第16回 海のいきもの アカヒメジ~白黄なのに何故に赤?
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知名度はそこそこあるし意外と美形、でも、なぜかイマイチ印象が薄い・・・・。
メジャーではないけどマイナーでもなく、
特に熱心なファンがいるわけでもなければ毛嫌いされることもない。
今回はそんなアカヒメジをクローズアップ。
ヒメジの中では変わり者?
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アカヒメジはインド-太平洋に広く分布し、沖縄でも普通に見かけるヒメジの仲間。大きさは20cmほどになり、群れをつくって中層にボ~っと浮いている。海の青に、魚群の白&黄という配色はなかなか絵になり、水中写真のモデルにもぴったりだろう(写真は逃げ出し始めて群れが崩れているけれど)。
でも、ちょっと待てよ。思い返してみると、ヒメジの仲間というのは海底でゴソゴソ活動しているものではないか? それも数尾程度で行動しているものが多い気がする。少なくても、アカヒメジのような整然とした群れをつくる種類は今すぐには思いつかない。もしかして、アカヒメジはヒメジの仲間の中でも変わり者なのかもしれない。
「白&黄」or「赤」、どっちがホント?
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ダイビングで見かけるアカヒメジは、白いボディに黄色のラインという爽やかな配色。名前に色を入れるなら、「しろひめじ」とか「きおびひめじ」がふさわしいのではないか? なのに、どうして「赤ヒメジ」?
なんて考えていたら、こんな写真があった。
クリーニングステーション
サンゴ礁を潜っていると、不自然に魚がたまっていることがある(写真)。そんな場所にはたいていホンソメワケベラがいて、体を掃除(体に付いた寄生虫などを食べること)してもらおうと集まってくる魚たちのクリーニング作業にいそしんでいる。写真ではどうやらアカヒメジたちが順番待ちしているようだ。
何やら変色したヤツが?
アカヒメジだから当然、白地に黄帯という模様。でも、よく見ると何やら妙に赤っぽい個体が混じっている(注目→)。もしかして違う種類なのか?
ということはなく、実はコレもアカヒメジ。いつもの白&黄の爽やかな「衣装」から、なんだか暑苦しい赤に変色しているのだ。どうやらクリーニング直後で気持ちがいいのか、あるいはこれからホンソメワケベラに掃除される快感に期待しているのか、どっちかはわからないが興奮の表現らしい。こうした現象は他の魚でもよく見られ、ツバメウオや大型アジの仲間などもホンソメワケベラにクリーニングされて白くなったり色濃くなったりする。
実は赤が本来の色?
というわけで、ふだん白&黄のアカヒメジも赤っぽくなることがある。そもそも、アカヒメジは死ぬと赤く変色してしまうため、漁獲された個体を見た人が「そうか、赤いヒメジなのね」と思って名前が付いたと言われている。
しかし、もしかすると赤いほうが本来のアカヒメジの色なのかもしれない。というのも、昼はボーッとしているアカヒメジも、夜になると行動開始、海底に降りて餌などを探し始める。そのときの体色は白黄ではなく、赤なのだそうだ。
水中写真の練習にオススメ
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サンゴ礁の中層でボーッと浮いている群れといえば、今回の主役であるアカヒメジにヨスジフエダイ、それからノコギリダイだろう。この3種はしばしば混泳していることがあり、写真はノコギリダイの群れにアカヒメジが少し混ざっている。小さな群れだと安心できないのか、たまたま潮や水温の具合がいい場所に寄り集まってしまったのかはわからないが、平和な風景でいいものです。
写真は群れが乱れているが、整然と並んでいる水中写真ビギナーにおすすめ。絵になるし、静かに行動すれば間近に寄れるので撮りやすい。いろんなアングルでチャレンジ!
指であり舌でもある便利なヒゲ
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ヒメジの仲間の大きな特徴は、下アゴに1対のヒゲがあること。もちろんアカヒメジにもこのヒゲはあり、上のクリーニング写真(「白&黄」or「赤」、どっちがホント?)を見れば何尾かがヒゲを伸ばしていることが確認できる。
このヒゲは自由自在に動かせる指であり舌でもある。感覚は鋭敏で、何しろ味蕾まであるのだ。これを使って底生の小動物を探り当てて捕食する。写真はヨメヒメジで、右の個体は砂泥にズッボリとヒゲを差し込み獲物を捜索中。
アカヒメジは昼はなかなか摂餌行動をしてくれないので(よく似たモンツキアカヒメジは昼間も摂餌する)、ぜひ他のヒメジで観察してみよう。結構ハマリます。