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テツ先生の新・海のいきもの
連載第9回 アオリイカ
急かしてはイケません アオリはイカぁ〜ん

新・海のいきもの

ダイビングインストラクターで東海大学海洋生物学科准教授のテツ先生が観察の楽しさを紹介する生き物連載。第9回は春から夏の海で産卵シーンが見られるアオリイカ。体色の変化や産卵期の行動、卵塊までじっくり観察してみましょう。

※2026年5月の情報です

英名や地方による呼称もさまざま

アオリイカ 英名:Bigfin(reef)squid 撮影地:三保真崎 水深:12m 胴長40cm

アオリイカ 英名:Bigfin(reef)squid 撮影地:三保真崎 水深:12m 胴長40cm
Photo by Takashi Tetsu

今回選んだアオリイカの英名のreefに( )をつけた理由は、私たち本州寄りのダイバーが知っているアオリイカの大半が、reefつまりサンゴ礁が発達している場所ではないところで、より多く観察されているからなのです。
今のところ、アオリイカの種名はアオリイカ属アオリイカだけですが、本州全域から北海道の太平洋岸に分布するシロイカ型、伊豆諸島から南西諸島に渡って出現する大型のアカイカ型、南西諸島以南で観察されるクワイカ型の3つのタイプが存在していることを多くのダイバーが認識しています。つまり、英語圏で観察されているアオリイカは亜熱帯海域に生息するクワイカに近い種であることが予見されるからです。また生息分布や大きさだけでなくDNAによってその違いが分かるほど差があります。

ミズイカという呼称が理解できる透明感 撮影地:三保真崎 水深:7m 胴長:12cm

ミズイカという呼称が理解できる透明感 撮影地:三保真崎 水深:7m 胴長:12cm
Photo by Takashi Tetsu

英語の表記では、他にもGreat squidやBoard squid, Oval squidなども使われているようです。日本における地方名も数多くあり、バショウ(芭蕉)やハビロ(羽広)、モイカ(藻イカ)、ミズイカ(水イカ)などと呼ばれており、その美味しさはズバ抜けています。
さらに水産資源としてのアオリイカに興味をお持ちになった方は、日本水産資源保護協会のあおりいか(煽烏賊)を参照してみてください。
https://www.fish-jfrca.jp/02/pdf/pamphlet/092.pdf

前置きが長くなりましたが、生息環境や生態などの解説に入っていきたいと思います。

ブラックウオーターダイビングで観察

アオリイカの捕食シーン 撮影地:三保真崎(ナイトダイビング) 水深:10m 胴長:25cm

アオリイカの捕食シーン 撮影地:三保真崎(ナイトダイビング) 水深:10m 胴長:25cm
Photo by Takashi Tetsu

上の写真ではキビナゴを捕食しようとしています。この時は、夜間にライトトラップで生物を観察するダイビングを行いました。ライトトラップとは、いくつかの色温度のライトを上向きにセットして、そこに集まる生物を観察・撮影することです。外洋で行われるブルーウォーターダイビングと似たようなタイミングで夜行生物を観察する潜水をブラックウォーターダイビングと呼ぶようになりました。
これは私の印象ですが、ビーチで行われるナイトダイビングは着底して生物観察を行うことが多いので、ボートダイビングでの三次元的な要素の高いナイトダイビングとは、観察できるものも必要なスキルも別格で、ある種のハードルを上げる意味と冒険的な要素を加える意味で「ブラックウォーターダイビング」という名称が使われるようになったと思います。

擬態や卵塊も観察してみよう

色素胞(色や光を放つ色素顆粒をもつ特殊な細胞)を操って模様を変化させる 撮影地:三保真崎 水深:6m 胴長:15cm

色素胞(色や光を放つ色素顆粒をもつ特殊な細胞)を操って模様を変化させる 撮影地:三保真崎 水深:6m 胴長:15cm
Photo by Takashi Tetsu

アオリイカは体色を瞬時に変化させ、周囲の環境への擬態、威嚇、求愛などを行います。上の写真は、捕食体勢に入っている状態です。この写真では、たまたま格子模様になっておりますが、アオリイカはその場の状況に応じて最も目立たなくする図柄を心得ているようです。

