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環境保護2021.06.03

森林を守り、海を守る
「木のストロー」を使ってみませんか?
開発者の西口彩乃さんにインタビュー

海洋プラスチックごみが世界的な問題となっている昨今。プラスチックストローの使用をやめようという動きは世界的に広がっており、取り組む企業も増えてきています。そんな中、間伐材を使用し、森林にも海にも優しい取り組みとして注目されているのが、《アキュラホーム》の「木のストロー」。その開発者である西口彩乃さんに、開発のきっかけや苦労、木のストローならではのメリットなど、お話をうかがいました。

聞き手:鴫谷隆(マリンダイビングWEB編集長)

【プロフィール】
西口彩乃(にしぐち あやの)
1989年、奈良県生まれ。立命館大学理工学部環境システム工学科卒業。2012年、木造注文住宅会社の株式会社アキュラホームに入社。大阪支店での営業職を経て、2014年より新宿本社にて広報を担当。2018年から「木のストロー」の開発に携わり、2019年1月、ザ・キャピトルホテル東急に木のストローが導入された。2019年に開催されたG20のすべての会合で木のストローが採用され、大きな注目を集める。木のストローはウッドデザイン賞(優秀賞 ―林野庁長官賞)、キッズデザイン賞、グッドデザイン賞(私の選んだ一品 ―2019年度グッドデザイン賞審査委員セレクション選出)、グッドライフアワード(環境アート&デザイン賞)、地球環境大賞(農林水産大臣賞)など、さまざまな賞を受賞。

――木のストローを作ったきっかけは何だったのでしょうか

西口:私はずっと《アキュラホーム》という住宅会社で広報業務を担当しており、国土交通省の記者クラブに出入りしていたのですが、そこでひとりの記者に出会いました。環境ジャーナリスト(当時は東京MXの記者)竹田有里さんです。竹田さんは2018年に西日本豪雨を取材し、現地の被災された方々のインタビューをした際、「これは豪雨災害ではありますが、森林を適切に間伐していなかったことで被害が甚大化したのです。つまり、これは人災なのです」と言われたそうです。私にとってそれは衝撃的で、豪雨災害だと思っていたら、実は森林管理がされていなかったことで土砂災害の被害が大きくなったという。そこで森林を適宜適切に間伐し、管理していくことの大切さを実感しました。

――木は多いほうが良いイメージがあるのですが、手入れされていない森林は良くないのですね。

西口:そうですね、私も森の中に入って見させていただきましたが、人工林は同じ時期に一斉に木を植えても、日の当たり方などによって細い木や太い木があり、1本1本成長度合いが違います。そこで細い木を間引くという作業をしないと、木に日光が当たらずに、地にきちんと根をはらず、水循環作用が衰えてしまい、豪雨災害が起きたときに倒木や土砂崩れといった災害につながることに。必要のない木を間引く=間伐が、森林を守るためにはとても大切なことなのです。

ただ、この間伐という作業が経済的な問題などでなかなかされていないということでしたので、それなら間伐材の有効活用方法を考えられないかと。ちょうどその頃(2018年夏)、話題になっていたのがプラスチックごみ問題でした。海の魚の量をプラスチックごみが上回るというような発表もあり、プラスチックごみの代表格であるストローを廃止すべきという声が報道関係などからも上がっていました。そこで、「プラスチックのストロー問題」と「間伐材の問題」の2つの問題を掛け合わせて、「木のストローが作れないか」という相談を受けたのです。

森林を守るために間伐された木材が、木のストローの材料に

――森林を守り、海も守る。木のストローはそんな想いからスタートしたのですね。開発には相当な苦労があったのでは?

西口:いざストローを作ろうというときに、会社は住宅会社ですし、私はもちろんストローを作ったことがなく、どういうものが完成形かもわからなかったので、かなり苦労しました。とりあえず木に穴を開けてみたり、溝を掘って合わせてみたり、いろいろ聞いたりお願いしたりしながらやってみましたが、その方法で果たしてこのストローが世の中に普及していくのかと。10本作ったら10本で終わってしまうような、そんな感じだったので、これではダメだと思いました。そもそも木のストローを作ろうと思ったきっかけが、先ほどお話ししたように森林保全や海洋環境保護に貢献していきたいという想いだったので、持続可能なモデル、最近でいうサスティナブルなモデルを作らないと意味がないのではないかと考えたのです。ですから、作った木のストローにきちんと価格がついて、そのストローがどこかで販売され、使われて、適切に捨てられる。マイストローというよりは、使い捨てのプラスチックのストローに変わる木のストローを作りたいと思い、開発を進めました。その結果、木を厚さ0.15mmに薄くスライスしたものを斜めに巻き上げるような形で、木のストローが完成しました。

