海のいきもの
第22回 ニシキウミウシの色彩変異
伊豆半島など近場の海でもよく見られるニシキウミウシは個性豊かな模様で、
いろいろなカラーバリエーションが楽しい種類。そこで、よく見られるニシキさんの模様パターンをザックリ紹介。
ただし、種の分類は新たな発見で変わることもあれば研究者の見解などによっても流動的です。
ココに紹介したことが「絶対正しい」とは限らないので予め御了承ください。●構成・文/山本真紀
あれ、上の模様とかなり違うじゃん?
トップ(一番上)のまだら模様のウミウシとこのパープルのウミウシは、どちらも同じニシキウミウシという種類という。しかし、にわかに同種とは信じがたいほど模様が違う。実際、パープルのタイプは「フタイロニシキウミウシ」と呼ばれ、別の種類とされることもある。どうもニシキウミウシは個体によって模様のバリエーションが激しい種類らしい。そこで、とりあえず体の形からニシキウミウシの特徴を見てみよう。
●エラ/よく目立つのは背中のエラ(二次䚡)。まるで花のように広がっているが、うっかり触れると引っ込めてしまうので注意。なお、このような華やかなエラはニシキウミウシを含むイロウミウシ科の仲間によく見られる。
●背中に1個の突起/エラの後ろにある大きく反り返った突起、これはニシキウミウシの大きな特徴。近縁のテヌウニシキウミウシにも見られる。
●丸っこい1対の突起/体の中央付近に左右に張り出した1対の突起もニシキウミウシの特徴(近縁のテヌウニシキウミウシは2対ある)。どれほど模様が異なっても、ニシキウミウシには必ず背中と体側に3つの突起がある。
●その他の特徴/イロウミウシ科というグループに属し、成長すると10cmを超える。分布はインド-西太平洋。
赤や白の斑入りが増えてきて・・・・
「フタイロニシキウミウシ」と呼ばれているタイプの個体をたくさん撮影してきて、似たような模様を並べつつ繋げてみると・・・・・・あれ、なんだかドンドン別の模様になっていくみたいだぞ。
この3点のニシキウミウシの模様を比較してみよう。❶と❷だけ見ればよく似ている、❷と❸もこの2点だけ見れば似ている。でも、❶と❸を比べると・・・?
❶/「フタイロ~」のボディ後半部分に赤い斑紋が入ったタイプ。これだけでかなり違って見えてくる。
❷/さらに赤の斑入りが多くなり、パープル部分が心なしか色が薄くなった個体。かなり印象が変わった。
❸/体の前半にも赤の斑が入り、パープル部分はすっかり白っぽい。もはや「フタイロ~」とは別物だ。なお、この写真ではエラは引っ込めており見えない。
フルーツポンチっぽい?
特徴である3つ(1個と1対)の突起もあるし、華やかなエラもあり、形態的な特徴から見るとコレももちろんニシキウミウシだ。ただ、模様が薄ボンヤリとして全体に曖昧な印象であること、青紫の縁取りがラインではなく、点線状となっていることなどが今まで紹介したニシキウミウシの模様とは異なっている。
このタイプはかつて「フルーツポンチウミウシ」と呼ばれたこともある。が、2~4cm程度の小さな個体が多く、正体はどうやらニシキウミウシの幼体と思われる。
伊豆の海でよく見るタイプ
このタイプの模様は、伊豆半島など南日本の海でよく見られる。上から撮影しているため、エラの後ろの背中の突起は見づらいが、体側の1対はよくわかる。
こちらは西伊豆・大瀬崎で撮影されたもの(写真❶は三宅島で撮影)。ニシキウミウシは基本的に岩礁でよく見られるが、砂地を這っていることも珍しくない。
小笠原だけで見られるタイプ
というわけで、いろいろな模様のニシキウミウシを紹介してきたが、極めつけはコレ! 真っ赤なボディに紫の縁取り、白に暖色ライン入った華やかなエラを持つこのウミウシも、やっぱり同じニシキウミウシというから不思議。かつては「ハナエニシキウミウシ」と呼ばれ、別の種類とされていたのもうなずける。
このタイプの模様は小笠原諸島でしか見られず、逆に小笠原では他のタイプのニシキウミウシはいないという。絶海の小笠原の島々に固有のタイプということで、長い年月の後には別の種類に分化しちゃうかもしれない。
ちょっと似ているミアミラウミウシ
パッと見はニシキウミウシと似ているけれど、これはミアミラウミウシという別の種類(撮影地は西伊豆・田子)。背中の突起はエラの後ろではなく前にあり、正中線に沿って他にも小さな突起がある。また、ニシキウミウシでは目立つ左右に張り出す1対の突起はないが、その代わり体の縁がウネウネしている。こちらも個体によって変異があり、背中の突起が小さいもの、全体に緑っぽいものなど様々。インド-西太平洋に分布。成長すると10cm前後となり、南日本の岩礁で見られる。