縦線の模様は瞬間移動時に 撮影地:三保真崎 水深:16m 胴長:25cm

縦線の模様は瞬間移動時に 撮影地:三保真崎 水深:16m 胴長:25cm
Photo by Takashi Tetsu

基本的に、その場から瞬時に移動したい場合は、横方向への移動になりますが、その際は移動方向と並行模様になります。この状態で、漏斗(ろうと)※1からのジェット噴射を使って爆速で逃げられると、残像しかありません。もっとも、この場合は右にしか逃げませんので、消えたと思ったら頭頂の方向を向けば、意外と近くにいたりします。

※1 海水を噴射して移動するための管状の器官で、頭部と外套膜の境目に位置する

アオリイカの卵塊 撮影地:三保真崎 水深4m 卵塊の長さ約15cm

アオリイカの卵塊 撮影地:三保真崎 水深4m 卵塊の長さ約15cm
Photo by Takashi Tetsu

上の写真は、枯れかかったガラ藻場(ホンダワラなどのモク類が群生している場所)に産み付けられた卵です。右半分は少し茶色味がかっていて、幼イカの成長に伴って、ところどころにクビれが生じています。左半分は産み付けられて間もない卵なので白くてツルんとしています。

春から夏の産卵期、見られる種に変化が?

産卵中のメスと上方で警戒するオス 撮影地:三保真崎 水深12m メスの胴長20㎝

産卵中のメスと上方で警戒するオス 撮影地:三保真崎 水深12m メスの胴長20㎝
Photo by Takashi Tetsu

アオリイカの産卵期は4〜5月の春型と8〜9月の夏型の2期に分かれます。10年ほど前は、春型がシロイカで秋型がアカイカと比較的、明確に分かれていましたが、最近の傾向としては、春期に大型のアカイカと思われるような個体が産卵していることもあって、その辺の線引きが不明瞭になってきております。
三保真崎におけるアオリイカの産卵期は年によって差はありますが、もう少し細かく言えば4月中旬から6月上旬、8月中旬から9月。前期に産卵した卵塊の孵(ふ)化が終了して、ひと段落すると後期産卵が始まります。前述の繰り返しになりますが、以前は春群がシロイカで夏群がアカイカでした。黒潮の大蛇行後期くらいから、この順番というか線引きが不鮮明になりました。そう考えると、シロイカとアカイカの交雑があっても不思議ではなくなります。

産卵期はオスが全力でサポート

産卵中のメスと上方で警戒するオス 撮影地:三保真崎 水深12m メスの胴長20㎝

産卵中のメスと上方で警戒するオス 撮影地:三保真崎 水深12m メスの胴長20㎝
Photo by Takashi Tetsu

上の写真でメスの頭頂下部に楕円の白い部分がありますが、これが生み出される前の卵です。オスは産卵に集中して無防備になっているメスの周辺で警戒行動をして、メスに危険が生じる際には、敵との間に割って入ってきて防御します。逆にコウイカの場合は、オスが敵の気をひいてメスから遠ざかって、危険を回避する行動をします。どちらも結果的には自己犠牲ですが、交戦的なアオリイカに対して、消極策によって解決を試みるコウイカの対照的な対処は、なかなか興味深いですね。
これから孵化や後期産卵が始まるアオリイカに注目してみてはいかがでしょうか。ただし、待っていてもなかなか産卵しないからといって急かさずに。アオリはイカ〜ん!

Profile

鉄 多加志
Tetsu Takashi

1965年(昭和40年)生まれ 静岡市出身
東海大学海洋学部 海洋生物学科准教授

鉄 多加志

ダイビング歴41年、潜水時間約1万3800時間。
国内70数カ所、海外20数カ所を含む約100カ所で潜っている。「ひとつの知識と経験が、同じ場所の同じ風景、生物をもっと魅力的にする」というモットーの下、同じ場所に潜って観察を続けるダイバーで、潜水歴の約8割は三保真崎。大学でも、「好奇心を持ち続けることで、同じ風景や生きものが同じように見えることはない」という観点で履修学生を指導している。

専門は潜水法で「浅海域での長時間潜水時におけるEANガス使用の研究」、「水中遺跡(沈船)潜水調査における安全対策の検討」「水中遺跡(沈没船)調査における安全な潜水方法の研究」(いずれも東海大学海洋研究所研究報告)をはじめ研究論文は多数。

主な著書(共著)に、オーシャンエクササイズ、駿河湾学、海洋考古学入門(いずれも東海大学出版)、THE DEEP SEA(静岡新聞社)、図版 世界の水中遺跡(グラフィック社)などがある。