鉋(かんな)による薄削りがストロー開発のヒントに

木を厚さ0.15mmに薄くスライスしたものを斜めに巻き上げてストローに

――なるほど、単に環境保全に象徴としてのアイテムではなく、社会の中で循環し、広がっていくことが考えられたアイテムなのですね。

西口:木のストローを初めて導入していただいたのは《ザ・キャピトルホテル東急》さんでしたが、当時、木のストローはプラスチックストローの100倍以上もの値段でした。それでもこの取り組みが意義のあることと思って導入していただき、とても感謝しています。《ザ・キャピトルホテル東急》さんでは、館内全てのレストラン&バー、クラブラウンジで木のストローを採用していただいていますが、利用されたお客様に環境意識を醸成することができ、お客様とのコミュニケーションツールになるなど、非常に多くの反響があるそうです。プラスチックのストローに比べてコストはかかりますが、単にお金をかけた広告や販促とはまた別の価値が生まれますので、こういった取り組みを導入していただけるところが増えるといいなと思っています。

最初に木のストローが導入された《ザ・キャピトルホテル東急》

――最近ではプラスチックに代わる様々な素材のストローが出ていますが、木のストローのメリットは何でしょうか?

西口:木のストローの一番のメリットは、それを作るための材料が森林保全につながっている点だと思います。たとえば紙のストローの場合、そのために紙という資源が必要ですし、生分解性プラスチックの場合は材料に加え、それを作るためのエネルギーも必要となります。それに対し、木のストローは、間伐材をどうにか使いたいというところからスタートしており、1本の木から相当の量が取れて、かつ作る過程でほぼエネルギーを使いません。木をスライスするところだけは機械を使っているのですが、そのあとはすべて手作業でやっており、木を巻く作業は障がいを持った方の雇用にもつながっています。1つのストローの背景に、いろいろな環境問題やSDGsの解決につながる要素があるのが、ほかのストローと違う点かと思っています。

1本1本が手作業で作られている木のストロー。障がい者‧シルバー人材の雇用にも貢献しています

使用する木によって異なる色合いにも味があります

――すごいですね。木のストローはいろいろな社会の課題の解決につながりそうですね。私たちダイバーにとっては、海のプラスチックごみ問題の改善に期待しますが、西口さんは海に対しての想いなどは何かありますか?

西口:2019年にG20に木のストローが採用されたのですが、そのときの一番大きいテーマが廃プラ/脱プラで、海のプラスチックごみがそれだけ大きな社会問題になっていることを感じました。日本は森林大国なので、日本にいると木のことを意識する機会が多いのですが、世界的に見ると海洋汚染というのはすごく大きな問題なのだなと。温暖化によって海水面が上昇して島がなくなるとか、ごみの問題も多いことを私も耳にしますし、ストローがごみの分別ですり抜けてしまい、海に流れていってしまうことも多いとか。木のストローの普及によって、少しでもそういった状況を完全したいですね。私は海なし県で育ったので(笑)、あまり今まで海に行ったことがなかったのですが、今年はぜひ海に行きたいと思っています。

――最後に、今後の予定などを教えていただけますか。

西口:今までは一生懸命、会社の広報として広報活動をしながら、木のストローの普及活動に力を入れてきました。2018年12月に記者発表で木のストローを発表してから、必死になって品質を改良したり、生産量を上げたり(たとえばG20だけで7,000本くらい必要だったので)、それを使ってもらえる場所を増やしていったり。横浜市さんや今ではJRさんもやっていますが、《アキュラホーム》が木のストローを作らなくても、ほかの地域の人たちが、その地域の木材で、その地域で障がいをお持ちの方や高齢の方が作って、そこの地域で使ってもらえるような“地産地消モデル”というのを構築するなど、普及活動にかなり力を入れてやってきました。

今後もそれは継続しながら、2020年10月に『木のストロー』(扶桑社)を出版させていただいたのをきっかけに、それまで環境問題にそれほど関心があったわけではない1人の会社員であった私が木のストローをとおしてどのように変化していったのか、どのようにSDGsに会社として取り組むようになっていったかなども伝えていきたいと思っています。普通の会社員だった私が、今ではこうして取材を受けたり、講演会をやらせていただいたり、この木のストローに取り組んでからいろいろと見方が変わりましたし、たくさんのチャンスも巡ってきました。今はけっこう学校でSDGsを勉強している子も多いので、その実践者であり、開発者である私が、若くても何も別にできなくても、こういうふうにすればこんなことができるという、社会進出や企業の中でのスタートアップ的な要素も取り入れながら、こういう形で取り組んだとか、今はこういうことをやっているとか、企業はこのように変わっていったとか、それがひいては環境について考えるきっかけの提供になると思うので、そういうのをどんどん伝えていきたいですね。

――今後のさらなる展開にも期待しています。いろいろとお話しいただき、ありがとうございました。

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『木のストロー』
アキュラホーム 西口 彩乃 (著)
出版社 : 扶桑社
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「住宅会社がストローをつくってどうするんだ!」間伐材再利用と廃プラ問題解決のため、ど素人の住宅会社広報担当が「木のストロー」制作に立ち上がった。社内の反発、失敗続きの試作品、記者会見直前の大トラブル…。まるで「下町ロケット」のような開発実話! 2019年G20で採用。地球環境大賞農林水産大臣賞受賞。

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