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- 高砂淳二さん、世界的写真賞受賞 記念インタビュー[前編]
ニュース2022.11.15
「Heavenly Flamingos」で世界的写真賞を受賞!
自然写真家・高砂淳二さんインタビュー[前編]
マリンダイビングフェア 2023 ナビゲーターでもある高砂淳二さんが、自然写真の世界最高峰「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の自然芸術部門で最優秀賞を受賞!授賞式の様子や撮影のエピソードなど、2回にわたってお届けします。
授賞式でスピーチをする高砂淳二さん。式典では、受賞者一人ひとりが壇上のスピーチに立つ。
博物館ホールで開催された授賞式は6時間!
編集部(以下、編):まずは受賞、おめでとうございます。コロナ禍でここ数年、授賞式はオンラインでしたから、久しぶりの式典は盛り上がったのではないでしょうか。会場はどんな様子でしたか?
高砂淳二さん(以下、高砂):そうですね、盛大な式典でした。会場はロンドン自然史博物館のホールだったんですが、上に 30m のシロナガスクジラの骨が展示されて、周りには世界の珍しい生物の標本が並んでいて、おもしろかったですよ。受賞作品をゆっくり時間をかけて説明しながら発表し、一人ひとりがスピーチをしてという進行で、延々6 時間やっていました。
編:なんと6時間ですか?
高砂:夜 8 時頃から深夜1時まで(笑)。でも皆さん、とても盛り上がって。にぎやかに話していたかと思うと、檀上の話に静かに聞き入って、集中力を保ったままの 6 時間でした。
編:皆さん、秀作をどんな状況でどうやって撮影したのか、興味がありますよね。
高砂:発表は受賞作品と、入賞の一歩手前の「Highly Recomended」の作品も合わせて全部で 100 点だったかな。その 100 点を展示する写真展が世界中を回っていくそうです。
編:今回、最優秀賞に選ばれた「Natural Artistry」(自然芸術部門)は、どういう趣旨の部門なのでしょう?
高砂:今、環境問題がいろいろ上がってきていますが、自然本来の魅力を伝えたい、地球に対する思いをもっと高めてもらいたいという意向でできた部門だそうです。
編:なるほど。ネイチャーフォトというと、どうしても生き物が悲惨な目に遭っている場面や環境問題を訴える作品が多い印象がありますが、受賞された「Heavenly Flamingos」は、100人見たら100人全員が魅了される、本当に神々しいまでに美しい作品ですから。
高砂:ありがとうございます。お陰様で受賞作品が世界中、いろいろな所(SNSやメディア)に出ていますが、あの写真には特に「いいね」がたくさん付いているようです(笑)。でも博物館主催のフォトコンテストですから、今回のグランドタイトル作品(※1)のように生態的な瞬間を捉えたものは、やはり重要視される部分は、もしかしたらあるのかもしれません。
※1 「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー2022」成人部門のグランドプライズは、アメリカのカリーヌ・アイグナーさんが受賞。受賞作品は暑い砂の上、たくさんのハチ(カクタスビー)のオスが一匹のメスを獲得しようと争い、ボールのように塊になった迫力の作品「The big buzz」。
「Heavenly Flamingos」高砂淳二/Wildlife Photographer of the Year 58「自然芸術部門」最優秀賞受賞作品
3700mの高地で、頭痛と闘かった撮影
編:「ヘブンリ―フラミンゴ」は、生物や生態に詳しくなくても、誰もが引き込まれる作品です。ところで撮影地のボリビアにあるウユニ塩湖には、10 年通われたとか?
高砂:10 年で6回、撮影に行きました。
編:こういうフラミンゴを撮りたい、狙いたいと思って通っていたんですか?
