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- 高砂淳二さん、世界的写真賞受賞 記念インタビュー[後編]
ニュース2022.11.21
「Heavenly Flamingos」で世界的写真賞を受賞!
自然写真家・高砂淳二さんインタビュー[後編]
マリンダイビングフェア 2023 ナビゲーターでもある高砂淳二さんが、自然写真の世界最高峰「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の自然芸術部門で最優秀賞を受賞!前編に引き続き、後編では被写体との出会いをお送りします。
自然写真家、博物学者でテレビプレゼンテーターでもあるクリス・パッカム氏との2ショット。
自然写真の最高峰であるフォトコンに、初応募で最優秀賞
編集部(以下、編):水中写真家として活躍されていた時代から、撮影のフィールドが広がっていますが、撮りたい対象は、ご自身の中でどう変化していったのでしょうか?
高砂淳二さん(以下、高砂):不思議なものなんですが、その時々に興味があるものや目の前に現れた、何か縁があるもので、ひとりでに変わっていきました。水中からふと陸に上がったとき、いろんな生き物がいて、植物もあって、いったいどうなっているんだろうと興味が沸いていったんです。もともと生き物というより、水にいるときの気持ちいい感覚が好きで水中の世界に入ったわけで。海でもいろいろな生き物に出会っておもしろいな~と撮るようになった。
陸でも同じようにおもしろいな~って撮っていくうちに、その中でも人間は特におもしろい生き物かもしれないと思うようになりました(笑)。そんなふうに思っていた頃、ハワイに行ったら、あちらのシャーマンみたいな人に出会って、自然のカラクリみたいなことや夜の虹の話を教えてもらったんです。「へ~そういうのがあるんだ」と思っていたら3日後にナイトレインボーがバーンと現れた(笑)。
高砂淳二撮影「夜の虹」。写真集『night rainbow』より
編:そしてあの写真集『Night Rainbow』が生まれたわけですね。
高砂:ええ。夜の虹にはまって撮るようになって、そこから先住民の話に夢中になり、ハワイアンやネイティブアメリカンを取材して回るようになりました。さらにいろんな虹を探して回るようになり、虹を探すうちに気が付いたら空ばっかり見るようになっていた(笑)
編:そしてウユニ塩湖。まるで何かに導かれるように被写体が現れるわけですね(笑)。
高砂:そう。まるで回転寿司みたいに「はい、次はこれだよ」って撮りたいものが目の前に回ってくる(笑)。
編:夜の虹も幻想的で素敵でしたが「Heavenly Flamingos」はいつまでも眺めていたくなります。受賞作品の写真展が世界を回っていますが、来場者からはどんなコメントが入っていますか?
高砂:やっぱり、こんな素晴らしい世界は見たことがないとか、一目ぼれしちゃったとか、大きなパネルが欲しいんだけどといったコメントですね。
編:自然そのものがアートになったこの作品は、このカテゴリーにぴったりですから。ところで、受賞の通知はいつ頃、どんなふうに受け取ったんですか? 受賞を知ったときのお気持ちは?
高砂:通知は(発表の)少し前に内密にくるんです。コンテストにはたくさんの方が関わっていて、航空券の担当、展示の担当、本やいろいろな出版物を作る担当の方もいて、受賞は通知担当の方がメールで知らせてくれました。その時は「いやぁ、ホントに取れちゃったよ~」って感じですかね(笑)。
編:ちなみにこのコンテストには以前から応募されていたんですか?
高砂:いえ、今回が初めての応募でしたから驚きました。娘がドイツに住んでいるんですが、日本に帰ってきたときに「お父さん、こういうのがあるんだけど出してみたら?」って言ってくれたのがきっかけで。僕も『ナショナルジオグラフィック』は好きで読んでいたし、コンテストがあるのも知っていました。『ナショナルジオグラフィック』で活躍している方々の多くも応募して受賞されていますからね。でも自分が応募するとは考えたこともなかった。娘に言われて、「まぁ、そうだな。もう 60 歳にもなったし、一回くらい出してみるか」って気持ちで応募したんです。
編:初応募で最優秀賞。他の部門にも応募されていたんですか?
高砂:いくつかの部門に応募して、最終選考まで残ったものもけっこうあって。あれ? こんなにイケるんじゃないかって気を良くしたりして(笑)。当初から部門については適所というか、その作品に合った部門に変更する可能性はあるとは聞いていたんです。応募が1部門に偏って、いい作品があるのに出せなくなったりするのは困るので、主催者側が作品に合った部門にきちんと振り分けをしてくれるんですよね。
編:ご自身でもこの作品がいいところまでいく予感はありましたか? ちなみに応募作品の中に水中写真は?
高砂:そうですね。そんな感じはしていましたね。水中写真も応募して、最終選考まで残っていました。
編:初めての応募でこれだけの快挙となると、主催者側も喜んだのではないでしょうか?
