海のいきもの
第35回 まぎらわしい名前~「仲間じゃないよ」編
海に潜って何が楽しいって、いろんな魚や生き物をすぐそこに見られること。
美しい模様やユニークな姿と出会えば、「あなたのお名前、なんてーの?」と知りたくなるもの。
でも、中にはややこしい名前も混じってる。例えば・・・・。●構成・文/山本真紀(2017年9月制作)
サメじゃないけど「サメ」
サメといえばメジロザメ系のかっこいい種類が人気だけれど、メガマウスザメやウバザメのようにプランクトン食のずんぐり巨体系もいれば、海底で貝類を食べているネコザメのようなユニーク系もいるし、体の平べったいカスザメやオオセのような種類もある。というわけで、サメは姿も生態も千差万別。そのうえ、サメじゃないのに「サメ」なんて名前を付けたら混乱するじゃないですか。勘弁してくださいよ。
コバンザメ
ジンベエザメ(写真①)やマンタ、ハタやウミガメなど大きな生き物にくっついて泳ぐコバンザメは、スズキ目コバンザメ科に属する硬骨魚類だ。軟骨魚類であるサメとは、類縁関係がかなり離れている。では、なぜ「サメ」と付いたかと言えば、全体にスレンダーなボディがサメと似ていたかららしい。また、「コバン」は頭部の吸盤(写真②)が江戸時代の貨幣、小判を連想させるため。●撮影/①はアンダマン海、②はタヒチ
サカタザメ
平べったい姿から予想されるように、サカタザメはエイの仲間。エイはサメと同じ軟骨魚類だから、コバンザメ(硬骨魚類)ほど離れてはいないけれど、まぎらわしいので「サカタエイ」と名付けてほしかった。なお、エイとサメの相違は䚡孔の位置で、エイは腹側でサメは体側に開口する。また、胸ビレが頭部や胴部と癒合して円盤状となり、目の後ろの噴水孔が発達して目立つといった特徴がある。●撮影/伊豆半島・富戸
どうしてそうなった!?~それぞれの事情
魚や海洋生物の名前は「姿や習性から連想される言葉+所属するグループ名」となっていることが多い。例えば、「ヨスジフエダイ」は「4本のスジ(縞)がある」+「フエダイの仲間」だ。これならわかりやすい。ところが、いろんな理由から「所属するグループ名」が違うことがある。あるいは、誤解ということも。
ウミヘビの仲間
ウミヘビといえば、爬虫類を連想する。「コブラに匹敵する猛毒!」と言われるエラブウミヘビなどが有名すぎるせいだが、実は魚類の分類にもウナギ目ウミヘビ科がある。例えばゴイシウミヘビやホタテウミヘビ、ホオジロゴマウミヘビなどは魚だ。中でもまぎらわしいのがシマウミヘビ(写真)。縞模様まで爬虫類のウミヘビと同じじゃん! まぁ、魚類のウミヘビは吻端に管状の鼻孔があるので、顔をアップで見れば見分けはつきます。●撮影/インドネシア・レンベ
ハナゴンベ
ハナゴンベはハタ科ハナダイ亜科に分類される、れっきとしたハナダイの仲間なのだが、なぜか「ゴンベ」と付いている。一般にハナダイの仲間は比較的スマートで、中層に出て活発に泳ぎ回るという印象があるけれど、ハナゴンベは丸っこく、海底や岩壁からあまり離れない。そんなところから「なんかゴンベに似てるな」ってことで名付けられてしまったのかもしれない。なお、ゴンベ科の仲間については「魚の権兵衛さんたち」を参照ください。●撮影/沖縄・西表島
ヒメツバメウオ
この魚について事前知識がなく、この写真だけ見て図鑑を調べたなら真っ先にツバメウオの仲間(マンジュウダイ科)のページを探してしまうだろう。でも、そこにはない。ヒメツバメウオ科に属するため、全然別のページに掲載されているはず(小さな図鑑には未掲載かも)。とはいえ、この魚のサイズは10cm前後と小さく、生息環境も汽水や内湾。実際にフィールドで目にしたならば、ツバメウオの仲間とはかなり違う印象を受ける。●撮影/オーストラリア・モートン島
ハダカゾウクラゲ
クラゲは本来、刺胞動物と有櫛動物に属している生き物に付けられるべき名前。前者はミズクラゲやエチゼンクラゲ、危険な生物として有名なカツオノエボシやハブクラゲ、アンドンクラゲ等々、後者にはウリクラゲやオビクラゲ(いずれも無毒)などがいる。そこで、この写真の生き物なのだが、これは軟体動物の腹足類に所属。まったく違う系統の生き物だ。浮遊性の半透明の生き物なので「クラゲ」と付けてしまったのだろうが、ややこしいったら。●撮影/伊豆海洋公園
動物とか鳥とか・・・・
魚や海洋生物の枠を破って、陸や空に進出したややこしい名前もあったり。一般の人が「ヤギの仲間」と聞けば「ヴェ~」と鳴く動物を、ウミシダといえば植物と思うだろう。あぁ、まぎらわしい。
ウミウサギの仲間
写真はウミウサギガイ科に属する巻貝の仲間。ウミウサギと呼ばれることも多い。種類によって外套膜の模様はいろいろで、これで貝殻を覆っている(触れると縮めてしまうので注意)。なぜ「ウサギ」かといえば、貝殻の色や形がウサギを連想させるから。特にウミウサギガイという種類は真っ白で丸くて、まさに白兎。●撮影/インドネシア・ロンボク島
ウミネコ
子供の頃はウミネコというネコ科の動物がいると思っていた。「きっと海辺で魚を狩るんだ!(それを見たいぞ)」と。ある日、それまでカモメと思っていた鳥の名がウミネコと知って驚くわけだが、鳴き声が似てるからって鳥に哺乳類の名前を付けなくても・・・・。なお、ウミネコとカモメは、クチバシ先端の赤&黒の斑紋の有無で見分けられる。●撮影/相模湾・葉山
バックナンバー
- 第34回 夏といえばスプラッシュ!~イルカ~
- 第33回 超大物アイドル登場~マンタ~
- 第32回 アシカと、その仲間たち
- 第31回 アオリイカの産卵シーズン
- 第30回 ご近所のハナダイさん
- 第29回 魚の権兵衛さんたち
- 第28回 鬼にまつわる魚たち
- 第27回 真冬のアイドル、ダンゴウオ
- 第26回 クリスマスカラーの魚たち
- 第25回 ニッポンの冬、チャガラ&キヌバリの季節
- 第24回 こんなところに「ニセ目玉」
- 第23回 「オランウータンクラブ」って何だ?
- 第22回 ニシキウミウシの色彩変異
- 第21回 ドリーとその仲間たち
- 第20回 2・3・4のリュウキュウスズメダイ
- 第19回 イバラカンザシ~美形モデルの正体