高砂:いえ、特にこれをという思い込みはなくて。ウユニ塩湖はもともと、水面に空が映り込んで、とんでもなく美しい世界が広がっている、「天空の鏡」と言われる場所なので、それを期待して行きました。ただ6回も行っていると、時々こういうフラミングがいるのを見かけることはありました。遠くに見えても、いつのまにか飛んで行ってしまっていましたね。
編:まるで舞台監督が指示しているかのようにフラミンゴたちが見事に並んでいます。
高砂:この時は、はじめ並んでいるフラミンゴを一緒にいる友人が見つけました。絶対に逃さないように静かに近づいて行こうと、車を500mくらい離れた所に停めて、ゆっくりゆっくり近付いていったんです。じわじわとしゃがんで、寄っていって、少し中腰になって歩いていって、フラミンゴがちょっと動いたら、すぐしゃがんで静かに待って、フラミンゴたちが落ち着いたらまた中腰になって寄っていって、という繰り返しでした。
編:撮影にはどれくらい時間をかけたんでしょうか?
高砂:2時間くらいだったかなぁ。なにしろ高度 3700mなんで、しゃがんだり立ったりしているとだんだん頭が痛くなってきて、もう立つたびにめまいというか、立ち眩みがしていました。この時はもう“ハーモニー”が完璧で、静かな湖に空が反射して、雲もいい具合に出てきて、フラミンゴたちも落ち着いていて……。そのハーモニーを壊したくない、その一心で撮影していました。
編:シャッターを押しているときのお気持ちってどんな感じだったんですか?
高砂:興奮もしていたし、緊張もしたし、頭も痛いし(笑)。だけど、撮影中はとにかく集中しているので、あまりいろいろなことは考えず、無心でした。僕はいつも被写体がその時、どんなふうに思っているかを観察するのに集中するようにしています。今、どういう気持ちでいるんだろう、逃げたいんだろうか、あるいはこちらに興味を持ってくれているだろうか、というのを常に探っている。生き物相手の撮影は、相手の気持ちを分かろうとすることで、気持ちがだんだんつながってくるんです。自然ともつながるし、フラミンゴともなんとなく一つになる感じがする。
編:絶対撮るぞっていう気迫があってはダメなんですね。
高砂:そうですね。特にフラミングはここに住んでいるわけでなく、餌場へ飛んで行く時に途中で羽を休めるような場所なので、いつどこにいるかは分からないですから。生き物は、やはり察する気持ちでいるとだんだん分かってくるし、その生き物との一体感ができてくるんではないでしょうか。もちろんリスペクトする気持ちが前提にありますよね。
編:撮影は結局、このフラミングたちが飛び立って終了したんですか?
高砂:いや、もうそろそろ引き上げようということで終了しました。そのまま見とれているうちに飛び発っていきました。
編:「Heavenly Flamingos」が表紙になった写真集『PLANET OF WATER』が大評判ですね。
高砂:自然界というのは“ハーモニー(調和)”で成り立っています。例えば、土の中には微生物が無数にいて分解を繰り返し、また地中にはキノコの菌糸帯が張り巡らされていて木々が情報をやり取りし合っている。植物は光合成して酸素を出し、それを動物が取り込んで生きている。ミツバチやほかの虫たち花の蜜を吸うことで受粉したり、孵った幼虫が好みそうな葉っぱに親蝶が卵を産んでいったり…。……生物は限りない関係性で成り立っていて、自然界はすべて調和がとれている。僕ら人間が入ることでそれが崩れてしまってはいけない。崩さないようにすれば、たぶん調和は守られると思うんです。
例えば東京なんかは、それがあまり守られていなくて、傾いてしまっている。でも一方で、こういう(写真集にあるような)所に行けば、人って「あぁ、自然はこういう姿で、調和が保たれているんだな」と思ったり、感動する。こういう世界はなかなか近くにはないし、ビジュアル的な力も必要かもしれないから、写真でそれに気付いてもらうのは大事なことではないかと思うんです。
※高砂淳二さんインタビューは後編に続きます。お楽しみに!
インタビュー後編はこちら ≫
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