴで、ジョン・クローニン氏とラルフ・エリクソン氏によって誕生したPADI®の日本オフィスが正式に誕生したというわけです。
スクーバダイビング教育機関として、世界で最も多くのスクーバダイバーを生み出しているといわれるPADIですが、日本でのこの40周年を迎えるにあたりPADIジャパンの代表取締役会長である中野龍男氏にお話を伺いました。

スクーバダイビングをレジャーだけでなくビジネスの世界に

PADIジャパン本社での中野龍男会長

PADIジャパン本社での中野龍男会長

1982年設立当時における指導機関は、一般的にスクーバダイビングという遊びを広めることを目的としていて、ビジネスというよりは仲間を増やすというところにおける活動が盛んでした。PADIの目的は、“スクーバダイバートレーニングを、安全を確保しながらビジネスとしても提供できるようにする”ことでしたので、当時としては画期的だったのだと思います。海の中の素晴らしさをより多くの人に知ってもらうためにはスクーバダイビングには当然安全が確保されていなければならないからです。

PADIは1966年に設立されましたが、創設者の一人であるジョン・クローニン氏はその当時某スクーバダイビング器材メーカーの社長でもありました。スクーバダイビングを継続的に行っていくと、事故も目立つようになってきます。事故が起こるとスクーバダイビングはビジネスになり得ません。そして、ラルフ・エリクソン氏という教育学者と知り合い、二人でスクーバダイビングの教育に「指導心理学」を応用したトレーニングプログラムを作り上げたのです。そしてPADIというスクーバダイビングの教育機関(指導団体)をスタートさせました。なんと、二人でこれらの構想を練っていたのは自宅のガレージだったというから驚いたというか、時代を感じますね(笑)。PADI®という名前も、二人が様々な議論を交わしたうえで、Professional Association of Diving Instructorsのそれぞれの単語の頭文字を取ってそこで決めたそうです。
当時は、他のスクーバダイビング関連の器材メーカーが、ダイビング指導ビジネスに参入するなんてとんでもないと言って猛反発されたそうですが、ジョン・クローニン氏は自身が携わってきたスクーバダイビング器材メーカーの仕事と、PADIというスクーバダイビングの教育指導機関の仕事をきちっとメリハリをつけて分け、周りの猛反発をしていた器材メーカーを説得したそうです。今でもその考え方は生きていて、普通の経営者であればビジネスを成長させるために事業の多角化を目指し、器材販売も併せてしてしまいそうなものですが、これに関しては一切しないという理念が今もずっと続いています。

ジョン・クローニン氏 

ジョン・クローニン氏 

ラルフ・エリクソン氏

ラルフ・エリクソン氏

世界初の指導マニュアル

 

PADI設立当時のロゴ

PADI設立当時のロゴ

創設者のジョン・クローニン氏とラルフ・エリクソン氏が、当時ウィスキー(ジョニーウォーカー)を片手にPADIという名を考案した時の手書きのメモも残っている

創設者のジョン・クローニン氏とラルフ・エリクソン氏が、当時ウィスキー(ジョニーウォーカー)を片手にPADIという名を考案した時の手書きのメモも残っている

PADIが画期的であったのは、指導マニュアルを全コースで作成したこと。
指導マニュアルというのは一言でいうと「やさしいことから難しいことへひとつひとつ身につけていくこと」。これはもともと軍で派生していた指導心理学にあったものなのです。なぜかというと、アメリカには徴兵制度がありますよね。教育レベルの高い人から全くそうでない人まで、ものすごく幅広い人たちが同時に入隊してきます。軍では指導マニュアルを基にそういう人たちに最新兵器をどう使うか、トレーニングをしなくてはなりません。トレーニングをするのに指導マニュアルを基にステップバイステップで積み上げていくことで、教育レベルに格差があったとしても、何かを身につけるということに関しては同じレベルで習得させることができるのです。
それをスクーバダイビングの指導にも取り入れたわけです。水中において、ある一定の時間を過ごす。その時に起こり得るトラブルに対処する方法というものをひとつひとつ積み上げていくのです。そういう意味ではPADIの教育プログラムは誰にでも同じような技術を身につけることができる画期的な教育方法といえたのではないでしょうか。

