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現地の海から2023.11.21

ポルトガルでダイビング!?〝海底ミュージアム〟も必見!

◎ポルトガルのダイビングについて
日本のダイバーには、まだあまり馴染みがないかもしれないポルトガルの海。でも、大西洋と地中海という2つの海を有し、さまざまなスポットや地形に恵まれた当地は、ヨーロッパで人気のディスティネーションです。たとえば、ポルトガル北部にあるマトシーニョスには、ドイツの潜水艦が水深およそ31m地点に沈んでいたり、また、中部にあるベルリンガ島の海底には、パレーデ・ラ・ボ・デ・アスノという洞窟もあったり。大西洋に浮かぶアソーレス諸島やマデイラ島は、イルカやクジラなど、大型の海洋生物が頻繁に見られることでも知られています。

◎ポルトガルを代表するアーティスト・Vhilsとは?
さて、唐突ですが、Vhils(ヴィルズ)をご存知でしょうか? 本名はアレアンドロ・ファルト。ポルトガル出身のストリートアーティストで、欧米を中心に人気が高く、廃墟や公共空間の壁をはじめ、表層を加工した(剥がしたり、爆発させたり)アート作品が特徴的です。自然の中に置かれたインスタレーションなので、時間経過の中での変化や、また、いつかは取り壊されてしまうという、刹那的な面も魅力のようです。イギリスを拠点に活動する素性不明のアーティストである、バンクシーと同じエージェントと契約し、活動していることでも、注目を集めました。作品は、ポルトガル国内はもちろん、世界中にあります。そんな海外で有名なアーティストの作品が、今回はなんと海中に展示されるということで、実際に見てきました。

地元ダイビングショップ「Easydivers」

地元ダイビングショップ「Easydivers」

◎〝海中ミュージアム〟プロジェクト。その名も「アート・リーフ」。
作品があるのは、欧州屈指のリゾートであるポルトガル南部のアルガルヴェ地方の中でも、特に人が多く集まるアルブフェイラというビーチリゾートの沖合です。展示されているVhilsのインスタレーション作品は13 点。

今回お世話なったのは、アルブフェイラのマリーナに店舗を構えるダイビングショップ「Easydivers」。マリーナから船で10分ほど、作品が設置された海域に到着しました。機材を身に付け、海底へ。水深約12メートルの海底で、案内してくれたダイバーから、「あそこだよ!」と指で示された方向を見たとき、最初は古い船の残骸が海の底に沈んでいるように見えました。けれど、よく見てみれば、そこにはVhilsのアートが!

「アート・リーフ」のあるポイントへはボートでアクセス

「アート・リーフ」のあるポイントへはボートでアクセス

人の顔や目が印象的なVhilsの作品群に海中で出会ったとき、非常に幻想的であったの同時に、フィクションの世界のようにも感じました。近未来、世界が海底に沈んでしまったような…。ちなみに、ここアルガルヴェ地方では、人工物を海底に沈める活動が多いようです。付近では、「OCEAN REVIVAL」というプロジェクトのもと、魚礁となることを目的に、使われなくなった4隻の軍艦が沈められたりもしています。世界的なダイビングスポットにするための人口礁プロジェクトという位置付けのようです。

海底神殿のようなVhils作品 photo by Nuno Sá

海底神殿のようなVhils作品 photo by Nuno Sá

Vhilsの作品の周辺には、たくさんの海藻が繁茂し、また、小さな魚やタコなどもたくさん。地元にあるアルガルヴェ大学科学センターとともに、環境にやさしいデザインを目指したと聞いて納得。アートであり、魚礁であることを体感できました。

Vhils作品の付近にはたくさんのタコも生息していた photo by Pieter Firlefyn

Vhils作品の付近にはたくさんのタコも生息していた photo by Pieter Firlefyn

◎Vhilsの作品に込められた想い
「アート・リーフ」プロジェクトは、アルブフェイラ市、ポルトガル政府観光局、ポルトガル環境局など、さまざまな団体の協力のもと、実施されたものです。インスタレーション13 点は、使われなくなった発電所の部材に施されています。これはEDPという、ポルトガル最大の電力会社の古い石炭火力発電所から除去されたもの。ポルトガルは現在、エネルギーを化石燃料ではなく再生可能技術によって生成されたものに移行する目標を掲げていて、作品を通じて脱炭素化への道を選択するというメッセージが込められているとのこと。

ポルトガルでは、2016年5月には国内の電力消費のすべてを、連続100時間を超えて再生可能エネルギーで賄えたことが話題となりました。再生可能エネルギーの中で、とりわけ風力発電の導入量が多いのがポルトガルの特徴。海風の強いポルトガルの風力利用の歴史は長く、中世のころよりさまざまな生業に活用されてきた素地があります。知られざる、エネルギー先進地からのメッセージであり、強い意思表示だったのです。

さらに作品には〝海に目を向けさせる〟目的も。アルブフェイラは、スペインのイビサ島などと同様、パーティタウンとしての顔を持っています。美しい自然がそばにたくさんあるのに、町にしか出かけないのはもったいない。作品を通じて、アルブフェイラの真の姿に目を向けてほしいという想いも込められているそうなんです。取材時、Vhilsにもインタビューする機会をいただいたのですが、海への敬意について話してくれました。「ダイビングの仕方を学び、ダイビングをするときに必要な海への敬意と、そこから得たすべての教訓を学ぶその過程で、海が人間にとって特別な場所であることを再認識するでしょう。プロジェクトを通して、海への興味を高め、できれば若い世代が海に行って作品を見て、海とともに行動すること、または考えるべき何かを持ち帰ってくれたら」

Vhils作品に海底で遭遇するとその大きさに圧倒される photo by Pieter Firlefyn

Vhils作品に海底で遭遇するとその大きさに圧倒される photo by Pieter Firlefyn

◎日本人ダイバーに知っておいてほしいこと
ポルトガル各地にダイビングスポットがあり、付近にはダイビングショップも数多くあります。ガイドの多くは、ポルトガル語だけでなく、英語を話させる人がほとんどなので、安心してダイビングを楽しむことができるでしょう。平均水温は、夏で21度、冬で17度。冬はうねりや強い風が吹くことも多いので、ベストシーズンは6~10月ころ。アルブフェイラでVhilsの作品を見たい人は地元ダイビングショップ「Easydivers」へコンタクトを。Vhils作品はもちろん、多彩な海の魅力を持つポルトガルへ一度来てみませんか?

〈Vhils氏プロフィール〉
1987年、ポルトガル・リスボン生まれ。本名はアレクサンドロ・ファルト。従来とは異なるツールや技術を使用して、壁やその他の媒体の表層を加工。現代の〝都市考古学者〟のように物質文化の層を剥がし、表現する。作品は、ヨーロッパはもちろん、世界中で展開されている。

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