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第23回 「オランウータンクラブ」って何だ?

第23回 「オランウータンクラブ」って何だ?

今やもうダイバーの間ではすっかりお馴染みの人気者、「オランウータンクラブ」。
南日本から沖縄、フィリピンやインドネシアなど西太平洋の暖かい海に広く見られるクモガニの仲間だ。
2016年夏、その正体がちょっとわかったらしいぞ。●構成・文/山本真紀

「手脚」が長くて、「毛」むくじゃら

●撮影地/紀伊半島・田辺

どうです、この姿。全身は赤褐色の「毛」に覆われており、長い「腕」を構えた姿はまさにオランウータンそっくり。素晴らしいネーミングです。さて、「オランウータンクラブ」は小さな甲に長い脚という形態から、クモガニの仲間であることは間違いないらしい。市販されている生態図鑑やガイドブックでも、クモガニ科クモガニ属の一種(Oncinopus sp.)として紹介されていることが多い。そのほか、わかっていることは・・・・・・。
◆大きさ/脚を広げると1~3cm(甲だけでは1cm前後)
◆見られる海/世界ではフィリピンやインドネシアなど西部太平洋の熱帯・亜熱帯で広く観察されている。日本では伊豆半島や紀伊半島を含む南日本、伊豆・小笠原諸島、沖縄などで確認。ミズタマサンゴやヤギ類などの刺胞動物の上でよく見られる。
◆全身の「毛」/長い「毛」は自前のものではなく、個体によっても密度が薄かったり濃かったりする。『エビ・カニガイドブック~伊豆諸島・八丈島の海から』によると「毛」を取り除くと地色は淡い褐色で、甲の輪郭は三角形。
◆名前/「オランウータンクラブ」は愛称・通称・俗称の類であり、本名(標準和名)ではない。

こんな場所が好きらしい

上の個体は岩場を歩いていたようだが、これはどちらかというと珍しい例。たいていの場合、「オランウータンクラブ」は固着性の刺胞動物の上にいる。例えば、こんなカンジ。

赤いイソバナ類の上にいた「オランウータンクラブ」。南日本ではこのようにヤギ類の上で見つかることが多い。この個体は「毛」がフッサフサ。●撮影地/三宅島

ミズタマサンゴの上にいた個体。左の個体に比べると、ちょっとまばらで、「毛」の色も薄い。歩脚の紅白模様が透けて見えている。●撮影地/フィリピン・セブ島

世界各地の「オランウータン」たち

『Marine Diving』カメラマンが各地で撮ってきた「オランウータン」たち。こうして並べてみると、体のプロポーションは個体によってかなり違う。クモガニの仲間は、成長段階や雌雄により甲やハサミ脚の形態等がかなり変わるためだろう。また、「毛」も自前のモノではないので、環境等によって密度や色の濃淡に差が出るらしい。

ナガレハナサンゴの上の2個体。かなり手長で、「毛」は薄めかな。●撮影地/インドネシア・サンガラキ

こちらは「毛」はフサフサだけれど、脚はやや短めという印象。●撮影地/沖縄・石垣島

ミズタマサンゴの上にいる個体。スレンダーな脚がいかにもクモガニの仲間。●撮影地/フィリピン・セブ島

このアングルと「毛」の薄さから、長い眼柄がよくわかる。●撮影地/マレーシア・ボルネオ島

そして、その「正体」とは?

というわけで、いろいろな海の「オランウータンクラブ」を見てきたわけだが、やっぱり気になるのはその正体。ホントはいったい誰なのさ? 
とかボンヤリ考えていたら、今年(2016年)の夏、「“オランウータンクラブ”の正体」という記事が学術雑誌(※)に掲載された(武田正倫・加藤昌一・北山太樹))。八丈島で採集された「オランウータンクラブ」の標本を元にリサーチしたというもの。ダイバー向けにザックリ紹介すると・・・・・・。
◆カニの正体:分類形質(甲の形態やオスの第1腹肢の特徴など)から、インド・西太平洋に広く分布するミナミクモガニ(学名Oncinopus neptunus)と同定。また、「オランウータンクラブ」として採集された標本には、トゲアケウス(学名Achaeus spinosus)も混じっていた。トゲアケウスは一般には海藻やカイメンなどを甲や歩脚に付けているのだが、赤褐色の「毛」を付着させた場合、写真や目視では「オランウータンクラブ」と認識される可能性が高い。
◆「毛」の正体:藍藻類のユレモ目の仲間であり、糸状の海藻ではないことが判明。
※詳しい内容を知りたい方は、『海洋と生物』AQUABIOLOGY 2016年 8月号(225号)を参照ください。

おぉっと、つまり「オランウータンクラブ」は1種類ではなかった! しかも、このリサーチは八丈島限定なので、沖縄やフィリピンなど各地の「オランウータンクラブ」を採集して標本を調べれば、さらに種類は増えるかもしれない。 ということで、「オランウータンクラブ」とは赤茶色の「長毛」に覆われたクモガニの仲間、それも複数種の総称 と捉えるのが妥当。個人的には、複数種ということが判明してむしろ大変スッキリいたしました。

オマケ~これも「オランウータン」?

今回の記事を書くにあたって、マリンフォトライブラリーの「オランウータンクラブ」の画像を探していたところ、こんなカニを発見。藍藻類と思われる赤茶の「毛」に覆われ、一見「オランウータンクラブ」っぽい。けれど、見たところクモガニの仲間ではないようだ。体形からすると、貝殻もカイメンも背負ってないけれどカイカムリの仲間っぽい。もしそうなら、さすがに「オランウーンクラブ」とは呼べないかな。●撮影地/沖縄県・石垣島

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