高砂:ええ、授賞式で審査委員長にお会いした時に「あぁ、フラミンゴの方ですね。よく出してくださいました」とお礼を言われてうれしかったです。そういえば授賞式ではトニー・ウーさんにも会いましたよ。
編:トニー・ウーさんも今回、水中部門で受賞されていますよね。
高砂:はい。彼も迫力のある作品を世界に向けて発信されていますよね。
撮りたいものが次々回ってくる、まるで回転寿司!?
編:これから撮りたいものはなんですか?
高砂:相変わらず地球を相手にと思っているんですが、ちょっと視点を変えてみたいな~と。海の中から空までなんでしょうが、少し違う見方ができなかなぁと今、模索しているところです。
編:回転寿司が回ってくるのを待っているんですね(笑)。それにしても撮影のチャンスといい、シャーマンやナイトレインボーの話といい、何か時別に(運を)持っていらっしゃるのではありませんか?
高砂:そうですね。まぁ、でもたぶんそれは、頭であまりいろいろ考え過ぎないで回転寿司の皿が回って来るのを待っていることかな(笑)。写真家だったらみんな好きなものとか撮りたいものは必ずあると思うんですが、それに素直に従ってやっていくのがいいんじゃないかなぁ。それは他の職業でもいえることですよね。ただすぐに投げ出して次をあたるっていうんじゃなくて、まずは自分の気持ちを大切に、とことんやってみる、突き詰めてみるのが大事なんではないかと思うんです。自分の気持ちや、その時々の縁を注意深く見ることも大事なのかな~。
編:ある意味、あまり貪欲になり過ぎないほうがいいのでしょうか。
高砂:そうですね。僕がシャーマンに会うことになったのも、たまたま娘の幼稚園のときの友達が、叔母さん家族がハワイに住んでいるので遊びに行くけどから一緒に行かないかと誘われて、うちも家族で行くことになって。まぁ、これも何かの縁かなぁと。マウイ島だったんですが、そのご家族の家にふらっとやってきたハワイアンがいて、その人が「この家に病人がいるだろう。オレが診てあげる」って言ったという話から、「高砂さんが絶対好きそうだから紹介する」と言われ、そのシャーマンに会って、ナイトレインボーの話を聞いたんです。何がどこに転がっているか分からないんですよ、ホントに。
編:まさに縁ですね。なるほど、すべてはつながっていると。
高砂:そう。水中カメラマンを目指していたはずなのに、今はこういうことをやっているんですから(笑)。でも水中写真と並行して、大学生の頃から武道や気功が好きで、目に見えない力や意識、スピリチュアルなことが仕事とは関係なく好きだったんです。それとハワイやシャーマンがリンクしていった。これはおもしろいとその人の所に弟子入りしていろいろ習ったんです。「アロハ」とか「ホオポノポノ」とか、ハワイの人は周りの生き物や人、地球との付き合い方の知恵というのを大事にしています。身の周りや出会うものとの関係性は全て自分で構築するもの、自分を反映しているものだと学んだんです。
編:なんとなく仏教というか、禅の世界にも通じるように思います。
高砂:確かに禅に通じるところはありますね。自然や環境問題にしても、ただゴミはこういうふうにしよう、二酸化炭素を出さないようにしようっていう具体的な方法はもちろん大事ですが、それと並行して、自分は地球と、生き物とどういうふうに接していくのかも大事ですよね。自然を常にリスペクトして接していれば、自ずと壊さないようになる。壊さないために自分はこうしようと具体的な方策が出てくる。
編:そういう自然のカラクリや知識が撮影にも役立っている。その上で、今回の受賞をご自身ではどう捉えていらっしゃいますか?
高砂:私も 60 歳になって自然の変化をいろいろ見てきて、何かやらなくてはとは思っていました。若い頃はただ海がキレイだ、ダイビングはおもしろいって仕事していましたが、ある時からサンゴは白化するは、海にプラスチックが増えるはで、自然の変化が見えるようになって。それをどうにか伝えなくてはいけない、どう伝えればいいのか考えていたんです。学者だったらプラスチックはこう処理したらいい、生活はこう見直しなさいと言えるでしょうが、僕の場合は、自然に対する気持ちの持ち方を写真で表現できないかと思ったんです。環境にしても生き物にしても、それを敬う気持ちが大事。例えば食べるときは、生き物に感謝して残さずいただく、という日本古来の精神を思い出してもらえればいい。そういう自然や生き物、地球との接し方のようなものを、これからは海外に向けても発信していけたらいいなと思っています。
編:最後にマリンダイビングWebユーザーにメッセージをお願いします。
高砂:ウェブを見る方はたぶん、僕より若い方が多いのだと思いますが、ダイビングが好きとか、ダイビングを始めたいと思っている方は、やはり何がしかの縁があるのだと思います。ダイビングして何かに没頭するうち、不思議な出会いや自分が夢中になれるものもきっと出てくるはずです。ダイバーやこれからダイビングを始めようかという方も、どんどん海を潜って楽しんで、ここぞと思うことを突き詰めていってみることをお勧めします。
※高砂淳二さんへのインタビューでした。ありがとうございました!
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