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【連載コラム】もっと知りたいダイビング医学
第6回 
薬とダイビング(前編)

もっと知りたいダイビング医学

皆さんは、処方薬や酔い止め薬、花粉症の薬などを服用していますか? 服薬中のダイバーは、「この薬を飲みながらダイビングをして大丈夫か」との疑問を持ちます。潜水医学の専門医として、薬とダイビングの考え方や注意すべき点、ダイバーの潜水適性について、2回に分けて説明します。

文責/小島泰史(東京医科歯科大学高気圧治療部、東京海上日動メディカルサービス)

質問票にみる「薬とダイビング」

ダイビング参加時の健康リスク管理を目的として、質問票の記入や診断書の提出を求められた経験のあるダイバーは少なくないでしょう。Recreational Diving Medical Screening System1)*1の質問票にも薬に関連した質問が多く見られます(表1)。

表1 Recreational Diving Medical Screening System質問票1)における薬関連の質問(著者まとめ)

処方薬を服用中(避妊薬、メフロキン以外の抗マラリア薬は除く)
薬物依存症で治療中
心臓の薬を服用中
偏頭痛の予防薬を服用中
てんかん、けいれんの予防薬を服用中
薬を必要とする糖尿病

*1 質問票の内容は潜水指導団体、ダイビングセンターで異なりますが、多くはRecreational Scuba Training Council(RSTC)ガイドライン2)を参考にしています。
2020年、RSTCガイドラインは、Recreational Diving Medical Screening System1)として改訂されました。この改訂は、DANアメリカでMedical Officer経験のあるBird医師が主導し、世界中の潜水医学専門家で構成された委員会(Diver Medical Screen Committee)が、UHMS(米国高気圧潜水医学会)、DANアメリカ、DANヨーロッパ、UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)高気圧治療部の協力を得て、実現したものです。オリジナル言語は英語ですが、現在では26カ国語に翻訳されています。

近年、日本でもダイバーは高齢化しており3)、それに伴い何らかの傷病(病気、ケガ)で服薬中のダイバーも増加していると考えられます。安全にダイビングするにあたり、服薬内容は留意すべき点のひとつといえます。

薬の副作用

副作用の発現は個人差が大きく、副作用が出るかどうか、およびその内容を事前に知ることは不可能です。そのため、どんな薬でも、投与開始直後のダイビングは勧められません。
Bird医師は、新しい薬を使用開始した際には、ダイビング前に少なくとも30日間の服用を勧める、と講演で述べています4)。長期間服用後に出現する副作用もありますが、早期の副作用は1か月程度の内服で、ある程度見極めが可能と思われることがその理由と考えられます。

副作用は各薬の添付文書で確認できますが、ダイビング中に特に問題となる副作用として以下が挙げられます5)(表2)。繰り返しますが、留意すべき点は、副作用の発現は個人差が非常に大きいことです。このため、添付文書にダイビング上で問題のある副作用の記載があるからといって、
✓ その薬を使用中のすべての患者のダイビングを一律に禁止すること
✓ その薬の使用をダイビング時に一切禁止とすること
は過剰な対応と考えます。

表2 ダイビング中に特に問題となる副作用5)

神経 頭痛、めまい、急性精神異常、耳鳴り、震え、協調運動障害、錐体外路症状、知覚異常、末梢神経障害
心血管 頻脈、除脈、不整脈、低血圧(起立性)、胸痛、浮腫
血液 貧血、血栓症、好中球減少、凝固異常
消化器 吐き気、嘔吐、腹部疝痛、胸焼け、下痢、肝機能障害、肝不全
腎臓 腎不全、電解質異常、排尿障害
筋骨格 筋肉痛、関節痛、疲労
皮膚粘膜 痒み、皮疹、血管神経性浮腫、光線過敏症
緑内障、羞明、かすみ目、調整異常

なお、服薬中に実際に副作用が出現した場合、ダイビング以前の問題として、まずは主治医への報告、相談が必要です。副作用に対する治療、投薬内容の変更などが考慮されます。

高圧環境下における薬の作用に関する研究

ダイビング時に血液は皮膚表面から体の中心部に移動します6)。薬の多くは腸管で吸収され、肝臓、腎臓で分解・排泄されるので、理論上、高圧環境下(ダイビング時)に薬の作用が陸上と異なる可能性が考えられます。また、鎮静(眠気)の副作用がある薬は、窒素酔いとの相加効果(注:足し算効果)が問題となります。
そこで、過去に行われた高圧環境下での薬の作用に関する研究について見てみましょう。著者は2014年7)、その後2019年にHoencampらがまとめており8)、興味のある方はそちらもご覧ください。

鼻炎薬

プソイドエフェドリン塩酸塩
鼻炎用内服薬やかぜ薬などの市販薬によく含まれている薬剤です。
Taylor Dらは、チャンバーでの実験結果として、3気圧下で潜水リスクを高める精神上の重大な変化を来さなかったと報告しています9)

