第17回 寄り添う者たち
Photo by Masaaki Harada
同じ種類の魚同士が一緒にいるのはよくあること。
でも、ときどき海の中では違う種類同士が寄り添っていて、
「え、なんてコイツら一緒に行動しているの?」なんてこともある。
今回はそんな連中を集めてみました。
主役は誰だ?
Photo by Hajime Ishikawa
Photo by Hajime Ishikawa
●写真上/ニューカレドニアで出会った大物、ヤイトハタ。もちろん、ダイバーの目はその巨体に釘付けなわけで、ハタの上のほうでチラチラ泳いでいる黄色に黒いストライプの小魚なんて眼中にはない模様。でも、魚オタクにはそっちのほうが気になるもので、その正体はコガネシマアジの幼魚。小さいときは、こうして大きな魚に寄り添う習性があるため、英語圏ではパイロットフィッシュ(水先案内の魚)と呼ばれる。また、同様の習性を持つ魚にブリモドキ(アジ科)がいる。黒白のストライプで、外洋性のためダイバーが見ることはほとんどない。そんなわけで、写真がなくてすいません。
●写真左/コガネシマアジの成長したお姿。黄金色はすっかり抜けてしまったが、50~60㌢にもなる大物だ。
寄らば大樹の陰
Photo by Nobuo Kitagawa
こちらはクラゲに寄り添う習性が知られているイボダイの幼魚(そのため“クラゲウオ”と呼ぶ地方もある)。クラゲといえばその触手には刺胞毒があるが、イボダイはなぜか平気。写真では傘部分にいるが、危険を感じると傘の下に潜り込んでしまうことも。こうして捕食者から逃れつつ、流れてくるオキアミやサルパなど浮遊生物を食べて育つ。なお、イボダイの成魚は深場に生息するためダイバーが出会うチャンスはまずない。「タイ」と付いているがマダイとは別のグループ。成長すると20~30cm。
Photo by Nobuo Kitagawa
ハリセンボンに寄り添っているのはカイワリの幼魚(これまたアジの仲間)。小さな群れをつくることもあるが、群れからはぐれて単独になってしまうと、こうして他の魚に寄り添う習性がある。内湾の浅瀬にも姿を見せるので、伊豆半島の大瀬崎や富戸などでもしばしば見かける。
Photo by Tamotsu Ogawa
シロワニに集団で寄り添っているのはシマアジ。一歩間違えると食われてしまうのではないかと心配になるが、死角である背中に回り込んでいれば安心だし、そもそもシロワニは夜行性なので大丈夫らしい。なお、シマアジは言わずと知れた高級魚。刺身はもちろん、塩焼きや照り焼きなどが美味。
おとなになっても寄り添ってます
© MARINE ART CENTER
今まで見てきた「寄り添う者たち」はほとんどが幼魚や若魚。おそらく大きな者に付き従うことで身を守っているのだろう。また、上記でもアジ科の魚がほとんどだったが、やはりアジ科のブリの幼魚(モジャコ)は流れ藻に寄り添って生活ことが知られている。アジ科の魚は寂しがり屋なのかも。
●写真左/ガラパゴス諸島で見かけたヒレナガカンパチたちは、いいおとなになっているというのにマダラトビエイに寄り添っていた。カンパチは好奇心が強い魚として知られているが、ときどきダイバーにもまとわりついてくることがある。いったい何が目的なのか。もしかすると、マダラトビエイやダイバーに驚いて飛び出す小魚を狙っているのかも?
ヘラヤガラの捕食作戦!
Photo by Akira Tateishi
ヘラヤガラ(右側の黄色の魚)もしばしば他の魚に寄り添って泳ぐことが知られている。他の魚を隠れ蓑として獲物に近づき、気づかれないうちに長い吻で吸い込むように捕食するという作戦。ただ、写真のように自分より小さな魚に寄り添っていることも多く、隠れ蓑にするならもっと大きな魚に寄り添えばいいのにと思わないでもない(余計なお世話)。
また、ヘラヤガラはヤギや枝状サンゴなどに逆立ち状態で寄り添い、近寄ってくる獲物を待ち伏せるという習性もある。
なお、ヘラヤガラの体色はバリエーションが豊富で、黒や茶などの個体もいるほか、背景に合わせて横帯を出したり明暗を変化させるなど擬態術にも優れている。
オマケと次回予告
© MARINE ART CENTER
写真はマンタが集うクリーニングステーションで撮影されたもの。マンタの腹部にまとわりつく魚はミゾレチョウチョウウオ(①)で、ホンソメワケベラと同様にクリーニングの習性(他の魚の体表に付いた寄生虫などを食べること)がある。この場所限定ではあるが、こうしたクリーナーも「寄り添う者たち」と言えるだろう。
なお、下半身しか写っていない魚(②)、これこそ「寄り添う者たち」のトップバッターとして紹介すべき寄り添いまくるヤツだったのだが、これはまた次回で紹介します。