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第13回 海のいきもの 似てない親子~性転換&ナワバリ編

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海のいきもの 似てない親子~性転換&ナワバリ編

幼魚から成魚へ成長するにつれ、模様がガラリと変わる魚は珍しくない。
でも一体どうして?
前回のこのコーナーでは枯葉に化けたり、他の生き物の姿をマネて身を守る(または何らかのメリットを得る)幼魚たちを紹介。今回は成長につれて性転換する魚やナワバリを持つ種類の親子のケースを紹介します。

オスとメスでも違います

成長につれて模様や姿が変わる魚たちの中には、成長後のオス・メスで見た目がまったく違う種類がある。目視で雌雄を区別できるので、フィッシュウオッチャーや魚画像コレクターに大人気(魚類図鑑では「幼魚、オス、メス」と最低3枚の写真が必要となる編集泣かせの存在かも?)。
さらに不思議なことに、そんな魚たちの中には性転換するものまでいるというからびっくりだ。

ハナヒゲウツボ

インド-太平洋のサンゴ礁で普通に見られるうえ、昼間でも岩の隙間から顔をのぞかせてるという旺盛なサービス精神とウツボとは思えぬスレンダー&斬新な体色で人気者。しかも、オスからメスへと性転換までするというから面白い。
●写真左:黒いタイプは幼魚(未成熟のオス)で、体はまだ小さい(長さ65cm以下)。
●写真右:ダイバーが最もよく見かけるのが青いタイプ。この青タイプがさらに成長すると体色が黄色に変わり、それとともにオスからメスへと性転換すると言われている。ただ、黄色タイプは数が少ないようだ。実際、青・青で同居したり一緒に行動するケースのほうが青・黄ペアよりはるかによく観察されている。また、ここではオス・メスとしているが、魚類図鑑では「雄相・雌相」と解説されている。確かに青は成熟オスで黄は成熟メスなのだろうが、青い外見であっても中身(生殖腺)はすでにメスというケースがあるのかもしれない。

幼魚

イロブダイ

ベラやブダイの仲間はカラフルな種類が多く、また雌性先熟(メス→オス)の性転換を行なうものがほとんど。未記載種もまだまだ多く繁殖生態もユニークであるため、魚オタクの心をくすぐりまくるグループだ。たくさんの種類を紹介したいのはやまやまだが、今回は特に幼魚が大人気のイロブダイだけです。すいません。
●幼魚:真っ白な体にオレンジフェイスが愛らしい。季節来遊魚として紀伊半島や三宅・八丈などでもおなじみ。
●写真右上:幼魚からメスになると、いったん地味化。
●写真左上:ところがオスになると、今度はド派手に。下の写真2点はいずれもナイト撮影。

ハマクマノミは子供が嫌い?

クマノミの仲間が性転換することは非常によく知られている。ひとつのイソギンチャクの中にいる「ファミリー」の中で、最も大きな個体がメスでナンバー2がオス、そのほかは幼魚(未成熟のオスたち)。メスがいなくなるとオスが性転換して新たなメスとなり、未成熟のオスたちの中で最も大きな個体がオスとして成熟するというシステム。
でも、上で紹介したハナヒゲウツボやイロブダイと違って、クマノミの仲間はオス・メスで模様の差はあまりない。その中でもハマクマノミは比較的雌雄差がはっきりしていて、目視で区別できる。さらに、クマノミの仲間では珍しく、幼魚と成魚で白帯の本数が異なるという大きな違いがある。他のクマノミとの生態的な違いを考えてみると、ハマクマノミではペアと同居する幼魚(未成熟のオス)が少ないという点が挙げられるそうだ。例えばカクレクマノミやハナビラクマノミなどは1つのイソギンチャクにペアとたくさんの幼魚たちという「大家族」も珍しくない。もしかしてハマクマノミは子供がお嫌い?

ハマクマノミの幼魚は白帯が2~3本ある。写真の幼魚は2本しか見えないが、3本ある場合は一見カクレクマノミのように見える。

オスは鮮やかなオレンジ色で、必ずメスより体が小さい。というより、体が大きいほうがメスとして成熟するというシステム。また、メスになると体に黒い部分が増える。

成魚の攻撃を避けるためです

魚の中にはナワバリを持つものが少なくない。コブダイのように1尾のオスが多数のメスを確保してハレムをつくる、ホンソメワケベラのようにクリーニングステーションを確保するなど、ナワバリを持つ理由はいろいろあるらしい。
また、餌場の確保というシンプルな理由には、タテジマキンチャクダイやサザナミヤッコなど大型キンチャクダイの仲間が挙げられる。彼らはカイメンやホヤなど岩にに付着した生物がメインディッシュなのだが、食べたら当然なくなるわけで、再び育つのを待たねばならない。そのため、広い餌場(ナワバリ)を長期間にわたって守る必要があるのだ。
ナワバリを守るということは、同種の個体を見かけたら激しく攻撃するということ。自分と同じ種類の幼魚であっても容赦しない。これは個体にとっては仕方のない行動だが、種全体から見るとマイナスだ。そこで、幼魚は成魚とまったく異なる模様を身にまとい、「私は別の種類ですよ~」とアピール、成魚からの攻撃を避けているのはでないかと考えられている。

幼魚
成魚

タテジマキンチャクダイ

幼魚は季節来遊魚として夏から晩夏にかけて伊豆半島など近場の海でもおなじみ。岩や根の亀裂などでよく見つかり、親と同様にカイメンなどを食べている。成魚はインド-太平洋のサンゴ礁の普通種で、最もよく見かける大型キンチャクダイ。

やっぱり外敵も気になります

同じキンチャクダイ科であっても、形容詞の付かないキンチャクダイという種類の場合は、親子で模様が異なる理由がタテジマキンチャクダイ(上の記事)とは少々違うようだ。というのも、海には捕食者もいるわけだから、同種の成魚の攻撃だけ避けてればいいというわけにもいかないらしい。

マネ

キンチャクダイ

南日本の岩礁に生息している大きさ20cmほどの種類。成魚は普通に見かけるが、幼魚はその気になって探さないと見つからない。というのも、ほとんど真っ黒な姿で、しかも岩穴や亀裂の奥など薄暗がりを好むからだ。派手に見える黄色のヒレや帯は、薄暗がりで見ると妙に目をひくため、逆に魚の姿をイメージさせにくいという効果がある。キンチャクダイの幼魚の場合、この模様は同種の親だけではなく捕食者の目をくらますためでもあるようだ。

マネ
モデル
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