海のいきもの
第31回 アオリイカの産卵シーズン
初夏から夏にかけて、最もエキサイティングなイベントのひとつアオリイカの産卵。
水温など海況にも左右されるが、すでに「アオリが来た!」との情報が各地から聞こえてきたぞ。
アオリ未体験の方は、今年こそチャレンジだ! ●構成・文/山本真紀(2017年5月制作)
今さら聞けないアオリイカ?
スルメイカやヤリイカ、ケンサキイカにホタルイカ、コウイカ・・・「食」的な意味で、日本人のイカ好きは世界でもトップクラス。それだけ身近な存在のうえ、姿もきれいで動作も面白いため、ダイビングでもイカは人気者。その中でも今回は特にアオリイカをクローズアップ。まずは、アオリイカの基本情報を紹介。●撮影/西伊豆・富戸
◆初夏がシーズン:南日本では繁殖期(※)になると沿岸に寄ってくるため、ダイビングでも見かけるようになる。産卵床(間伐材などを人為的に沈めたもの)を設置するエリアでは、かなりの高確率で見られる。
(※)エリアや、その年の水温などによって前後する。だいたい4~8月。沖縄では10~12月を除く周年。
◆分布とサイズ:北海道南部以南からインド-太平洋ほぼ全域。大きさ20~50cm。
◆見分け方:胴体にあるヒレ(耳)が長くヒラヒラしていることで、他のイカと区別するのは簡単。
◆名前いろいろ:標準和名アオリイカの「あおり」は、乗馬のとき鞍の下に敷く円形の敷物「泥障(あおり)」に由来するらしい。そのほか別名は下記の如くいろいろあり。
・「みずいか」水に溶け込みそうな透明ボディだから。興奮・警戒したときなどは様々な模様・体色に変わる。
・「ばしょういか」大きなヒレ(耳)を広げた姿が、芭蕉の葉に似ていることから。
・「もいか」ホンダワラなどが繁茂する藻場で産卵することが多いから。
・そのほか、「あきいか」「くついか」「あかいか」「しろいか」「くあいか」などたくさんあり。
◆オタク向き知識:日本で見られるアオリイカは、少なくても3タイプに分けられるという。発見のきっかけは、沖縄の漁師さんが、漁獲したアオリイカを「赤いか」「白いか」「くぁいか」と呼び分けていたこと。調査の結果、それぞれサイズや産卵生態が異なることが判明。藻場などの沿岸浅場で産卵するのは「白いか」(卵嚢内に5卵前後)、深場に長い卵嚢を産むのが「赤いか」(卵嚢内に卵は6~13個)。「くぁいか」は15cm程度と小さく、沖縄・奄美地方で見られ、リーフ内のガレキサンゴの裏側などに、2つの卵が入った卵嚢を産む。
メスとオス、どこで見分ける?
点々がメス
写真は産卵中のメス。胴体の背中側に見える白い点々がメスの特徴。産卵時は赤っぽくなるので見分けやすい。白いソーセージのようなものは卵嚢。●撮影/八丈島
こちらはオス
胴体に細い筆を使って描いたような白く短いラインが見える。これがオスの特徴で、興奮したときなどは地色が濃くなるのでよく目立つ。●撮影/八丈島
自然界での産卵場所はどこ?
繁殖期になると、沖合から浅い沿岸にやってきて、海藻や海藻が付着した岩に産卵するのが一般的。写真のようにヤギに産み付けることもある。●撮影/西伊豆・田子
やや深場の砂地にある岩礁に産み付けられた卵嚢。白っぽいのは産卵直後、茶色っぽいのは産卵後しばらく経過したものと思われる。●撮影/八丈島
晩夏から冬、アオリイカはどこに?
アオリイカの成体は、産卵シーズンである初夏から夏にかけて産卵床で見られるほかは、ダイビングでは滅多に見かけない。なぜだろう? その理由はアオリイカの生活史をみるとわかる。
●夏~初夏:アオリイカの繁殖期。各地で産卵が行なわれる。その後、親は寿命を迎える。
●初夏~秋:卵から小さなベビーが産まれてくる。大きさ1cm弱で、水面直下を目指し浮上。その後、小さなエビや仔魚などを食べながら急速に成長(12月頃には8~20cmになるという)、小さな群れをつくる。
●冬~春:沖合に移動し、さらに成長。やがて生殖腺も成熟してくると、沿岸に寄り始める。
獲物を捕まえてご満悦の若いアオリイカ。晩夏から秋にかけてはまだ沿岸にいるため、ダイバーの目につくことも多い。●撮影/西伊豆・大瀬崎
晩夏から秋にかけては、若いアオリイカの群れをよく見かける。水面直下にいることが多いため、スクーバダイバーは見逃すこともあるかも。●撮影/奄美大島
おまけ~イカの落とし物
2015年9月初旬、スノーケリングで遊んでいたら、水面直下に7~8cmほどの若いアオリイカの群れを発見。追いかけたところ、ピュッと墨を吐き出した。墨は海中に広がることなく、塊となったままその場にしばらく浮遊(写真)。それに気を取られている間にイカは遠くへ移動していた。タコ墨は煙幕だが、イカ墨はデコイであることがよくわかる。●撮影/伊豆大島