酔い止め薬

ジメンヒドリナート
第一世代抗ヒスタミン薬で、市販の酔い止め薬にも用いられます。Taylor Dらはチャンバーでの実験結果から、3気圧下で窒素の影響(不安レベル、語彙記憶に悪影響)と相加しダイビングをリスクにさらす可能性があるとし、ジメンヒドリナートを酔い止め薬として使用する際には、安全域を大きくとったダイビング計画を勧めています9)

クレマスチンフマル酸塩
第一世代抗ヒスタミン薬です。二重盲検クロスオーバー試験により、フマル酸クレスチンは、窒素中毒の鎮静効果、心不整脈のレベルを増加させなかったとの報告があります10)

スコポラミン・パッチ
皮膚に貼るタイプの酔い止め薬です。日本では未販売ですが、海外のクルーズやボート上で勧められることがあります。
Williamsらは、健常ダイバーをスコポラミン・パッチ群とプラセボ群に分け、チャンバー内で1.5ATM、4.8ATMに暴露する実験を行いました11)。その結果、高圧下では両群ともに計算機能の低下は認めませんでしたが、文章の理解力及び巧緻性(手先の器用さ)の低下を認めたが、スコポラミン・パッチによるダイバーのパフォーマンスへの有意な影響が見られなかったことを報告しました。スコポラミン・パッチ群では副作用のかすみ目がより多く報告されました。同研究では、スコポラミンには窒素酔いとの相加作用は無いと結論付けられました。

消炎鎮痛剤(痛み止め)

ロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)
大矢らは海上自衛隊での飽和潜水中にロキソプロフェンを投与する実験を行いました12)。結果は、深度420mで投与後に血中濃度*2を測定したところ、大気圧下(1ATA)時の血中濃度と同様でした。また、深度370mで血漿蛋白結合率を測定しましたが、1ATA時の値と有意差は認めませんでした。以上より、飽和潜水下でもロキソプロフェンは安全に使用可能と結論しました。

*2 血中濃度:血液中の薬の量です。血中濃度がある一定量に達することで薬の効果が表れます。血中濃度が高くなりすぎると、副作用がでることがあります。

アルコール

ダイビング時には車の運転時と同様な注意力と判断力が求められ、飲酒時にダイビングは禁忌と考えます。
アルコールと高圧曝露(窒素酔い)が相乗的に精神能力を障害するとの報告があります5)。さらに、アルコールには利尿作用があり脱水のリスクもあります。
アルコールは様々な社会的問題を引き起こしますが、ダイバーにも無縁ではありません。英国のダイバーへのアンケート調査によれば、18.5%が車の運転には不適と思われるアルコール摂取状態でダイビングした経験があり、22.9%がアルコール摂取と関連していると思われるダイビング事故を目撃したとのことです13)二日酔いも認知機能に影響を与えることが知られています13)二日酔い状態でもダイビングは勧められません

NOAA Diving Manual

鎮静や注意力低下を生じる可能性のある薬(酔い止め薬、鎮静剤等)、アルコール、疲労、不安、冷水等が窒素酔いを悪化させうる旨記載されています6)

経口避妊薬

Boussuges らは、52名の男女を対象に25-35mのダイビング後に超音波検査を行い、女性の気泡量は男性より少ないこと、経口避妊薬の服用と気泡量に相関がないことを示しました14)

以上、代表的な研究を紹介しました。この他にも星の数ほど薬がありますが、高圧環境下(水中)での作用について調べられた薬は限られており、残念ながら、ダイビング時の服薬可否を判断するための医学データ(エビデンス)は、少ないです。

ダイビングにおける服薬について、医師が考慮するポイント

では、個別の薬に関するダイビング時の情報がない中で、医師が服薬に関する質問を受けたときにどのように判断しているのでしょうか?具体的な質問を例に、医師が何に着目しているのか見てみましょう。

◆ポイント①:服薬内容は潜水可否を考えるヒントのひとつにすぎない

薬の副作用や、高圧環境下で薬の作用が異なるか、を考えることは勿論大事ですが、それだけで潜水可否は決まりません。つまり、「ダイビングにおける服薬の問題」は、「副作用や、高圧環境下での薬の作用の問題」とイコールではありません。

◆ポイント②:背後にある傷病と併せて総合的に判断する

内服している薬の種類は大事です。しかし、服薬が必要な傷病が先ずはあり、それによってダイビング実施が難しくなるとの考え方です4)15)