PADIの教育プログラムの最大の特徴

最大の特徴はやはり「指導心理学」が基本となっている教育プログラムであることだと思っています。知識開発(学科講習)が終わって限定水域講習になると、器材をセットアップして装着して水に入ります。水中活動をしたら今度は器材をばらします。これを講習の間何度も繰り返し行うことで、器材のセッティング方法と手順を自然に体で覚えるようになります。これが「指導心理学」に基づいたプログラムの一つなんです。何度も繰り返すことで知らないうちにスキルが身についているというものです。
それがオープン・ウォーター・ダイバー・コースだけでなくアドヴァンスド・オープン・ウォーター・ダイバー・コース、レスキュー・ダイバー・コース、ダイブマスター・コース。アシスタント・インストラターコース、インストラクターコースといった全てのコースにおいて同様に採用されているのです。
また、世界中にいるインストラクターの教育の質を世界共通で維持していくために、世界中で発生する様々な事案や規準違反が発生した場合において、それらが全てPADIワールドワイド本社の一つのテーブルで話し合いが行われるのです。世界中におけるPADIのインストラクターが提供するサービスの品質を均一となるように保っていくことができるのはそういうことなんです。

 

PADIジャパンの日本におけるターニングポイントは映画『彼女が水着にきがえたら』

40年前の日本では、スクーバダイビングがレジャーとして認められ始めた頃でした。
中でも1990年頃のダイバー人口の伸びはすさまじかった。前年比6割増もあったんです。
1989年に放映された映画『彼女が水着にきがえたら』をきっかけに、ダイビングを始める方、その中でも特に女性ダイバーがとても多くなりました。
この映画製作にあたっては、PADIジャパンが全面協力をしたのですが、それが意外と大変でした(笑)。出演者50~60人分のウエイトや水中スクーターを手配することになったのですが、輸送する時は、とても重すぎて飛行機では送れないので結局船で送りましたね(笑)。
映画の中にはPADIのCカードもしっかりと写していただいたんですよ。まあほんの1~2秒ですけど。いずれにしてもこの映画がきっかけとなってスクーバダイビング人口が一気に増えました。今思えば楽しかったですね!

 

ネットワークをいち早く強化したことが業界トップの座を確保していることの理由か

世の中はバブルがはじけ、その後何年かしてこの映画ブームも終わり、スクーバダイビング業界も落ち着いてきました。
でも、スクーバダイビングをする方は、いつも同じ場所で活動するだけでなく、いろいろなところで遊び回っていました。これはネットワークが必要だなと。幸いPADIジャパンには、日本全国にダイビングショップやダイビングサービスがありますので、ITネットワークを構築しようということになったのです。
1990年代半ば頃でしょうか、インターネットが一般にも普及してきた時にPADIジャパンの加盟店さん全店にパソコンを無償で提供したのです。それまでは独自のネットワークを構築すると数億円という資金が必要だったものが、インターネットが一般的に普及した環境では低コストで実現可能となりました。最初は嫌がる加盟店さんもいらっしゃいましたし、まずはパソコンに触ってもらうためにパソコンゲームの使い方を教えしたりしてね(笑)。とにかくパソコンの操作に慣れていただきました。ITネットワークができると情報もすぐに発信していくことができます。近年において、海辺のダイビングサービスの加盟店も増えてきたのもこのおかげかと。PADIジャパンが最初にやったことが今日も生きていると思っています。

スクーバダイビングは社会性にたけたレジャー。
まだしたことのない人には、とにかく一度でいいから体験してみてほしい

「マリンダイビングWeb」をご覧の方はスクーバダイビングをされている方も多いのでしょうが、まだしたことのない方がいたら、とにかく一度でいいから体験してみてほしいですね。食わず嫌いとはいいますが、スクーバダイビングの体験コースもありますので、騙されたと思って(笑)一度試してみていただきたいです。

いざ海の中に潜ってみると、自然の偉大さや壮大さ、そして海の中の想像を超える美しさに気づかれると思います。
しかも一回潜ってみると、地球を大切にしなければとか、海を守らなければという心が自然と芽生えてくるものです。人ってかわいいとか愛おしいとかキレイなどと思ったことは間違いなく自動的に大事にするものです。
ですからスクーバダイバーである人たちの多くが地球や環境を大切にしよう、海を守ろうという気持ちを持っていて、水中清掃などの活動にも積極的に参加してくださるようになります。SDGsを実現するのにも最適な、知的なアクティビティなんだと思います。
皆さん、世界中の海に潜って楽しんでくださいね!

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