以下の質問で具体的に考えてみましょう。

質  問
関節リウマチで服薬中ですが、ダイビングは可能ですか?
回  答
関節リウマチは、免疫の異常により関節の腫れや痛みを起こし、関節破壊が生じて変形をきたす病気です。主たる治療方法は、生物学的製剤、免疫抑制剤などの薬物治療です。これらの薬では、肝臓障害、胃腸障害など様々な副作用が起こり得ますが、中でもダイビングに大きな問題を及ぼす副作用は間質性肺炎です。正常な肺機能が保たれていることがダイビングには必要です。
また、ダイビング時にちょっとした怪我はつきものですし、海水を誤嚥することもあり、感染に関する一定のリスクをダイビングは内在しています。そのため、免疫抑制作用による感染の重篤化のリスクも問題となります。
では、そのような副作用がなければ、潜ることは問題ないでしょうか。ダイビングには一定の身体能力が必要です。特に、海況不良下でのダイビング、重い器材の運搬/装脱着、バディの事故対応では、高い身体能力が求められます。関節リウマチによる関節破壊が進行している場合、残念ながらダイビングはお勧めできないこともあり得ます。また、関節リウマチに間質性肺炎が合併することもあり、潜水適性に影響します。

図1は前述のBird医師の講演中のスライド4)です。このスライドからもわかるように、同じ身体状況であっても、潜水可否は様々な条件により左右されます。上の質問で関節破壊が強くて潜水適性が無いと評価される場合でも、穏やかな海況でサポートダイバーがいる状況ではダイビングが可能かもしれません。
以上のように、医師による潜水可否の判断は、総合的なものとなります。

図1 Medications and Diving4)より引用、著者翻訳

図1

ここまでのまとめ

冒頭の「この薬を飲みながらダイビングをして大丈夫か」という質問に戻りましょう。薬のリストを示して単純に◯か✕で回答することは、困難と同時にそれだけでは不適切でもあることを理解できたのではないでしょうか。服薬しているダイバーについては、薬の内容を含めた様々な要素を考慮に入れた上で、潜水可否の判断が求められます。

次回は、薬に関連した具体的な傷病と潜水適性について説明します。

参考文献

  •   1. Recreational Diving Medical Screening System
  •   2. Medical Guidelines (RSTC)
  •   3. Buzzacott P ed.: DAN Annual Diving Report 2017 edition. Divers Alert Network. 2017
  •   4. DAN Video Lecture Series - Medications and Diving (Nick Bird, M.D., MMM)
  •   5. Edmonds C, Bennett M, Lippmann J, Mitchell SJ:Diving and Subaquatic Medicine. 5th edition. CRC Press. 2015
  •   6. David A, et al.:NOAA Diving Manual. 5th edition. Best Publishing Company. 2013
  •   7. 小島泰史: ダイビングにおける服薬の問題. 日本高気圧環境・潜水医学会関東地方会誌 2014; 14: 41-47.
  •   8. Hoencamp E, et al.: Systematic review on the effects of medication under hyperbaric conditions: consequences for the diver. Diving Hyperb Med 2019; 49:127-136.
  •   9. Taylor D, et al.:The psychometric and cardiac effects of pseudoephedrine and antihistamines in the hyperbaric environment. SPUMS Journal 2001; 31: 50-57.
  • 10. Sipinen SA, et al.: Neuropsychologic and cardiovascular effects of clemastine fumarate under pressure. Undersea Hyperb Med 1995; 22:401-6.
  • 11. Williams TH, et al.:Effects of transcutaneous scopolamine and depth on diver performance. Undersea Biomed Res 1988;15:89-98.
  • 12. 大矢晶子, 他.:飽和潜水時における薬剤の適正使用に関する研究. 日本臨床高気圧酸素・潜水医学会雑誌2009; 6(抄録): 86.
  • 13. St Leger Dowse M, et al.: Alcohol and UK recreational divers: consumption and attitudes. Diving Hyperb Med 2012; 42: 201-207.
  • 14. Boussuges A,et al.: Gender differences in circulating bubble production after SCUBA diving. Clin Physiol Funct Imaging 2009; 29: 400-405.
  • 15. Taylor S, et al.: Meds taken daily and prior to diving by experienced scuba divers. SPUMS Journal 2002;32: 129-135

小島泰史先生プロフィール

小島 泰史 (コジマ ヤスシ)

小島 泰史
(コジマ ヤスシ)

1997年にダイビングを始め、その後東京医科歯科大高気圧治療部で潜水医学を学び、専門医を取得。現在は同大学の高気圧治療部非常勤講師として、潜水障害患者の診療を行っている。専門である整形外科の知識を活かし、損害保険会社の顧問医として、医療事故などに関する医療コンサルを行っており、リスクに関する造詣も深い。元DAN Japan Medical Officer。現在、日本高気圧環境・潜水医学会において理事、広報委員会委員長、国際情報委員会委員長を務めている。UHMS、SPUMS、日本渡航医学会他、多数の学会に所属。
日本整形外科学会認定整形外科専門医。日本手外科学会認定手外科専門医。日本医師会認定産業医。日本高気圧環境・潜水医学会認定高気圧医学専門医。